第39話 冒険へGO!
梯子を慎重に降りる。線路内は普通の線路だ。
それ以外言いようがない。当然電車は走ってないので線路の鋼材は錆びているが、見たところ大きな腐食は見当たらない。
この中は空気が流れてなかったのか?右に左に線路が続いているが、西に向かっている方がウエノ方面だろう。今後探索をするのであればその反対方面へ進んだ方がリスクは少なさそうだ。
よし、線路の鋼材しかり、コンクリート中の鉄筋しかり、これで鉄は手に入った。
長老達にも伝えなきゃならないし、加工の方法も検討しなきゃならない。これから忙しくなるぞ。なんせ一気に村を発展させるからな。
村人達は嫌がるだろうか。それとも喜ぶだろうか。彼等の為にやっているつもりなので、出来れば喜んで欲しいな。
トンネル内の梯子を外れないように固定する。
トンネルから出て掘り返した穴をキレイに整地する。梯子も据えたが、長いスロープを作って歩いても入れるようにした。今後鉄を採掘したら結局運搬路は必要だからな。
最後に板材を使って簡易的な柱と屋根をかける。
森の中なので屋根は余り意味はないかも知れないが、やはりこれも今後の為だ。
ここが入り口と分かりやすいからな。
簡易的な蓋でコンクリートの穴を塞ぎ、今日の目的は終了だ。長老達に見せる証拠も取ったので、今日はこのまま村に帰ろう。
ふとミコトとコトネを見ると不満そうな顔をしてる。どうしたんだ?
「コースケ様、さっきの質問に答えて欲しいんですが」
「そうだよ、コースケ様の抱えてる事、コトネ達にも教えて欲しい」
ああ、忘れていた。地下鉄を見つけた事、鉄を手に入れた事、その他諸々で興奮して忘れてたよ。ごめんよ。
「ああ、2人が俺の事を信じてくれるなら話をするよ。ちょうどいいからお昼でも食べようか」
仮で作った屋根の下にベンチを移動させ、テーブルもさっと作り上げる。
「コースケ様、本当に起用だね。天職家具職人とかどう?みんな喜ぶと思うよ?」
「そんな地味な天職とか嫌だな・・。便利かも知れないけどさ」
「それで、コースケ様はどうしてそんな色々な事を知ってるんですか?」
「うーん、まず2人は俺の事をどういう人だと思ってるんだっけ?」
「村に昔訪れた人から伝えられた言い伝えの方です。その人が言うには、コースケ様はこの世界を導く人間であり、村を挙げて協力する様にと言われてます」
「うん、そうだよな。俺もそれは初めて長老様に会った時に言われた。その男とその事柄については実は俺は何も知らない。俺は実は他のところから世界を導くかも知れないって言われてるんだ」
「他のところってどこから?」
「神様だ」
「・・神様って、精霊の大元の根源にある、あの神様?」
「俺はこの世界の精霊の根源が神様にあるかは知らないが、人智を超えて万能であるはずのあの神様だ」
「はぇ〜。コースケ様ってなんか色々普通の人と違うって思ってたけど、神様ともお知り合いなんだねぇ」
「疑わないのか?」
「元よりコースケ様の事を疑ってなどおりません。コースケ様のお話を聞いて納得出来ない事、分からない事は聞くつもりでしたが、それが嘘だとは思ってませんから」
「それは個人的にはありがたい事だけど、2人の将来を考えると少し心配だな」
「それで、なんでその神様とお知り合いになったの?」
「んー、ちょっと話は長くなるんだけどいいか?」
「もちろんです。どうぞゆっくりお話して下さい。出来れば私達にも分かりやすく話して貰えると助かります。」
そうして俺はゆっくり咀嚼して言葉を選びながら2人に自分の事を伝えた。
俺が前にいた世界の事。神様と出会った事。俺が世界を導く人間であると言われた事。この世界に連れてこられた事。
俺自身説明出来ない部分もあったが、概ね状況は伝えられたはずだ。
「コースケ様すみません。疑わないとお伝えしたばかりですが、今のコースケ様から聞いたお話は聞いた事のないものばかりで信じ難いお話ばかりでした。何かこう、具体的に説明頂けるお話とかはありませんか?もちろん疑っている訳ではないのですが・・。」
「そうだなぁ。思い当たる節はあるんだが、今それの確認は出来ないんだよなぁ」
「そうなんですか?それはいつ頃出来るんですか?」
「じゃあ逆に質問だけど、ミコトは例えばウエノの町の事はどれくらい知ってる?」
「人並み程度だと思いますが。何人住んでいるのか分かりませんが、イリヤの隣町で、馬車で半日程度の距離です。途中山を越えて行くので危険な動物や魔物と遭遇する可能性もあります。古代の遺跡が豊富にあって鉄も取れます。それを傘に近隣の村などから大量の食料や衣服を集めていると聞きます。総じてあまり良い評判を聞く町ではありませんね」
「なるほどね。馬車で半日もかかるのか?」
「ええ、山が険しくて迂回をしなければなりませんので、それくらいかかってしまいます」
「じゃあ例えばウエノまで1時間かからず着いたら信じられるか?道を調べてみないと絶対とは言えないが。もちろん徒歩でだ」
「・・それは本当なの?本当なら凄い事じゃない?やっぱりそれも神様から与えられた力なの?」
「これは力じゃないな。これは知識だ。さっき言った通り、俺は遥か昔の日本と呼ばれる国に住んでた。日本の入谷の街に住んでたんだ。入谷から上野までは当時歩いて30分くらいだった。この地下の道が当時のままなら、やはり30分くらいで着くはずだ。まぁその当時は入谷と上野の間に山なんてなかったけどな」
「当時のままなら道は繋がってるの?」
