第20話 初めての農作業!
翌日、昨日よりは少し早く目覚めた。
準備を整えてミコトと共に朝食を受け取りに行くと、リリの姿が見えた。
「あら、おはようございますコースケ様、ミコト」
今日もリリは朝食の当番のようだ。昨日は一緒だったコトネが見えない。
「ああ、おはようリリちゃん。今日はコトネは一緒じゃないの?」
「ええ、コトネは巫女見習いという事で当番から除外されました。なのでまだ家で寝てますよ。折角だからコースケ様、コトネを起こしに行って頂けます?その間に食事の用意をしておきますので」
「ああ、それくらい別に構わないよ。リリの家はどこ?」
そう言ってリリの家を教えてもらう。
家に向かっている途中で、若い女の子の寝ている所を起こしに行くって、実は相当マズイ事なんかじゃないかと考え始めた。
リリはさらっと言ってたが、煽りにかけて天才的だ。乗せられてしまった後なので今さら言っても仕方ないが・・・。
嫌な予感を感じながらリリの家に入る。
「コトネ、おはよー。起きてくれ、朝ごはん食べよう」
布団の中で、もぞもぞ動くコトネを俺は揺すって起こす。
うーんっと可愛らしく唸っている。起きる前兆であろう、布団の中でのびーっとした後むくっと体を起こした。
素っ裸だった。
やっぱりこういう事か、リリめ!ハメやがって!最高じゃないか!違う違う、ここはリリに怒るべきところだった。
「あー、コースケ様おはよう〜。まだねむいぃぃ」
そういうとコトネは寝惚けて、俺に抱きついてきた。というよりしな垂れかかってきた。
そのまま俺は押し倒されるとコトネに布団の中へと引きずり込まれた。
やばい、いい匂いだ。若い女の子独特の匂いと寝起きの汗の香りが混じり合って俺の心を揺さぶってくる。コトネを起こしに来たのに俺の方が起こされそうだ!!
本当はこのまま続きをしたいけど、本当に悔しいけど今は涙を飲んでコトネを引き剥がす。
「コトネ、寝惚けないでくれ。もう朝だぞ。みんなでご飯を食べよう」
既に俺はもうご馳走さま状態だけど。
二日連続コトネのあられもない姿を見てしまった。そろそろ俺も発散しないとヤバイ。
「あー、うん。おはよーコースケ様。もう目が覚めたよ。着替えたらすぐに行くから、外で待ってて?それともコトネの着替えを見て行きたい?」
「見て行きたい気持ちはあるがミコトが怖いからやめておく。先に行ってるからな」
広場で配膳をしているリリに恨めしい視線を向ける。
「あら、コースケ様。コトネは起きましたか?」
「ああ、もうばっちりだったよ。既に起きてたんじゃないか?俺が家に着いたらもうばっちり着替えも髪のセットも終わってたぞ」
「あら?そうですか、おかしいわね・・」
「・・・はぁ、リリちゃん。コトネ自身も可哀想だし、俺も焦るからやめてね。流石に若い女の子があられもない姿見られたらお嫁に行けないとか言い出すから」
「その時はコースケ様が責任を取って娶ってあげれば宜しいじゃないですか。お似合いですよ?」
「そうじゃないだろう・・。まぁコトネ自身があんまり気にしてなさそうだからいいけどさ。俺も不用意なことをして変態紳士の通り名を付けられても困るからな!」
「ふふ、さあ食事の用意が出来ました。どうぞ召し上がってください」
そういうとパンとスープとフルーツを切った物を用意してくれた。
遅れてやってきたコトネも交えて3人で朝食を取る。今日は俺は畑仕事をする日だ。さて、どんな仕事になるのかな。実は少し楽しみである。
食事を終えてそのまま広場に残る。ミコトとコトネは今日も巫女の修行をするそうだ。
しばらくするとダノンがやってくる。
「おう、旦那。昨日の怪我は大丈夫なのか?」
