第50話 潜入大捜査!
ウエノには戦闘をしに行く訳ではないので荷物は最小限だ。
保存食、予備の服、鉈と脇差。
怪我をした時の為の物等も一通り用意したが、コトネは精霊の治癒術が使えるので不要かも知れないな。
一応背嚢も作っておいたのでそれに全部荷物を入れておく。
背嚢はあって損する事もないので全員分用意した。
用意の終わった俺達は、ウエノの町の偵察に行く事を長老以下まとめ役達に伝えに行く。
ダノンなんかは反対したが、相手の情報の大切さを感じているユキムラは率先して勧めてきた。
黙っていたらユキムラまで付いてきそうだったので慌てて止めたが。
翌朝、日が昇る前に俺達は出発する。
ウエノの町までは、昔なら15分やそこらで着いたが今は何故が山が2つ程挟まって存在している。
山登りなど数えるほどしかした事ないが、登山道もない山道を越えて行く事は相当難儀するだろう。
途中途中は道を拓いて進んで行くしかないかな。
俺を先頭にコトネを真ん中、リエを殿に進んで行く。
山はそれ程標高は高くないはずだが、それでも人の足で越えて行くのは大変だった。
1つ目の山の山頂に着いた時にはすっかり日が昇ってきたので一度休憩を取る。
「2人とも大丈夫か?」
「うん、コトネは平気。リエチーは?」
「オレも大丈夫だ。問題ない」
「リエはウエノの町を覚えているのか。地下だけでなく、上の町並みを」
「昔とどれだけ変わっているかわからないけど、多分大丈夫だろう。基本的に遺跡に住んでいるから、遺跡が壊されたりしていなければ分かるはずだ」
「地上にも遺跡があるのか?」
「そうだな。村の建物とか比べ物にならないくらい高い建物だ。地下の遺跡と同じ素材で出来ているはずだから、そう簡単には壊れない」
じゃあやっぱりそれはコンクリートで出来たビルだろう。
どれだけのビル群が残っているのだろう。
その中で俺達はどれだけ情報を集められるだろうか。
「町の長老とかもいるのか?」
「長老かどうかは分からないが、昔うちによく来ていた奴が町でも偉い奴だとは思う」
「どんな奴なんだ?」
「嫌な奴だった。いつもオレの事を変な目で見てた。見た目は分かりやすい。滅茶滅茶デカくてごっつい、髭面の熊みたいな奴だ」
そんな奴会いたくないな……
それって世紀末の町にいるような奴じゃないよね?
「そういえば、ウエノの町は精霊使いはどれくらいいるんだ?」
「正確な人数はわかんないけど、多分10人くらいだと思う。オレもそうだったけど、精霊使いは特別な存在だったからな。町の長老だと思うゴンザも精霊使いだったはずだ」
そんなデカくて熊みたいな奴も精霊を扱うのかよ……。ちょっと誤算だったな。本気で攻められたらヤバイかも知れない。
今更ビビっても始まらないので、そこは気にしない事にした。
十分休憩を取ってから俺達は再度ウエノの町を目指す。
二つ目の山に差し掛かった所で俺達は人の気配を感じて立ち止まった。
近くではないが、一人ではない。
何やら話しながら、周りの木や枝を払って進んでいる。
俺達は見つからないように、その集団と丘を挟んだ反対側へ回り、じっと息を潜める。
じっとしていると、隣で何やらリエが手を組みいつものポーズをしだす。
(何してるんだ?)
小声でリエに話しかけると、リエも小声で返してくる。
(彼に頼んで奴らの声を運んでもらう。ちょっと静かにしててくれ)
そう言われたのでまたじっと黙る。
しばらくすると風に乗って奴らの声が聞こえてきた。
『ったくもう、やってらんねえよな!あんなガキ一匹くらい放っておけばいいんだ。ゴンザ様も臆病になったもんだぜ!』
『ちょっと、ヤスの旦那。誰かに聞かれたらどうすんですか。旦那の首が離れちまいますぜ』
『けっ、構いやしねぇよ!あんなガキ一匹にビビってるゴンザ様なんか恐れるものはねえ。最近歳も取ってきたみたいだからよ、そろそろ政権交代じゃねえか?俺の出番かぁ?』
ガハハと下品な声を上げながら男達は山を進んでいった。
「……ちょっとしか聞こえなかったが、奴らは誰かを探しているみたいだったな。それに奴らが話てたゴンザって、さっきリエが言ってた奴か?」
「おそらくそうだろう。今の男達に見覚えはないが、ゴンザの手下で多分オレを探してたのだろう」
やはりウエノの町はリエを探している。
しかも、こんな山の中を探させている。という事は他の村や町を脅す材料ではなく、リエ自身に価値があるから探しているという事ではないか。
これは俺達が考えている以上にまずい事態かも知れない。
男達が去って十分距離があいた事を確認し俺達は山を出発する。
予定ではこの山を越えればウエノの町が見えてくるはずだが、こちらから見えるという事はあちらからも見えるという事だ。
ここからはより気が抜けない。
無事に山を抜けた頃には日が落ちかけていた。
幸いな事に、昼間の様にウエノの捜索隊と出くわす事なくここまで来れた。
ただし、俺達はここで野営をするが火も使えないし明かりも出せない。
暗闇の中では一瞬の光であっても予想以上に目立つからな。ウエノから発見されてしまっては元も子もない。
俺はウエノの町が見える山頂近くに野営地を作る。
