第16話 スキル獲得?
食事中にダノンへ聞きたかった事を聞いてみる。
「ダノンさん、狩りの途中で俺が言った事覚えてます?」
「ああ?あぁ、確か石斧の切れ味が抜群だってことだろ?そんな訳ねえと思うんだけどよ。確かに俺の愛用の石斧で手入れも欠かさず毎日やってるから他の奴らよりも切れ味はいいと思うぜ。でもそんな面白い様に切れるって言われた事ない。」
この事はダノンも気になってはいたようだ。ダノンはおもむろに近くに居る班員の腰から石斧を抜く。
「ほら、これと比べて見ろよ。なんか違うか?」
「んー。あまり変わりませんね。しいて言うならばダノンさんの石斧は刃こぼれしてないという事くらいですかね?」
「あ?刃毀れしてないだって?そんな訳ねえだろ。俺だって毎日使ってるし、手入れはしてても刃毀れは取れねえよ。旦那もしかして刃毀れがわかんねえとかか?」
いや、流石に俺だって刃毀れくらい分かるし。
心の中で不満を言っているとダノンの大きな手が眼前に迫ってくる。
やられるっ!って思うくらいの迫力だったが、なんて事はない。ダノンは俺の手から二つの石斧を取っていった。
「ありゃ、本当だ。俺の石斧の刃毀れがなくなってやがる。それどころか斧の刃の表面がつるつるしてて綺麗になってる。」
ダノンの言葉に男たちが集まってきた。みんなそれぞれ石斧を腰から出してダノンの物と比べている。
「おい旦那、これは旦那に渡した時からこうだったのか?それとも旦那が何かやったのか?」
「渡された時は突然だったし、良く見てなかったから斧の表面とか刃の状態は確認してませんでした。使い始めた時もみんなに付いていくのに精一杯で、正直斧の状態は気にしてなかったです。ただ使ってるうちに使いやすいな、良く切れるなって思って今ここで刃の確認をしただけです。特別な事は何もしてませんね。」
「なんだそりゃ・・。おい、ゼン。お前の斧を旦那に渡してみろ。」
ゼンと呼ばれた10代後半くらいの男が俺に斧を渡してくる。なんの変哲もない普通の石斧だ。
ダノンの物よりは小さいだろうか、25cm位である。そして刃毀れも何か所か見受けられる。
「旦那、ゼンの斧でそこの枝や蔦を切ってみてくれねえか?何、適当で構わない。少し振ってみるだけでいいんだ。」
そう言われ山への入口に近づく。入口といっても草に覆われた山肌に少しだけ黒く穴のようなものが空いているだけだ。
ここへ入るには大人は屈んで入らなくてはならない。じゃあ折角だから入口を拡げてみようかなーという軽い気持ちで斧を横薙ぎに振るう。入口の上半分を拡げるイメージだ。
するとどうだろう、この石斧もダノンの石斧のように見事にスパッと切れた。蔦や枝に刃が取られる事なく真一文字だ。お見事。自分で褒めてあげたいくらいです。
男達が、おおっ!と感嘆の声を上げる。その様子を見てダノンは俺に近づき手元から斧を奪う様に取っていった。・・・怖いから優しくしてよ。
「・・・刃毀れが直ってやがる。どうなってんだ?」
ダノンは困惑した顔で斧を見ている。
そして男達を順番に呼び、次々と斧を俺に渡し試し切りをさせた。
俺は渡された斧を各1度ずつ振っていった。縦に横に、その入り口を拡張するように斧を使う。
するとどうでしょう。あの穴倉の様だった入口が、なんという事でしょう。全てを飲み込むかのように大きくその口を広げているではないですか。
その切り口は水平・垂直・直角を体現し、斧で適当に切ったようには見えなかった。
そしてその使った斧達も刃は復活し、表面は滑らかに磨いたように輝いていた。
「旦那、あんたの腕は間違いない、世界一だ。ついでに言うと斧も全部直ってるし、研ぎ澄まされてる。これは斧が良いとかそういうレベルじゃねえ。巫女の力に近いものだと俺は思う。」
ダノンが大真面目な顔をして俺を見つめながら呟く。
そんな、巫女の力って。
