第31話 神の住処、悪魔の巣窟
その日の夜、俺達はいつもの様に客用の温泉に3人で入りながらのんびりしていた。
そこで俺は気になっていた事をミコトに聞いてみる。
「なぁ、ミコト」
「はい! ご主人様!」
「おい・・。俺はミコトのご主人様じゃねーよ。そうじゃなくて聞きたい事がある」
「ご主人様はダメでしょうか・・。それで、聞きたい事とは?」
「そのうちなれればなってやるよ・・・。ああ、聞きたい事はあんまりいい話ではないんが、あのコトネが連れ去られた洞窟の事だ」
「コースケ様がご主人様になってくれる日を心待ちにしております! それで、あの洞窟がどうかしたのですか?」
「お姉のご主人様になるんだったらコトネはおにーちゃんになって欲しいな!」
「流石にお兄ちゃんって年の差じゃねーよ。下手したら親子だ。んで、その洞窟はユキムラさんから聞いた話だと良くない儀式をその昔執り行ってたって言う話だ。知ってるか?」
「・・・ええ、もちろん知ってます。あそこで人を贄に捧げ災いや外敵から村を守る為の儀式が行われていたと聞いています」
「なるほど、儀式の目的は村の安全か。人を贄にって言うけど、どんな感じで儀式がされてたかは知ってる?いや、まあ気持ち悪い話かも知れないけどさ」
「儀式の具体的な方法は聞いた事ありませんが、贄にに選ばれていたのは子供ばかりだと聞いています。赤ん坊がいれば赤ん坊、いなければなるべく年の若い子供が贄に選ばれたと言う事です」
「・・大人のエゴで小さい子になんて事するんだ。それで、言い伝えでいいけど、その儀式は何に対して祈る儀式なんだ?」
「言い伝えでは、山に住まう大きな白蛇に贄を捧げて村の安全を祈っていたと聞いています。その大きな白蛇の話は昔話でも良く村で語られますし、実際に贄に捧げられた子供たちは翌日には姿を消していたそうです。だからその白蛇は実在するんだと信じられています」
「へえー、俄かには信じられないけど、何かしらの形でそういう存在がいたんだろうね。子供達はその白蛇に食べられたって事なのかな?」
「・・・恐らくはそういう事なのだと思います。今ではもう行っていない儀式ですので実際のところは分からないですけどね」
「じゃあもし白蛇が実在してたら俺がコトネを探しに行った時にパクッと頭から丸飲みにされてたかも知れないんだな。危なかったぜ」
「でもコースケ様、コトネはあの時ちょっとパニックだったから気付かなかったけど、今思えばあの洞窟はそんなに嫌な感じは受けなかったかな。そんなに人が何人も死んだような、古く染み付いた怨念の様なものは感じなかった」
「そうなのか? じゃあその白蛇はもしかして悪い奴じゃない?」
昔の日本でも白蛇は神の使いって言うしな。
でもそうしたら居なくなった子供達はどこへ消えたんだ?
まさか本当に丸飲みにされたって訳でもあるまい。
「その白蛇って神様なの? 悪魔なの?」
「どうなんでしょうか。子供を連れ去る時点で悪魔だと思いますが、村に平和を齎してくれる神だとも考えられます」
「コトネはなんとなく神様の様な気がするなー。あの洞窟って元々白蛇の住処だって言われてたんでしょ? 嫌な感じもしなかったし。」
「そうですね、元々儀式を行う場所は神聖な力で溢れている場所で行いますからね。その当時白蛇は神として崇められていたのかも知れませんね」
「そっかー、まあどっちかわからんな。でもそんな場所になんで魔物が出て来たんだろうな。そもそもこの村は黒鎧の男のお陰で外敵から守られてるのにな」
「それはコトネも分からないけど、でもほら、前に言ったけど、ゼンさんが呼び出したみたいって・・」
「ああ、それな。魔物って呼び出せる方法とかあるのか?」
「呼び出したりする術などは聞いた事がないです。呼び込まないようにする方法というかまじないみたいなものは聞いたことありますけど」
「そりゃそうだよな。魔物を好き好んで呼び出そうとする奴はいないわな。ちなみにどうやって魔物避けをするの?」
「大掛かりな方法では結界を張ったり、簡単なおまじないだと魔物避けの御守りを身に付けたりですね。魔物の嫌いな臭いがするらしいですが、この村ではそう言うものはないですね」
「あの黒曜石の小刀は?」
「それは寄せ付けないようにするのでなく、魔を破る為の物ですね。結果としては同じかも知れませんが、出来るまでの過程は違います」
「まぁそりゃそうだな。他に破魔の力を持ったものってあるの? あの小刀以外に」
「シンゲン様の持っている水晶がその力を持っていますよ。そちらも破魔の力を主としてる訳ではないのでやはり過程が違いますが」
「この村だと魔除けになる物は全部目的が違って結果は同じみたいな事になるのかよ・・」
「そもそも魔物が出る事がない前提の村だから、村人の危機意識も薄いし、そういった対魔物用の何かはあんまりないんだと思うよ。その昔にあったものが今も伝わっているだけで改良されたり改善されたりしてる訳じゃないからね」
「そりゃ分かるんだけどね。巫女はどうなの?巫女の力の中で魔物に対抗できる、魔物を追い払えるようなものはあるの?」
「そうですね、私の精霊の中では結界を張れる精霊がいるので、これなら侵入は防げると思います。ただあまり大きな範囲に結界を広げると強度が下がるので確実性は落ちますね」
「コトネの精霊だと、この間襲われた時に見せたアレなら出来るかも。コトネはまだ使役が得意じゃないけど、あの時のは光の精霊なんだ。普段は道を照らすとか部屋を明るくするとかしか使わないんだけど、でも光の精霊の本質は浄化なの。水の精霊も似た力になるけど、光の精霊の浄化は多分魔物とかに効果的だと思うよ」
おお、流石に巫女と巫女見習いだ。ちゃんと魔物に対抗出来る手段を持ってる。
片方は受動的に、片方は能動的に魔物と対峙できそう。 コトネは一度魔物に効果有りって所を確認出来てるからな。
ミコトも光の精霊を使役できるはずだからやり方を覚えればミコトも魔物に対して攻撃が出来るかも知れない。
「巫女の力は流石だね。2人がいれば村は安泰だ。他にも色々聞きたいんだけど、長湯しちゃったな。暑くなってきたからそろそろ出ようか。2人とも大丈夫?」
「ええ、私は大丈夫ですよ・・・きゃっ」
湯船から立ち上がるミコトは、お約束のように立ちくらみをし、俺にしな垂れ掛かってくる。
その時にいつも巻いていたタオルがはだけて湯船の中へ・・・。
ミコトの生まれたままの姿はそう言えば初めて見たな。そうか、お姉ちゃんがお姉ちゃんたる所以はちゃんとここにあるんだな。うん、立派です。
俺は倒れそうになるミコトを支える。
その際柔らかな部分をしっかり掴んでしまったのは俺の所為ではあるまい。 俺は紳士としてよろけた女性に手を貸しただけだ。
態勢を立て直したミコトにタオルを渡す。ミコトは顔を真っ赤にしながら湯船の中でタオルを巻き直し、一目散に風呂場から駆けていく。
そんなに慌てなくても大丈夫ですよ、レディー。
すっかり紳士モードだった俺の背中にまたしても柔らかい感触が押し付けられる。
「コトネも後何年かすればアレくらいになるから。・・・待っててね!」
今度の言葉は俺をチキンに引き摺り戻した。
コトネの決意に気圧された俺は小心者のいつもの調子で小さく返事をするのが精一杯だった。
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