第24話 ユキムラ
昨日の夜は風呂に入るのも寝るのも、ミコトとコトネがいつも以上にべったりだった。
コトネは本来リリと二人で暮らしているのだが、昨日はどうしても帰りたくないと言う事で狭いながらも3人で寝た。
帰したくないという言葉は是非男から言いたかったが・・・。
ミコトネ姉妹に挟まれた俺はもちろん平静を保ち朝まで紳士でいた事は間違いない。
困難を極めたがな。
〜〜〜〜
今日はユキムラ班との初めての作業だ。
作業は村のお手伝いと言う事だが、昨日ユキムラと話した感じでは特に作業はないと言う事だった。ただ仮にやる事が無くても、無いなりに探そうと思っている。
村人の困り事はおそらく些細な事が多いだろう。
その些細な事が男手がないと解消出来ないのであればそれは些細な事でなくなる。
原因を確認して、今後どうすれば解決する事が出来るのか、その為に必要な物や事はなんなのかを確認しておく必要がある。
朝食を済ませてユキムラ班の集まりに向かう。
既に広場にはユキムラが来ている。
ユキムラ班の皆も大体集まっているみたいだが、なんとなくダノン班よりも大人しいというか冷静な人間が多そうだ。
「ユキムラさんおはようございます。今日は宜しくお願いします。」
「ああ、おはよう。昨日も話した通りだが今日の仕事は少ない、もしくはないと思う。そうなった場合、今日は休憩の日となる。それでいいか。」
「ええ、構いません。その時はまた教えてください。」
「ああ、じゃあ今日は頼む。おい、ハジメ。こっちに来てくれ。」
「はい、ユキムラさん。どうしましたか?」
「紹介しよう、彼がこの村の言い伝えの方のコースケ殿だ。長老から説明があっただろう。それでコースケ殿、今日は彼から仕事のやり方を教わって欲しい。名前はハジメだ。まだ若いが村人達からは信頼されている。色々聞いてくれ。また逆にコースケ殿の知識も伝えて貰えれば助かる。宜しく頼む。」
「ええ、ハジメさん宜しくお願いします。不慣れなもので常識とか知らないかも知れませんが迷惑掛けないように努力します。」
「はい、こちらこそ宜しくお願いします。コースケさん。自分が教えられる事なんてないと思いますが、分からない事があればなんでも聞いてくださいね。」
そう言ってお互い握手をする。
紹介されたハジメは黒髪短髪の好青年だ。
身長は少し小柄だが体も引き締まっており機敏なイメージだ。年の頃は20代の前半か、もしかしたら10代かも知れない。村の今後を支えてくれる人間なのだろう。
彼はまともだといいのだが。
この村の若者だと昨日色々あったゼンしか知らない。彼はちょっとまともではない気がするからな。
俺はハジメと連れ立って村を歩く。
まずは各家を回り御用聞きをする。3軒目の家で屋根の葺き替えを依頼された。茅葺きが少し切れてしまい雨が入るようになってしまったようだ。
ハジメが手早く葺き替えを行いこの家の依頼は済んだ。
その後も一緒に回った。細かな困り事はあるみたいだが、男手が必要な物はなく確かに今日は仕事が無さそうだ。他の各家を見せて貰ったが、基本的にはミコトの家と変わらなかった。少し狭く作られた家は一人向けの家らしい。
一回り終わってハジメと打合せをする。
「ハジメさん、今日はあまり仕事がない方ですか?」
「そうですね、今日に限らず最近はずっと仕事は少ないですね。これからしばらくしたら下水の穴を掘り直す事があるので、これが始まる頃には毎回忙しくなりますけどね。」
「ああ、成る程。あれも村の手伝いの仕事になるのですね。その時は是非声をかけてください。頑張りますよ。」
「はは、ありがとうございます。期待していますね。でも、どちらにしても今日の手伝いは終了ですね。一度ユキムラさんの所に行きましょうか。」
二人してユキムラへ作業終了の報告へ行く。
「ユキムラさん、本日の作業終了しました。今日はシノさんの家の葺き替えだけでしたね。他は特にありませんでした。」
「そうか、お疲れさん。コースケ殿はどうだ、参考になったか?」