ミコトに聞いて巫女の力については知っている。精霊の力を借りて奇跡を起こすようなものだ。ただそれには使役する本人の生命の力が必要だということだし、そもそも俺は精霊にこんな事をしてくれって頼んでない。精霊という存在がイマイチ分からないし。
ただ目の前の出来事は俺がやったのは事実だ。
村人達の斧を借りて入口を拡張した。村人達の斧が刃毀れ一つなくなり、磨かれて鋭くなっている。
自分だってこんな事信じられない。信じられないが、事実を受け止めてその理由と根拠を探さねば。
「ダノンさん、俺も自分でやった事が信じられません。確かに切れ味鋭く木や枝も簡単に切り払えました。斧の刃毀れも直ったみたいです。でも俺は巫女の力なんか使えません。これはなんなんでしょうか。俺が聞きたいです。」
「旦那は巫女の力の事は知ってるのか。あれは特別な力だ、あまり口外しないでくれな。それで、俺はこの現象がそれに近いんじゃないかと思った。旦那が意識したかしないかは別として。じゃないと説明がつかねえ。これは他に何が出来るんだ。この力はただ斧の刃毀れを直すだけじゃないだろう。他に何か思い当たる節はねえのか?」
「そう言われても・・・。この村に来てから特に何かをした訳ではないですし、力仕事もした事ないですしね。」
そう言いながら俺は胡散臭い自称神の事を思い出していた。
『お前には力を与える。スキルは最低2つ、最大10個のスキルを使って世界を破滅から救った』
そういやそんな事を言ってた。
じゃあこれがスキルなのか。草木が簡単に切れて、刃物の刃毀れを直すスキル。なんとも地味なスキルだ。これじゃ天職庭師になってしまう。
それはちょっと嫌だな。他に何かなかっただろうか。
「何か思い当たるのか?」
「いや、そういう訳ではないんですが・・。このままの力だと庭の手入れくらいしか役に立たないから、これだけじゃ嫌だなって思ってただけです。」
「庭の手入れってもんじゃすまねえと思うがな。でも旦那も自分でわかんねえのか。それじゃあ仕方ねえ。何か思いついたりしたら言ってくれ。俺達の道具が必要なら貸すからよ。・・・あ、そうだ!他にも槍とか使ってみてくれよ。槍ももう刃毀れしてる奴とか多くてな。これも直ったら助かるぜ!」
そういうとダノンは自分の槍を俺に渡してきた。
ダノンの槍は大振りで、柄の長さが俺の背丈ほどもある。その先に石の刃が30cm程続いており、狩りというより戦で使いそうだなって感じた。
「見た目程重くはないんですね。槍はどういう風に使うんですか?」
「旦那、それが重くないって感じるのか?その木は丈夫さだけを求めて作った、一番重くて堅い木だ。それをまともに扱えるやつなんざ村では俺と後2人しかいねえ。とんでもねえな、まったく・・・。ああ、それで槍の使い方だっけか。槍は基本的には突くんだ。獲物を正面に見据えて一気に刺す。たまに振り払う事もあるけど、大した切れ味じゃねえから意味がねえんだ。」
そうか、槍は突いて使うんだな。
どこぞの戦国の傾奇者は縦横無尽に振るっていたからそれが当たり前だと思ってた。切れる穂先は30センチくらいしかないから振るうのは殴る時なのか。
ダノンから槍を預かり、山への入口近くにある大木を突いてみる。
すると、ゴパッと言う音と共に大木の幹に穴が開いた。勿論開けたのはダノンから預かった槍だ。次いで俺は槍を横向きに大きく薙ぎ払う。槍の穂先を木の幹に当たる様に振るう。見事大木を一刀両断に・・・
する事はなかった。ただ、払った槍の穂先は大木の幹の半分ほどまで食い込んで、その切り口はとても綺麗に切断されていた。
俺を含めその場にいた全員が唖然としていた。
「な、なんじゃこら・・・」
ようやく出てきた言葉はダノンが放ったものだった。いや、本当なんじゃこらだよね。俺は全身全霊を込めて槍を振るった訳ではなかった。ただ渡された槍をなんとなく振っただけだ。
