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第40話 洞窟の戦い

「・・・誰だ?」


 穴を抜けた先から突然声が聞こえてきた。酷く掠れた声で、性別も判別がつかない。


「あー、あの、こんにちは・・?」


 人がいる事など想定していなかった為、変な回答をしてしまう。


「・・あんたらどこのもんだ。余所モンだな?」


 今度はハッキリと悪意を持って強い口調で話しかけてくる。


 暗がりの中から見えた姿は頭までスッポリと外套を被っており判然としない。

 まだ会話の余地はあるんだろうか。


「余所モンがどこから見て余所モンか分かりませんが、怪しい者ではありません。ちょっと通りがかっただけなんです」


 そんな訳ない。遺跡と呼ばれる地下道をたまたま通りかかる奴なんて多分いない。


「そんな奴今迄見た事ないな。お前らは何者だ。ここに何しに来たんだ」


「ここに辿り着いたのは本当にたまたまなんです。ここはどこですか?俺達はちょっと探検してただけなんですが」


「・・お前らの話なんて聞く必要は無かったな。今迄ここに来た奴らは全員殺してた。だからお前らも殺す。じゃあな」


 そう言うと外套を被ったその人物は背中から弓矢を取り出し構えるとミコトに向かって放った。



「危ないっ!!」


 ミコトは急な出来事に事態を把握出来ず、飛んでくる矢を見ているだけだ。

 矢は不思議な事に音もせず飛翔し真っ直ぐミコトに向かう。

 俺は必死で手を伸ばし矢を掴・・!める訳もなく、自分の手をミコトと矢の間に伸ばし、貫かれるだけで精一杯だった。


「・・・コースケ様っ!?」


 ミコトが俺に駆け寄り手を確認する。

 矢は俺の掌を貫きはしたが途中で止まり、おかげでミコトを傷つける事はなかった。


 灼けるような痛みを堪えて矢を抜く。すかさずミコトは水と癒しの精霊を使役して俺の手を癒してくれた。


「・・なんだよお前ら。精霊使いなのかよ」


 抑揚のない声で外套を被った人物が呟く。光の精霊の加護の元、その人物の姿がよりハッキリ見えてきた。

 外套を被っているせいで顔は見えないが、背はそこまで大きくない。マントに余裕がある事から体格もそこまで良くはないだろう。


「おいおい、突然矢を打つ奴がいるかよ!お前はなんなんだ」


「うるさい、お前らが勝手に来たんだろうが。うちの町に許可なく入る奴は殺せと言われている。だから勝手に入ってきたお前らは殺す」


 そう言って再度弓に矢を番えて放つ準備をしている。

 そうはさせじと俺も足元に転がっている石を思いっきり投げる。スキルモリモリで投げた石は狙い違わずその人物の元に向かったが、当たる手前で急に軌道を変え外れてしまった?


「え?」


 呆気に取られて一瞬止まってしまったが、相手は正に矢を放つ瞬間だ。


 俺は慌てて腰から脇差を抜き、矢を切る。

剣道一級の腕前では本来飛んでくる矢を落とすなんて芸当は出来ないが、ここでもスキルは全開だ。

 宮本武蔵も真っ青の太刀筋で矢を払いのける。


 俺の太刀筋を見て今度は相手がたじろぐ。それでも次の瞬間には再度矢を番え放つ放つ放つ。


 そして俺は脇差を振り全て切り落とす。


「無駄だ、もう辞めてくれ。俺達に敵意はない。出来れば話がしたい」


「・・うるさい。お前らの話なんか聞く必要はない。俺はここに許可なく入ってきた奴を全員殺せと言われてる。それだけだ。話すことなんてない」



 そう言うと、その人物は弓を下ろして手を合わせるように組み始めた。

 暫くその格好をして、終わるとこちらを睨む。



 その瞬間、俺達3人は急激な苦しみに襲われた。

 突然水中に投げ込まれたように息が出来ない。真綿で首を絞められるかのように意識がゆっくりと薄くなっていく。



「ぐぉっ・・、お、おまえ・・、なにをしやが・・った」


「お前らじゃ分かんないだろうが教えてやるよ。お前らの周りの酸素を無くした。吸っても吸っても息は出来ないよ。お前らはあと少しで死ぬんだ。今度こそじゃあな」



 言い切るとそいつは背を向けて歩き始めた。

 ヤバイ、本当にヤバイ。もうすぐで意識が落ちる。


 ふとコトネを見ると、苦しそうな表情の中でも強い意志を持った視線を向けてくる。

 ・・まだ諦めてない!


