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第22話 ゼン

今日は余裕が出来たので2話目投稿です。

少しずつ話は進みます。

 長老宅を出た俺は手持ち無沙汰になってしまった。

 家に戻ってミコトやコトネと風呂に行ってもいいが、彼女達は巫女の修行中である。そんな邪な気持ちで修行を邪魔する訳にもいかない。

 せっかくなので村の中を散策する事にする。

 狭い村なのに俺はまだほとんど見て回ってないからな。


 村は上から見るとドーナツ状になっている。

 広場を村の中心にして、北は山へ続く道で、温泉などへもこちらから行く。長老宅は村の一番北にあり、温泉へ向かうには長老宅の横を抜けて行かなければならない。

 村の東は畑で、今日の畑仕事をした場所だ。

 南には村の入り口があり、初日に俺がミコトと出会った場所だ。そのまま2キロほど南下するとまた森がある。その森は俺がこの世界で目覚めて初めて野宿した場所だ。

 村の西側は共同の作業場になっている。作業場は狩りで獲ってきた獲物の解体、斧や槍などの道具の作成、その他大掛かりな仕事をする時に使われる。昼間は道具の手入れ、夕方は獲物の解体に使われる事がメインだ。


 今の時間はもうユキムラ班が帰ってきているので解体が行われているかも知れない。

 せっかくだから今日獲れた獲物でも見に行くかと思い村の作業場へ向かう。作業場にはまだ行った事がなかったからな。

 作業場へ着くと、もう既に解体は終わっていた。

 作業台についた獲物の血と思われる物を洗い流している男達が見えただけだ。流石に熟練の狩人は手際がいいな。見れなくて残念だ。

 と思ったら、作業台の奥の方でトンテンカンテン何かしている人がいる。

 よく見てみると先日の狩りの時にダノン班にいたゼンだった。おそらく槍と思われる物を抱えながら必死に何かを叩いている。


「こんにちは、ゼンさん。何をしてるんですか?」


「ん?ああ、コースケさん、お疲れ様です。いえね、自分の槍が少しガタが来てたんで直そうと思ったんですけど中々上手くいかなくて・・。僕ちょっとだけ不器用で・・。」


 手元の槍を見ていると無残な形をしていた。

 刃にはヒビが入り、柄は所々抉れている。

 果たしてどこにガタが来ていて何処を直そうとしていたのか・・・。


「・・・ええと、ゼンさん。槍は何処が悪いんですか?俺はそんなに器用ではないですけど、お手伝い出来るかも知れません。」


「本当ですか!?それは助かります。実はですね、柄の下の石突の部分が欠けてしまっていて、そこを交換しようとしていたんです。」



 そこかよっ!って突っ込みたくなったが今はまだ我慢だ。そこまで親しくないからな。


「そ、そうなんですね。では刃や柄が結構くたびれているみたいですが、これはどうしたんですか?」


「え?あっ!本当ですね!おかしいな、さっきまではこんなんじゃなかったのに・・・。やっぱり石突が欠けてしまったから全体にガタが出てしまったんですかね?」


 俺は武具に関して素人だが、それでも分かる。原因はそこじゃない。あなたがさっきまでガンガン叩いていた石にこそ原因があるのです。

 そもそも石突を交換するのに何故刃や柄を叩く理由があるのか。喉元まで突っ込みが飛び出てきたが、ここはグッと堪える。大人だからね。


「・・・ええ、そうかも知れませんね。私は素人なので詳しくは分かりませんが可能性は否定できませんね。じゃあちょっとその槍をお借りできますか?」


「コースケさんは素人なんですよね?そんな素人に命の次に大切な槍を預けるのはどうかと思いますが・・・。」


「あなたよりはよっぽどマシな修理が出来ると思いますよっ!」


 言ってしまった。グッと堪えていたが言ってしまった。ついつい声も荒げてしまった。

 だって仕方ないじゃない。目の前でどんどん槍を壊している人がまさか修理をしていたなんて。しかもその人に素人だからと少しバカにされました。仏の顔も3度までです。


 別に直してあげなくても良かったんだが、ここまできたなら仕方ない。恐らく俺のスキルを使えば一発で直るので今後の為に直してあげる事にする。


 ゼンは訝しげな顔をするが半ば強引に槍を預かる。

 ・・・うわぁ、結構な損傷具合だな。ダノンじゃなくても普通の狩人ならこれを振ったら一発でポキっといくんじゃないか?

 果たして元々こうだったのか、今こうなったのか・・・。


 それはともかく、修理をしましょう。さて、俺のスキルは素振りでも効果があるのか、それとも実際に物を斬らねば効果が出ないのか。素振りをして試してみる。


 ・・・なんの反応もない。というか素振りをして折れそうになってる。大丈夫か、これ?

