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第30話 手に職

  ミコトの家に戻ると、ミコトとコトネの二人は向かい合って座り、何やら手を合わせている。

   その手の周りを光が優しく包み込んでいた。ミコトとコトネは目を瞑り祈りを捧げているようだ。

 俺は邪魔をしないように家の端に座りその様子を見続ける。

   暫くして、どうやらその儀式は無事に終わったようだ。


「ミコト、コトネ、ただいま。それは何をしてたの?」


「え?あ!コースケ様! 帰ってたんですね。お帰りなさいませ」


「コースケ様おかえり! これは巫女の修行だよ。コトネは治癒術が苦手だから、お姉に教えて貰ってたの」


「教えて貰う方法がそうやる事なの?」


「感覚的な説明になって申し訳ないのですが、お互いの知識と経験を共有してたんです。私達は二人とも癒しの精霊を使役出来ますが、その精霊達も経験値が違います。そして私達自身の経験値も違います。その経験値の違いが癒しの効果に直結するので、先程の様にする事で私と私の精霊の経験と知識をコトネとコトネの精霊に伝えていたんです。経験がある、というだけで治癒術の効果はとても上がりますからね」


「へー、なるほど! 面白いね。それってお互い共通の精霊ならどんな種類でも出来るの?」


「種類が違っても出来る事はありますよ。ただその時大切なのは精霊同士の相性なので、相性が悪いと同じ種類の精霊でも最悪共有出来ない時もあります」

 

「そうなんだ、今ミコトとコトネはうまく情報を共有出来たの?」


「うん、今のはバッチリだったよ! お姉の力の使い方と精霊の経験を教えて貰ったから、今度からはコトネも治癒術の効果が高くなるよ!」


 コトネは今回の件で俺が大怪我をした事、その時に自分で完全に治療出来なかった事を気にしていた。今ミコトに治癒術を教えて貰っているという事はそういう事だろう。

   コトネの健気さが胸にグッとくる。


「そっか、じゃあコトネの側にいればいつ大怪我しても安心だな」


「そうだよ! コトネの側ならいつでも大怪我していいからね!」


「いや、大怪我はそんなにしたくないかな・・。それで、今一通り終わったよ」


「・・・ゼンさんの事とか?」


「ああ。ゼンの遺体を回収してきて弔った。後魔物の死体も回収してきた。魔物は解体して色々な素材になるみたいだ。ほら」


 俺はユキムラから貰った魔物の牙を見せる。その大きさに二人とも驚いているようだ。


「・・・凄いですね。こんなに大きな牙が生えてるんですか。それに何だが骨というより金属のような質感です。やはり魔物というのは普通の生き物ではないのですね」


「そうだな。俺もこの牙はビックリしたよ。ユキムラさんがこれくらいはせめて持っていけって言ってくれたから貰ってきたけど。せっかく貰ったから俺はこれで小刀を作ろうと思ってる。だからミコト、遅くなったけどこれ返すね。借りっぱなしで悪かった」


 胸から下げた黒曜石の小刀をミコトに返す。

   それがあったお陰で俺は命を失わずに済んだ。ミコトも小刀も命の恩人だ。俺は心の底から感謝を捧げる。



「コースケ様を守ってくれてありがとう・・・」


  ミコトはそんな小刀に祈りを捧げているようだ。 こうして色々な想いが詰まって破魔の力を引き出すのかも知れないな。


「さて、とりあえず今日の作業は終わったんだが、俺はもう少しだけやりたい事がある。二人はどうする?」


「コースケ様、何やるの?」


「家の外に石の塊があったの気づいたか?」


「あ、うん! でっかい真四角の塊でしょ? あれコースケ様が持ってきたの? 色々聞きたい事はあるんだけど、アレで何するの?」


「アレは原材料だから何でも作れるな。そのうち槍とか斧も作らなきゃいけないと思うんだけど、まずは道具を作り出す為の道具を作る事だな!」


「道具を作り出す為の道具・・・?」


 ミコトもコトネも揃って首を傾げる。

   子猫達がじゃらされて同じ動きをしているみたいでとても可愛い。


「そうだな、あんまり俺の力を村のみんなに見せたくないから家の中でやるか」


 俺の道具作りの第一歩が始まった。


  重い石の塊を頑張って部屋の中に移動させる。

  今から作業をする俺の手にはそこら辺で転がっていた石が二つある。

   一つはおにぎりサイズの丸い石で、もう一つは少し長めの先が尖った石だ。


「コースケ様、石なんか拾ってきてどうするの?」

 