「ええ、屋根の葺き替えは初めて見ました。ハジメさんはとても器用にやられてましたね。今日は俺は何もする事はなかったですね。」
「最近はずっとこんな感じだ。あまり気負わず必要な時に力を借りられればありがたい。」
「ええ、そのつもりです。その時は遠慮なく言ってください。」
「ああ、そうさせて貰おう。さて、お前達で全ての組の終了報告が来た。今日は本当に作業終了だ。後は各自自由だ。解散。」
「はい、お疲れ様でした。」
ハジメはユキムラに挨拶をすると何処かに消えて行った。
「どうした、何かあるのか。」
「ええ、ユキムラさんにちょっとお話しが。今日はこの後予定はありますか?」
「いや、特にはない。私にどんな要件だ?」
「要件と言うより質問です。いいですか?」
「言えない事もあるがそれ以外なら答えよう。」
「それで結構です。二つ聞きたいんですけど、まず槍や斧の刃の部分の石材。ユキムラさんはこの石材を何処で手に入れているか知っていますか?」
「ああ、もちろんだ。アレは裏山の中腹に採掘出来る鉱脈がある。他にも石を使う場合はそこから取ってくる。」
「なるほど。それと後一つは井戸とは別の、川から取れる水なんですけど、取りに行ける所を知ってますか?」
「ああ、それもわかるぞ。今は井戸があるから人は行かなくなったが、夏になれば子供達が川遊びをしたりするからな。あそこの水は綺麗で水量も多い。その石の鉱脈の近くだ。」
「ああ、そうなんですね。ユキムラさん、勝手なお願いだとは思うのですがそこに連れて行って頂く事は出来ますか?」
「別に連れて行く事は構わないが、何をしに行くんだ?」
「ええ、この村の発展に役立つ物が取れるか確認に行きたいのです。」
「そうか。それであれば是非もない。希望するものがあるといいな。では30分後にまた広場に来てくれ。」
「ありがとうございます。宜しくお願いしますね。」
こうしてユキムラとの外出が決まった。一度家に戻り袋など準備をする事にする。
ミコトの家に戻るとコトネと二人でやはり巫女の修行をするところだったようだ。
「ただいま。何してるの?」
「あら、コースケ様。今日は随分早いお戻りなんですね。どうしたのですか?」
「いやね、昨日のうちからユキムラさんには言われてたんだけど今日は仕事が多分少ないって。で、実際に回ってみたら本当に少なかった、というかほぼなかったよ。全班作業終了して手が空いたみたいだから、これからユキムラさんに山を案内してもらうんだ。」
「そーなんだ!ユキムラさんが山の案内なんて珍しいね。ああ、山を案内してって言う人が珍しいのか。この村の人は子供のうちに冒険がてら裏山あたりは探索しきっちゃうしね。」
「そうなのか。じゃあコトネも山の案内が出来るのか?」
「専門家って訳じゃないけど普通に案内くらいなら出来るよー。いざとなったら森の精霊もいるしね!」
「森の精霊は反則だろう。はは、でもコトネが一緒なら山でも心強いな。」
「任せてよ!今日は何処を見て回るか知らないけど、まぁ怪我には気をつけてね。もし怪我したはコトネが一晩中治療しなきゃいけないからね。」
そう言うとコトネはチロリとその赤い舌を出してくる。・・何の治療をされるのかしら。味わいたい・・・。
そこにミコトの視線が俺を串刺しにする。
「コースケ様、治癒術であれば私の方がコトネより得意としておりますので。ご遠慮なさらずに言ってくださいね。私の方がきっと気持ちいいですよ。」
怪我の治療に気持ちいいも悪いもないと思うが、二人は何処を治療したいのだろうな。
俺はきっと頭を治療しなきゃいけない気がするよ。
俺は必要な道具と腰袋を持って準備を終える。
「じゃあこれから行ってくるね。ユキムラさんと共に無事を祈っておいてください。」
俺は逃げる様に家を後にした。広場に着くと既にユキムラは準備が終わっていたようで俺の事を待っていた。
「すみません、お待たせしまして。」
