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第2話 ここはどこ?

 遠くなった意識が覚醒する。

 自分の記憶の中では一瞬の出来事だ。それでも一度意識を失った事は間違いない。


 俺は先程のゼウスとの会話を思い出し、少し時間を巻き戻した入谷付近に戻して貰ったはずだ。



 ……なのに、ここはどこだ?


 俺が目を覚まして、はじめに感じたのは草の感触だった。どうやら俺は芝生の上に寝ていたようだ。

 それだけなら公園とか広場の可能性も考えたが、辺りには木が鬱蒼と生い茂っている。公園とかそんなレベルではない、むしろジャングルだ。


 そのジャングルの中の、開けた場所にたまたま俺は寝ていたことになる。野良犬とかに襲われないで良かった……。



 さて、困ったな。あのオッサン戻す場所を間違えたんじゃないかな。というか間違えただろ。

 このままじゃ明日出勤出来ないじゃないか。折角10年間無欠勤の記録を作ったのに、こんな所で躓く訳にはいかない。


 俺はどうにかして自分の家に帰ろうと思うのだが、ここが果たしてどこかさっぱり分からない。

 入谷の近くでこんな木々が生えているのは上野公園くらいしか思い浮かばないが、上野公園だってこんな森みたいにはなってない。


 それにあそこは近くに繁華街があるから、ここみたいに全く人が居ないなんて事はない。今ここで聞こえてくるのはそういった繁華街の喧騒ではなく鳥や虫の声だけだ。ここはもしかして日本じゃないのか?


 服はそのままスーツを着ているのに、スマホや財布がない。GPSを使って自分の居場所も確認出来そうにない。仕方ないので自分の目と足で現状を確認しようと思うが、星明かりしかないここでは思う様に周りが見えない。



 ……はぁ、ついに無断欠勤をしてしまうかも知れない。せめて電話一本入れられれば忌引きやインフルエンザなど適当に誤魔化せたんだけどな。


 俺はここにきてようやく出勤を諦めた。

 ただ、色々な確認をするにしても明日以降にした方が良さそうだ。今は夜だ。暗闇の森の中を動き回るのは素人には無理だ。明るくなるまで待った方がいいはず。


 なので俺はとりあえずは今夜の寝床を作ることにした。最低限雨風はしのげるくらいにしたいし、野良犬とか浮浪者とか怖いからな。

 上野公園なら段ボールとか色々家を作る材料が落ちてそうだけど、生憎ここにはそんなもの無かった。

 100%天然由来の植物しかない。

 草でも集めるかぁなんて思っていると俺は不思議な事に気が付いた。


 ーーー草、でかくない?


 そう、草と植物が軒並み大きいのだ。

 もちろん種類によって大きい草を生やす木はある。ただ、そうではない。そもそもこんな木を見たことがないのだ。葉っぱ1枚が30cmはあるかという大きさだ。蓮の葉みたいなサイズだな。

 こんな所にこんな木が生えているのか記憶になかったが、今はとりあえず置いておこう、俺は植物博士じゃないからな。


 大き目の葉っぱを何枚か毟って寝床の作成に戻る。

 さて、どうするか。時間があれば木で柱を作ってなんて考えるがそんな事をしてたらきっと夜が明ける。今日は簡易的に穴でも掘って葉っぱを敷いて、さらに葉っぱを掛けて寝るか。

 でも穴を掘るのもなぁ。大変だなぁ。


 めんどくさいとは思いながらも穴を掘ることにした。そこら辺から折れた太めの枝を拾い、なるべく土の柔らかそうな所を探していると、森の奥がガサガサっと音を立てる。


 な、なんだよ……。ビビらすなよ。お、俺は強いぞ! 棒持ってるんだからな!


