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第32話 純白聖衣〜ホワイトクロス〜

 翌日、俺はまたダノン班と共に狩りに行く。

 昨日一昨日とまともに作業をしていなかったからなんだか凄く久しぶりに感じた。


 恐らく獲物の捕獲には役に立てないだろうが、森を知る事、山を知る事、ついでに有用な原材料などを確認する為に狩りに連れて来て貰ったのだ。



 今日もダノンの組と一緒に行動する。

 ダノン組は相変わらず行動が迅速であり無駄が無かった。ただ今日は生憎運悪く中々獲物には巡り会えなかった。



 山での狩猟中に、珍しくダノン組の1人が怪我をした。

 山の中に生えていた木の棘に腕を引っ掛けてしまい結構深く切れてしまっていた。



「おい、テツ。大丈夫か?」


「ええ、ダノンさん。迷惑かけてすいません。大した事はないんですが、血が止まんないっす」


「ああ、こりゃマズイな。とにかく止血しないと」



 ダノンは木の蔓を適当な長さに切るとテツと呼ばれた男の腕に巻き付けて血流を止めるようにする。

 同時に腰袋から布を取り出し切れてしまった部分を直接押さえて止血を試みる。


 押さえた布は見る間に真っ赤に染まり、吸い切れなかった分は滴り落ちている。


「こりゃ本気でマズイな。仕方ない、今日は帰るぞ」


 ダノンは自分の組にそう告げ、止血を続けながら少しずつ山を下って行く。



 交代班の所まで戻ると、交代班が持っていた中に血止めの薬草が入っており、程なくしてテツの腕の血は止まった。

 血の量は酷かったが傷は浅く問題はないようだった。


「ダノンさん、俺はもう大丈夫っす。狩りを続けましょうよ」


「ダメだ、他の組も来たら今日は村に戻る」


「なんでですか?せっかく来たんだ、鹿の一頭や二頭獲っていかねえと示しがつかねっすよ」


「ダメだったらダメだ。森の中で血を流しすぎちまってんだよ。あのまま森にいたら大型の肉食動物や、下手したらそれ以外も来ちまうからな。今日はもうお終いだ。この森は2、3日は空けてから来るように村にも言っておく」


 なるほど、チームのリーダーらしい冷静な判断だ。

 あのまま無理に狩りを続けると組だけでなく班まで危険に晒すという事だ。


 この森ではせいぜい狼程度の肉食動物しか見ていないが、それ以外もいるのだろう。

 個人的には熊なんか出てきたら勝てる気がしない。仮にライフルを持っていても目の前には出て来ないでほしい。


 2、3日空けてからじゃないと来ないというのは、その間は危険な野生動物がうようよしているからと言う事なのだろう。

 逆に狩りにはもってこいだと思うのだが、それじゃダメなのだろうか。


 ……そうか、多分火力が足りないな。

 肉食動物一匹くらいなら皆んなで囲めば倒せるかも知れない。だが狼の群れや子連れの熊などが来てしまったら逆に狩られてしまうかも知れなかった。


 囮の猟は確実に仕留められる圧倒的な力があってこそ成り立つのだな。……囮か。




 今日はそこで引き上げて村に帰る。

 今日獲物が獲れなかったと言っても村に食べ物がない訳では無い。

 村ではその日食べる分とは別に保存食も毎日作っており、今日はこのままだと保存食になるかも知れなかった。

 こういう日もあるから仕方ない。


 村に帰る道でダノンに聞いてみる。



「ダノンさん、昨日の魔物の解体は無事に終わったんですか?」


「おうよ、旦那!中々大物だったから解体に手間かかっちまったけど無事に終わったぜ!」


「それは良かったです。魔物の死体は主に何処が使えそうでしたか?」


「そうだなぁ・・。とりあえず旦那が持って帰った牙だろ、後毛皮。骨も大きい部分は使えるな」


「骨なんかは何に使うんですか?」


「見てないだろうが、後ろ足の骨なんかはかなりデカかった。そのまま使っても棍棒なんかになるが、随分と硬い骨みたいだったから、今みんなで使い所を考えてるよ。削って刃物にするか槍にするか、または建材なんかだな」