「ダノンさん、おはようございます。ええ、体はもうなんともないです。この村にきて日に日に元気になっていってる気がしますよ」
「そりゃ良かったじゃねえか。健康が一番だ。ところでよ、昨日の力の事はなんかわかったのかよ?」
そう言うとダノンは小声で話しかけて近寄ってきた。俺はやはり小声で、昨日の夜ミコトとコトネと話した事を伝えた。
「そっか、やっぱり旦那は特別な力があったんだな。しかも現役の巫女の家系よりも強い力だってえのかよ。すげえな。今日の畑仕事でもそれが役に立てばいいな。まぁ今日は昨日みたいにイノシシに襲われたり危ない事はないからよ!じっくり作業しながら力試しでもやってみてくれよ」
ダノンはそう言ってくれたが、それはそれ、これはこれで畑仕事はキチンとやらなくてはと思っている。特に昨日の狩りではなんの役にも立ってないからな。
昨日と同じダノンの班全員が集まって畑に散らばって行く。
今日の主な作業は開墾で、開墾する為の準備を仕事とする。
この村の開墾では、まず何処から何処までを今後の畑として開墾するのかを決める。これは収穫量や村人の手を考えて決める。あまりに広過ぎても開墾出来ないからな。
範囲を決めたらそこの土地をまとめて掘り起こす。生えている雑草や、残っている石・小石を取り除く。その過程で固くなった土をほぐして、野菜の栽培に適した土に改良をしていく。
言葉で表すとこれだけなのだが、これがまた大変だそうだ。
ダノン班は15人(俺を入れて16人)いるが、全員が開墾に当たれる訳ではない。既にある畑の手入れをしなくてはならないので、半分はそちらに取られてしまう。
残りの半数で新規開拓をしなくてはならないが、まともな農具もなく、あったとしても酷く扱い難いものだ。
それも当然であり、この村にはまず鉄がない。そのため農具は全て木製で、半分朽ちているものもあるみたいだ。そんな道具で開墾をしても効率よく出来る訳がないのだ。
また、畑仕事は三日に二回、しかも違う班で交互に行う事になっている。
今既にある畑の手入れ等は問題なく行えるが、これから拓いていく畑については打合せなども中々出来ず、結果効率的に行えていないのが現状だ。なので野菜の収穫量も上がらない。
原因は少し考えれば分かる筈だが、分かったとしても根本から変えて行く事が出来ない状況なのでみんな気付かないフリをしているのかも知れないな。
そしてここで俺の出番だ。
俺が身に付けた能力はなんだ?その道具の能力を完璧に発揮するというものだ。
よくよく思い出してみれば、この世界での最初の一泊は地面に穴を掘って寝たのだ。あれだって太めの枝一本で自分の為の寝床を作った。
今日使う道具は、朽ちた木製の農具でも農作業の為に作られたものだ。俺が使えば最高のパフォーマンスを発揮してくれるに違いない。
村の役に立つ事もそうだが、今日のこの作業は俺の能力の確認にも持ってこいだ。
昨日の猟では石斧で割と複雑な草木の切り方をする事が出来た。それとは別に、使った道具も修理されていた。この力も修練次第では一つの力に何通りもの発現方法があるかも知れない。
既存の野菜の手入れは見向きもせずに俺は開墾の一員に立候補する。
既に開墾予定範囲はダノン達で決めていた。後はそれを耕すだけだ。
畑を耕すには一般的には鍬と鋤だ。鍬で土を掘り返し、鋤で土のサイズを揃うように梳いていく。
まずは掘り起こす為の鍬を手に取る。鍬の大まかな形は昔の日本にあったものとほぼ同じだが、やはり全て木製である。
そしてあちこちにガタがきており、多分ダノンあたりが全力で使ったら一発でダメになるんじゃないか?
