第51話 狂気の町
評価&感想はページ下部にありますので是非お願いします!
音の精霊を放った後は、戻ってくる迄の時間で町の状況を把握しておく。
特に町人の性格やら生活、装備等も気になる所だ。
今度は三人で、誰を探すわけでもなく町人を見続ける。
しばらく見ていると三人で同時に違和感を覚える。
「なあ、コトネ。リエ」
「うん、コースケ様」
「ああ、変だな。この町は何かがおかしい」
三人で感じた違和感は、おそらく町人の生気の無さだ。
もちろん死んでいる訳ではないのだが、町人の顔には皆一様に表情がなく、目もどこを見つめているのか分からない。
「リエ、ウエノって昔から皆こんな感じだったのか?」
「そんな訳ない。少なくとも父さんや母さんがいた時に訪ねて来てた人は皆笑顔だったし、普通の人達だった」
「じゃあリエチーのお父さんお母さんがいなくなってから今までの間に何かあったって事だよね。昨日の山の中にいたあいつらは、悪そうな奴らだったけど普通の人間っぽかった」
「そうだな。普通に暮らしてる人達は何か事情があってああなってしまったんだろう。あれって薬か何かの効果なのか?」
「そういう薬もありそうだけど、1000人分薬を用意するって難しくない?コトネはどっちかって言うとやる気が全くなくなっちゃった様に見えるな。たまにああいう顔してる人はイリヤにもいるもん」
「この町の人々は何かがあってやる気をなくしてしまい、皆一様にああなってしまった、という事か。じゃあこの町には何があったんだ」
その時、町の中に変化が訪れる。
昨日見かけた悪そうな奴らの仲間に子供がぶつかってしまったのだ。
ぶつかった子供は素直に謝ってはいるが、その顔にはやはり生気は薄い。
そして、ぶつかられた悪人っぽいやつらは黙って腕を上げるとそのまま振り下ろした。
次の瞬間には子供の右肩から先は地面に落ち、体からは大量の血が噴水の様に噴き出していた。
「あ、あいつら!なんて事しやがるんだ!!」
俺は一瞬我を忘れて飛び出そうとするが、両足をコトネとリエに捕まえられてその場から動けずにいた。
「コースケ様、お願いだから落ち着いて!今飛び出したらみんな危ない目にあうよ、お願いだからここにいて!」
「そうだコースケ。コトネの言う通りだ。お前の身勝手な判断でコトネを殺したいのか。今は我慢するんだ」
年下の二人から諭されて俺はとりあえず腰を下ろす。
それにしてもあいつら、突然何しやがる。ここでは見えにくかったが、恐らく刃物を持っていたのだろう。
いきなり切りつけるなんて有り得ない事をする奴らだ。子供は大丈夫だろうか。
もう一度町の様子を伺うが、ここでまた驚く事になる。
子供が片腕を切り落とされているのに、誰も慌てた様子もなく、助ける事もしていない。
子供の親はいないのだろうか。子供はその場で肩を押えて蹲ったままだ。
「なんで、なんで誰もあの子の事を助けないんだ……!この町はおかしいだろう!!」
俺は怒りで沸騰しそうだった。
後ろから強く抱きしめてくれるコトネがいなかったら、直ぐにでも町に飛び込んで行くところだった。
「コースケ、オレが言えた義理じゃないが、この町はおかしいんだ。オレが閉じ込められた事もそう。他の町を襲撃する事もそう。子供を助けない事もそうだ。この町の中で何か良くない事が起きているとオレは思う。」
「……そうだな。俺はこの町が大嫌いになった。色んな人が住んでて色んな考え方があると思うけど、怪我をした子供を放っておくような奴らはまともじゃない。出来るならこんな町とは関わりたくない」
「ああ。でもきっとこいつらはイリヤの村を攻めてくる。だから無関心ではいられない。それに、オレが小さかった頃はこんな町ではなかったはずだ。きっと原因がある。……出来るならオレはその原因を取り除きたい……」
そこにはウエノ出身のリエの本音がチラリと見えた。
誰だって自分の故郷が貶められて面白い訳がない。
昔は間違いなく立派な町だったのだ。この町がおかしくなってしまった原因は、イリヤの村が攻められる要因の一つでもあるだろう。それを解き明かす事は決して無駄ではない。
今回の事の大きさにうんざりしながら、それでも投げ出さず最後まで戦う覚悟を決めた。
「残念だけど、あの男の子の事はもう忘れよう。じゃないとコースケ様までおかしくなっちゃうから。コトネも嫌だけど、我慢するからお願い」
「コトネ、取り乱して悪かった。止めてくれてありがとうな。俺はもう大丈夫だから。この町が普通の町に戻れるように皆で考えよう」
コトネは小さく頷くとニコッと微笑んだ。
今の荒んだ心にはコトネの笑顔が染み渡る。
