第18話 温泉リベレーションズ
温泉に入る為、一度ミコトの家に戻る。
先程長老宅ではミコトは大人しく黙っていたが、顔はずっと不安気にしており俺の事をじっと見ていた。
家に入るなりミコトは怒涛の言葉ラッシュを浴びせてくる。
「コースケ様、お身体は本当に大丈夫なのですか?どこか痛い所はありませんか?具合は悪くないですか?何か私に出来る事はありませんか?あっ、そうだ!下の世話、下の世話は必要ですか!?」
「お、落ち着けミコト!大丈夫だから!あと下の世話は必要ないから!」
「そ、そうなんですか!?私、経験はありませんがコースケ様の為なら下のせわ」
「大丈夫だから!下から離れてくれ」
暴走気味のミコトをなんとか落ち着かせて普通の会話に戻す。
なんで一番気になるのが下の世話なんだよ・・・
「さっきも長老様の家で言った通り、俺は無事だ。大きな怪我はない。イノシシには間違いなく突撃されたけど、奇跡的になんともなかったんだ。それよりもミコトに教えて欲しい事がある」
「無事なら良かったです・・・。でも後でちゃんと診察させてくださいね。それで、私に聞きたい事とはなんですか?スリーサイズはもう少し仲良くなってから・・」
「違う。そうじゃない。今日の狩りで俺は不思議な力がある事が分かったんだ。ダノンさん達も知ってる。それで、ダノンさんからはその力は巫女の力に似ているって言われたんだ」
「巫女の力ですか。コースケ様も精霊を使役出来るんですか?」
「いや、出来ない。ミコトから聞いて巫女の力の仕組みは理解した。だけど俺は精霊も見えないし感じる事もない。無意識で精霊の力を使っていたとしても、生命の力を取られるような感じもしない。だからこの力が何か分からなくて不安になったんだ。同じ様な力を使えるミコトなら何かわかるんじゃないかって思ってね」
「ちなみにそれはどんな力なのですか?」
「俺の力はおそらく、道具を完璧に扱える力だな。自分で道具を使うだけでなくて、その道具が持っている能力を完全に引き出す事も出来るみたいだ。借りていた石斧や槍なんかは俺が使ったら刃毀れも直っていた」
「なんですかその能力?庭師さんとかに最適じゃないですか!」
ミコトと思考回路が同じなんて・・。
地味にショックだ。
「俺もちょっとそれは思ったよ・・。でもそうじゃないんだ。今ここでは見せられないけど、斧や槍があり得ないくらいの威力を発揮したんだ。槍で大木を貫いたり、斧で草木に彫刻を施したり出来た」
「やっぱり庭師さんに・・」
「だから違う。普通の斧や槍ではこんな事は出来ないと思う。でも俺は誰の斧を使っても見事に草木を切り払えた。だからこれは精霊か何かの力でそういう事が出来たんじゃないか?という質問なんだ」
「なんだ、そう言う事ですか!ええとですね、私のお付き合いしている精霊の中ではそのような特技を持った精霊はおりません。近いものであれば草木や大地を司る精霊がおりますが、それでも刃毀れを直したりは出来ないと思います。
だからその現象が何を元に起きたのかはわかりませんが、ただ人の力を越えた何か大きな力が働いたのは間違いないと思います。コトネならお付き合いしてる精霊も多いと思うので、一度聞いてみるのも良いかも知れませんね」
そうか、コトネか。
あの子はミコトを遥かに越える数の精霊と付き合っている。その中に俺の力に似た力を持つ精霊がいれば俺は精霊使いと言う事になる。なる?
まぁいいか。原因が何なのかわからないと困るからな。逆に原因が精霊の力なのであれば色々な精霊と付き合う事で俺の力も増えて行くかも知れない。
後でコトネに会う事にしよう。
そうして俺はミコトと共に温泉に向かった。
ミコトと共に温泉に入るのはこれで3回目だ。
普通ならこんなに若くて可愛い子と一緒にお風呂に入るのに、いったいいくらかかるのだろうかと思ってしまうところだ。
だが彼女は率先して風呂について来てくれる。いやぁ役得役得。英雄ってのも存外悪くないかも知れないな。まぁ一緒に風呂に入ったからって何かあるわけじゃないんだけどね。
例の如くミコトはタオルを巻いて風呂場に入ってくる。
「コースケ様、今日はお背中を流す際に少し診察をさせて下さいね。大丈夫との事でしたが、万が一という場合もあります。身体の中が怪我をしていても精霊の力なら癒す事が出来ますので。大丈夫です、すぐ終わりますから!痛くないですから!」
それは男が言う台詞じゃないかな。相変わらずの言葉のチョイスだ。
ミコトは俺の背中を優しく流した後、背中をぺたぺたと触ってきた。
これが触診かな?なんて思っていたら、次の瞬間に、えいって言う可愛らしい掛け声が聞こえる。
そして感じたのは暴力的な柔らかさの圧力だ。マシュマロのような弾力、絹のような滑らかさ、そしてその中に、小さくとも存在感を主張し続ける神秘的な2つの感触。全てを勢いよくミコトは押し付けてくる。
必然、俺も圧力に負けて一部が前に前に伸び続ける。
「み、ミコトさん・・・。これは触診として必要な事なんだよ・・ね?」
「え?違いますよ?なんとなくこの方が雰囲気出るかなと思って」
なんの雰囲気が出るんだよ!違うものが出てきたし出てきそうだよ!