「こ、コトネ・・、かぜの精霊で、竜巻をおこし、てくれ。こ、ここらへん、全部まき、こんで・・」


 コトネは苦しそうに頷きながらすぐに祈りを捧げる。


 祈りが届くまで気を失う訳にはいかない。うまく動かない体でコトネを支える。


 すると間もなく目の前に小さな風の渦ができる。渦は少しずつ大きくなり、俺の背丈を越え遂には竜巻となる。周りの石や瓦礫を巻き込みながら膨張し、あたり一帯に豪風が巻き起こる。


 俺達を苦しめている外套野郎も不意を突かれ竜巻に巻き込まれる。

 俺は風に巻き込まれながらもミコトとコトネを抱き抱え、飛ばされないように身を小さくして堪え続ける。





 あたり一帯を竜巻が吹き飛ばし、巻き上がった砂塵がようやく落ち着いた頃、俺達の呼吸はやっと楽になった。

 周りを見渡すと竜巻の威力を物語る様に瓦礫がなくなり、コンクリートの壁が抉れている。


 その奥に壁を背に座り込む外套野郎を見つける。




「・・お、お前たちはなんなんだよ!どいつもこいつも精霊の力を使いやがって!卑怯だろ!何しにきた!」


「別に何しに来た訳でもねえよ。最初に言った通り俺達は探検してたらここに辿り着いただけだ。話をしようにも問答無用で攻撃してきたのはそっちだろ」


「そ、そんな話信じられるかぁ!」


 外套野郎はよろめきながら体を起こし、再度弓を構えようとする。

 予測してた俺は、腰だめに脇差を構えながら外套野郎に駆け寄る。


 これもスキルの効果なのか、自分が思っていた以上の速さで外套野郎に接近出来た。

 その勢いで奴の手にある弓の弦を切る。身を翻し返す刀で外套の留め具を縦に断つ。


 ハラリと外套が落ちると、外套野郎の姿が見える。俺達はその姿を見て絶句した。




「お、お前・・。その怪我は大丈夫なのか?」


 外套野郎は女だった。

 痩せ細りガリガリの両手足が、見窄らしい服の間から覗く。

 その見えている手足には無数の生傷があり、まだ血の滲んでいる所もある。

 元々は端正な顔立ちだと思わせる顔には落ち窪んだ目とボサボサで汚れだらけの髪の毛が無造作に結ばれている。


 一言で言って異様だった。明らかに悪いであろう体調を押して俺達と相対していた。

一瞬ではあるが間違いなく俺達は全滅させられかけたのだ。このガリガリで具合の悪そうな女の子に。



 まだ闘争心が残っているのか、拳を握り俺に殴りかかってくる。こんなヒョロヒョロの腕で殴られても痛くもない。

 腹に当たった腕を掴むと軽く捻じり上げる。


「とりあえず話を聞いてくれ。俺達はお前に危害を加えるつもりはない。ミコト、悪いがちょっと来てくれないか」



 ミコトを呼び寄せると少女の治療をお願いした。

 ミコトは嫌な顔をしたが、それでも巫女としての本能が優ったのであろう。

 嫌々ながら治療を開始する。


「やめろっ!オレに触るな!」


 少女はミコトの治療を拒もうとするが、その体では俺を阻む力はない。

 強引に座らせるとミコトの治療を受けさせる。


「・・貴女、この傷はどうしたの?今の竜巻で出来た傷ではなさそうだけど」

「・・・」


 ミコトの問い掛けに少女は無言で返す。それでもミコトの治療は続き、少女の生傷を即座に癒していく。

 ついでに水の精霊の力で体を浄化している様だ。薄汚れていた服や体もサッパリとして、土気色だった肌も本来の色を取り戻していた。


「お前はここで何をしていたんだ?誰かに言われてここにいたんだろ?お前は何者だ?」



「・・お前じゃない。リエだ」


「そうか、悪かった。じゃあリエ、リエはここで何をしてたんだ?」


「オレは・・・。ここにくる侵入者を排除してただけだ」


「ここは侵入者が来るような場所なのか?」


