第37話 休日
「ダノンさん、見て下さいよ。この間の魔物の牙から作った刀です。」
「ほう、もう作ったのか。加工が難しいだろうからもう少し先になると思ってけどな。」
「俺の力と、俺が作った道具があれば難しくはなかったですよ。ただその道具は他の人に使えないだろうって言うのが難点ですけどね。」
ダノンに脇差もどきを見せる。全て木で作られた鞘なんかは珍しいだろう。鞘から刀身を抜くとダノンがため息を吐く。
「もう旦那と会ってから何回言ったかな。なんじゃこら・・・。」
今までで一番控え目ななんじゃこらだったかも知れない。まあ深夜だしな。ダノンは刀身を眺めたり、指で触ったり、軽く振ったりしている。
「旦那、この切れ味はあり得ねえだろう。軽く触れただけで指の腹が切れちまった。これじゃあ鉄製の刃物以上だ。軽くて振りやすい上に切れ味も良い。耐久性は分からねえがしっかり作られてるからそう簡単には壊れねえだろう。これを持ってりゃ獣の解体も楽だし、最悪熊が出てきても闘う気になるかも知れねえな。」
「いや、熊は無理でしょう・・。でも素材の牙は多分鉄より硬いんじゃないですかね。本来加工は苦労しますよね。この品質なら村人が使っても効果は高いですか?」
「勿論だ。何処で使うのが一番いいかな。切れ味を考えれば解体だが、細かな作業とかも出来そうだ。獣と近くで戦う事も出来るかも知れないな。色々使い道は多いぞ。」
「そうですか。村の人の為になるならいいんです。この魔物の素材は中々取れないでしょうけど、他のものが取れるかも知れません。それでならこれに近い物が作れると思います。」
「ってーと、なんなんだ?」
「鉄です。」
「・・・!旦那、そりゃ本当か!?」
「恐らくですけどね。まだぬか喜びさせたくないからダノンさんにだけ言います。明日しっかり確認してくるので、その結果は明後日の長老様含めた会議で報告しますよ。」
「旦那よ、鉄を手に入れたってなったら事情がだいぶ変わってくるぞ。この村の発展は当然だが、それを面白く思わない奴もいるぜ。」
「ウエノの町とかですか?」
「・・・知ってるのか?」
「この間ミコトに聞きました。詳しくは知らないですが、ウエノは鉄が取れるんですよね?」
「あそこの遺跡で取れるみたいだな。あいつらは鉄と引き換えに色んな物と交換してるから、この村で鉄が取れるって分かったらそれを阻止しに来るかも知れねえ。」
「そんな事をしてくる奴らなんですか?」
「多分としか言えねえがな。そもそもこの近くでは鉄が取れない。ウエノの奴らはそれを餌に少量の鉄で食料や衣料を大量に溜め込んでやがる。そこで鉄を取れる場所が他にあれば鉄を欲しがる奴らはそっちにも群がるだろうよ。ウエノの鉄は希少価値が下がって大量の物品との交換が出来なくなる。それを防ぐ為には色々やってくるだろうよ。元々キナ臭い奴らだったしな。」
「じゃあそれも踏まえた上で村を開発しなきゃならないですね。他からの侵略を防ぐような強い村に。」
「そうだな、旦那がいればそれも出来るかも知れねえ。旦那の頭の中ではどんな知恵が湧き出てるか分からねえがきっとそれに対応出来るんだろうよ。頼んだぜ、旦那。」
「期待に添えるように努力はしますよ。でもみなさんの知識も貸して下さい。じゃあ俺は明日鉄の有無を確認してきますから。明後日楽しみにしてて下さい。お酒ご馳走さまでした。」
そう言って立ち上がる。意外とアルコールが回っていた様で少し足にきていた。これならすぐに寝られるだろう。俺は2人が待つ家に帰って行った。
翌日。
今日は週に一回の休日だそうだ。まだこの村に来て1週間しか経ってないんだな。結構濃厚な時間を過ごしたからもっと経っている気もする。
この世界では定職もなさそうなのでその気になれば毎日休日の様に過ごす事も出来るんだが、流石にそんな事は望んでいない。
なので1週間に1日の休みと言うのはいいものだ。
本当は両腕にある柔らかな感触を感じながら日がな寝て過ごしたいのだが、今日はやるべき事が控えている。明日の第2回定例会議でこの村の今後が決まるのだ。
それまでに情報を確実な物にして起きたい。
「2人とも、起きるか?」
「・・起きない・・・。」