「ああ、ウエノだけじゃなくここら辺一帯の町や村全てに繋がってるはずだ」
「・・お姉、凄いよそれ!行ってみようよ!コトネも冒険してみたい!」
「コトネ、これは遊んでるんじゃないのよ?コースケ様は嘘をついてる訳ではないと思うけど、コースケ様の知っている時代とは道も変わっている可能性があるわ。もしかしたら危険な生き物とかもいるかも知れないし、迂闊に手を出す訳にはいかないと思うの」
「ミコトの言う通りだな。俺の言葉は勿論嘘じゃないんだが、証明する方法が今はそれしか思い浮かばない。他に俺の言葉を裏付ける物が見つかったら出来ればそれで信じて欲しい。ただ、明日長老様達と話をするのに、現状は確認しておきたいと思うんだ。その為にはやはり一度中に入っておかないと、とは思う」
俺達3人は顔を見合わせてうーんと唸る。
とりあえずの成果は上げた。鉄も幾ばくか採取した。
ただ俺の言った事の証明はしたい。コトネは冒険したい。ミコトは悩んでいる。俺も実は冒険したい。
よし、決めた。少しだけ地下鉄を探検してみよう。まだ時間は昼頃だ。仮にウエノまで1時間かかったとしても、往復で2時間だ。十分戻ってこれる。
それに二人はこの村の巫女で精霊も使える。万が一多少怪我をしても大丈夫だろう。
そう考えて俺は二人に希望を伝える。
「なあ、少しだけ地下の遺跡を確認しないか?難しく考えなくていい。大規模な探索は村で決議が出た後に全員ですればいい。その前の軽い確認だ。こんなに頼りになる巫女が二人もいるんだ。危ない事なんて何もないさ」
「・・そんなっ!強く美しく頼りになる巫女なんて・・!コースケ様は本当にお上手ですね。分かりました、不肖イリヤの巫女・ミコトが御供させて頂きますね!」
「コースケ様、今のセリフはコトネに言ったんだよね?大丈夫、コースケ様は何があってもコトネが守るから!」
二人ともなんてチョロインだ。よしよし、これで行こう。
「コースケ様、何か悪い笑顔になってますけど大丈夫ですか?」
「悪い笑顔ってなんだい、ミコトさん!俺は至っていつも通りだ。よし、そうと決まれば出発だ!」
俺は先ほど閉めたばかりの蓋を外し、再度地下への入り口を開ける。
〜〜〜〜〜〜
「ミコト、光の精霊で道を照らして欲しいんだが、どれくらいの時間照らしてられる?」
「そうですね、あまり広範囲でなければ2~3時間程は大丈夫だと思いますけど・・」
「それで十分だ、じゃあ道を照らしてくれるか?」
ミコトが精霊に祈りを捧げて道を照らす。今回はウエノ方面へ進む道だ。
3人で梯子を降りて中を確認する。特に気になる所はない。
「よし、じゃあこっちに進もう。多分大丈夫だと思うけど、足元には気を付けてな。」
俺を先頭にゆっくり進んで行く。壁が崩落している訳でもなく、線路の枕木の上を3人で歩いていく。
途中何か所か水が染み出している所はあったが、大きく漏れている訳ではなかった。
水が大量に染み出していたらそこからコンクリートの壁が崩壊する可能性もあるので、そういう場所は入念にチェックをしておく。
30分程歩いただろうか。想像していた地面の隆起もなく、真っ直ぐにウエノ方面へ進んでこれた。
ただここで初めて障害に突き当たる。
「道が途切れている・・・。違うな、天井が崩落しているんだ」
俺達が進んできた道は四方をコンクリートの壁に囲まれ、大きな損傷もなく今も形を残していた道だ。それが突然ここで天井が落ちていたとなると何かあったのは間違いない。
この崩落が人為的なものなのか自然的なものなのかは分からないが、俺達が今進めるのはここまでだった。
ただ俺はこの崩落が人為的に起こされたものではないかと思っている。
俺達が今迄歩いてきた道は、長い時が経っていたにも関わらず侵食も少なくその形を保っている。にも関わらず目の前には崩落した天井がある。
これが地面が隆起して天井を突き破ったなら手前のレールも捲りあげられたはずだし、もしくは上から圧力で押し潰されたのであれば横の壁もひしゃげるはずだ。
ここは天井のみが落ちている。誰かが何かの目的を持って天井を落としたのだ。
ただ、それは誰だろうか。そして何が目的なんだろうか。俺の好奇心がムクムクしてきた。
「コースケ様、今日はここまでですね。引き返しましょう」
「いや、ちょっと待ってくれ。少し確認してみよう」
俺はそう言ってスコップを取り出す。こう言う場合は本来鶴嘴の方がいいのだろうか?
まあ無いものは無いのでスコップで掘ってみる。コンクリートなので勿論重たいが、掘れない程ではない。
どれだけの距離が埋まっているか分からないし、二次災害で更に崩落してくる可能性もある。俺は慎重に掘り進めた。
予想外にも埋まっているのは2メートル程だった。スコップの先が瓦礫の山を突き抜け向こう側へと到達する。出来た穴から光が漏れてくる。・・光?
拳大の穴からは光が漏れてきたのだ。という事は反対側は外か、もしくは人工の光か。
恐る恐る穴を広げる。
大体人が通れるサイズまで広げるとそれは見えてきた。
ランタンの様な照明が壁に掛けられていた。それも一つではなく、等間隔にいくつも先へ並んでいる。
これは人工の光だった。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
明日は朝の投稿だけになりそうです。
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