第35話 贈り物
・・・結果として俺は起こして貰えなかった。
いや、最終的には起こして貰えたのだが、食事までに起こされる事はなかった。
ミコトに起こされた俺はぼーっとしながらご飯食べなきゃなーって思ってた。
「あ、ミコトおはよう。ご飯かな?行こっか。」
「コースケ様、おはようございますですけど、もう夕食は終わっていますよ?お腹空いてますか?」
「もう本当はお風呂に入る時間だよ?コースケ様どれだけ寝てたの?」
そ、そうなのか・・。どうやら激しく寝過ごしてしまった。
朝食以降何も食べていないのでお腹は減っている。とういうかそれじゃない。違和感がある。コトネの服装が違うのだ。
「コトネ、その格好どうしたの・・・?」
「ん?ああ、これ!どう?似合うでしょ?」
くるりと一回りしてキリっとキメ顔。
ふわりと舞ったスカートからこの間の純白聖衣がのぞく!
似合う、似合っているとも・・・!
「ああ、とても良く似合っているよ!白い生地が最高だ!」
「・・コースケ様、どこの生地の事・・・?」
「いや、なんでもない。似合ってるのは間違いないよ。でもそれって巫女の服じゃないの?」
「そう、巫女の服なの!今日からお姉と一緒で、この村の巫女を務める事になりました。精一杯努力しますので、宜しくお願いしますね」
そう言ってお辞儀をしてニコっと微笑む。丁寧な言葉遣いをするとミコトにそっくりだ。
「じゃあこの村は巫女が2人になったの?」
「そういう事になりますね。元々コトネは巫女の素養がありましたし、今日精霊の間に行き、精霊達からも正式に巫女と認められました」
「そっか、じゃあこれから本当の巫女なんだね。おめでとう。これから巫女として大変だと思うけど頑張ってね」
「うん、ありがとうコースケ様!正式な巫女になったからこれからずっとコースケ様の側に堂々といられるね!」
「ふふ、コトネ。コースケ様の側にいる巫女は1人で十分よ。もう1人は村の祭事をこなさなきゃならないわ。新米巫女なら村の事を優先しなきゃ、ね?」
「お姉はいつもそうやって意地悪言うんだから!お姉が村の祭事とかやればいいじゃん!」
「まあまあ2人とも。とりあえずおめでたい事なんだからケンカすんなよ。巫女の就任祝いって訳じゃないけど、俺からも2人に贈り物があるんだ。受け取ってくれるか?」
「ええっ!コースケ様が私に贈り物なんて・・!もしかして求婚の贈り物でしょうか・・」
「そんな訳ないじゃん!コトネへのお祝いなんだからコトネへの求婚でしょ?いいよ、謹んでお受けします。ポッ」
「違う、2人とも違う。求婚以前にお付き合いもしていない。そうじゃなくて、2人に御守りを作ったから渡そうと思ってね。ちゃんと2人の事を考えて作ったんだ。喜んで貰えると嬉しい」
そう言ってミコトには黒の、コトネには赤の小刀を渡す。
2人は興味深く手渡された小刀を見詰めている。
「コースケ様、これ抜いてもいいですか?」
「ああ、もちろんだ!」
2人は鞘から刀身を抜く。気合い入れて研いだからな。顔が映り込むくらいに磨いてある。
「はぁ・・・。綺麗ですぅ」
「本当にキレイ・・・。こんなの勿体無くて使えないよ・・」
「喜んで貰えたみたいでよかった。勿体ないなんて言わないで、必要な時はちゃんと使ってくれ。2人の身を守る為に作ったんだ、その方が道具も喜ぶ」
「コースケ様って本当に凄いね!こんなのを作っちゃうなんてびっくりだよ。コトネこんなキレイな物を見た事ないよ?これは御守りの小刀?」
「そうだ、この間の魔物の牙で作ったんだ。切れ味も試してみたが、中々上出来だと思う」
「カボチャなんかも余裕ですか?」
「なんで切れ味の基準がカボチャなんだ・・。まぁアレでカボチャを切ってたくらいだからな。カボチャくらい余裕だと思うよ」
「今度試してみます!」
「手を切らないように気をつけてな。それで、喜んでるところ申し訳ないんだが何か食べ物ないか?ご飯食べずに寝てたからちょっとお腹すいちゃって・・」
「コースケ様なんでご飯も食べずに寝てたの?」
「・・・寝ててもミコトかコトネが起こしに来てくれると思って寝てた・・・」
「ふふ、そしたら当てが外れて誰も起こしに来てくれなかったんですね。夕飯の残りがないか見てきます、待っててくださいね」
ミコトはご飯を探しに外へ出て行った。すまない・・ミコト!
「コースケ様、コトネとお姉の小刀は材料が一緒なんでしょ?なんか見た目がだいぶ違うみたいだけど・・・」
「それは一応考えた結果だ。やっぱりこの間の事はどうしても気になるからな。コトネがもし危険な目に遭ったらその小刀が役に立てばって思ってる。だからコトネのは使い易さを重視した。逆にミコトのは儀式でも使えるような見た目で作ってみた。同じ素材だけど、やっぱり使い易い方が使う機会も多いと思うしな。」
「そっか!じゃあコトネはこの小刀を巫女服の何処かに仕込んでおくね。いざという時闘えるように」
「ああ、そうしてくれ。仕込むのに紐やら調整が必要だったら言ってくれればやるからな。後でミコトにもそう言っておくか」
そうしているとミコトが蒸した芋と焼いた肉を持ってきてくれた。今日の夕飯の残りをリリがまとめていたみたいだ。リリ、いつもありがとう。今度必ずお礼はするから。
俺は腹を満たして2人は贈り物で心を満たしてくれたようだった。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
まったり回が続いていますが、もう直ぐ話は急展開します。
宜しくお願いします。