「私は王子様にキスされないと起きれません・・・。」
ふーん。意外と2人はお寝坊さんなんですね。
俺は一度起き上がったが、両腕を広げて再び寝転がる。もちろんそうすれば2人とも腕の中だ。
UFOキャッチャーの様に2人を捕まえてから腕を閉じる。布団の上からぎゅーっと2人を抱きしめる。
「・・っ!」
「きゃっ!」
2人ともびっくりしてくれたようだ。
ふふ、たまにはこちらから驚かせるのも悪くない。
だがそう簡単には事は進まなかった。次の瞬間には2人は気を取り直し、締め返された。腕と足を巧みに使い、俺の身体全てに絡み付いてくる。
まるでタコだ。顔が近い。吐息がかかる。
「コースケ様、ついに私を求めてくれるのですね・・・。いつでもいいですよ。」
「コースケ様、朝から元気だね。だったら昨日の夜誘えば良かったかな。」
2人の腕がお互い首に回ってくる。顔がくっつく程に近い。それぞれの足をそれぞれ両足で絡まっておりとても抜け出せるような状況ではない。
「ごごごごご、ごめんない!ちょっと調子に乗りました!!許して下さい!!」
「ダメです、許しません。」
「何かお詫びして貰わなきゃね。」
どうすれば許して貰えるでしょうか・・・。
「じゃあ、キスしてください。」
「コトネが先ね。」
「いや、キスはダメだろ、キスは。」
2人は俺の言う事を聞いてない。してくれって言う割には自分から近付いてくるじゃないですか。
そうこうしてるうちに距離が縮まり、俺は2人に挟まれてキスをされた。
両頬に。・・・ありがとう。
「俺がキスされたけど・・。」
「まあ細かい事はいいじゃないですか、おはようございますコースケ様。」
「おかげでバッチリ目が覚めたよ。続きは夜ね、コースケ様。」
「・・はい、おはようございます。」
「じゃあ準備して朝ご飯食べに行こっか!」
コトネは元気に飛び起きて行った。
朝ご飯を3人で食べながら今日の予定を確認する。
「今日は基本的にみんなお休みの日なんだろ?ミコトとコトネは何か用事あるのか?」
「私は特にないですよ。お休みの日とは言っても私達はあまり普段の日と変わりませんね。女性は食事の用意したりお洗濯したりしますから。」
「狩りに行ったり畑仕事したりする男の人達が体を休める日だから。だからコースケ様も休んだ方がいいよ?なんならコトネが全身マッサージのフルコースをご馳走するけど・・・?」
「それじゃ逆に休まらないから遠慮しておく。そっか、じゃあ2人とも一緒にお出かけしないか?ちょっと村の外に用事があるんだ。」
「・・・そんなっ!3人で、しかも外でなんて・・・っ!恥ずかしすぎますよ・・・。」
「外でもいいけど、出来れば夜がいいかな・・・。」
「お前達は本当に頭の中まで姉妹だな・・・。そうじゃない、お出かけするのはちゃんとした仕事だ。しかもすごい大切な事。別に俺1人でもいいんだけど、それが見つかった時に俺だけだと信用されないかも知れないからさ。だから出来れば着いてきて欲しい。」
「ええ、もちろん。ご一緒させて貰いますね。」
「コトネも一緒にいくよー!コトネの力は役に立つかな?」
「ありがとう、2人とも。精霊使いの力が役に立たない訳がないさ。ただ少し汚れるかも知れないから、その巫女服じゃなくて動きやすい汚れてもいい服で来てくれる?」
「・・汚されてしまうのですね・・。私はコースケ様の為ならどんな恥辱でも耐えてみせます!」
「コトネ、お前のお姉ちゃん大丈夫か?」
「前はこんなんじゃなかったけどね。コースケ様が開発したんでしょ?責任取ってね。もちろんコトネのこともね!」
俺じゃねーし!最初からこんな感じだったし!
2人が着替えてる間に俺はコトネの家に必要な荷物を取りに行く。
本格的な採掘はしないつもりだが、証拠になる分や加工の実験の分くらいは持って帰ってくるつもりだ。
さあさあ、どうなるかな。遠足に行くみたいにワクワクしてきた。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
明日から世間はお休みですね。
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