「さっきも言ったけど、道具を作る為の道具を作るんだ。村のみんなは斧や槍を使ってるだろ?じゃあ斧や槍を作るのはどうしてるんだ?」


「それは・・、小刀で木を削って、刃の部分の石を研いだり削ったりして作ってるよ!」


「その、削る為の小刀や、研ぐ為の石をこれから作るんだ。材料はこの石の塊。それを削り出すのにこの石ころさ。まあ見てろって」



 俺は尖った石を鑿の代わりに石の塊にあてる。

  その上から今度はオニギリサイズの石を金槌代わりに叩く。

   最初に作るのは金槌だ。金属ではないから正確には槌か。

   一番最初の槌は大雑把なもので構わない。少しずつ精度を上げて、細かい作業が出来る物を作っていく。

 両手の石ころをスキル全開で操っていく。

   心なしか石が光っている気がするがとりあえず無視して一心不乱に叩く叩く叩く。

 そうして出来上がったのは長さ15センチ程の四角柱だ。

   これが俺が作った最初の道具だ。

   この四角柱の角を少し叩き丸みを帯びさせる。スキルを駆使して穴を開け、そこに柄を嵌める。柄の上から楔を打ち、外れないようにすれば槌の出来上がりだ。

   うん、我ながら良く出来ている。


「うわぁ、コースケ様凄いですね。村の人達も叩く道具を使ってますが、こんなに洗練された形ではないですよ」


「うん、コースケ様凄いね! ちょっと感動しちゃったよ! コトネはコースケ様の力を見るのは初めてかも。色々上手なんだね」



 いえ、他の事はまだまだ発展途上です。これから頑張ります。


「まずは槌が出来た。今度は今使ってる長い石みたいな、もっと使いやすい物を作るよ」


 たった今作り上げた槌で今度は鑿もどきを叩き始める 。

 さっきまでよりも力の加減がしやすく、思った通りの形になっていく。

 次に作ったのは鏨と鑿だ。大きく割る鏨と細かく掘る鑿。今後の事を考え二つ作った。

   そもそもの材料が石なので、今作った鑿と鏨でも石を削るのは非常に難しいが、俺のスキルで鉄製の同じもの以上の効果を出してくれる事だろう。


「さあ、これで一番最初の道具は揃った。これと石の塊があればとりあえずの物は作れる。何か作ってみて欲しいものはあるか? 練習がてらやってみようと思う」


「コースケ様、そしたらコトネは槍が欲しい! この間みたいに変な男に連れ去られそうになったらぶっ刺せる槍が欲しいな!」


「危ない事言ってんなよ・・・。コトネには精霊の力があるだろ? そっちの方がいいんじゃないのか? それと、槍じゃないけど後でコトネ用に作るつもりだからそれは待っててくれ」


「そうしたらコースケ様、私達は大きな道具は使わないので、コースケ様が必要な物を作られたらどうですか? 斧も槍もコースケ様は持ってないんですよね?」


「うーん、確かに・・。そうだな、斧じゃみんなと一緒だからちょっと他のにしてみるか。よし、決めた!」



 そう言って俺は槌と鏨を手に取る。

   この道具を使えば、石の塊がまるでカキ氷みたいだ。思った以上に使いやすい。

   俺は強度を保てるギリギリの薄さに石を切り出すと、大きな山菜包丁のような形にした。これに木で作った把手を付けて革紐で巻く。


「よし、出来たと」


「おお、コースケ様早いね! これは鉈かな?」

 

「そう、鉈にしてみた。多分本当はこんな薄い石製の鉈なんて使い物にならないんだけど、俺の力があればきっと大丈夫だと思う。そっか、そう考えれば別にサイズとかあまり気にしないで道具が作れるんだな」


「へぇー、本当色々凄いんだね! でもなんで斧じゃなくて鉈にしたの?」


「別に斧でも良かったんだけど、俺の場合は木を幹から切り倒すだけじゃなくて加工もしなきゃいけないからさ。そうすると斧だと細かい加工が難しいんだ。斧の威力と小刀の細工のし易さをある程度兼ね備えた鉈がいいかなって」


「コースケ様は先の先まで考えているのですね。私にもその考え方を教えて欲しいです」


「考えてるんじゃないんだよ、やり方を知ってるから次がわかるだけ。でも、そうか。考え方という事であれば伝えられる事はあるかも知れないね。それはまた今度ゆっくり話をしよう。じゃあまだ材料は沢山あるから色んな物を作ってみようかな」


