第44話 二人と二匹で文殊の知恵?
村の広場ではミコト、コトネ、リエが夕食を受け取っているところだった。
「あ、コースケ様どこにいたの?いないから勝手にご飯貰って来ちゃったよ?食べるでしょ?」
「ああ、コトネありがとう。リエも沢山食べて早く体力戻さないとな。それで、みんな。夕食を家で食べよう。少し話がある」
ミコト、コトネ、リエを連れて家に行く。正直4人で家に入ると狭いが、文句を言わず詰めて座る。
「今長老様の家でダノンさんとユキムラさんと4人で話をして来た。リエ、お前の事だ」
「俺の、なんだ?」
「リエの、と言うよりはウエノの町の話だな。ウエノの町がこれからリエを探してこの村に来るかも知れないそうだ」
「そんな馬鹿なっ。あいつらは俺にこれっぽちも興味なんてない筈だ」
「お前自身にはそうなのかも知れない。ただ、この村がウエノの精霊使いであるリエを連れ去ったという事実は、ウエノの奴らにとって格好の攻め口となる」
「そんなっ……。じゃあシンゲン様や他のみなさんはリエちゃんをここから追い出すと言うんですか?」
「いや、まだその結論までに至ってない。ただ、何も対策が思い浮かばなければそうせざるを得ないだろう」
「なんで、なんでさコースケ様!勿論対策は考えてあるんでしょ?リエチーをウエノに引き渡すとかないよね?」
「考えてはいる。唯まだ良い案が浮かんでいない。だからリエも含めてみんなで相談しようと思ってる」
俺は先程長老宅で話した内容をみんなに伝える。
みな一様に沈痛な面持ちで俺の言葉を噛みしめる。
「……そっか。俺はみんなに迷惑を掛けてるんだな。済まなかった、自分が逃げ出したい一心で縋ってしまった。俺の事は気にしないでくれ、明日には出て行くから」
「はぁ……。まぁそう言うと思ってたよ。それはなしな。そうしない方法を今から考えるんだ」
「でも、それじゃあみんなに迷惑が……」
「迷惑なんてないから!リエチーをせっかく連れてきたんだ、そんな事はさせないよ!コトネの精霊を全部解き放ったってそんな事はさせないの!だからリエチー、そんな事、言わないで」
コトネは必死にリエに訴える。この短い間にリエとコトネの間に何があったんだ?
そう思ったのは俺やミコトもそうだが、本人のリエも同じだったようだ。
「コトネ、気持ちは有難いが俺はお前にそこまでしてもらう程の義理はない。感情で言ってるのであればやめてくれ、お前が辛くなるだけだ」
「……感情だよ、感情で言って何が悪いの!?リエチーを思うのも何をするのもコトネの自由でしょ?コトネはリエチーをウエノに渡したくない、ここから行かないで欲しい、それがコトネの願いなの。だからお願い、もう何処にもいかないで!」
今度は本気で泣き出してしまった。リエの薄い胸に頭を埋めおいおい泣いている。
リエは戸惑ったようにコトネの頭に手を乗せると優しく撫で始めた。
「さて、コトネの気持ちは分かった。次はリエの気持ちだな。お前はどうしたいんだ?」
「どうしたいって……。俺はみんなに迷惑は掛けたくない」
「じゃあ迷惑さえ掛からなければここに居たいのか?」
「……そうだな、行く宛もないし、ここのみんなは優しい人だと感じた。小さな村だが、いい村なんだと思う。俺は………ここにいたい」
「よし、そう言う事であれば分かった。おじさんに任せなさい。ミコト、ミコトは年長組として俺と一緒に行動だ、いいか?」
「年長組って……。私はコトネと3つしか変わりませんが……」
「じゃあコトネを連れて行こうかなー」
「私が行きます!行かせて下さい!私しか居ません!」
ふっ、チョロいぜ。
コトネをリエに任せて、俺はミコトを連れて外に出る。
夕食が終わり外にいる人は疎らだ。
「それで、コースケ様。リエちゃんの件で何か考えがあるんですよね?」
「ん?いや、ないよ?」
「えっ!だってさっきリエちゃんに任せろって」
「まぁ俺も大人だからね!子供には心配させたくないじゃない。デマかせでは無いけど、今のところ解決方法は見当たらない!」
「はぁ…。コース様の意外な一面を見てしまいました……」
「ミコトだからね。ミコトだから信用して見せられる。ミコトならそんな俺でも支えてくれる、俺はそう思ってるよ。だからミコトを頼ったんだ。それとも、それじゃまずかったか?」
「こ、コースケ様!いいえ、ミコトは嬉しいです。コースケ様のお力になれる、頼って頂けるならこれ程の事はありません!ありがとうございます、何なりとお申し付けくださいね」
今回は焚きつけた訳ではなく本音で言ったのだが、それでもミコトは無条件で俺を支えてくれている。