 じゃあ何かを斬らねばなるまい。近くに手頃なものは・・・・・あっ! ゼン・・・・いかんいかん。人は切っちゃいかんよ。丸太でも何でもあるといいんだけど。


 結局近くに物はなかったので森の入口近くまで行って木を切る事にした。


 ゼンは大切な槍が得体の知れない素人に持って行かれるんじゃないかと気が気ではないみたいだ。そんな事するかよ。


 俺は森の入口に立ち、一つの木に狙いを定める。

 腰だめに槍を構えて一振り。槍の穂先はまるでバターを切るかのように滑らかに大木の幹に沈んで行く。根元から切り離された幹を宙に浮いたまま切りつける。2度3度と槍を振るい縦横に切り分ける。

 するとあら不思議、立派な板材の出来上がり。残りの部分は燃料用の端材にしてある。うむうむ、上出来ですね。


 肝心のゼンの槍は・・ちゃんと直ってる。ヒビの入った刃も、抉れていた柄も、どうやら欠けていたらしい石突も全部修復され、誰が使っても問題ないようになっていた。


「あ、あ、あ、ありがとうございます!素人って言ってたのでちょっと心配だったのですが!達人なんてものじゃないですよ!神レベルですよ、神!」


 恥ずかしいから大声を出さないでくれ。確かにこのスキルはちょっと人間離れしてるけど、あなたの修理方法も反対方向に神がかってたよ。


「いえ、どういたしまして。俺は武具自体は素人ですが、道具というものを扱うのに長けてるんですよ。無事に直って良かったですね。」


「いや、感謝のしようもないです!本当にありがとうございます!何かお礼をしたいのですが。僕の出来る範囲であればなんでもします!」


「そんな、なんでもなんて大袈裟な事は言わないでください。俺はそんな大した事してないですよ。」


「んー、そうですか?そんな事ないですよ。凄かったですし・・・。んー、でも、そうですね!大した事ないかも知れません!槍も本当に壊れたら作り直せばいいわけですし、ダノンさんなら貴方と同じ事も出来るでしょうしね!」


 ・・・・こいつめっ!


 決めた、俺はこいつを丁寧に扱わない!敬語も辞める!この村に来て初めての格下認定者だ!異論は認めない!


「・・まぁそうだな。それでいいんじゃない。じゃあ今度からは自分で直せるようになれよ。じゃあ俺は行くから。」


 ポカーンとした顔のゼンを無視して俺は作業場を離れて行くのであった。



「なんなんだあいつは!アレを天然で言ってそうだから余計に腹が立つ!」


 俺は小石を蹴りながら家に向かう。

 ムカつく、確かにムカつく。ただ、槍については特に珍しい材料を使って作った訳ではないので、壊れたら作り直せばいいのだ。それは間違いない。


 そういえば、槍の穂先になる石はどこから用意しているのだろう。一つ二つならそこら辺に転がっている石かも知れないが、人数分の槍や斧の石材を用意するのであれば転がってる石を集めるのでは不可能だ。


 この村では石材を用意する手段があるのかも知れない。石が取れるのであれば、是非俺の分も手に入れたい。そうすれば色々と道具が作れるし、今後村の発展に役立つ物が作れるだろう。今度詳しい人に聞いてみよう。



 とぼとぼ歩いているとミコトの家に着く。

 そろそろ巫女の修行は終わっただろうか。




 家の入口をくぐって入ると、そこにはぐったりと倒れ込み、物言わぬ二人がいた。



 俺は焦って二人の側に駆け寄る・・・・グッスリと寝ていた。二人寄り添って。


 呆れ半分、興味半分俺は二人の寝顔を見ている。

 姉妹だけあって二人の顔の作りはよく似ている。控えめに言って美少女だ。

 ミコトは切れ長なのに垂れている目をしっとりと閉じている。まつ毛がとても長く、桜色の唇が俺を誘っているようだ・・!いかんいかん、理性を失うな!


 そう言って今度はコトネを見る。


 コトネはミコトよりはツリ目気味だな。生意気そうな顔つきをしている。コトネのトレードマークのポニーテールが元気な感じを表していていいね!この生意気な娘に言うことを聞かせられたらさぞかしいい気分だろう。年齢を聞いていなかったが、確かミコトよりも二つ三つ下だったはずだ。であれば現在15歳くらい。なんて魅惑的なんだ。その割には発達の良い身体が男を惑わせる。これもやはり誘っているんだろうか・・!


 あかん、もうあかん!俺は二人に覆い被さるかどうか本気で悩んで、8割方飛びかかるという選択肢を選びかけた瞬間、ミコトが目を覚ました。


 そうだよね、こんなに鼻息荒いおじさんが近くにいたら気付くよね。俺は息を止めてミコトを見つめる。

 目を開けたミコトは、俺の事をそっと見つめて抱きしめた。そして布団に引き倒す。


 俺は突然の行動に対応できず為すがままにされ、ミコトとコトネの間に寝転がった。

 ミコトもコトネもまるで俺が来たのを分かっているかのように身体をこちらに向け腕と足を絡みつけてくる。ねえ、これ起きてるの?わざとかな、ねえねえ。色々なものが込み上げてくるが、外はまだ明るい。ここで仕出かしてしまうと俺は村に居場所がなくなる!


 狭い布団の中で嵐の様に襲い来る欲望と闘いながら、気付いたら俺は二人と共に寝息を立てていたのだった。


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