表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/65

第17話 本領発揮

 意識を取り戻した俺は山の麓の交代班が待機している場所で寝かされていた。


 そこにはダノンの組と交代班しかおらず、交代班がイノシシを解体している所を見るとそんなに時間は経っていないのかも知れない。


「おう、旦那目が覚めたか!体は大丈夫か!?」


 厳しい顔でダノンが俺に近づいてきた。

 目覚めにダノンのアップは少々厳しいが、心配を掛けたのだろう。

 普段は剛毅なダノンが心配そうに俺を見ている。


「ああ、ダノンさん、すみません。俺は意識を失ってたんですね。どれくらい経ちましたか?」


「なんともねえならいいんだが・・。まだ麓に降りて5分も経ってねえな。だから旦那が意識を失って20分くらいか。」


「そうですか、思ったより経ってないんですね。何というか、体は大丈夫です。意識も気を失う前よりハッキリしてます。とりあえずもう平気そうなので、ご心配をおかけしました。すみません。」


「謝る必要はねえだろうよ、旦那。あんたは与えられた役割の中で最善をこなした。あんた以外はあのイノシシに反応出来なかったんだ。あんたは狩人ではないかも知れないが、計り知れないセンスを持ってるよ。今日はもう大事をとって休んでくれ。獲物も十分獲れたしな。」


「・・そうですか、そう言って頂けると少しほっとしますよ。役には立ててないけど迷惑を掛けてないなら俺の目的は達成です。ところでダノンさん、一つお願いがあるんですが・・。」


「ん?なんだ?帰りはおぶってって欲しいのか?」


「はは、そんな事は言わないですよ。お願いというのは、先程の槍をもう一度貸して貰えませんか?」


「そりゃ構わねえけどよ、何すんだ?」


「ええ、ちょっと気になる事があって・・。」


 俺はダノンから槍を受け取ると、先程穴を開けた大木の前に立つ。


 息を整え構えを取る。

 先程と同じく横に薙ぎ払う為に体を捻り槍に力を込める。


 瞬間、捻った力を解放し、槍が振られる。

 槍の穂先が大木の幹に沈む。今度は何の抵抗もない。そのまま振り抜くと、大木は今度こそスパッと両断された。

 俺の槍は止まらない。

 両断された大木は宙に浮く。その浮いた木を今度は垂直に切るように、槍を上段から一気に振り抜く。大木は元々半分であったかのように真っ二つに割かれた。

 今の一瞬で二太刀を入れた事にダノンは唖然としているが、今度は復帰も早かった。


「旦那、何をしたんだ。今度は分かってやったんだろう?どういう事だ。」


「ええ、さっき気を失った時の事なんですが。俺はあの時実は胸の痛みで気を失ったんです。」


「だってそりゃイノシシに突撃されたから・・」


「イノシシに突撃されたのは腹でした。胸には当たっていません。それなのに感じたのは胸の痛みです。そして、その胸の痛みが何を示すのかはっきり分かったんです。俺の中に何かを刻み付けられた痛みだって。」


「そりゃなんでまた・・・。イノシシは腹にぶつかったってのはわかった。だが胸の痛みは、何を刻まれたってんだ?」


「さっきまでは分かりませんでしたが、今はハッキリわかります。俺は道具を使いこなす力を持っています。その道具がどこまで適用されるのかはわからないですが、少なくとも斧、槍なんかは最高の効果を発揮出来るみたいです。どうやってこの力を手に入れたか分かりません。ただ、さっきの胸の痛みを感じた時に体がそれを理解しました。」


「じゃあ胸の痛みを感じたのがその力を手に入れた合図だってのか。でも旦那はその痛みを感じる前も木に大穴開けてたじゃねえか。」


「ええ、多分その時には既にその力は持ってました。道具の最高の効果を発揮する為に刃毀れとかも直ったのだと思います。胸の痛みを感じた後は、その力が強くなりました。自分でこの力の仕組みも理解してます。というか理解させられた感じですね。俺は道具を完璧に操る力を持って今この木を真っ二つにした、そういう事です。」


「・・・・・俄かには信じ難い話だが、今こうして現実を見せつけられちまったからからな。それが旦那の力なんだろう。旦那は自分の力の事は知らなかったのか?」


「ええ、全く・・・。俺は一昨日初めてこの村に来ました。それまでは遠い場所で普通の町人として暮らしてました。読み書きや計算は出来ますが力仕事をしてた訳でもないですし、斧や槍を持ったのも今日が初めてです。」


