第38話 既知への遭遇
着替えの終わった2人を連れて村の外に出かける。
一応朝食の残りを包んで貰ってお弁当代わりに持ってきた。
俺達は目処を付けておいた森の中に進んでいく。大体ここら辺でいいだろうか。外からも目立ちにくく、光も入り作業はやり易い。
「よし、ここら辺でいいかな」
「コースケ様、今日何するか結局聞いてないんだけど」
「人気のない目立ちにくい森の中で・・・。もしかして本当に野外での戯れをっ!?」
「ミコト、いい加減それから離れてくれ。最近キャラが崩壊してるぞ。清楚で真面目なミコトの方がみんな好きだ。それはともかく、今日は採掘をします。出るかどうかは分からないけど、今日の目的はみんな大好き、鉄だ」
「本当に!?鉄なんてあるの?この村に」
「コースケ様、この間鉄の話を熱心にされてましたけど、本当に鉄を探し当てたのですか?」
「正確にはまだ探し当てた訳じゃない。ただ、ほぼ間違いなくある。そしてそれを今日証明するんだ。だから2人には証人になってもらう為に来てもらった」
「コースケ様って本当に凄いね。コトネで出来る事ならなんでもやるよ。コトネ達はどうしたらいい?」
「とりあえずは見ててくれるだけでいい。結構深く地面を掘るから、まずは周りの木を切るから。あ、そうそう。この間渡した小刀は使ってみた?まだ使ってなければ練習がてらここら辺の木を削ってみたりしてちょっと使って見てね」
そう言って俺はまず鉈を取り出す。
穴を掘る為に直径10メートル程の広場を作る。周りの木を切り倒し、ついでに板材にしておく。その内の一本の丸太はみんなで座る為に簡易的なベンチに作り変えた。
木の根部分も残るが、今回はこれも掘り返す。スコップで掘り返して森の奥に寄せて置く。
「コースケ様、凄い手際ですね。あっという間に森が拓けました。あまり切り過ぎないようにお願いしますね」
「コトネ達は小刀の練習しておくから、必要になったら声かけてね」
俺は頷き、スコップを持ち直す。
当てを付けておいた広場の真ん中を掘り始める。この間は鍬だったが、今日は掘る専用の道具だ。効率はこっちの方が良いだろう。
スコップは基本的に木製で、土に刺さる先端の部分に石で補強をしてある。
そのスコップで土を掘ると、やはり鍬なんかよりも使いやすい。俺は大型重機の様に土を掘り続ける。
あっという間に5メートル程彫り上がり、前回見つけたコンクリートの層にぶつかった。ミコト達にも見えやすいように土を端によせ、コンクリート部分を直径2メートル程露出させておく。
俺は2人を呼びに穴から出て行く。2人は小刀でベンチ代わりの丸太を削っているようだ。
「お、どうだ使い心地は?」
「ええ、とても使いやすいです。思った通りの模様が掘れますね」
「コトネのも良いよ。さっき枝を切ってみたんだけど、面白い様に落ちたよ。これならコトネでも山仕事出来るかも」
「なら良かった。でも山仕事とか彫刻の為に渡した訳じゃないからさ。あくまでも護身用ね。使う練習はして欲しいけど、それを本業にしなくていいよ」
「それで、コースケ様はなんで出てきたの?」
「あ、そうそう。2人ともちょっと穴に入ってくれ」
「穴に入れてくれだなんて・・・!コースケ様大胆です・・・。」
「入れてってコトネ達のセリフじゃないかな・・。別に入れてもいいけどさ・・」
「あのね、俺が掘ったこの穴に入って欲しいんだよね!目的は穴の底にあるからさ!」
無理矢理2人を穴の底に連れて行く。
最初意味不明な抵抗をしていたが、穴の底でコンクリートを見ると動きが止まる。
「コースケ様、この白い板はなんなんでしょうか・・」
「これはな、コンクリートと呼ばれる人間が作った岩みたいなもんだ。ここの下には大昔に人間が作った遺跡がある」
「こんな岩みたいのを人間が作ったんだ。凄い硬そうだけど、これどうするの?」
「もちろん、穴を開けて下に入るよ。この下は恐らく洞窟のようになっていて、多分ウエノの町にも繋がってる」