「そうだ。オレ達の町の遺跡を狙って色んな奴らが来る。だからオレはそいつらを殺していた」


 リエと名乗った少女の話で、俺はここがウエノの町、その入口である事を悟った。

 彼女の言う通り、ここには色んな輩が来て町の遺跡を狙っていたのだろう。


「じゃあここはウエノの町なんだな。その地下遺跡の入口。リエはそこの門番の様なものか」


「・・ああ」


「じゃあその傷はここに来た侵入者と戦った時に出来たものなのか?」


「・・・」



 リエは答えない。でも俺はその行為には否定が含まれている事を感じた。


 リエの生傷はごく最近出来ただろうものもあった。俺達が瓦礫を退けてやっと辿り着いた場所に、そんな頻繁に侵入者が来るとは考え難い。

 となるとその傷は外部の侵入者ではなく、内部の味方に付けられたものではないか?


 そしてリエのこの体だ。明らかに栄養失調である。門番という役割を任せられているのにこの体では万全で戦う事など出来る訳がない。

 相手が普通の人間であれば問題なく叩きのめせるだろうが、多少の戦闘の心得がある人間であれば、良いところ足留めにしかならないと思う。


 あくまでも推測だが、リエはこの町の人間に疎まれてこの場所に追いやられているのではないか。俺はリエの様子を見てそう感じていた。


「・・リエは、ここでずっと一人で戦ってるのか?」


「そうだ。オレはずっと一人だ。一人でも戦える。お前達みたいな奴らを嫌と言うほど殺してきた。だからこれからもずっと一人で戦える」



 そんなリエの言葉に胸が痛くなる。

 本当に大切な場所であれば一人で守らせるはずがない。

 リエが一人で守っていたのは、一人でやらされていたのは町の安全ではなく、本当に守るべき人間がいる場所への合図だ。

 侵入者が来たと言う合図を出し、リエ自体は死んでも構わない捨て駒として使われていたのだろう。


 こんな女の子一人に危険な役目を押し付けて、この町の人間はのうのうと生きているのか。大切な町を守るのにどうして一人で戦うんだ。大切な町だからこそみんなで守るのではないのか。

俺は久しぶりに憤りを感じる。


「リエはこの町が好きなんだな。だからそんなに一生懸命この町を守ってるんだな」



「・・・。」


 俺に皮肉に沈黙するリエ。この場合は肯定か否定か。


「なあ、俺達はお前に危害を加える気はない。この町の遺跡にも興味はない。じゃあリエは俺達をどうするんだ?俺達はどうすればいいと思う?」


「・・帰ってくれ。オレの事を思うなら帰ってくれ。オレじゃお前達を倒せない。そうすればこの町の奴らがお前達を殺しに来るだろう。お前達はオレを治療してくれた。だからこれはその分の恩返しだ。オレが出来るのはこれだけだ。だからもう放っておいてくれ」


「リエはどうなるんだ?俺達がこのまま帰って、侵入者を逃したと分かった時、お前はどうなるんだ」


「知らない。今まで侵入者を逃した事なんてないからな」


「役目を果たせなかったお前はどういう扱いをされるんだ」


「知らないって言ってるだろ!きっと今までと変わらねえよ!元々オレなんかにみんな関心はねえからな!せいぜい食事を減らされるとかだろ。そんなもんさ、オレなんか」


「そんな訳ない、そんなんで済むはずがない。その体中の傷は誰に付けられたんだ?この町の人間にやられたんじゃないのか?食事はちゃんと食べているのか?ちゃんと食事は与えられているのか?そんなお前が役目を果たせなかったってなった時タダで済むはずがないだろう」


「うるせぇ!オレなんかどうなったっていいんだよ!町の奴らに殺されたって構いやしねえよ!どっちみちオレは死ぬまでここにいるんだ。侵入者に殺されようが町の奴らに殺されようがなんも変わんねえよ!」