「そんな人間でもあんな大木を真っ二つにしちまうんだ。すげえ力だよ。旦那、頼むから悪さはしてくれんなよ・・・。俺は旦那を気に入ってるんだ。力で止めなきゃなんねえって事態は避けたい。」


「ダノンさんの心配ももっともですよね。それは多分大丈夫です。俺はこの村が好きです。この村の生活を良くしたいと思ってます。だから俺の知識や力でこの村が良くなるのであればそれが一番だと思ってます。そんな村を暴力や恐怖で支配したいなんて思わないですよ。」


「まあそうだよな、旦那からはそんな雰囲気がするよ。なんていうか甘っちょろい雰囲気がな。俺もそんな旦那が気に入ったって言ったんだ。村の事を良い方向に導いてくれよな。」


「ええ、精一杯努力しますよ。その為には是非ダノンさんの力も貸してください。」


「ああ、もちろんだ。」


 そう言うと俺とダノンは自然と握手を交わした。


「さて、そろそろ他の組の奴らも戻ってくるかな。」


 交代班の待機場で獲物を解体しながら他の組を待つ。しばらくすると他の組も獲物を持って帰ってきた。

 罠猟組はキツネを一匹、もう一組の狩猟組は多分狼だと思われる動物を5頭獲っていた。十分な成果を上げ、解体も終わると全員で帰路に着く。



 帰り道は荷物が多いので行きよりもゆっくりだ。それでも2時間半程で村に着く。

 初めての狩猟で、イノシシに襲われるなどアクシデントがあったが誰一人欠ける事なく帰ってこれたのは僥倖だろう。

 ダノンやユキムラは1日交代で毎日狩りをしているのだ。あんなものは危険のうちには入らないのかも知れないが、でも減らせる危険は減らしたい。



 狩りの為の改善案がないものか考えていると、奥からミコトとコトネが歩いてくる姿が見えた。ああ、ミコトに借りた小刀の出番がなかったなーなんて思ってると、二人して満面の笑みで出迎えてくれた。


「お帰りなさいませ、コースケ様。ご無事に戻られて何よりです。」


「そうだね、おかえりコースケ様。狩りはどうだった?体が辛いならコトネが全身マッサージしてあげるからね!」


 戻ってそうそう熱烈な歓迎を受けてしまった。

 ミコトが言うならまだわかるが、何故コトネまでこんな刺激的な発言をするのだろうか・・・。


「はは、コトネちゃんありがとう。ミコトもただいま。なんとか無事に戻ってこれたよ。でもその前に長老様のところに行って明日の話をしたいからまた後で話をしようか。」


「はい、分かりました。ではシンゲン様の所までご一緒致しますね。」


 そうしてミコトは長老宅まで同行してくる。コトネは不満そうではあるが、あくまでも付いてくるのは巫女の務めという事でしぶしぶ納得したようだ。



 長老宅に着くといつもの側仕えの女性に声をかける。そして長老宛に訪問した事を伝え、長老宅に入っていく。すぐに長老は現れ、招き入れてくれた。


「これはコースケ様、本日は狩りに行かれていたとの事ですが、無事に戻られて何よりでした。我が村の狩人達はいかがでしたかな?」


「ええ、みなさんとても素晴らしい技量を持っていると感じました。山の知識や道具の扱い、獲物の捌き方など勉強になりました。成果も中々良かったのではないかと思います。鹿が1頭、イノシシが大小合わせて2頭、狼が5頭、キツネが1頭獲れました。」


「ほう、それは大量ですな!一度の猟でそんなに獲れる事は滅多にありませんぞ。これはコースケ様のご加護があったからかも知れませんなぁ。」


「いえ、私の加護などありませんよ。私は何も役にも立ってないですし。むしろみなさんに迷惑をかけてしまったのではと心配しております。」


「迷惑なわけはありますまい。それだけの成果を得られたのです。コースケ様が直接捕らえた訳でないにしろ、相性が良かったのは間違いないでしょうな。いやいや、本当に良かった。」


「ええ、まあ確かに成果を得られたのは良かったですよね。私なりにも得られたものは多かったですし。ただ、狩猟はやはり危険が伴うものなんだなと言う事を感じましたね。」


「もちろん狩猟は危険が伴います。それはダノンもユキムラも感じており、なんとかしなければならない問題でしょう。実際、何年かに一回は狩猟中の事故で人死にが出ております。コースケ様はどういった部分で危険を感じられたのですかな?」


