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第26話 魔物

 俺は二人と共に墓地から出る。

 呼び出されたご両親達は巫女が側にいる限り、その力が続く限りは顕現し続けるらしいが、離れて行くとまた力が弱まり解除されるそうだ。



 墓地を出たものの、特にここから心当たりがあるわけでもなく探す場所がなくなってしまう。


「ミコト、他に心当たりはあるか?コトネの行動の心当たりでなく、この村の人達が知ってる隠れ場所とか、子供達の秘密基地みたいな人が知らない場所とかは。」


「正直そういう所の心当たりはないのです。コトネは行動派だったから色々な所を知ってると思いますが、私はあまり山遊びをしなかったので秘密基地みたいなものは知りません・・。申し訳ありません・・・。」


「謝る事じゃないよ。でもそうか、そうしたら狩りに出てる班の人達の方が詳しいか。ほぼ毎日山の中を走り回ってるんだからな。一度村でダノンさんやユキムラさんに相談した方がいいかも知れないな。」


 そう言って3人で村に戻る事にする。




 そしてその時は突然やってきた。


 裏山の頂上付近から突然轟音と共に光の柱が立ち上る。


 柱は山頂から南に向かって斜めに走っている。 コトネかどうかは分からないが、何かあったのは間違いない。

 突然の轟音と閃光にしばらく戸惑っていたが、回復した俺はそこに向かう事にする。


「ミコトとリリちゃんは村に戻ってて!他の人達も山にいるかも知れないけど、俺も向かうから村にいる男の人達に伝えて欲しい!」


「わ、わかりました!コースケ様お気をつけて!」


 そう言って俺はミコトとリリと別れる。





 夜の山は足元の確認も出来ないがそんな事は言ってられない。

 覚束ない足元の所為で全力疾走とは言えないが俺は出来る限りの速さで頂上を目指す。


 山の中腹まで来たが、今のところ他の人間に出会っていない。 ダノンやユキムラには話してあるから、村の人間達もコトネの事を探しているはずだ。


 俺が着くのが早いか、他の人間が着くのが早いか。あの光の元にコトネが居ますように!

 俺は更に速度を上げて光があった場所を目指す。既に光はなく、よく見ていないと場所を見失いそうだ。




 光があったと思われる場所が目視出来るところまで着く。暗がりでよく見えないが、光があった場所は洞窟になっているようで、その周りは少しだけ開けていた。


  突然洞窟に入り込む訳には行かない。こんな時懐中電灯とかがあると助かるんだがな。

 じっと洞窟を見ていたが5分程経っても何も起こらず洞窟に入る決意をする。


  流石に洞窟には星明かりも届かない。ほぼ真っ暗闇の中を手探りで歩いていく。 暫くすると少しだけ目が慣れてなんとなく地形が見えるようになってきた。洞窟は下に続く階段のようになっていた。



 この洞窟のどこからあの光が出てきたのか。本当にこの洞窟でいいのか。少し不安になってきた。不安を振り払いながら更に歩いていく。




 歩き続けると、奥から何か音が聞こえる。

 人間か動物か、呼吸する音だ。その音の中に声が混じっている。すすり泣く声だ。



 ・・・誰かいる。俺は鼓動が早くなるのを感じたが足音を立てないように慎重に近づく。


 洞窟の中を一度曲がると光が見えてくる。それは本当に小さな光だったが、光の中にいる人間を優しく包み込むように照らしていた。




「コトネ・・!?コトネ!」


「えっ・・。コースケ、さま?」


「コトネ、ここにいたのか!待ってろ、今行くぞ!」


「ダメっ!逃げてーっ!!」




 えっ?と思った瞬間には俺の肩口に灼熱の痛みが走る。反応する暇も無かった。


 俺を傷付けた何かは、俺を背後から襲い前に駆け抜けていった。

 暗闇の中に赤黒い瞳が輝く。激しい痛みに吐き気を催しながらも頭は冷静だった。


 左肩に手を当てると僧帽筋のあたりがごっそり抉られている。これでは左手は上がらない。

 激しすぎる痛みのせいで気を失わずには済んだが、今度は血を流し過ぎている。このままではそう長くは保たない。



 相手はどうやら四足歩行の動物。大きさは分かりにくいが、大型の犬とか狼みたいに見える。

 さて、手ぶらで来てしまったからな。今更後悔しても仕方ないが、せっかくコトネを見つけたのにこれでは連れて帰れないかも知れない。



 その時、隣に明かりが灯る。コトネだ。


「コースケ様、どうしてここに!」


「・・そりゃ、コトネを、探しに来たに決まってるだろう・・。やっと見つけたんけど、まさかこんなのがいるとはな・・。連れて帰れるか分からない。ごめんな、頼りなくて。」


