第23話 黒い欲望
深く寝入った俺達は、ダノンの呆れた声で起こされた。
「・・・よう、旦那。男として羨ましい限りだがよ、とりあえず飯食えや。」
寝起きの頭で理解が追いつかないが、どうやら夕食に現れなかった俺達を探してダノンが呼びに来てくれたようだ。
羨ましいとは両隣の美少女達だろう。
俺だって不可抗力でここに寝る事になったのだ、文句があるならミコトに言ってくれ。
ダノンにすぐ行くと返事をして二人を起こす。
「おい、二人とも起きてくれ。夕食の時間だ。だいぶ寝過ぎてしまったみたいだぞ。」
「うーん・・・。お腹空いてないからいいよぉ〜。」
「でも、せっかく作って頂いたので食べなきゃいけませんねぇ〜。」
姉妹揃って起きる気がないのか、布団の上でコロコロ転がっている。
俺の方に転がってくると柔らかな部分が手に触れてくる。
べ、別に俺から触った訳じゃないから!そっちが押し付けて来ただけだから!
揉みしだきたい衝動に耐えて二人を本格的に起こす。
「おい、そろそろ本当に起きないとみんなに迷惑だ。ほら起きろ。」
渋々二人は起きて身だしなみを整える。別に乱れていた訳ではないがな。
家を出て広場に食事を取りに行く。
給事当番の女性に謝りを入れて食事を受け取る。
結構遅くなってしまっていたようで、食事をしている人は僅かしか居なかった。
その中にアイツがいた。アイツだアイツ。
天然で人を見下してくる自称ちょっとだけ不器用な奴だ。
アイツは俺達が食事を受け取ると驚いた顔をして、次の瞬間には怒りの表情になった。その顔のまま俺達に近づいてくる。
「ちょっとコースケさん、これはどういう事ですか!」
「なんだよ・・、どういう事ってどういう事だよ。」
「あなたが今ここにいる理由ですよ!」
「ここにいる理由ってなんだよ。ちょっと長く昼寝しちゃって今起きたんだ。だから飯を食いにきた。何が問題なんだよ。遅れた事か?」
「違う、そうじゃない!あなたは何も分かってない!」
相変わらず自分の都合だけで話をするやつだ。まったく怒りの理由がわからん。槍を直してやったのに。
「何が何も分かってないんだよ。お前の独りよがりで感情をぶつけてくんなよ、ゼン。」
「独りよがりはあなたでしょ!なんであなたがコトネちゃんと一緒にいるんだ!何か弱味を握って脅してるんじゃないのか!」
「ゼンさん、突然何言ってるの?別にコトネは弱味握られたり脅されたりなんかしてないよ。コトネが一緒にいたくてコースケ様と一緒に居るんだけど。」
「あなたは・・・!コトネちゃんにそこまで言わせるくらい酷く脅しているのか!最低だ!人として終わってる!」
「なんだよ、そんな事かよ。今理由はコトネが言っただろ。コトネが好きでやりたいようにやってるだけだろうよ。別に強要も何もしてないし。」
「コトネちゃんの事が好きだから朝も夜もやりたい放題やってるなんて・・!あなたはコトネちゃんの事を分かっているのか!巫女の家系の優秀な人で、まだ15歳の女の子に何をしてるんだ!」
「都合のいい聞き間違いをしてんじゃねえよ。コトネが自分の意志で、思った通りにやってるだけだろ。やましい事なんて何もしてない。」
「うるさいうるさいうるさいうるさーい!あなたが好き勝手やってる事は前から分かってたんだ!ミコトさんだけでなくコトネちゃんまで侍らせてどういうつもりなんだ!」
別に侍らしてないし。ミコトは巫女として俺のお世話をしてくれているだけだし、コトネにいたっては押し掛け女房だ。
嫌な気持ちは全くないが、俺が俺の意思で女の子を脅して侍らしてるなんぞ全くのお門違いである。
ここまでのやり取りで分かったけど、こいつはコトネの事が好きなようだ。あわよくばミコトも狙っていたんだろう。
ゼンの年齢なんて気にしていなかったが、二人に対しての呼び名から考えるとコトネ以上ミコト未満っていうところか。この年齢の男の考えてる事は経験上理解するが、自分の都合のいい事だけが真実で、不都合な事は陰謀によるものなんだろう。
そんな考えに真っ向から立ち向かう程俺は若くないので適当に流す事にする。
「はいはい、勝手に言ってろ。俺が本当にミコトもコトネも操ってるって言うならお前が目を覚まさせてやればいいじゃねえか。」
真っ向から立ち向かうつもりはなかったが、ついつい煽ってしまった。
マズい、これではミコトもコトネもゼンに付きまとわれてしまう。
「ええ、わかりました!お二人は僕の真実の愛で目を覚まさせてみせますよ!ミコトさん、コトネちゃん、大丈夫。僕に任せてください。コースケさんに脅されているみたいだけど、きっと僕が二人を自由にしてみせるから!」
「なあ、ゼン。一応言っておくけどちゃんとミコトとコトネからの話は聞けよ?お前の言ってる事が正しいとは限らないからな?」
「あなたが何を言っても無駄ですよ。ミコトさんもコトネちゃんも操ってるんでしょうからね。必ず二人の目を覚ましてみせますよ。」
「ねえ、ゼン君。私は巫女として言い伝えにある伝説の方のお世話をしているの。それの何が問題なの?やましい事は何もしていないわ。」
「そうだよゼンさん、コトネもお姉がなんか楽しそうな事してるなって思ったからコースケ様にくっついてるけど、変な事されてないし、コースケ様は特別な力も持ってる。村の事を良くしようとしてくれてるんだ。変な人じゃないよ。」