驚きに2人は目を丸くする。
「じゃあこの下の遺跡はウエノと同じものと言う事ですか?」
「そうだな、恐らく一緒だろう。ウエノにはこれ以外の遺跡もあると思うけど、その遺跡と言われる物は全てこのコンクリートと鉄で出来てるんじゃないかな」
「コースケ様はなんでそんな事知ってるの?それで鉄はどこにあるの?」
「なんで知ってるか、か・・。信じてくれるなら後で話す。それで鉄はこのコンクリートの中にあるよ。ちょっと離れてて」
俺は大槌を振り上げてコンクリート目掛けて振り下ろす。
破片が飛ばないように2人は俺の背中の後ろに退けておいた。スキルの力が乗った俺の大槌は一撃でコンクリートの床を打ち抜く。
厚さは30センチ程あるみたいだ。よくこんなの打ち抜けたな。
打ち抜いた断面、その脇から鉄筋が千切れて見えていた。
「2人とも、これ見えるか?これが鉄だ。今はこのコンクリートの板を作るように加工されているが、これを集めて熱して溶かせばどんな形にでも出来る」
「・・・本当に鉄があったんだ」
「本当ですね・・。これは色々と大変な事になりそうです」
「実は昨日の夜、ダノンさんともこの鉄については話をした。その時は証拠が無かったから深く話はしてないけど、これで鉄が見つかった。だからこれからは村のみんなで鉄の使い道についてよく話をするべきだ」
「そうですね、そうするべきです。皆さんの生活に大きく関わってくる事ですからね」
「でも鉄が山ほどあれば馬車だって立派なのが出来るし、道具だって丈夫な物が出来る。みんな生活が楽になるよね!やったじゃん、コースケ様!」
コトネはお気楽に抱きついてくる。ちょっと前までなら俺もそんな感じでお気楽に考えていたが、それで済まないという事をミコトの表情が物語っていた。
「ミコト、大丈夫だ。ミコトの心配してる事も分かってるつもりだ。それもキチンとクリアして鉄を運用するよ。一先ずはこの遺跡の穴を少し補強して、明日みんなで見に来れるようにしよう」
コトネを体から引き剥がして作業を再開する。
一発打ち抜いただけでは中が分からないので、ミコトとコトネを穴の外に出しコンクリートに出来た穴を広げる。
だいたい1メートルくらいの穴を開けた後、再度ミコトに降りてきて貰う。
「ミコト、お願いがあるんだが」
「えっ・・。ここでですか、ご主人様・・・」
「ああ、ここでだ。ここでお前(の精霊の力)が欲しいんだ。お願い出来るか?」
「ええ・・。勿論です。初めてなので優しくて下さいね」
「勿論さ。じゃあ手を出して・・」
ミコトの手を祈りの形に折り曲げて、膝を折らせる。立ち膝で祈りを捧げてるように見える。
「・・・じゃあ穴の中を照らして、風を吹かしてくれるか?空気が澱んでたら入れないからさ!」
ミコトは目を見開いて俺を見る。
嘘は言ってないし。そんな恨めしい顔で見られても知りません。
ミコトは文句をブツブツ言いながら精霊に祈りを捧げる。それって多分祈ってないよね。
祈りなのか何なのかが通じて、精霊の力が発現する。
澱んだ空気が開いた穴から吹き出し、新鮮な空気と入れ替わる。光の精霊の力が穴の中へ入って行き辺りを照らす。
俺は穴から顔を入れて中を見る。
予想通りここは線路内の様だ。特に大きな損傷もなく、俺が知ってる線路と大差なかった。
これがホームやホームに近い部分ならそうでもないのかも知れないが、ここはホームから離れた場所なんだろう。動物とかもいる様には見えない。
天井からホームの下までぱっと見で3メートルくらいはありそうだ。顔を上げて一度穴を出る。
梯子を作る為だ。この穴への昇り降りの梯子、線路の中への昇り降りの梯子。
先程切り倒した木の板材で手早く梯子を作るとそれぞれの穴に設置した。
そうして俺はついに自分が知っている文明への接触を果たす。
おはようございます。
今日から連休ですね。
少しずつ投稿していきますので、宜しくお願いします。





