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第46話 護るべきモノ

 さて、少しずつ材料が揃ってきたので掘を作る事にする。

 ダノンや長老と相談して、堀及び土壁は村より一回り大きく作る事にした。あまり大きくても村人達で見張るのに手が足りないし、小さいと今後の拡張に支障が出る。


 場所を決めたらお手製のスコップの出番だ。

 大型重機ばりの力で掘りまくる。掘った土を横に積み、そこに生石灰を混ぜ、最後に水を掛けて完成だ。本当のコンクリートとは違うが、ただの土を積み重ねるよりよっぽど強固だ。


 村の周りをぐるりと一周堀を巡らす。深さ5メートルはあり、立ち上げた土壁と合わせれば10メートル以上の高低差となる。そうそうには登れまい。

 本当は堀に水を張りたかったんだが、それはちょっと時間的に難しそうだ。


 堀を作り終えた俺は村の避難所を見に行く。

 建設予定地は長老宅跡地のようだ。既に茅葺の長老宅は取り壊され、男達がそのあった場所を平らに均していた。


「ユキムラさん、お疲れ様です。進捗はいかがですか?」


「見ての通りで苦戦している。今までこんな大きな建物を建てた事がないからな。ただ、コースケ殿に任されたのだ。出来ませんでしたなんて恥ずかしい事は言いたくない。精一杯当たらせて貰うよ」


「ありがとうございます。俺も全部作れるなんて思っていません。でも伝えた通りにやって頂ければとりあえずの建物が出来ると思います。後は思い付いた事などあればユキムラさんの判断にお任せするので、なんとかお願いします」


