第48話 遂に木造建築
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さて、ユキムラと別れてもやるべき事はまだまだ沢山ある。
まずは山の防衛だ。
昨日木材を切り出す為に村から程近い温泉までの道は軒並み木を切り倒してしまった。
土壁は山の麓まで巡らせてはいるが、山の中までは作れていない。
なので山の中は罠を掛ける事にした。
猟では鹿や猪の足を取るだけの罠だったが、今度の罠は殺傷能力のあるものにする。
縄に掛かると尖った丸太が落ちてくるもの、矢が飛んでくるもの、槍が生えた落とし穴等だ。
それに合わせて二段仕掛けの罠も仕掛けていく。
バレバレな縄を足元に仕掛け、それを避けるとその上にもう1本縄が張ってあり、横から人の体以上のサイズの丸太が転がってくるものや槍の生えた板が落ちてくる物など様々だ。
罠の設置場所はダノンにお願いをした。
鬱蒼と木が生い茂る森の、僅かな獣道を狙って仕掛けた様だ。
万が一罠で仕留め切れない場合に備えて人員配置を考えなくてはな。
もちろん罠は温泉の外周りに仕掛けているので、温泉より外に出なければ住民には被害は出ないようになっている。
防衛については一先ず終わったので、今度は村人の住居を作る。
ユキムラにお願いしたのは集会所兼避難所の一軒だけだが、これでは全員ゆっくりとは暮らせない。
自分の練習も兼ねて、長老宅を作るべく一度相談に行く。
「長老殿、今取り敢えずの設備が完成しました。これで相当数で攻められても守り切れると思います。今後は見張りや人員の配分、食料調達、それに住居の建造などが残っています。相談させて貰えますか?」
「コースケ様、これ程までに速く村を作り変えるとは……。正直言葉もありませぬ。今のこの形は歪だとは思いますが、それでも村を発展させるという事に間違いはありません。ありがとうございます」
「そんな、お礼を言われる事ではありません。事の発端は俺がウエノからリエを連れて来た事によるものなんですから。こちらこそ申し訳ないです、村の平穏な生活を乱してしまいました」
「いやいや、コースケ様。そんな事はないのです。村はあのままではいつか他から目をつけられた時、もしくは天災にあった時、その時に対応出来ませんでした。時代は間違いなく流れて行くのです。その流れに身を任せるか、辛いと分かっていても泳いで行くのか。それを選ぶ時がきた、ただそれだけの事です」
「長老殿にそう言って頂けると少しホッとします。ありがとうございます。それで、人員や食料の件はダノンさんユキムラさんが来た時に合わせて話したいのですが、住居の事でお話を先にしたいのです」
「ええ、構いませんぞ。住居は今ある家を建て直すと聞いていますが、どの様な家になりますかな?」
「今ユキムラさんにお願いして建てている村の集会所がありますが、これをもう少し小さくした物ですね。私も手が空いたので、家を作ろうと思うのですが、長老殿の家を建てさせて頂ければと思いまして相談に来ました。」
「なんと、コースケ様手ずから建てて頂けると言うのですか。これはありがたい事ですな。私に否はありませぬぞ、お任せいたしますので、どうぞこちらからお願い致します」
「ありがとうございます。村の立場ある方の家なので、キチンとした物を作りたいと思っております。建てる場所などご指示頂けると助かります」
そう言って村の中を二人で見て回る。
元有った家は集会所になっているので、その隣を希望する様だ。
ちょうど集会所の建築現場にユキムラがいたのでその話をしてみる。
集会所を使う時というのは村の人間を集める時であり、その場には長老が居合わせる可能性が高い。それを考えれば長老宅が集会所の脇にあれば利便性が高いので反対する理由はない。
バランスを考えて、集会所から一軒分空けた土地を新長老宅に設定する。
長老宅は普通の一軒家だが、来客の多い事を考えて応接室を作っておく。
応接には6人程入れるスペースと、長机長椅子のセットも設置予定だ。
ユキムラが作業している脇で自分の作業を行う。
地面を掘り返し、石灰粉を撒き、平らに均す。これで建物が沈む事は恐らくない。
太い木材で基礎梁を作り、その上に柱を立てて行く。
屋根は少し勾配の付いている斜めの屋根だ。
パタパタとパズルを組み上げる様に作って行き、半日でおおよその形を作り上げた。
この世界には上水道も下水道もないから、配管作業がないという事も作業効率を上げる一因だ。
内壁と外壁の間に泥で作った断熱材代わりを入れる。最後の外壁を釘で打ち付けたら完成だ。
あっという間に一軒建てた。俺はなんとも言えない満足感に浸り、長老へ報告へ行く。
「長老殿、今建て終わりました。初めて俺も作ってみましたが、納得の行く出来です。是非ご覧になって貰えますか?」
長老と共に新居へ向かう。
道すがら周りにいた村人も長老の許可を取り一緒へ連れて行く。
モデルルームの内覧会みたいなもんだ。
これから自分達の家がこれと同じか、これに近いものが出来ると村人達にも知っておいて貰った方が良い。
長老宅は3LDKを目指して作った。
厳密に言えばキッチンはないし、リビングではなく応接間なので違うのだが、おおよそそんな感じだ。
長老の寝室、側仕えの女性の為の個室、急な来客の為のゲストルーム、それと応接室だ。
今まで見た事ない木造家屋に、長老始め村人達も興味深々だ。
家の各所を見て回る度感嘆の声が上がる。
嬉しい反応だ。