ミコトは構わず触診?を続ける。
「うーんと、えっ?なんで?どういうことでしょうか・・・」
ミコトの驚いた声に俺の方が驚いてしまう。
何かあったのだろうか・・・。
「み、ミコト。俺の体はやはりどこか傷ついていたのか・・?」
「えっ、ああ、そうじゃないです。どちらかと言えば逆ですね。力が満ち溢れています。私達が扱うような生命の力が尋常じゃないくらい溢れていて、私の精霊が入っていけないみたいです」
「それってどういう事なの。良い事なの?」
「ええと、良い事だと思いますよ!生命の力は誰でも持っているものではありますが、その絶対量は生まれた時から決まっているはずです。鍛錬や修行でその量を増やせる方もいるそうですが、基本的には変わりません。その力がコースケ様は満ち溢れてます。
この力によって傷の回復が早くなったり、体が丈夫になったり、健康で若々しく保てたりしますね。コースケ様は今見た感じですと身体の中も怪我は有りませんでしたよ」
「そうか、そうだったんだ。ちょっとびっくりしたよ。・・・もしかしてその力って沢山持ってれば禿げたりしないという効果もあるのかな?」
「うーんとどうでしょうか。確かに男性の方でこの力を持っている方に頭の薄い人はいなかった気がします」
ああ、そうか。これはゼウスの言っていた血の絆なのかも知れないな。
言い換えれば神の血か。神の血は体が丈夫だったり禿げなかったりするって言ってたもんな。もう少しなんか言い方あっただろうよ、あのオッサン。
「じゃあ俺は今回の事で怪我もしなかったし、さっき説明した不思議な力もこの生命の力が満ち溢れているから出来た事かも知れないって事かな」
「確実にそうと言える訳ではないですが、その可能性は高いですね。基本的に生命の力は精霊を使役する事に使う為のものですが、別の使い方もあるのかも知れません」
なんか納得してしまった。
今日の狩りで見せたあの力は間違いなく人のそれではない。でもそれが神の力、この世界の生命の力だと言うのであれば理解できる。
通常はミコトの言う通り精霊を使役する事に使うのだろう。それを違う方法で発現させてものがスキルだとすれば、巫女の力も俺の能力も根本的には同じものという事だ。
ダノンの予想もあながち間違いではなかったという事である。今の段階ではあくまでも仮説ではあるが。この仮説が正しければ俺は精霊を使役する事も出来るという事になるので、今後はそれを確認してみよう。
コトネのように100体程精霊がいれば、もしかしたら今後村の発展に役に立つ精霊もいるかも知れない。
お風呂を出たらコトネの所にでも言ってみようかな。
俺は体を洗い流し、ミコトと一緒に湯船につかる。
今の考えをミコトと話しながら浸かり、今日の狩りを思い出していた俺は完全に油断していた。
タタタっと軽快な音が聞こえた。ここは人間が作った風呂とはいえ山の中だ。いつ野生動物が襲い掛かってくるかは分からないのだ。
何か生き物の気配がした。俺は音が聞こえた方を振り向く。
そこには、真っ白な双丘と、その下にある桜色の蕾が俺に突撃してきて・・・。
俺は湯船に沈められていた。
「もう、なんでコースケ様突然振り向くの!せっかく後ろから飛びついて驚かせようと思ったのに!!」
コトネだった。真っ白な双丘も、桜色の蕾もコトネだった。
「な、なんでコトネがここにいるの!ダメじゃない、湯船につかる前は体を洗わなきゃ!」
ミコトよ、そうじゃない。そうじゃないんだ。洗わないからこそいいんだ。違う、俺もそうじゃない。
コトネが素っ裸で俺に突っ込んできた事が問題だ。
ついでに何でここにいるのかもだ。
「それで、コトネちゃんはなんでここにいるの?」
「そんなの、巫女の仕事なんだから当たり前じゃん!あと、お姉は呼び捨てなのになんでコトネはちゃん付けなの?コトネの事も呼び捨てにしてね、コースケ様」
「巫女の仕事って・・・。巫女はミコトだろ?」
「ううん、今日お姉に巫女とはなんぞやって話聞いたから!もうコトネが巫女みたいなもんだよ!だからコトネもコースケ様のお世話をする事にしたの」
「コトネ、私は確かに巫女の心構えなど教えましたが、貴方はまだ巫女ではないでしょう。これから色々な修行をして、精霊達に認められて初めて巫女になるのです。まだコトネには早いですよ」
「精霊ならお姉より沢山付き合ってるし!みんなコトネの事きっと認めてるし!」
「たっ、確かにコトネは私より精霊の使役は出来るかも知れませんが・・!私の方がみんなに認められてるはずです!」
「まぁまぁ、ミコトもコトネも落ち着いてくれ。とりあえずコトネ、おっぱいが丸出しだ。俺は最高だ。んでミコト、ミコトももうすぐで出てきそうだ。いいのか?」