 棒を正眼に構えて音がした方向を凝視する。


 しばらくそのままでいたが、何も起こらない。どうやら風か何かが吹いて草を揺らしただけのようだ。


 ホッとして構えを解いた瞬間、闇の中からソレは飛び出してきた。

 

 四足歩行で体高は低く、凄まじい速さで右に左に飛びすさる。ガルルルっと特徴的な声をあげるそいつは、犬だった。恐らく野犬か何かの類いだろう。

 パッと見はドーベルマンの様に見えるそいつは俺に向かって吠えながら飛び掛かってくる。


 そいつの初撃を(かわ)せたのは偶然だ。驚いて横に移動したら転んだだけに過ぎない。


 やばいな、昔ネットで読んだ事がある。人は刃物を持って初めて猫と同等に戦えると。

 こいつは猫じゃない。それよりもだいぶ大きい犬だ。俺の手にあるのは刃物でなくただの枝だ。


 ああ、俺の死因は過労死でなく動物による咬殺か……。何のために神様とやらは俺を呼び出したのか。

 半分以上諦めながら、手の中の棒を闇雲に振るう。

 ヤラレると分かっていてもせめて男なら正面に傷を負いたいからな!

 社畜戦士サラリーマンを舐めるなよ!


 下らぬ矜持で振るった棒が、これまた運良く野犬に当たる。

 当たった衝撃で野犬は遠くまで飛ばされて、見間違いでなければ体が2つに裂けてたような気がする……。


 流石にそれは見間違いだよな?

 野犬が遠ざかった後もしばらくは棒を構えて辺りを警戒するが、今度こそ野犬の襲来はなかった。


 野犬はいなくなったが、いつまた同じ目に合うか分からない。やはり最低限の寝床は作っておきたい。


 今度こそ拾った枝で穴を掘る。

 久しぶりの肉体労働に身体がすぐ根を上げるかなと思っていたが、意外なことに身体はよく動く。むしろ今までの人生で一番力が漲っているような気がする。


(おお、すげえ簡単に地面が掘れる! 豆腐みたいだ!)


 俺が握っているものはただの枝だ。

 それを器用に操りあっという間に長さ2メートル幅1メートル程の穴を掘っていく。深さが50センチ程になった所で掘る手を止め、俺は適当な枝を穴の脇に斜めに差していった。差した枝に先程の大きな葉っぱを被せて簡易的ではあるが屋根の代わりにした。


「おお! 思ったより立派なものができた! とりあえず今日はこれでいいか。」


 出来上がりに満足し俺は下に葉っぱを敷き詰め、布団代わりにも葉っぱをかけて眠りについた。


 この時俺は気づいていなかったが、この寝床を作るのにかかった時間は約20分。掘り返した土の重さは1トンを超えている。

 この短時間にそれだけの肉体労働をしたのにもかかわらず、俺は汗一つかいていなかった。




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆





 翌朝、鳥の鳴き声で目を覚ました俺は自分のいる場所の確認の為、森を抜ける事にした。

 どちらに向かえばいいかは分からなかったが、とりあえず太陽の見える東方向へ向かって歩く事にする。


 それにしても、なんだこの森は?

 明るくなって辺りが見える様になったからこそ分かる。これは絶対に入谷ではない。行ったことはないがこの森は屋久島のような場所に思えた。バケモノみたいな喋るイノシシとか出て来ませんように。


 森を抜けられるか不安だったが、30分程歩いた時ついに森の終わりが見えた。

 森というよりはこの場所は山だったようで、木々の終わりから見える景色は何段も低く、そこには緑いっぱいの草原が広がっていた。



 そう、草原しかなかった。


「なんだよこれ……」


 昨日と今日で何度驚いただろうか。ぼったくり、裏カジノ、神様の住処、世界の破滅、救世主、それで草原かよ。ぼったくりとか裏カジノが可愛らしく見えてくるわ。


 ただこの景色を見て確信した。これは日本ではない。

 予想では、本命・モンゴル、対抗・アメリカ、大穴でグリーンランドってところか。

 日本の僻地という可能性がないわけでもないが、国土の狭い日本がこんな真っ平らで使いやすそうな土地を見逃すとは考えにくい。本当の僻地なら開発されないかも知れないが。


 只々呆けて草原を見ていると、遠くの方に馬車が走っているのが見えた。


 ……馬車? 今時馬車なんてパレードかなんかでしか使わなくないか?

 その馬車が、俺の立っている山のちょうど正面にある山へ向かって走っている。山の麓をよく見てみると何やらぽつぽつと草の塊のようなものが見えた。比較対象がないので分かりにくいが、人間よりは大きいサイズのようである。


 いつまでもここにいても仕方ないので、とりあえず馬車がいて草の塊のような何かが集まっているそこへと歩き出した。


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