三人で横になれるだけの穴を掘り、その脇に長い枝で壁を作る。壁の隙間を葉で埋め、周りからはカモフラージュされながらも、こちらからは周りを見えるようなものを作った。
食事は干し肉等の非常食を食べ、水分は水の精霊の力で補給した。
日が昇るまでは2人が寝て、1人が見張りをするローテーションを組んだ。
3人とも特に野戦の訓練等受けてる訳ではないが、この緊張状態で周囲の気配には敏感になっている。
何かが近づけば気が付くだろう。
そうして夜明けまで気の抜けない時間が続いた。
夜は何事もなく明け、少しづつ空が白んでくる。
朝早いがこの時間から活動開始だ。
野営地は痕跡を残さない為解体し、地面はしっかりと埋めておく。
昨日山から見た感じでは、ウエノの町の北側に小高い丘とちょっとした森があり、あそこなら近づきながら監視が出来そうだ。
コトネとリエもいつになく緊張した面持ちで俺についてくる。
周りの気配に注意しながら進み、日がしっかりと登った頃に目的としていた丘に辿り着いた。
ここなら肉眼でも町の中の様子がある程度確認出来るし、リエの妖精の力を使えば音くらいは拾えるだろう。
「どうだ、リエ。見知った顔はいるか」
「いや、今見えている人達は普通の人達だろう。特に知っている人間はいない」
「ねえ、リエチー。ウエノって何人くらい人が住んでるの?」
「何人くらいなんだろうな。多分1000人くらいはいるんじゃないのか」
「その中で戦える男は?」
「恐らく300人前後じゃないか?仮にイリヤの村に攻めてくるとして、その全員が来るとは考え憎い。余裕を持ってくるとしても100人くらいで攻めてくるんじゃないか?」
「そうだな、俺もそう思う。100人だってうちの村の全員より多いんだ。普通に考えれば太刀打ち出来ないだろう」
「でも、そうじゃないんでしょ?」
「ああ、その通りだ。その為に村を改造したんだ。100人やそこらで攻められても負けないようにしてある。後はこの町の精霊使いがどれ位出て来るかによるけどな」
「精霊使いは基本的に町の重要な役割を任されているはずだ。だからおいそれと出て来れないはずだし、出て来れる奴は大した使い手じゃないはずだ。あまり心配しなくてもいいと思う」
「そう言われて少し安心したよ。みんながみんなリエみたいな使い手じゃ、どんな砦を作っても守りきれない所だった。さて、おしゃべりはそこまでにして少し本気で探りたい。リエ、昨日と同じ事は出来るか?」
「ああ、やってみる」
そういうとリエは昨日と同じように風の妖精に頼んで音を風と共に運んで来た。
ただ今回は距離があることと、対象を絞っていないため雑音も多く混じり非常に聞き取りにくかった。
「すまない、役に立てなくて……」
「仕方のない事だ、気にしないでくれ。それでコトネ。何か都合のいい精霊はいないだろうか」
「そんな都合の良い精霊がいる訳ないじゃない……って、もしかしたらいるかも!」
コトネはリエと同じように精霊に祈るポーズを取る。薄く体が発光し、足元に灰色のネズミみたいなものが出て来る。
「……これは?」
「ふふーん、コトネの隠し玉です!この子に何か話しかけてみてくれる?」
「なんだそりゃ……。じゃあ、コトネのパンツは真っ白でした!」
「ちょっ!コースケ様何言ってるのよ!」
『コトネのパンツは真っ白でした』
おお、おもしろい!俺が言った事と同じ事をしゃべった。
「おもしろいな、この子。これは何の精霊だ?」
「発言の内容が気になる所なんだけど……。この子は音の精霊よ。今までほとんど呼びだした事はないんだけど、今回は来てくれたね。ありがとう。」
コトネは音の精霊とやらの頭を撫でて話しかける。精霊は気持ち良さそうにしていた。
「この子はその名前の通り音を聞いて覚えてくるの。誰か一人決めたらその人について行かせられるよ。周りの音も拾っちゃうからちょっと聞きにくくなるけど、でもこの見た目なら目立たないしどこでも入っていけるよ。」
なんと便利なんだ。コトネが未来の世界のネコ型ロボットに見えてきた。そのうちどこでも○アとかも出てくるかも知れない。
「じゃあこいつで早速ゴンザを付けさせるか。リエ、ゴンザはいそうか?」
「今のところは見当たらない。でもゴンザは前まではいつも町の中をうろうろしてた。だからもしかしたら出て来るんじゃないかと思う」
そう言って暫くすると本当に出てきた。
リエの言っていた通り、髭面の熊の様な大男だ。ありゃ長老というよりは獄長だ。
あんなんで精霊も使えるなんて反則だろ。
「あれがゴンザね。よし、じゃあ音の精霊さん。あいつにくっついて行って話を聞いてきて頂戴!」
コトネがそう言うと精霊は一瞬で消えていなくなった。
「これ、戻ってくる時はどうするんだ?」
「そりゃ勿論精霊だもの。祈りを捧げてここに呼び出すよ」
なんともそりゃ便利だな。何にせよ、これで音の精霊が戻ってくれば俺達の目的は一つ達成される事となる。
俺達は今回の調査を早くも完了した気分でいた。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
物語は終盤に差し掛かって参りました。
最後までお付き合い頂けますよう宜しくお願いします。