「いや、約束の時間にはまだある。俺が先に来ていただけだ。ただ準備が出来てるのであれば行こうか。」
「ええ、お願いします。」
こうして二人で裏山に向かった。
ユキムラは流石に一班任されているだけあって、山の中の進行速度はダノンと大差なかった。
あっという間に最初の目的地に着き説明をする。
「ここが水汲み場だ。その昔は使っていたはずだし、我々も猟の時の給水地点として使用している。」
ユキムラが紹介してくれた場所は村に程近く水が汲める場所という事で、村から約10分程山に入った所にある。そこは高さの低い滝と、そこから流れる幅2m程の川になっていた。確かに小さい川だが、水量は意外と多く何よりも水が綺麗だった。
「成る程、これはいいですね。これなら充分だと思います。」
「この川の水で何をするつもりだ?」
「ええとですね、まだ構想段階でありますが村に水道を引ければと思ってます。」
「村には井戸がある。それなのに何故?」
「井戸は勿論このまま使いますよ。水道はその便利さをより強くする為というか、色々活用方法はあると思います。単純に井戸で大量に水を汲むのも大変でしたしね。」
「そうか、それはいいかも知れない。井戸は順番待ちもするしな。その案、俺も色々考えてもいいか?」
「勿論ですよ。みんなの意見を擦り合わせをして必要なものかどうか、どういう風に使うのが一番有効か相談したいと思ってますからね。それとユキムラさん、ちょっと聞きたいんですが。」
「なんだ。」
「この滝の上、5メートルくらいの所が崖というか岩肌が出てます。これがその石材の採取場所ですか?」
「いや、ここは違う。採取場所はもう少し上にある。あそこに見える岩はダメなのだ。槍や斧にするには硬さが足りない。」
「・・なるほど。ちょっとアレを見に行ってもいいですか?」
「構わんが、アレは石材にはなり得ないぞ?」
「ええ、それでいいんです。」
俺はユキムラを置いて見えてる岩を確認に行く。
白くて脆い石材。可能性はある。岩肌の前に行き落ちてる石を拾う。落ちてる石を見る、割って見る、その石で岩肌を叩いてみる。
色々試しておそらくこの石は石灰石だと確信した。
よし、まず一歩だ。石灰石は建築材料や肥料にもなる。他の物を探していたら意外な物を見つけた。これは幸運だ。
「ユキムラさん、これもです。とりあえず俺の欲しい材料の一つです。」
「この石がか?」
「ええ、このままでは脆い石ですが色々と使い道があります。そのうち使い道は分かりますよ。」
「そうか、コースケ殿が言うのならそうなのだろう。今取っていくのか?」
「いえ、今はその用意もしてませんし、それよりも必要な物があるので取りません。次は槍や斧用の石材を見に連れて行って貰えますか?」
「ああ、もちろんだ。ここから後20分くらいだ。」
そうして俺とユキムラは槍・斧用の石材確保に向かった。
そちらの石はやはりというか硬質砂岩であり、俺は自分の道具を作る為に必要量を確保する。
ユキムラの斧を借り、50センチ四方の立方体に切り出す。このままで重くて持てないので厚さを半分にし、更に近くにある木の蔓で畚を作った。
石を載せるのにはユキムラに手伝って貰ったが、載せてさえしまえば後は俺のスキルの出番だ。物を運搬するという目的で作られた畚は俺に大した重さを感じさせる事なく運搬を可能にさせる。
俺のスキルを初めて見たユキムラは感嘆の声をあげ、村を発展させると言った俺の根拠なのだと感じると賞賛した。
ちなみに、石を切る時に久々に胸に強い痛みを感じた。おそらく初めての試みをした事でまたスキルのレベルが上がったのであろう。
このままレベルが上がり続ければこの村の技術水準では作れない道具なども作れるようになるかも知れない。
日々是鍛錬だな。
こうして知識と材料を手に入れた俺はユキムラと共に意気揚々と村に帰って行った。
遅くまでお疲れ様です。
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