「魔物って骨が硬いんですか?そう言えば牙も硬かったですね。魔物ってどう言う生き物なんですか?」


「どうって・・。ありゃ普通じゃない生き物だって言われてるけど、根本的には変わらねえよ。仮に狼と、狼の魔物がいた時、違うのは頭の良さ、大きな力と体、体の中身を作る組織。ここら辺しか変わらねえ。本能とか行動は特別な力でも持ってない限り一緒だぜ」


「へぇ、そうなんですか。なんかもっとこう、邪悪な力の結晶から生まれたとかそんな風に思ってました。そう言う訳ではないんですね」


「生まれは知らねえからそうかも知れねえが、生態としちゃ一緒って意味だ。たまに精霊の力みたいな特別な事をしてくる個体もいるみたいだがな。特徴としては目が赤く光るところだな。体の大きな狼なのか、魔物なのか。その差は目が光るところで見抜く事が出来る」


「ダノンさんは流石に良く知ってますね。魔物とは戦った事があるんですか?」


「戦った・・とは言えねえなぁ。ありゃ一方的に逃げ出しただけだ。そんな事なら結構あるさ。山向こうまで狩りに出れば魔物に出会う確率も高くなる。出会ってしまったら後は逃げるだけ、当時の俺の技量じゃ絶対に勝てなかったからな」


「そうですか、そんなに魔物は危険ですか」


「あったり前だろ!槍も斧も通らねぇ、勝てるのは槍とか矢を目ん玉か口の中にぶっ刺した時だけだ。あんなデケェ化け物の目や口を狙うなんて自殺行為だ。だから俺は魔物が出たら皆んなを守りながら逃げるって事に決めてんだ」


 それでもみんなを守る意思が変わらないのは流石ダノンだな。

 それが今日この選択をした理由だろう。


「ダノンさん、今日あのまま狩りをしてたとどうなっていたんですか?」


「絶対じゃねえが、十中八九肉食動物が来る。狼くらいならまだいいが、虎とか熊なんか来たら最悪だな。みんなやられちまう。」


「虎!虎なんかいるんですか?」


「ああ、滅多に出てこねえがな。虎も熊も基本的には人間を恐れて近づかねえよ。でも腹が減ってりゃ別だ。今の時期はあんまり出てこねえが、これから先はそうは行かねえ。だから山じゃ血を流す怪我は命取りだ。そうなったら進むか引くかちゃんと判断しなきゃ全員ダメになっちまうからな。」