リエと同様、俺だって戸惑う事もあるが、その気持ちが嬉しいし温かい。
そんな気持ちをしっかりとリエにも感じて欲しいので、俺は案を立てる為の案を考えていた。
「それで、具体的にどうするおつもりですか?」
「そうだね、まずは敵……ではないかも知れないが相手の事をよく知らないとね。それで話を聞きに行きたい人がいる」
「勿論そうですね、相手の事を知らなければすれ違いが生まれてしまいます。それで、どなたにお話を聞きに行くんですか?シンゲン様のお宅ならあちらですが」
俺はミコトの手を引き、村の外へ出る。
俺が聞きたい相手は村の中にはいないのだ。長老他まとめ役のみんなとはさっき話してお手上げだったからな。
だったら他に知識と力をある人に尋ねてみようと思った訳だ。
村を出て墓地に入る。行き先はミコトとコトネの両親だ。
行くまでの道は簡単なので覚えてるが、やはり足元は暗く歩き難い。それに後ろで服を引っ張り続けるミコトも歩き難い原因だ。
「なあミコト、もう幽霊とか怖がる歳じゃないだろう。それに幽霊を呼び寄せて話まで出来るんだから」
「そ、それとこれとは別です!そ、それに私はそんなに歳取ってません!花も恥じらう18歳で……きゃぁっ!」
俺達の後ろで草木が揺れた。その音に激しい反応をするミコト。
今回の反応は激しい。正面から俺を抱き締めている。ぎゅーっと強く抱いている。そんな事態ではないのにそんな事を考えてしまいそうになるよ、ミコトさん。
そして多分ここだとお父様お母様が見てると思うんだ。だから俺は抱き締め返さず、ミコトの頭を撫でるだけにする。
「ミコト、大丈夫。風で草が揺れただけだ。だからとりあえずお父さんお母さんの所に行こうか。お父さん達に会えば少しは落ち着くだろうからさ」
ミコトを促し墓地を進んでいく。
無事に着いたのでミコトに頼み、ご両親の魂を顕現させて貰う。
さて、今回はどんな生き物に憑依するのか。出来れば哺乳類でお願いします……!
光が収束し、消えた後に現れたのは2匹の猫だった。
ほわぁぁぁ、可愛いぃぃぃ!!
雑種だが、茶トラとキジトラの2匹だった。2匹とも毛並みもよく、栄養が行き渡っているようだ。俺はついつい茶トラの頭や腹を撫でてしまう。
するとキジトラから猫パンチを喰らい、5メートルくらい吹っ飛んだ。猫パンチの重さじゃねえ……!
よろめきながら立ち上がり、2匹の前に戻る。
「いやぁ、コースケ殿。久しぶり。うちの家内に突然何をしてくれたのかな?」
キジトラが喋る。そうか、茶トラは奥さんの方だったのか……。
その声は穏やかではあるが温かさを一切感じないものだった。
「す、すみません。可愛いネコが突然目の前に現れて我を忘れました。以後気を付けますのでお許しを」
「ふむ、まあいいでしょう。今後こういう事の無いようにお願いしますね。それで、今日は2人で来てどうしたんだい?またコトネが迷子かな?」
「お父さん、コトネは迷子じゃなかったってこの間説明したでしょ?今日はまたちょっと違うお話。コースケ様がお父さん達に話を聞きたいって言うから来たのよ」
「そうか、そうだったね。コトネの事は本当にありがとう。魔物に襲われたなんて聞いた時は肝を冷やしたよ」
ミコトの父、ヤマトは俺を殴った事なんて無かったかのように普通に話しかけてくる。
この姿であっても実力は健在のようだ。あのパンチは尋常じゃなかった。
「い、いえ。当然の事をしただけです。魔物を倒せたのはたまたまですよ。コトネが無事で本当に良かったです。それで、今日お伺いしたのはウエノの町の事なんですが……」
俺は今日の出来事を簡単にまとめて話した。その中でリエに対するコトネの異様な執着も聞いておこう。
「そうか、そんな事があったのか。この村に鉄があるとはね。ウエノの町は恐らくそれを知っていたんだろうな」
「ええ、遺跡を調査すればいずれは分かる事ですものね。他の村が遺跡に気付いたかどうか、そこを監視してたのでしょう。そうすると今回この村で鉄を見つけたと言う事があちらにバレた可能性が高いわ」
「この村が鉄を手に入れた、手に入れる手段を持っているという事が向こうに伝われば、この村は標的にされますか?」
「ああ、間違いなくね。奴らの優位性を守る為に何らかの形で妨害して来るだろう」
「具体的にはどんな方法を取るでしょうか。長老宅でダノンさん、ユキムラさんと話した時はまずは使者を寄越し情報を集めに来るだろうと言う事でした。その後は武力行使でしょうか」