これでは開墾も思うように進むまい。
周りを見ればダノン班の開墾部隊は皆同じ物を使っている。思い切り土を掘り返さなくてはならないのに道具が壊れないように恐る恐る作業をしていた。
とりあえず俺も作業開始。大きく振りかぶって勢い良く掘り返す。
すると、地面はまるでプリンの様に掘れ、その鍬はガタがあった事を感じさせない年季の入った逸品になっていた。
そのまま自分が任された10メートル四方を掘り返してみる。みるみる内に土は捲れあっという間に全て終わってしまった。予定では30センチ程掘り返すはずが50センチ程掘っていたにもかかわらずだ。
これだけの作業をしても体は疲れていないし息も上がってない。
生命の力を使ってはいるはずだが、それが取られる感覚もしない。今のところいい事尽くめだ。
俺は隣で作業しているダノンに声をかけ、開墾しているみんなを集めて貰うように伝える。
「お疲れ様です、みなさん。今は作業が進まずとても大変だと思います。ただ、俺にはこういう時に便利な力があります。だから今日の開墾は俺に任せて貰えませんか?あ、俺だけじゃなく俺とダノンさんの二人です。残りの皆さんは畑の手入れの方へ回って貰ってもいいですか?ダノンさん、どうでしょうか?」
「俺は構わねえけどよ、みんなはどうだ?・・・まあ開墾よりも手入れの方が楽だし、さらに全員でやればあっという間だ。じゃあそれでいいか。もしやっぱり無理だったりしたらまた手伝えばいいよな。じゃあみんなはあっちの畑に向かってくれ」
そう言うと男達は鍬を一箇所に纏めて畑の方へ向かった。俺の発言に不信感を持つ者はおらず、むしろ悪いな、ありがとなと感謝の言葉を述べる者の方が多かった。
「さて、ダノンさん。分かってると思いますが俺の任された分は終わってます。そしてこれが俺の使ってた鍬です。せっかくなので残りのガタが来てる鍬を使って耕して行きますね」
そう言って俺は纏めてある山から適当に鍬を持ち出し耕し始める。基本的には先程していた事と同じだ。
鍬は一振りで全盛期の力強さを取り戻していった。
一振りごとに鍬を交換し、全部で10本の鍬を直した。
直し終わった後俺は一番最初に俺に与えられた鍬を持ち耕す作業を続ける。全ての事柄に熟練度があるように、鍬にも同じような成長があるんじゃないかって思ったからだ。
新規開墾予定の所はざっと50メートル×50メートル程に見える。ここを本来8人で耕す予定だったが、俺の我儘で1人でやらせて貰っている。
1人でやってはいるが、全然苦にならずむしろ楽しくなってきた。
鍬を振るう度に土は捲れあがりどんどん開墾が進んでいく。プリンのような土を耕すのはなんと簡単な事だろう。調子良く作業を行っていたが、半分くらいの面積を耕した時点でそれは起きた。
昨日の狩りの際にも感じた激しい胸の痛みだ。
昨日は立ってられず意識を手放したが、今日はそこまででもない。それでも激しい痛みには変わりなく、俺は鍬を手放してしまう。
「どうした旦那、大丈夫か!」
ダノンが慌ててかけより俺を支えてくれる。
「ダノンさん、だ、大丈夫です。この痛みは分かってます。多分、俺の力が強くなった証拠です・・・」
そう言うと、俺は震える足を抑えながら背筋を伸ばして立つ。痛みはまだ残っているが大丈夫、動けない程ではない。
「ダノンさん、これは昨日と同じです。昨日俺は胸に強い痛みがあり気を失いました。目覚めた後は道具を使う力が強くなっていた。それを体が勝手に理解したんです。今も同じです。俺はこの鍬をもっと効率よく使う事が出来る」
そう言うと俺は鍬を片手で持つ。
軽く振り上げ、そのまま地面に落とす。
すると、鍬はまるで水の中に入るように地面に吸い込まれると、鍬の入った場所から1メートル程先の地面迄が隆起する。隆起した地面を確認すれば、その土はちゃんと耕されていた。
「・・・・もうなんて言ったらいいかわかんねえけど、とりあえず言っておくわ。なんじゃこら!!」
ダノンが呆れて物が言えないようである。
俺としてはこれは自分が望んだ結果であり、これくらいの力があると理解して行った行動である。
もう少し広範囲を耕せるかなとも思ったが、今はまだ熟練度が足りないらしい。この範囲を耕すので限界のようだ。
「ダノンさん、俺はまた道具を使う力が上がったようです。見ての通り簡単に土が耕せます。とりあえず今日の分は俺が掘り返すので、一応不備がないか見ててもらえますか?」
「俺にはもうなんも言えねえから旦那の好きにしたらいい。これだけ簡単に耕されちまうと今迄の俺らはなんだったんだって思っちまうけどな」
「すいません、ダノンさん達の努力を否定している訳ではないです。今は俺が畑を耕します。ただ今後については村の方々だけで成り立つ仕組みを作りたいと思ってます。俺みたいに変な力を持った人間ありきで考えられている仕組みは歪ですからね」
「そうだな、それがいい。旦那がまともな感性の持ち主で助かったぜ。そうじゃなきゃ村の連中は勘違いして歯止めが効かなくなるからな」
「ええ、それは将来的に村を不幸にするでしょうからね。そうはしたくありません。じゃあ続きをするので追加の注文とかあれば言ってください」
そう言って俺は再度鍬を振り上げる。今度は両手で持ってきちんとした姿勢で耕し始める。
やはりちゃんとした形で作業をするとその効率は上がるらしい。俺の一振りで2メートル四方の土が一瞬で耕し終わる。
こうして俺は残りの面積を大した時間もかからず耕し終わってしまった。
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