「それが間違ってるんだ!貴方たちはコースケさんに騙されている。特別な力は何かの詐欺みたいなものだし、村の事を思う気持ちなんて上っ面でいい加減なものに決まっている!そんな男の言う事なんて何一つ信用ならない!」
適当に流そうと思ってたけど、いい加減腹が立ってきた。
確かに日は浅いが、この村が良くなればいいと思ったのは本音だし、たまたま手に入れたこのスキルも村の為になればと思って色々勉強している最中だ。
村の全員に理解されているとは思っていないが、そこまで言われる程余計な事もしていない。お互い全然知らないゼンにここまで言われる筋合いはない。
ミコトもコトネも困惑してる。とりあえずこいつを黙らせるのが先決だ。
「おい、ゼン。とりあえず言っておくがな、お前よりよっぽど俺の方がこの二人を理解してる。この二人をがどんな思いで村の皆の為に尽くしてきたか分かってるつもりだ。だから俺はこいつらを守る為に力を使う。こんな健気な子たちに手を出されて黙ってる程俺はお人好しじゃないからな。そこだけは忘れんなよ。」
そう言って食事を持って家に戻る。もちろんミコトもコトネも連れてだ。
キツく言ったつもりなので、ゼンも少しは大人しくなるだろう。
「悪いな、変な奴に絡まれてって、二人ともゼンを知ってるんだよな。俺よりも詳しいか。昼間にちょっとあいつと変な感じで別れててさ。」
俺は昼間家に帰る前の事を二人に話そうとするが、それは遮られる事になる。
「そんな事よりもコースケ様・・。先程の話は本当ですか?」
「そうだよコースケ様、その話の方がよっぽど大事。」
「え?どの話?俺がミコトとコトネの弱味を握って脅してるって話?」
「それじゃないよ。弱味握られてたら自分で分かってるよ。それじゃなくてそのぅ・・・」
「・・・コースケ様が私達の事を理解しているというお話です!私達の事を理解して、愛しているという事です!私は嬉しいです、コースケ様にこの思いが伝わって!」
俺が言った二人への思いの事だった。ミコトの事、勿論好きだけど愛してるとは言ってない・・。
ゼンに言った事は嘘ではないが、二人の今までをどれだけ知っているかと言えば、語れる程知ってはいない。なのについ頭に来て、二人の事をさも知っているかの様に言ってしまった。
「ああ、それか・・。ごめんな、知った風な口聞いちゃって。ゼンが思ったよりも煩くてしつこいから俺も結構頭に来ててさ。黙らせる為に嘘・・ではないけど、知ったかぶりしちゃったよ。必要ならみんなに言い訳して回るからあまり気にしないでくれ。」
「・・・コトネは嫌じゃないよ。コースケ様にわかって貰うって嬉しい。この村の巫女を務めなきゃいけないと思ってるけど、コースケ様の気持ちに応えられるようにするから、もうちょっとだけ待っててね。」
「わ、私はもう既にコースケ様と分かりあっているつもりです!コースケ様は意外と奥手なのでまだ何もされてはおりませんが・・。い、いつでもその覚悟は、その、私は、・・・出来ておりますので・・・。」
ヤバイ、この空気はまずい。二人のことは勿論嫌いな訳はないが、そこまでの覚悟も器量も俺にはない。
一対一の経験すらないのに、突然二人の美少女とだなんて・・・!
「あ、ああ。そっか。えっと、あのー。ごめん、ちょっと俺の言い方がまずかったな。嘘ではないけどまだ色々準備が整ってないかな!あの、二人とも。俺の事色々気を使ってくれてありがとう。これからもっと二人と仲良くなって、ちゃんとお互いの事を知りたいと思ってる!宜しく!さあ、ご飯を食べよう!」
「・・・ええ、末永くお願いしますね。精一杯努力致しますわ。」
「コトネも、頑張るね。経験はないけどコースケ様なら怖くないから。」
ちょっと予想以上に二人の想いは重かった。
なんで俺なんかをって思うけど、それはともかく、二人の想いを受け止められるような大きな器の男になりたいと思った瞬間である。
微妙だが妙に明るい雰囲気の中で俺達は食事を取るのだった。
夜の広場では焚火の周りにゼンが一人で座っていた。
「ちくしょう、なんなんだあの人はっ!ミコトさんもコトネちゃんも自分のものみたいに扱いやがって!きっとなんか変な事をして操ってるに違いない!僕がそれを暴いてあげないと!」
「・・・本当にそう思っているのか?」
「あなたは・・。ええ、ええそう思ってます。でなければ納得出来ません。今まであの二人は誰にでも優しかったですが、誰かを特別になんてしなかった。なんで突然現れたあの人だけが特別扱いなんですか!あの人が何か変な事をしたに決まってるんです!じゃなきゃあの二人が一人の人間を特別扱いするなんてありえませんよ!」
「・・お前の気持ちはわかった。ではお前の考えが正しいかどうか確かめてくればいい。」
「でも、そんな事どうやって確かめれば・・・。」
「お前の真実の愛で二人の目を覚まさせるんだろ?その方法を教えてやる。」
夜の帳が降りようとしている村の中で男二人の会話は続いていった。
おはようございます。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
少しずつ物語は進みます。
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