「ああ、任せろ。俺のプライドにかけて作り上げてみせるさ」


 ユキムラは本当に真面目な人間だ。今回の事は責任は俺にあるのに一切それを追求してくる事なく自分の役割を全うしようとしている。

 その責任感に覆い被さるようで申し訳ないが、今はこの件はユキムラに任せよう。



 次に鉄を加工する為の炉を確認に行く。これはダノンに任せてある。

 作業場では炉の制作と鉄を纏める作業が進んでいた。


「ダノンさん、お疲れ様です。色々手伝って貰ってすみません、ありがとうございます」



「いいんだよ、旦那。俺達の村の事だ、俺達で頑張んなきゃなんねえのは当たり前だ。それで、どうだ?炉はこんな感じでいいのか?」



 炉は土を重ねて出来ている。長さが1メートル程、幅50センチ、高さは30センチ程だ。その畝の真ん中がくり抜かれており、ここに燃料と素材を入れて加工する為に熱する。

 畝の右側には空気穴が複数設けられており、ここから空気を強制的に送る事で燃焼温度を上げる事が出来る。

 ただ、今は送風装置がない。


 俺は作業場にある板材を加工して、簡易的な鞴を作った。鞴を炉の脇に据え、何度か動かしてちゃんと風が送れるか確かめる。

 ・・よし、大丈夫。


「ダノンさん、この炉で木を燃やしておいて下さい。燃やして固めて炉を完成させますので」


 ダノンに炉の指示を出す。火が入れば明日には炉が完成するだろう。


 炉が完成する前に、俺は鉄を切り分けておく事にした。

 村人たちが持って来てくれた鉄は当たり前だが切れていない。鉄を切る事が出来ないからだ。


 レールの1本をそのまま何人かで運んできて、それを何往復もしてくれている。お陰で村人の武器を作るのに必要な量はあるだろう。


 今回村人達に作ろうと考えているのは、槍と弓だ。

 普段から使い慣れている物の方がいざと言う時は役に立つだろう。


 電車のレールであった鋼材は非常に厚みがある。このままでは重すぎて使えないので、熱して叩いて加工して作るが、1つあたりのサイズは1キロ程度を考えている。

 それが精錬されていく過程で最終的に半分程になる。このレール用の鋼材は既に不純物が少ない状態の物なので余り減らないかも知れないが。



 おおよその目安を決め、魔物の牙で作った脇差もどきを縦に振る。

 ガキんっ!と鈍い音がしたが、無事に切れたようだ。脇差にも刃毀れはない。



 次の瞬間には俺の胸に激しい痛みが襲ってくる。

 おそらく斬鉄と言った初めての試みをした事で俺のスキルレベルが上がったのだ。


 膝をつきながらも何とか倒れるのは堪えて、痛みが引くのを待つ。


 暫くして痛みが引いた時、やはり俺の身体には強くなったスキルが染み付いていた。

 刃物を扱うスキルだ。これで脇差を十全に扱う事が出来るし、俺が作る刃物は全て特級品が出来上がる事が分かる。



 炉の完成が暫く掛かるので、残ったレールを細かく切る切る切る。


 今度は鈍い音は立てず、鉄琴を叩いたような澄んだ音色が響いた。

 その音色が聞こえる度に10センチ程度の長さに揃えられた鋼材の塊が出来上がる。


 持って来て貰った鉄は全て切り終わったので、今度は先程作り終わった堀に戻る。




 今のままでは村に入れないからな。跳ね上げ式の橋を架けなくてはならない。

 まずは堀の向こう側まで橋を架ける。次に村側へ丈夫な柱を立て、その上に滑車を架ける。今は滑車が作れないので、只の橋に丈夫な柱がついているだけだ。明日鉄の加工が出来るようになったら、滑車とワイヤーを作って橋に繋げる。

 ……ワイヤーが作れなかったらロープにしよう。



 次に、作り上げた土壁に細工を施す。土壁の厚みは2メートル程あるのでその上には立って歩く事が出来る。

 なので上に登るための階段を付ける。土壁が村を一周囲んでいるので、計4ヶ所作る。


 また、土壁の上は守るには便利だが、万が一登られてしまったらそこを拠点にされかねない。

 外から登って来れない様に返しを付ける。

 返しは先を尖らせた細めの丸太で、竹槍みたいなものだ。それを土壁の上、外側に隙間なく差し込んでいく。外側から見ると王冠の様に見えなくもない。




 こうして、昨日まで壁も柵もないただの村だったのが、たった1日で簡易的ではあるが砦になってしまった。

 ・・ちょっとやり過ぎてしまった感は否めないが村を守る為だ、割り切ろう。


 気付けばあたりはすっかり暗くなっており、夕食の時間もとっくに過ぎていた。

 朝から働き詰めで集中していた為あまり疲労も空腹も感じなかったが、一区切りついて集中が切れると途端にその両方が襲ってきた。


 村の広場に行くと既に炊き出しは終わっていたが、何人かの人がいて飲み物と簡単な食事を用意してくれた。

 焚き火を囲みながら一人で食事を取る。


 一人でご飯食べたり作業したりするのは久しぶりだな。最近はいつもミコトやコトネがいたからな。

 静かな食事は落ち着くが、やはり寂しさが際立つ。


 もしこの村がウエノの町に蹂躙された場合は、この寂しさがずっと続く事になる。

 一時の寂しさではない、永遠に続く寂しさだ。



 そんな事は絶対にさせない。

 俺は英雄でもなんでもないが、この時代にはおいてはちょっとだけ有利な便利スキルがある。


 ズルだチートだ言われても俺はこの力を使ってこの村を守ってやる。



 夕食を食べ終わっても未だにミコトとコトネの姿が見えないので、俺はお風呂セットを持って風呂場に行く。



 道すがらの木は軒並み今日切り倒してしまったので、風呂場までの道がなんだか殺風景だ。

 今日は一人なので村人用の風呂に入るつもりだ。


 この時間だから誰もいないかなーって思っていると、何人かの女性の声が聞こえてきた。


 そうだ、俺はいつも来客用に入ってて忘れがちだが、夕食の後は村の女性達の入浴タイムだった。



 慌てて引き返し来客用の風呂に向かう。

 村の皆さん、申し訳ないけど来客用に入らせて貰いますよ。


 来客用の風呂の周りも結構木を切ったのでいつもよりはさっぱりしてる。

 ただ湯船に続く道は敢えて残しておいたので、道からは直接見える様にはなっていない。




 ここならゆっくり入れるだろうと思って来ても、ここでも先客の声が聞こえた。

 ただこちらの声は慣れ親しんだものだ。


「あー!コースケ様やっと見つけた!というか来た!」


「コースケ様、今日は本当にお疲れ様です。ゆっくり湯船に浸かって疲れを癒して下さいね」


「……遅くまでお疲れさん」


 三者三様の労いを受けて俺は風呂場に向かう。

 なんとなく想像はしていたが、それでもやはり嬉しい。


 こんな日常を守る事が、きっと他の世界の俺も望んだ事なんだろうな。


 なんとなく俺はそう感じた。


ここまで読んで頂きありがとうございます。


今日もよろしくお願いします。

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