「そんなこと、そんな事ないから!そんな事言わないで!今肩の傷治すからね・・・。」


 コトネの手がぽうっと輝く。これが癒しの精霊の力か。深く抉られていた肩の血が止まるのが分かる。


「・・ありがとう。助かる。・・・んで、コトネはどうして襲われないんだ・・・?」


「コトネはコトネの精霊の力で襲われてないんだと思う。さっき襲われかけた時にびっくりして力を解放しちゃったから。その後はアイツは私を睨んでいるだけだよ。」


「そうか、やっぱりさっきの光はコトネなんだな。・・とりあえず無事で良かった。」


「でも、でもコースケ様が無事じゃないよ!こんなに酷い傷、コトネじゃ治せない。お姉に治して貰わないと・・。」


「・・そ、そうだな。結構ヤバイよね。でもそれにはアイツを倒さないとね・・。コトネの精霊でアイツを倒せる精霊はいないのか?」


「分かんない、いるかも知れないんだけど、さっきの解放で私の力をほとんど使っちゃったから、いても使役出来ないかも知れない・・・。」


「・・そっか、じゃあ今は期待出来ないって事だな・・。じゃあ、自分達だけで、何とかしないとな・・・。」


「でも、どうやって・・。」


「コトネ、教えてくれ。アイツは何なんだ?」


「アイツは多分魔物だと思う・・。目が赤く光ってるし。ただ種類とかは私は分からないの。魔物って言うだけ・・・。」


「そっか、そいつが分かれば十分だ・・・。コトネ、俺がもし失敗しても慌てるな。村のみんながお前を探してる。慌てずに待ってれば必ずみんな迎えに来てくれる。だから魔物に襲われないようにしてろよな・・・!」




 そう言うと俺は魔物の正面に対峙する。

 コトネを背中で庇える立ち位置だ。


 コトネの精霊の加護により護られていた空間から出た途端に、奴は俺に向かって一啼きしてくる。その牙と爪を俺の体に食い込ませ、この命を断とうと睨みつけてくる。


 一瞬の膠着の後、奴は音もなく飛び掛かってくる。サイズこそ大きいが基本的には犬や狼と同じ動きだ。


 俺は全力で横に飛び退りなんとか躱す。躱したところに奴の前足での一撃が襲ってくる。無様だがゴロゴロ転がりこれもなんとか躱す事が出来た。


 奴の前足がはたいた地面を見るとスイカサイズの地面が抉れていた。このままじゃまずい、ジリ貧だ。なんとか奴を倒す手立てを考えないと・・・。


 奴の攻撃は緩まる事はなかった。飛びつき、噛み付き、薙ぎ払う。

 一つ一つは単調な動きなのでなんとか紙一重で躱しているが、既に細かい傷は無数に負っている。



「や、やばいな・・。プレッシャーが半端ない。一撃でゲームオーバーって難易度ベリーハード過ぎるだろ・・。」


 またしても奴は飛びついてくるが、これも躱した。と思ったら今まで使っていなかった後ろ足で砂をかけるような動作で蹴りつけてきた。


 後ろ足には大きな爪はなく、辛うじて致命傷は免れたが、胸に横なぎの傷を負ってしまった。

 服が破け、傷からは血が滲み出てくる。


「ま、まずい、次はよけられないかも・・・!」


  人生終了の足音が近づく中で、破けた服の隙間からコトンと硬質の音を立てながら何かが零れ落ちた。

 

 ・・その存在を忘れていた物だ。これが切り札になるかも知れない。地面に落ちたそれを素早く手に取り、俺は覚悟を決める。


 ファイト一発!

 よしっ、・・やられっぱなしでいられるかよ! ものぐさな性格故に、借りたまま返さずいた俺の切り札をしっかりと握りしめる。

 こいつは道具だ、ならば俺のスキルで最大の威力を発揮するはず!




 俺は拾い上げて握ったそれを両手でしっかりと持ち直し、奴に向けて突き出す。



 手の中のそれは眩いほど神々しく輝き、その輝きは光の速さで真っ直ぐ魔物に伸びていく。

 お互い正面から向き合っていた為、その光の刃は魔物の口から肛門までを真っ直ぐ貫いた。


 そこには断末魔の悲鳴はなく、ただ静かに絶命した魔物の亡骸が転がった。


「はぁっ・・・はぁっ。はは、なんとかなったか・・な。」


 何十分にも何時間にも感じるほんの僅かな時間の出来事だったが、お互いに命を懸けた戦いだった。その疲労は半端ではなく、突き刺した俺も地面に倒れ込んだ。

 直ぐさまコトネが駆け寄ってきて俺を支える。


「コースケ様、どうしてこんな無茶をするの!?みんなが来るまで待っていれば良かったのに!コトネの側に居ればアイツには襲われなかったのにっ・・!」


「色々考えたんだけど、もし俺がここでやらなければ必ず少なくない犠牲が出てた・・。こんな魔物がいるなんて誰も思ってないからな。いずれは誰かがコイツを仕留めてくれるだろうけど、それでも犠牲は避けられないと思う。だから出来れば仕留めたかったし、それに早くコトネを逃がしたかった。それとは別に多分俺も長くは保たなそうだったからさ。結構血が流れちゃったし・・・。」


 そう言って地面にへたり込む俺をコトネは後ろからから支えて抱きしめた。


「コースケ様、ありがとう・・。コトネの事も、村の事も。みんなコースケ様に助けられた。この事はコトネは絶対に忘れない・・!」


「へへ、そんなカッコいいもんじゃないよ・・・。倒せたのもタマタマだしね。でも、コトネを助け出せた事は良かった、これだけは自慢出来る。」


 コトネは小さく返事をすると抱き締める腕に力を強く込めた。



 コトネの精霊の力で抉れた肩を少しだけ癒す。

 完全には治らないが、それでも動くようになっただけマシだ。

 他の箇所の傷は幸い大きなものはなく、コトネの力でも完治させる事が出来た。



 コトネの肩を借りながら歩き俺達は洞窟の出口を目指して歩く。


こんばんは。


夜でも中々気温が下がりませんね。


沢山の方に見て頂けてありがたいです。


今後とも宜しくお願いします。

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