「それで今日の撤退ですね。成る程、良くわかりました。ありがとうございます。みんなの身を案じて頂いて」


「よせやい、旦那に礼を言われる事じゃねえや」


 ダノンは頬をかいてそっぽを向いてしまう。

 まあそういう事だ。




 今日は狩りが不調に終わり俺の成果もあまり得られずに終わってしまった。早めに村についた俺は道具作りをまた行う。


 家に戻ると珍しく誰もいない。

 いなくちゃいけない訳ではないので問題ないのだが、なんとなく寂しい気持ちになる。




 浸ってても仕方ないので、気を取り直して作業の準備をする。

 来週には長老宅で2度目の会議だ。その時にこの村の今後について打合せを行う。


 村の今後の展望についてある程度明確なビジョンが見えたので、それを実現する為の道具達を作っていくのだ。

 この間は勢いに任せて彫像やレリーフ等のガラクタを量産してしまったからな。

 今日はマトモな物を作ろう。



 最終的には村人達が扱えるような道具を作るが、今はその前段階だ。

 俺個人の力で開発を進めようとしているのは不本意だが、今は仕方のない事として割り切る。

 なのでこれから作る道具は全て俺専用の物だ。

 畑を耕す為の鍬や鋤。穴を掘る為のスコップ。土を締め固める為のランマー。その他諸々、細かい道具を含めて作っていく。


 材料は主に石と木だ。

 材料の木は狩りの帰りがけに村の近くから切り取って成形してある。

 石については、本来ならそれなりの厚みがないと使えない物だが、俺はスキルがあるのでギリギリのサイズに調整をする。

 その結果この前切り出した石の塊で全て作りあげる事が出来た。



 一息ついていると、いつもの元気印の声が聞こえてきた。



「ただいまー、ってコースケ様戻ってたんだ。早いね!」


「ああ、お帰りコトネ、ミコト。今日は狩りの方が上手くいかなくてね。早めに帰る事になったんだ」


「そういう時もありますよ、気にしないでくださいね。それにしても、すごい数の物が出来ていますね。これでは家の中に居られないです・・・」


「すまん、気付いたらこんなに作ってた。どれも必要な道具だから捨てる訳にはいかないんだが、どうしたもんかね」


「うーん、じゃあコトネの家に置いておく?結局コトネはここに住んでるし、今はあっちの家は荷物とか服とかしか置いてないからとりあえず物置として使えるよ!」


「本当か?それは助かる。鉈とか斧だけ残して後はそっちに持って行くか。コトネの家はどこなの?」


「ん?ここの隣!」


 おい。近すぎるだろ。


「そうなのか。荷物の持運びに便利で助かるよ・・」



 とりあえずの物置は確保出来た。

 木造の家を建てる時はこの二棟を潰した土地に大きめの家を建てよう。俺専用の部屋も作るぞ!



 荷物をいくつか持ち、コトネの家に向かう。

 ミコトもコトネも運搬を手伝ってくれた。


 コトネの家も当然茅葺屋根の家なのだが、最近は住んでいなかった為生活感がなくなり始めていた。

 コトネに指示された場所に荷物を置く。ミコトとコトネから受け取って順々に置いていくと、鍬の柄が何かに引っかかってしまった。


 ちょっと力を入れて引っ張ると、柄に引っかかった何かはぴょーんと宙を舞い俺の頭に乗っかった。



 ・・白く滑らかな手触りに良く伸びる生地。

 これはまさかアレなのか。アレなんだな。


 聖なる者が纏う純白聖衣(ホワイトクロス)

 その中身には何度も邂逅したが聖衣(クロス)には終ぞお目にかかってなかった・・!


 うむ、やはり良い!そこはかとなく漂う神々しさ、かぐわしいかおり・・・


 ぺしっと頭をはたかれた。むう。



「もうっ、コースケ様!女の子はこういうの見られるのは恥ずかしいの!マジマジと見ないで!」


「う・・・、すまん。つい見入ってしまった。普段履いてるところなんて見ないからさ」



「それじゃ普段からコトネがパンツ履いてないみたいじゃん!履いてるから!」




「・・私も履いていますよ・・・!」



 ミコトはそう言って巫女服の袴をずらし、チラっとパンツを見せてくる。そうじゃない。


 ただ、言っておこう。ご馳走さまと。



「ミコト、ありがとう・・じゃなくてはしたないから辞めなさい。俺が悪かった。女の子のパンツなんて滅多に見るものじゃないからな、ちょっと舞い上がってしまったようだ」


 パンツも無事に回収され、俺は荷物も置けた。よしよし、何も問題ない。

 コトネが何か言いたそうにこちらを睨んでいるが、問題はないのだ。


 その後はミコトとコトネとたわいない話をした。


 年頃の女の子が欲しがるものだったり、村のこういう所が改善されたらいいなって言う希望を聞いたりした。

 やはり女の子目線で見ると要求がだいぶ異なる。


 俺の目線ではインフラ整備を行い、衣食住を豊かにすればより良い暮らしになると思っていたが、女の子目線ではそれ以外の所も気になっているようだ。


 トイレの数であったり、温泉での髪洗い場、洗濯物を干す場所(主に下着)など、細かい部分をどうにかしたいと思っていたらしい。


 俺の中の優先順位はインフラ・衣食住で変わらずであるが、それでも女性達の希望も出来る限り叶えてあげたい。


 一つ一つは難しい事ではない、ただ気付かなかったり手間がかかるだけなのだ。

 言われた事はなるべく叶えると約束し、食事に向かう。


 食事を取りながらふと思った。

 明日は畑仕事の日だ。早速作った鍬や鋤を試してみよう!


 畑仕事はまたダノンの班だから、ダノンに頼んでまた開墾をやらせて貰うつもりだ。

 問題なければ他にもやってみたい事がある。それは明日ダノンに相談してみよう。



 新しいオモチャを買って貰った子供のよう、にその日はワクワクしてなかなか寝付けなかった。


おはようございます。


ここまで読んで頂きありがとうございます。


この先話は続いていきますが、強くない主人公は結構戦わなくてはならなそうです。


どうぞご期待下さい。


今後とも宜しくお願いします。

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