さぁ、気を取り直してウエノ攻略の糸口を掴もう。
「コトネ、音の精霊はまだ何も拾えてないかな」
「どうだろう。今呼びだしちゃうと、もし相手の側にいても戻って来させちゃうから勿体ないかも。出来ればギリギリまで引っ張りたいな」
「そりゃそうか。じゃあリエ、あの子供の廻りの音声は拾えるかな。出来ればあの悪人面の奴らが何を言っているか聞いておきたい」
「範囲を限定すれば出来るかも知れない。やってみる」
リエはまた妖精に祈りを捧げる。
俺達の周りに一筋の風が通り抜け、音声を運んで来てくれた。
『この町の奴らは本当つまんねよな。何されても何も言わねえし、自分のガキが腕切られても騒ぎもしねえ。本当に生きてんのか疑っちまうぜ。気色悪い』
『自分で人の腕切っておいてよく言うぜ!はは!まあゴンザ様に逆らえば皆殺しは間違いねえからな。ガキが死のうが亭主が死のうが誰も何も文句は言えねえさ。いいじゃねえか、俺達はそれでいい思いさせて貰ってんだからよ!精々ゴンザ様の不興を買わないようにお互い気を付けようぜぇ、兄弟!』
『ああ、違いねえや兄弟!じゃあ今日の女を探しに行こうぜぇ!今日は若い女がいいなぁ!がははは!!』
絵に描いたようなクズだった。あんな奴らは俺は人生の中で一度も会った事がない。
聞いていて吐き気がする。怒りは通り過ぎると冷静になれるようだ。
「……やっぱり何かしらゴンザが関わっているみたいだな。あいつらはきっと下っ端なんだろうが、やってることは許せる事じゃねえ。本当はイリヤに攻めて来るのを待ってるつもりだったんだが、俺に力があるならこのまま叩きのめしたい所だ」
「コースケ様、言ってる事はよーく分かるよ。コトネだってあんな奴らボコボコにしてやりたい。でも多分、今のコトネ達じゃそれは出来ない。ここはじっと我慢だよ!」
「オレの故郷の事で色々と済まない。オレもこんな町は嫌だ。昔みたいに皆笑ってる町に戻って欲しい!なぁコースケ、オレはどうしたらいい……?この町を元に戻すのに何がオレには出来るんだ……!」
リエは怒りの後に泣き崩れてしまった。
自分は閉じ込められていたとは言え、まさか町の様子がここまで変わっているとは思っていなかったのだろう。
父と母が愛した町はそこにはなく、歪な支配で生気をなくした住人だけがいる町。
こんな町であって良い訳がない。
いずれはこのウエノの町も変えてやる。心にそう決めて、今はぐっと堪えた。
当初の予定通り情報収集を行う。
仮りにイリヤに攻めてくるのであれば、あの悪人面の奴らが来るのであろうか。
それとも生気のない住人を無理やりに従わせて来るのであろうか。
出来るなら悪人面の奴らが来て欲しい。
躊躇わなくて済むからな。
俺の耳元にふっと風が通り過ぎる。なんだ?
気づくとそこには灰色のネズミがいた。音の精霊だ。
「コトネ、呼びもどしたのか?」
「違うよ、呼び戻してないよ。多分、勝手に戻ってきた……」
「という事はどういう事なんだ?」
「……危険を感じて戻ってきたんだと思う」
「……気づかれたって事だな。逃げるぞ!」
俺はコトネとリエの腕を掴みイリヤ方面の山へ走る。
山までも距離はいくらもないはずなのに、やたらに遠く感じた。
なんとかイリヤ方面の山の中腹に潜み元いた丘を見ると、ウエノの町から悪人面がぞろぞろ20人くらい出て丘を囲むところだった。
「危なかったな……。割とギリギリだ。あいつらなんであそこにいるって気づいたんだ?」
「音の精霊には間違いなく気づかれたんだろう。でもオレ達の居場所まで分かる訳ないと思うんだ。多分当てずっぽう、もしくはあそこの場所は見られるのを分かっていながら敢えて放置してる場所かも知れない」
そうか、ウエノに策士が居れば敢えて隙を見せる事で、場所を限定して誘導する事も出来る。
俺達はまんまと引っ掛かってしまったかも知れない。
自分の迂闊さを呪っていると、悪人面が丘の包囲を終わらせる。
次の瞬間、とてつもない大きさの火の玉が突如上空に発生し、丘を埋め尽くす。
直径10mはあるかという火球が、ゆっくりと上空から丘に落ちていき、緑の情景を真っ赤に描き直してしまった。
それには音はついてこなかった。
ただゆっくりとスローモーションに見える映像が目の前を流れて行く。
距離が離れているはずなのに空気がチリチリと音を立て、火球の熱量を知らせてくる。
俺達は悪夢を見ているかのようにその場で動けなくなってしまった。
ここまでご覧頂きありがとうございます!
次の52話にあたる部分が紛失してしまいました…
諦めずに探して明日また投稿出来るように頑張ります!
これからもよろしくお願い致します!