「・・良い訳ないよっ!あなたが死んじゃうんだよ!?どんな理由があったって良い訳ないじゃん!あなたも人を殺したのかも知れないけど、だからってあなたが死んでいい理由になんてならない!なんであなたは死ぬまでここに居なきゃならないの!?」



 コトネがリエの声に反応して叫ぶ。

 突然の叫び声にリエが固まった。俺もミコトも同様だ。コトネがここまで感情的になる姿は珍しい。


「ねえ、この町の人はあなたを酷い目に合わせるんでしょう?じゃあなんでいつまでも此処にいるの?何処かの町でも村でも逃げればいいじゃない」


 コトネが今度は落ち着いた声で問い掛ける。


 確かにそうだ。死ぬほど酷い目に合わせられるのであれば、何処か他の場所にでも匿って貰った方がいい。この世界では追跡する手段なんて少なさそうだから、一度姿を消してしまえばそう簡単に見つからないだろう。


 なのに逃げ出さないのであれば何か理由があるのか。それとも。


「お前に俺の何がわかる!逃げられるならとっくに逃げてるさっ!」


「逃げられない理由があるのか?」


「簡単な事だ。俺の足を見てみろよ。この鎖が入口まで繋がってる。鎖を外すには入口で鍵を開けて貰うしかねえんだ。この鎖があるせいで遺跡の奥には逃げられない。かと言って入口には入口の門番がいるからな。あいつらがいる限り俺は此処から出られない」


 そう言われてリエの足を見ると右足首に鎖が繋がっていた。その鎖の片側は闇で閉ざされた遺跡の奥に繋がっている。

 あちらがウエノの町の遺跡の入口なんだろう。


「アイツらはオレの力で侵入者を食い止めさせる。でもオレが歯向かわないように面白がって殴ったり蹴ったりしてくる。飯なんか食べれるか食べれないか分かんねえよ。いいんだ、オレは此処で死ぬまで遺跡を守って、オレが死んだら誰かまた門番代わりが来るんだろ」


「お前、それで良いのかよ」


「良い訳ねえだろ。でも仕方ねーじゃねえか。どうにも出来ないんだ。だからもういいんだよ」


 そう言うとリエは力なく俯いた。

 このままで良いのか?良い訳ないじゃないか。俺は世界を救うんだろ?ここで死の淵に瀕している女の子一人救えなくて何が世界を救う英雄だ。


 俺はミコトを見る。ミコトは痛々しい顔でリエを見つめていたが、俺の視線に気付くとゆっくりと、だがしっかりと頷いた。


俺は躊躇う事なく腰の脇差を抜いた。


 カキンッ



 金属同士がぶつかる甲高い音が通路に響く。

 俺は脇差を鞘に納めリエを見つめる。


「えっ・・?」


「おい、リエ。お前の自由を奪っていた鎖は切った。これでお前は自由だ。逃げるなり立ち向かうなり好きにしろ。出来るならもう人は殺さず、幸せになってくれ」


「えっ、嘘だ・・、この鎖を切ったのか、お前。俺が何をやっても切れなかったのに・・」


「ああ、俺の刀がたまたま特別だったんだろ。切れたもんは切れたんだ。気にするな。とりあえずここから逃げるなら途中までは一緒に行ってもいいぞ」


 リエは自分が置かれている現状をすぐには把握できていない様だった。


 それでも自分の自由を奪っていた鎖を目にし、鎖を触り、確かに鎖は無くなった事を感じると、ゆっくり飲み込む様に話し始めた。



「えっ・・。あ、ああ。た、頼む!オレを・・、オレを一緒に・・・、連れて行って、くれ・・・!」


 最後は泣き声で掠れていたが、確かにリエの想いは伝わった。


 震える手を伸ばし俺に縋ってくる。


リエの手をそっと取り、先程出てきた瓦礫の山を目指す。


おはようございます。


ここまで読んで頂きありがとうございます。


ここから10話は話がドンドン進んで行く予定ですので、今後も是非ご覧頂ければと思います。


今日もよろしくお願いします。

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