「ええ、今日私はダノンさん達の組に混ぜてもらい猟に出ていたのですが、その時にイノシシに襲われました。不意を突かれる形で真後ろからイノシシが現れ、私に突進してきました。」


 ミコトがその話を聞き顔を蒼褪めさせる。


「こ、コースケ様!お怪我はございませんか!?今すぐに治療を・・・!」


「ミコト、慌てないでくれ。俺は見ての通り無事だよ。それで、イノシシは私に突進してきて私は跳ね飛ばされました。奇跡的に軽傷で済みましたが、普通なら大怪我、もしくは死んでいてもおかしくはないと言う事をダノンさんにも言われました。」


「左様でございますか・・。いや、本当怪我がなくて良かった。して、そのイノシシはどうされましたか?」


「ええ、私が跳ね飛ばされた直後にダノンさんが弓矢で射止めてくれましたよ。だから他の方へも危害なく済みました。ただ、ああいう事が頻繁にあるのであればやはり狩猟は危険だなと感じたのです。」


「そうですな、食料の為とは言え狩猟に危険はつきものです。ただ、だからと言って狩猟を辞めることは出来ません。コースケ様は何か狩猟の危険を減らす手立てをお持ちですかな。」


「いえ、今すぐ何か出来る対策はありません。ただ、危険があるという認識は全員持って欲しいとは思いました。また、今すぐでなくても、今後対策は取れるかも知れないとは思っています。」


「そうですか、一度の猟でその対策を思いつくとは流石でございますな。それは今お聞きしても?」


「すみません、今後出来るかも知れない対策は考えていますが、それが実現出来るかはまだ未知数です。ぬか喜びさせるわけにはいきませんので、今はご容赦ください。」


「いえいえ、別に焦っている訳ではないのですが、ただ今後村人の危険が少しでも減るのであれば幸いですので、是非実現出来そうであればその時にまたお教えください。」


「ええ、そう出来るように努力してみます。それで長老殿、少しお伺いしたいのですが、馬や羊、豚などはこの村にはどれだけいるんですか?もしくはこの近くで獲れるんでしょうか。」


「馬や羊ですか・・。馬は現在この村では2頭おりますな。ただ羊は一匹もおりません。また豚は食料として交換することはあっても生きているものはおりませんな。馬なんかは遠くまで行けば獲れるのですが、そこまで行くにはそれこそ馬が必要ですからな。中々馬の確保に乗り出せないのが現実です。後は交換する量は多くなりますが、村で収穫したものと交換すれば馬などは手に入れる事は出来ますな。」


 成る程、聞く限りでは馬や羊の野生種は確保が難しいようだ。

 確か前の日本でも馬や牛の野生種は九州あたりまで行かなければいなかったはずだ。羊なんて日本に野生種はいるのだろうか。

 せめて豚が手に入ればまた違うんだがな。ここら辺はよくよく考えよう。

 野生種を捕まえるよりも物々交換で手に入れた方が今は手っ取り早く出来そうだ。


「長老殿は流石になんでもご存知なんですね。ありがとうございます。今後この村の発展の為に今言った動物はかかせないと思いましたので。ゆくゆくは手に入れられるようにしたいと思っております。」


「コースケ様のお考えは遥か遠くを見据えておるのですな。我らの村ではどこまでご協力出来るか不安ですが、知恵と経験くらいはお話出来ますのでいつでもおっしゃってください。」


「ええ、また何か聞きたい事があれば伺います。あと、明日の作業ですが、畑仕事は朝からやりますよね。どこに集まれば良いでしょうか。」


「畑仕事はそこまで朝早くからはやりません。普通に起きて朝食を済ませたらまた広場にお集まりください。大体そのくらいに全員集まって作業に取り掛かります。明日もダノンの班と一緒ですな。」


「そうですか、承知しました。では明日は畑仕事のお手伝いをさせて頂きます。今日はこの辺りで失礼致しますね。」


「初めての狩りでお疲れでしょう。来客用の湯船を使ってくだされ。遠慮はいりませぬぞ。どうぞ、ごゆっくりなさってください。」


「ええ、ありがとうございます。そうさせて頂きますね。」



 そう言って長老の家を出たのだった。


いつも読んでいただきありがとうございます。

本日は2話投稿することができました。明日からもよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