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第27話 生還

  コトネに肩を借りて洞窟を歩き始める。


  やっと心に余裕が出てきたので、気になっていた事を確認する。



「そう言えばコトネはどうしてここにいたんだ?」

 

「それがね、理由は分からないけど、連れて来られたんだと思う」


「誰にだ?」


「村のゼンさんだよ。昨日ちょっとコースケ様とケンカした人」


「ケンカではないけど・・。どうしてゼンが?」


「それがね、分からないの。多分ゼンさんはコトネに薬か何かを飲ませてここまで連れて来たんだと思う。目が覚めて少しゼンさんと話してたんだけど、あの魔物が突然襲ってきてゼンさんは殺されちゃった・・。魔物がそのままコトネに襲いかかろうとして、コトネは力を解放しちゃったの。それで震えてたらコースケ様が来た。だからゼンさんが何の為にここにコトネをここに連れて来たかよく分からないままなの」


「そっか、コトネを連れ去った犯人はゼンなのか・・。何となくゼンが考えてた事は予想出来るけど、まさかそれを本当に実行に移すなんてな」


「コースケ様は理由がわかるの?」


「多分だけどな。簡単に言えばアイツはコトネの事が好きで、突然出てきた俺の事が気に食わなかったんだろ。そんな話昨日してたしな」


「でもコトネはちゃんとそんな気持ちはないって今まで伝えてたけど・・」


「昨日のアイツを見てただろ?人の話なんて聞いちゃいないんだ。自分の都合のいい事しか考えてないんだよ。だからコトネを攫ってコトネの目を覚まさせようとしてたんだろ」


「そんな・・!ゼンさんがそんな人だったなんて・・・」


「まあもう今更だ。ゼンは魔物に殺されてしまったんだろ?その事も村に報告しないとな」


「・・・そうだね。そういえばコースケ様はあの魔物をどうやって倒したの?なんか光る槍みたいなものは見えたけど」


「ああ、あれか。アレはその、たまたまなんだが・・・。ミコトから借りてた小刀を返し忘れててな・・・」


  そう言うとポケットにしまっていた黒曜石の小刀を出してコトネに見せる。


「・・? あ、ああっ! これはお母さんの小刀!なんでコースケ様が持ってるの?」


「この間初めての狩りの時に、俺が斧も小刀もない事を気づいたミコトが貸してくれたんだ。狩りから帰って来て返さなきゃって思っててずっと忘れてた。ミコトに感謝だな」


「またそんな都合のいい忘れ方を・・・」


「まあまあ、忘れ物してて良かったじゃん。あの小刀は破魔の力もあるって聞いてたからね。魔物も一撃だったからバッチリだったよ」


「まぁそうだけどさ・・。でも多分破魔の力っていってもそんな強い力じゃないと思うよ。あくまでも御守り程度の力なんだと思う。やっぱりそれはコースケ様の力なんじゃないかな。・・・・・・・カッコよかったよ」


  コトネが最後の言葉を言ったタイミングで洞窟を抜けた。コトネの言葉はコースケの耳には届かなかった。



「でも本当にコトネを守れて良かった。ミコトとこの小刀を残してくれたお母さんに感謝だな。それでもう一つ疑問なんだが、この村はあの黒鎧の男が残した手紙と木箱によって魔物が寄り付かないようになっているはずなんだが。なんであの魔物は現れたんだ?」


「あのね、多分なんだけど、アレはゼンさんが呼んだんだと思う。自分でそんなような事言ってたし。でもコースケ様、あんまり自信ないからみんなには言わないでおいて」


「魔物を呼ぶ方法があるって言うのか? そんな事が出来れば村や町を滅ぼす事が出来るじゃないか」


「うん、だからゼンさんが本当にそんな事をやったのが不思議なの。魔物を呼び寄せるってとんでもないことだよ。それを一人であんな若い人が出来るなんて思えない」


  出来るのは力と経験を持った者が何人もいれば、と言外に言っているのか・・。

  どちらにしてもあまり面白い話ではなさそうだ。心の奥に留めて置かなくては。


 

  洞窟は山の頂上だ。そこから山を降りて中腹あたりに来た所でダノンの捜索隊に遭遇した。



「おい、旦那! コトネちゃん! 無事か!?」


「ああ、ダノンさん。助かりました。二人とも一応無事ですよ。コトネには怪我はないと思います。俺は見ての通り肩がやられましたが、コトネが止血をしてくれたのでとりあえず大丈夫です」


「本当だ! 旦那、これは酷い怪我だな! 担架持って来ておいて良かったぜ。旦那、これに寝てくれ!」


「いや、そこまでじゃないですよ。ここまで歩いて来てますし」


「いや、ここまで歩いて来てるのがおかしいんだよ! 普通は歩けねえぞ? いいから早く寝ろって! コトネちゃん、悪いが村まで歩けるか?ダメなら負ぶって行くが」


「コトネは大丈夫、ちゃんと歩けるから。コースケ様の事をお願い」



  半ば無理矢理に担架に乗せられ縛られてしまった。

  怪我をしたのは事実だが、コトネに治癒術をかけて貰ってるからそこまでではないと思うんだけどなぁ。



  男連中は担架に乗せられた俺を思ったよりは丁寧に運んでくれた。

  村に連れられた俺はまずミコトの元に連れられ、ミコトの治癒術を受けた。


「こ、コースケ様・・。なんて痛々しい姿でしょうか。私が必ず治しますから。絶対です。安心して私に全てを委ねてください」


  ミコトはボロボロになった俺の服を脱がし、傷口に手を当てる。

  ぽうっと光った手はコトネと同じだが、そこからその光は熱量を伴った。熱いと感じるくらいの温度だが、その温度が心地よく言われた通りミコトに身を委ねる。

  熱さと気持ち良さに身体が慣れて来たころに治療は終わったようだ。


「・・・はい、コースケ様。無事に治療が終わりました。今回は恐らく後遺症などなく済むと思います。でも後遺症なく済むのは怪我をしてすぐに治療出来た場合です。時間が経ってしまうと治せないものも多くなってしまうので覚えておいてくださいね」