二人は赤面して黙った。湯船に潜り込んだ。楽園は終わった。
俺は湯船から出られない状態が続いている。
ふう、ご馳走さまです。
「コトネがここにいるのはびっくりしたんだが・・。いいのか、ここにきて?」
「なんでダメなの?確かに来客用のお風呂だけど村人が使っちゃいけないってルールはないし、巫女なら理由があれば堂々と使えるしね」
「それで、その巫女にコトネはなってないんだろ?ミコトに巫女の勉強を教えて貰ったみたいだけど」
「ええ、今日はコースケ様が狩りに出かけていたのでコトネに巫女の心構えや役割、立ち振る舞いを教えていたのです。ゆくゆくは正式に巫女となって貰うために」
「その正式な巫女っていつなれるんだよ、お姉。コトネは巫女になってもいいって言ったんだ。だからさっさと巫女にして欲しいんだけど!」
「さっきも言った通り、巫女になる為には修行を積んで、精霊に認められて初めて巫女になれるのです。早くても1年程かかるの思っていて下さい」
「そんなにかかるのかよ!もっと早くなれる方法はないの?」
「ない訳ではないですが・・。私ではそれを決められません。貴方に本当に巫女の資格があれば直ぐにでもなれるはずです」
「じゃあ資格があるか確認してよ。どうすれば資格があるって認められるの?誰がそれを決めるの?」
「それはシンゲン様に決めて頂きます。明日その話をシンゲン様に聞きに行きましょう。でもコトネ、これだけは忘れないで。巫女は人の幸せを願う存在です。貴方にその心がなければ、どんなに力が強くても巫女になる事は認められませんからね」
「うん、分かってる・・つもり。まだ本当には分からないかも知れないけど、人が幸せになるのはいい事だと思ってる。でも私は自分も幸せになりたいとも思うな」
「ええ、もちろんです。コトネの幸せもそこには含まれるのです。人も自分も幸せになれるように努力して下さいね」
「・・コトネが巫女になれるように俺も応援してるよ。それで、コトネは本当にどうしてここにいるの?」
「え?さっきも言ったけど、コースケ様のお世話する為だよ」
「俺のお世話はミコトの仕事じゃないの?」
「別にお姉だけの仕事って訳でもないんじゃないかな。コースケ様が特別な人だから、キチンともてなす為に村もちゃんと対応してる。それがシンゲン様だったりお姉だったり。コトネもまだ巫女見習いだけど、立場では他の人よりちゃんとしてない?だからコトネもコースケ様のお世話がしたいからここにきたの。コースケ様、ダメ??」
お姉ちゃん譲りの上目遣いをここで炸裂させてくるか・・!
しかもさっき事故とはいえ秘密の花園を覗いてしまっている・・!
また見たい!・・じゃなくて抗い難い!
「・・別に俺は嫌じゃないよ、むしろコトネみたいな子に面倒見てもらえるなんて光栄だよ。でもそれじゃ村の仕事とか他の事が出来ないんじゃないの?」
「ふふ、絶世の美女なんてコースケ様もおだてるのが上手いね!サービスしちゃうよ!村の仕事はね、大丈夫。対外的には巫女の修行が始まるっていう事になってるから、コトネの割振りは減ったか無くなったかしてるはずだよ」
こんなところまで姉譲りか・・!恐るべき家系だな!
「そうなんだね、用意周到だな。じゃあまぁ、俺のお世話をするのは問題ないのね。なんか悪い気もするけど、宜しく頼むね。なるべく手間掛けないように気を付けます」
「コースケ様、私一人ではご満足頂けなかったのでしょうか・・」
「そろそろそんな事を言うかなって思ってたよ、ミコトさん。満足とか不満足ではないから。ミコトはとても尽くしてくれてるし、俺には勿体ないくらいだよ。でもまぁコトネもこう言ってるし、コトネには俺の力の事で聞きたい事もあるからさ。別にミコトを見限るとか捨てるとかじゃないから。みんなで仲良くしようよ、ね?」
「まぁ、勿体ないくらいの傾国の美女だなんて・・。ふふ、まだまだコトネには負けませんよ。分かりました、みんなで仲良くしましょうね。・・・・はっ!仲良くってそれはもしかして幻の姉妹ど」
「はいそこまでー」
俺はミコトにお湯をかけて黙らせる。超ポジティブな聞き間違いはともかく、なんでこの子はこう耳年増なんだろう。もしかして経験豊富なんだろうか。
俺とミコトのやり取りを聞いてコトネが疑問を持ったようだ。
ちょうどよかった、俺の力についてコトネに聞いてみる事にする。
おはようございます。
今後冒頭部分をごっそり書き換える予定ですので悪しからずご了承下さい。
もう少し読みやすい文章を心掛けていきたいと思います。
今後とも宜しくお願いします。