「コースケ様、こんなに立派な家を僅か半日で作り上げてしまうなんて……!喜びも勿論なのですが、驚きの方が強いですな!この様な家を村人全員にご用意頂けるのでしょうか?」
「ええ、勿論そのつもりですよ。一気に全員分と言うのは無理ですが、一軒ずつ丁寧に作りたいと思います。ただ、その為には色々と準備が必要です。村人の方々にも手伝って貰わなくてはなりません」
「当然ですじゃ!それぞれこの様な家を与えられるのであれば、皆喜んで協力致しますぞ。なあ、皆の衆」
村人達は全員無言で頷く。その顔は一様に笑顔だ。
「して、私達が協力出来るのはどの様な事でしょうか。この様な建物を作る技術は持ち合わせておりませんので、あまり役には立たないとは思いますが……」
「建築の技術は追々伝えますよ。手先の器用な方に手伝って頂いて、その人達にまずは覚えて貰います。村の方々にお願いしたいのはそうではありません、もっと根本的なものです」
「……といいますと?」
「ええ、この村の間取りを一緒に考えて頂きたい。今この村はこの規模であるが故にどんな形でも問題はないですが、これから村を拡張していずれは町になる事を考えると、使い勝手の悪い町では発展が望めません。使い勝手が良く、拡張性の高いものにしたいと思っています。」
俺の言葉に長老は勿論納得したが、村人達の反応はなんとも煮え切らないものだった。
そもそも分かっていない者や、分かっていても賛同しない者、考えが浮かばない者など様々である。
「今すぐにではありません。今は色々忙しい時ですからね。これからその試練を乗り越え、この村の発展を考えられるようになった時に皆さんの気持ちを教えて貰えれば結構です。だからそれまでに其々希望を考えておいて下さい。」
そう言って一度解散して、俺はまた集会所の建設場所へ行く。
「ユキムラさん、今長老様の家を建て終わりました。参考に見てみますか?」
「ああ、勿論だ。悩んでいた部分も多かったからな。色々見させて貰いたい。」
「どうぞ、見てみて気になる事は何でも聞いてください。一緒に考えていきましょう。それで、少し時間はありますか?」
「どうしたんだ?これから一時休憩にするから時間はあるが、そんなには離れられない。」
「ええ、細かい話は夜にでもするので少しだけ話を聞いて頂ければと思うのですが。」
手の空いたユキムラに、先程皆の前でした話をする。この村のレイアウトの事だ。
当然ユキムラはそこまで考えていたようで、俺の話に前のめりになって耳を傾けてくる。
「という訳で、今は長老様の家と集会所を作りましたが、他の住民の家は後回しにしようと思ってるのです。」
「そうだな、今考え無しに作ってしまったら後から間違えましたは済まないからな。ある程度村の展望が纏まってからの方がいいだろう。でも、それでも今から何軒かは作れるんじゃないか?」
「それは何の建物ですか?」
「無論、コースケ殿のだ。まぁミコトとコトネも一緒に住むのだろうがな」
「そんな……。まだ皆さんのも出来てないのに俺のだけなんて出来ませんよ」
「コースケ殿、俺は別にコースケ殿を依怙贔屓している訳ではない。これは村にとって必要な事だと考えている」
「それは、何故でしょうか」
「うむ。これからイリヤはもしかしたらウエノの町との争いになるかも知れない。そうなった場合、勝利の鍵となるのはコースケ殿の存在だ。我々が望むのはその力、その知識でウエノを圧倒して欲しい」
「はい、それは勿論精一杯努力します」
「うむ、そしてコースケ殿には村の特別な存在である巫女がついている。それも二人もだ。この二人もこの村には大切な存在だ。この二人を守る事、これもコースケ殿の役割だと考えている。だから、守りの拠点であり、体を充分に休められる家は必要だと思うのだ。強いてはそれがこの村の為だ」
ユキムラの言は多少強引なところはあるが、間違ってはいないように思えた。
確かにウエノとの戦いになった場合、俺無しで戦うのは少々分が悪いだろう。
そしてミコトとコトネを守って欲しいか。
そんな事を言われて断る訳には行かない。ユキムラはクールに見えて内心熱い男だと言う事を忘れていた。リリではないが、上手く乗せられたな。
ここは乗せられておくのが皆の為だろう。
「ユキムラさん、お気遣いありがとうございます。そうですね、俺は兎も角、二人の巫女には体調を万全に整えて貰わないとまずいですものね。承知しました、心苦しいですが我々の家を先に建てさせて貰いますね」
「気遣いなどしていないし、心苦しくなる必要もない。俺は村の為に最善の道を考えただけだ。それが偶々コースケ殿の利益と一致しただけだ。気にするな。それで、家は何処に建てる?」
男のツンデレは誰得だよ!とも思うが、美丈夫のユキムラなら需要はあるかもな。
「そうですね、ミコトとコトネと相談をしてからですが、個人的には作業場の近くに建てたいですね。これからまだまだ色々と作らなくてならない物も多いですからね」
「そうだな、それを考えればそこがいいかも知れないな。どちらにしろ余り時間はないだろう。取り掛かるのであれば早目がいいと思うぞ」
「ええ、ありがとうございます。早速二人と相談してみます。」
俺はユキムラと別れて、今後の俺達の家の相談にミコトネ姉妹を探しに行く。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
今日からお仕事の方も多いのではないでしょうか。
長い連休後のお仕事なので体調崩さないように気をつけてくださいね!