 そう言うと俺はまたひたすらに塊を叩き出し色々作ってみるのであった。

   ミコトもコトネも飽きずに夕飯の時間までずっと見続けていた。


 夕食の時間となり、今日は起こされずに自分達で向かう。

   あの寝坊が一連の出来事のキッカケだと思うと少し3人でいる事に後ろめたさを感じるが、別に悪い事をしている訳ではないので堂々としよう。

 

 今日の夕飯はいつもと雰囲気が異なっていた。  村人が亡くなった為、喪に服しているそうだ。生前本人が好きだった料理が多くならび、食べる前には祈りを捧げて食べるそうだ。


   巫女であるミコトは毎日しているが、確かに村人たちは普段そんな事やっていない。これが正しい作法という事なのかな。


   俺もゼンには思うところはあるが、見様見真似で祈りを捧げ食事を取る。ちょっと重い雰囲気の中での食事だったので味はよく分からなかった。最後に言い合ってしまったが、ゼンには安らかに眠って欲しい。

 食事を終え、家に戻る。コトネはいつもの如く帰らない。


「なあ、コトネ。リリのところに居なくていいのか?」


「別に大丈夫だよ? コトネは自分の家も本当はあるしね。ちょっと一人はさみ・・・・嫌だからリリのところに押し掛けてたからさ。リリも意外とスッキリしてるんじゃないかな」


「案外リリの方が寂しがってるかもね。でもその事、一回はちゃんとリリとも話をしなよ?コトネの荷物とかどうしようって悩んでるかも知れないからな」

 

「うー、分かったよー。リリにも迷惑かけてるもんね、今度ちゃんと話してくるね」


「ああ、それがいい。そのうちみんなで住める家を建てるから、そしたらちゃんと暮らせるようになる」

 

「本当に!? いつ? ねえ、それいつ!?」


 うわっと、あぶない、飛び掛かってくるな。主に感触が柔らかくて危ない。


「・・・そんなに遠くないよ。来週の定例会議でやるべき事をまとめて報告する。その中に家の建て直しも入ってるからな」


「そうなんだ! じゃあ近いうちにコトネとコースケ様とで住める家が出来るんだ!」


「コトネ、コースケ様はみんなで住める家と言ってますよ。元々は私が一緒に暮らしているんですから、コトネはオマケです。よく覚えておいて下さいね」


 ミコトはニッコリしながらも額に青筋が立ってる。怖えよ・・・。

   精霊使いの姉妹によるイリヤ大戦争。こんな村消し飛ぶんじゃないかな。


「・・まあ落ち着け。今のこの家よりも遥かに大きい物を作るつもりだから、3人4人なら問題なく住めるだろ。リリちゃんを呼ぶかは二人に任せるけど、俺は気を使うからこのまま3人がいいかなぁ」


「まぁコースケ様ったら! 3人がいいなんて・・・。まだ2人っきりでも経験していないのに・・。コトネの若いだけが取り柄の身体に籠絡されてしまったのですね・・・! 尽くしてきたのにあんまりですぅ!」


「まぁまぁ、お姉! 仕方ないよ! コースケ様もこのピチピチで張りのある肌がいいって言うんだ。でもお姉も一緒って言ってるんだからいいじゃん、お情けでも側に居られればさ!」



 なんなんだこの姉妹は。今まで以上に素晴らしい聞き間違いだ。


「2人とも、俺はそんな事言ってない。ミコトともコトネともちゃんと仲良くなれたから、この3人なら問題なく生活が送れるかなって思ってるだけだ。リリちゃんはちょっと怖いから遠慮したいって事」


「まぁそうでしたか、私はそうだと信じてました。コースケ様が私の事を見捨てる訳がないと!ではこれからも私を主で、コトネを副として暮らしましょうね」

 

「お姉、ちょっと言葉が変わるとすぐこれだ! 主でも副でもいいから3人で余裕持って暮らせる家をお願いね、コースケ様。」


「ああ、任せておけ」




 こうして俺達の新しい家は3人用の家となる事が決まった。


おはようございます。


毎日読んで頂きありがとうございます。


皆様に読んで頂ける事が励みになります。


誤字脱字報告、厳しいご意見、ブックマークなどなんでも結構ですので、ご連絡頂けると嬉しいです。


今日もよろしくお願いします。

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