  少しうとうとしながらミコトの話を聞く。

  そっと手を伸ばして肩にあてると、先程まで抉れていたはずの肉が盛り上がり、元の形に戻っていた。


「精霊の力は凄いな。ミコト、ありがとう。本当に助かったよ」


「コースケ様の為です、当たり前ですよ。私の出来る事を全力でやりますから!」


  ミコトの決意に口元が綻ぶ。

  心からの御礼をミコトに伝え、次に長老宅へ向かう。



  長老宅へはコトネが一足先に着き事情を説明していた。


「おお、コースケ様。今回は災難でしたな。なんとか無事に戻られて何よりですじゃ!」


「完全に無事とは言えないですけどね。でもミコトに治療をして貰えたのでとりあえず元通りになりました。ご心配をお掛けしました。それで、皆さんは事情をどこまでご存知ですか?」



  今長老宅にいるのは、俺、コトネ、シンゲン、ダノン、ユキムラの五人だ。所謂村のまとめ役だな。



「今大体の事をコトネちゃんから聞いたぜ。旦那、今回は済まねえな。うちの若い奴が横恋慕で旦那達に迷惑を掛けちまったみたいでよ。・・・コトネちゃんから聞いたが、うちの奴もやられちまったんだろ?」

 

「気にしないでください、ダノンさんが悪い訳じゃありませんから。それでゼンさんが魔物にやられたと言うのは、俺はコトネから聞いていただけで遺体を確認した訳ではないです。それよりも前に魔物に襲われてしまいましたからね」


「魔物・・だと! 馬鹿な、この村は魔物に襲われないようになっているのではないのか!?」


「私もそう聞いてますが、実際に魔物は現れました。そしてゼンさんを殺し、私も襲われた。幸いな事にコトネは巫女の力で魔物を寄せ付けず、襲撃は未遂に終わったらしいです」


「その魔物はどうしたのだ」


「私が倒しました。預かっていた破魔の小刀の力で倒す事が出来ました」


「なんと・・! 信じ難いですがコースケ様は魔物を倒す事が出来ると言う事でしょうか・・。破魔の力を扱える人間がいるとは思いませんでした」


「この小刀はミコトの母親から譲られたと聞きました。巫女の家系であれば破魔の力は使えるのでは?」

 

「使えなくはないでしょうが、基本的には御守り程度の力にしかならないと聞いております。力を解放すれば魔を寄せ付けないなどあるでしょうが、そこまで出来るとは聞いてはおりませぬ」


「そうですか・・。では私が討伐出来たのも偶然だと思います。突然の事だったので何も考える余裕はありませんでした。ただ無心に敵を倒す、それだけを考えていましたので」


「旦那、それは本当にすげえ事なんたぜ。考える事なく身体が動く。達人の域だ。達人しか魔物は倒せないんであれば、一匹現れただけでうちの村はお終いだ。倒してくれて本当に助かった。明日で構わないからゼンの場所を教えてくれねえか? 流石に骸くらいは拾ってやりてえからよ。旦那達も今日は疲れただろ?まだ色々聞きたい事はあるが今日は早めに帰って休んでくれよ。すまねえな、遅くまで」


「ダノンさん、俺たちは大丈夫だから何でも聞いてください」


「いいや、ダノンの言う通りだ。コースケ殿、済まなかったな、気付かずに。二人は被害者だ。しっかり身体を休めて、落ち着いたらまた話を聞かせてくれ。その時はじっくり聞くから、今は気にしなくて大丈夫だ」



  ユキムラからも強く押されてしまった。ここまで言われて俺も押し返す気はなかった。

  謝罪と御礼を伝え、俺とコトネは長老宅を後にする。



  コトネと一緒に一度ミコトの家に行く。そこにはリリもいて、家に入るなりコトネを抱きしめた。


「バカっ、心配させて・・!でも無事で良かった・・・」


  リリの目には薄っすらと涙が浮かんでいた。

  普段はクールなリリでもやはりこの村の一員として、幼馴染として大切に思っているのだろう。

  コトネはリリを強く抱きしめ返していた。


「そう言えば、俺達夕食を食べる前に捜索に出ちゃったから飯も食べてないな。ついでに風呂もまだ入ってない」


「じゃあコースケ様、今からみんなでお風呂行く?お風呂入る前に少しだけ摘める物を用意するから、それを摘んでお風呂で栄養のある飲み物を用意するよ。そうすれば流れた血も少しは戻ると思うよ」


  今までの日本だと、大怪我をしたらその日は風呂に入っちゃいけないなんて言われていたが、精霊の治癒術の場合は風呂はいいのだろうか?


「ミコト、俺は結構な怪我をしたんだけどお風呂は入っていいものなのかね?」


「長湯をしてのぼせたりしなければ大丈夫ですよ。体を温めるのは精霊の力を強めるので、基本的には推奨してますよ」


  そうか、風呂はいいのか。

  精霊の力はさっきも身体が熱くなったしな。それに流れた血はしっかり食べて補わなきゃならないのは間違いない。

  じゃあコトネの提案に素直に従います。



  俺達は長い一日の終わりにゆっくりと風呂に入る事にした。


おはようございます。


いつもご覧頂きありがとうございます。


今日も朝夜と二話投稿予定です。


今後とも宜しくお願いします。



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