ただ、槍の振り方は身体が勝手に理解した。どういう風に振ればいいか身体が知っていたのだ。それに従った結果がこれだ。
大木を貫いた槍の穂先を確認する。やはり穂先は刃毀れ一つなく、黒々と輝いている。
「旦那、具体的にどんな技術かわかんねえがあんたにはとんでもない力があるみたいだ・・。もう少しなんかわかったら、気づいたら教えてくれ・・・。」
「あ、ああ、わかりました。とりあえず刃物の扱いは気をつけます・・・。」
すごいのに。凄い事なのにこの空気感よ!なんかみんな言葉がないっていう感じが漂ってる。
俺のこの力、多分スキルだと思うけど、これの説明が具体的にあったらまた違ったんだと思う。
今起きてる事は大木に穴が開く、半分切れる、何故か刃物の刃毀れが直るという事が事実である。
そりゃ戸惑うよね。俺も戸惑うもん。
とりあえずこれ以上の実演はやめて、昼食後に狩りを再開する。
俺は再びダノンの組だ。ダノン達は相変わらず山の中とは思えない速さで行軍し、あっという間に山腹まで来てしまった。中々野生の動物と会うのは難しいなと実感していると、ふと俺の後ろからガサガサっと音がなった。
全員で一斉に振り返る。
そこには丸々としたイノシシがいた。
イノシシは一瞬立ち止まりこちらをじっと見つめたかと思った直後、走り始めた。俺に向かって。
そもそもの距離が5メートルくらいしかなかったが、そこは四足歩行動物の強み、走り始めてすぐにトップスピードだ。だからその一瞬のうちに反応出来た俺を褒めてあげたい。
俺は腰から下げた石斧を振るいあげると、イノシシの脳天に目掛けて振り下ろした。
その瞬間、俺は吹っ飛んだ。
あれ、おかしいな。さっきまでの流れでいけばイノシシ真っ二つでもおかしくないんだけど・・・。
現実は俺の石斧はイノシシの脳天を直撃したが粉砕するには至らず、イノシシの突進の勢いに負けて吹き飛ばされたというのが第三者視点からの事実であった。
ああ、走馬灯とはこういう風に見えるのか・・。
ゆっくり流れる景色を見ながら、空中で後方伸身宙返り4回捻りみたいなものを決めると奇跡的に俺は足から着地した。勿論意識は付いてきていない。
その耳元で刹那の風切り音が聞こえた。
次の瞬間、荒れ狂っていたイノシシの目には矢が突き立っており、痺れたように硬直した後ゆっくりと倒れる。
全員が呆気に取られているこの瞬間に、矢を番え狙いすまし発射する、これぞまさに神業。
もちろんダノンである。俺は追いついていない意識の中で脅威は去った事だけは理解した。
「あ、あ、あぁ、なんとかなったのか・・。すいません、何も出来なくて。」
震える足を押さえながらなんとか膝を付かずに立っている状況だ。ダノンはイノシシのトドメと解体を組の他の人間に任せ俺の近くにやって来る。
「旦那、すまねえ危ない目に遭わせちまって。俺が後一瞬早く反応出来てればこんな目に遭わずにすんだのに・・!怪我はねえか?」
「いや、いやいやダノンさん、あの一瞬で狙いを定めて急所を射抜く技量は流石です。俺もちょっとぶつかってしまったけど、ダノンさんが仕留めてくれたから軽傷で済みましたよ。もう一回喰らってたら危なかったですよね・・・。」
「もう一回っていうか、最初の一回でもうダメだと思うんだがな・・。旦那は思ったより丈夫なんだな。なんだあの空中での回転と着地は。後、あの瞬間に反応出来たのはすげえよ。イノシシってのは一度走り始めると多少の衝撃ではビクともしねえんだ。旦那の攻撃は的確だったんだが、あの場合は目か足を狙わなきゃ止められなかった。」
ああ、なんかこの一瞬で色んな事が起きたんだな。
とりあえず俺も大きな怪我なく済んでよかった・・。
みんなに迷惑かけたかな・・。
帰ったらゆっくり温泉に浸かりたいな・・・。
そんな事を考えてると胸に激痛が走り、俺は遂に気を失った。
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