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第3話 イリヤ!

  遮るものがないので草の塊のような物はずっと見え続けているが、存外距離があった。

  少し歩けば着くだろうと思っていたそこは、意外と30分程かかってしまった。


  草の塊に見えたそれはやはり草の塊で、稲のような細長い草を縦に並べて先端を結んである。簡素な竪穴式住居のようなものだ。


  そんな竪穴式住居がパッと見で20個以上ある。その住居の横に人が立ってるな。

  こちらから見えるんだからあちらからも見えているんだろう。俺の方を指差して何か言っているように見える。



  馬車の目的地もこの集落? のようで、ちょうど馬車から白い服を着た女性が降りてきたのが見えた。とりあえず人のいる場所で良かった。


  会話が通じるといいな。髪の毛黒いからやっぱりここはモンゴルなのかな。

  そんな事思いながら俺は近くなった集落の村人に話しかけた。


「すいませーん、こんにちはー。ちょっと聞きたいことがあるんですけどー!」


  警戒心を持たれ過ぎないように少し離れた場所から大声で呼び掛ける。

  すると相手はぎょっとしたように体を竦め俺から離れていってしまった。


  はぁ、もしかしたら閉鎖的な場所かも知れない。そもそも日本語が通じてない可能性もあるな。でもここで諦めてしまうと家に帰る手掛かりがなくなってしまう。

  俺は無害アピールの為に両手を上にあげて近づきながら再度声をかける。


「すいませーん、怪しいものではないです。ちょっとお尋ねしたいことがありましてー。どなたかお話しさせてもらえませんかー」


  今度の問い掛けには一人の女性が前に出てきた。

  先程馬車から降りてきた人だ。


「えっと、すみません。私どもの村に何かご用事ですか?」


  意外な事に日本語で返ってきた。しかもちゃんと敬語を使っている。


「ああ、よかった、完璧に無視されたらどうしようかと思いましたよ。ええ、突然すみません。ちょっとお伺いしたいことがあって声をかけさせていただきました。唐突なんですけど、ここはどこなんでしょうか? どうやら私、道に迷ってしまっているみたいで」


「まぁ、そうでしたか。それは大変ですね。この村はイリヤの村といいます。あなたはどちらからいらしたんですか?あまり見かけない服を着ているみたいですが……」


  イリヤだった。入谷じゃない、イリヤだった。

  あのオッサンはどうやらちゃんと俺をイリヤに連れて来てくれたらしい。そうじゃない。イリヤ違いだ。というか何処のイリヤだよ。

  日本語で返ってきたけど日本じゃないのかも知れない。


「……ああ、そうなんですね。ここはイリヤというのですか。ええと、イリヤの村はどこの国なんでしょうか。信じられないかも知れませんが、私はもしかしたら海外から迷い込んでる可能性がありまして……」


「まぁ! ふふ、面白いことをおっしゃるのですね。海の外の方がこんな優しい見た目なはずはないですよ。もっとこう、悪魔みたいな感じの怖い顔になっているはずです。それに、イリヤはどこの国でもないですよ。イリヤというか、今はこの世界に国というものはないと思います。私が知らないだけかも知れませんが、伝聞によると最後の国が滅びてから50年程経っているはずです」


  ……え?

  今なんて仰いました?

  どういう事だマジで。国が滅びた? 国がない?

イリヤという村には出会えたけど日本はどこに行ったんだ。ちょっと頭の整理が追いつかない。



「あ、あ、そうなんですね。今は国はないのですか。じゃあ街なんかはあるんでしょうか。東京とか、名古屋とかそういう大きな都市とかは……」


  俺のその言葉に今度はその女性が驚いたようだ。

  驚きを隠す事なく、口元を両手で覆って大きく見開いた目で俺を凝視している。


「え、あの、いまなんておっしゃいましたか……?」


「え? 街はないですかって……。東京とか名古屋とか……」


  彼女の驚愕は間違いないようだ。

  彼女は村の女性を大きな声で呼ぶと、長老様を呼んできてと伝え、俺の方へ振り向いた。


「取り乱してしまい失礼致しました。貴方様は間違いでなければ、この村の言い伝えのお方と思われます。今この村の長老を呼んで参りますので、どうか今しばらくお待ち願えませんか?」


  女性は上目遣いで何故か目元を潤ませて俺を見つめてくる。


  慌てていたせいで気付かなかったが、目の前の少女をよくよく見るととても顔立ちが整っている。

  切れ長だけど目元が少したれていて、小鼻は小さく、鼻筋は綺麗に通っている。唇なんか桃色でぷっくりととても可愛らしい。なんか甘い匂いもしてくる気がする。


  童貞には耐えきれないシチュエーションだ。

  び、美人じゃなくたって残るつもりだったけどね!

  聞きたいことあるのはこっちだからね!


「わ、わかりました。私も聞きたい事があって声を掛けさせて頂いているので問題はないですよ。でもその、そちらの村の言い伝えとかは多分間違いかと思うのですがそれでも宜しいですか?」


「もちろんです! 言い伝えに間違いはないと思っております! 是非色々お話し伺わせてください!」


  言葉は丁寧だが、彼女の態度には喜びが滲み出ている。そんなに俺の存在が嬉しいのだろうか。ふっ、罪な男だ。



  これが勘違いだとしたらこの態度も180度変わるんだろうなぁって思ったらなんか涙が出てきた。




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