「そうだね、情報の裏を取りそれが本当であれば武力行使を厭わないだろう。こちらが鉄であれこれ武器を作る前に来るんじゃないかな。そうなったらこちらでは対処のしようがない。石の武器と鉄の武器じゃ子供と大人がケンカをする様なものだ」
「随分と乱暴なやり方をするのですね、ウエノの町は」
「こちらが大人しく従えばそこまではしないのではないかしら。でも、そうしたら今のシンゲン様やダノン、ユキムラの命はないわね。下手したらミコト、コトネも一緒に処刑されてしまうかも知れないわ」
「そんなの絶対にダメだ!認められません。でも、そしたらウエノを止めるにはどうしたらいいのでしょう……」
その後もご両親とミコトを交え色々案を出すが、どれも中々実現は難しく、リミットが一週間しかない現状では採用する事は出来なかった。
話をしながら色々と悩んだが、俺は俺なりの結論を出した。目には目を、歯には歯をだ。
「お父さん、お母さん、お話ありがとうございました。色々悩みましたが、俺なりの答えを出しました。この案で一度皆さんと話してみます。村としての意見が纏まったらまた改めてご報告に来ますね。その時は是非またお力を貸してください」
「そうか、それは良かったね。私達で力になれる事は少ないと思うが、是非気楽に声をかけてくれたまえよ」
いやいや、お父さんのパンチは多分村で一番じゃないですかね。
ネコの体であの威力じゃ、人間の体で殴られたら粉砕骨折間違いなしです。
「それで、さっき話したコトネのリエに対する執着なんですが、ご存知ないですか?」
「ああ……。コースケ様、それは色々とあったのだけど、この事は本人には言わないであげてね」
ミコト母のマツリはそう言うと昔話をしてくれた。
昔、ミコトとコトネと一緒に良く遊んでいた女の子がいたそうだ。
その子はコトネと同い年でいつも一緒に村中を駆け回っていた。
ミコトが巫女の修行を始めると、コトネはその女の子と2人で遊ぶようになった。
2人とも男勝りな性格で裏山を探検に行ったり川遊びばかりしていたらしい。
ある日、夕方にコトネだけ山から帰って来た時があった。
友達はどうしたのか聞くと、山の中ではぐれてしまい見つからなかったそうだ。
村の男達が捜索隊を組み山中を探すが見つからず、その日は夜も遅いため翌日に捜索は持ち越された。
翌日、捜索隊が再度山を探すとその女の子は見つかったそうだ。ただし、野犬か何かに襲われた様で、二度と村には帰って来れなかった。
男連中や大人はこの事を隠していたが、コトネがしつこく捜索隊の人間に聞き続け、遂にそのうちの1人が言ってしまう。
女の子は野犬か何かに襲われて既に死んでしまっている事を。
コトネは自分を恨み、家に篭った。どうしてはぐれたんだ。どうして山から帰ってきたんだ。山に残るのがコトネだったら良かったのに。そうしたらあの子は死ななかったのに。
一週間程引き篭ってなんとか家から出てきたが、そこにはいつものコトネは居なかった。
毎日村を走り回っていた子が急に元気をなくし、一日を外で座って過ごしている。
大人達から見てもその姿は痛々しかった。
そんなある日、今度はミコトと同い年のリリがコトネに話し掛ける。少しだけお姉さんのリリは、コトネを励まし、宥め賺し、時に煽って少しづつではあるが、元気にして行った。
今まで通り、とは少し違うがコトネはリリのおかげで元気になり、その付き合いは今に至るそうだ。
小さい頃のトラウマで、今のリエが生きるか死ぬか、この事に異常に敏感になってるんだな。たまたまその亡くなってしまった子とリエ同い年みたいだし、より深く感じいるものがあるのかも知れない。
「そういえばミコトはその事を知らなかったの?」
「知らなかった訳ではないですが、確かにその子が居なくなってしまった時は私は巫女の修行中であまり村に関わっていなかったかも知れません。だから居なくなった事は知っていても何があったかは知りませんでした、すみません……」
「別にミコトが謝る話ではないよ。たまたま聞いただけだ。ただどちらにしてもコトネはリエを諦めないだろう。コトネの為にもリエを救わなきゃな」
「ええ、そうですね。それでコースケ様。具体的にはどうするおつもりですか?先程方針は決まったって言ってましたけど」
「お?ああ、それね!決まったよ?方針は、正面からウエノをぶっ潰す!だ」
ミコトの両親とミコトは絶句していた。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
帰省のUターンラッシュは今日がピークの様ですね。
皆様どうぞ無事にお帰り下さいね。





