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第15話 一狩り行こうぜ!

 今朝は腕に押し当てられる柔らかな感触で目が覚めた。

 彼女が立派なものを持っているのは分かっていたが、感触も一級品だったなんて。

 よくマシュマロとか比喩されるが違うな。これはスライムだ。張りのあるみずみずしい肌、その中から押し出てくる圧倒的存在感、なのにその実、感触はマシュマロにも劣らない柔らかさ、弾力を兼ね備えた究極的存在だ。


 ・・朝から俺は何を言ってるんだ。


 結局ミコトは昨日も一緒に寝た。

 村長にお願いして貰った追加の一組の布団は、予想外のダブルサイズで、それを敷くとミコトの布団が敷けなかった。

 その為敷布団をダブル一枚、掛布団をそれぞれ一枚ずつ使って寝たはずなのだが、気づいたらミコトは俺の掛布団にいて、俺の腕に絡みついて寝ていた。


 抗い難い誘惑を断ち切り、俺はそっと布団を抜け出す。

 今日はダノン班と一緒に狩猟に行く予定になっている。人生初狩猟だ。日の出前に出発との事だったが間に合ってるだろうか。


 狩猟の準備は昨日のうちにしておいた。普段は半袖の服で過ごしているが、狩猟の時は長袖長ズボンが基本だそうだ。

 山の中に入るので、虫や植物の棘、動物の牙などを防ぎ危険を少しでも減らす為だ。

 首からはミコトに借りた黒曜石の小刀をぶら下げていく。獲物の解体で出番があります様に。

 弓や槍は持っていないので、ほぼ手ぶらで村の広場に集まる。そこには俺と同じような格好をした一団が集まっていた。


「よう旦那、遅れずにきたみたいだな。来ないようなら家まで迎えに行くつもりだったから、そっちから来てくれて助かったぜ。」


 そう言ったのはこの班のリーダーのダノンだ。

 厳つい表情と立派な髭を蓄えた顔。体は熊の様に大きい。30歳後半くらいに見えるこの村の立派なリーダーの一人だ。


 彼はどう見ても近接戦闘派に見えるがこれでいて弓の名手らしい。

 初日から俺に警戒心を持たず、親しげに接してくれている。何が起きても対処出来るという自信があるからこそ、必要以上に俺を警戒していないのかも知れない。どちらにしても気安く接してくれる存在は俺にとってはありがたかった。伝説だ英雄だなんて持ち上げられるのは俺のキャラじゃないからな。

 ダノンは村の広場で焚き火を車座に囲んでいた。火の脇には女性が二人いて、男連中に食事を渡している。


「ほれ、旦那もさっさと飯食っちまいな、ちゃんと食べておかないと狩りの途中でへばっちまうぜ。」


 そうか、この時間から狩りに出かけるんだから食事もこの時間から食べておかないと食べるタイミングがなくなってしまうんだろう。ナンと肉を焼いたものだけの簡単な朝食だがその心遣いが有難い。

 俺はあまりお腹は空いていなかったが無理矢理胃に詰め込む。

 全員が集まり食事を終えたところで出発の合図がある。


「よし、お前ら。出発すんぞ!今日はコースケの旦那が一緒に来てくれた。みっともないところ見せるんじゃねえぞ、気張っていけ!いくぞ。」


 ダノンの号令に男衆は、応っと一言返事をすると、植物で編まれた籠を背負い、女性から何か受け取っていく。


「ダノンさん、アレはなんですか?」


「ん?ああ、ありゃ昼飯だ。つってもそんな立派なもんじゃねえ。堅く焼いたパンだ。ほれ、旦那も受け取っておけ。」


 そう言って麻袋を俺に渡してくれた。

 男衆を見てるとその麻袋を腰に巻き、その中に受け取ったパンを入れていくようだ。よし、俺も真似しておこう。


「その麻袋は道すがらに見つけた山菜なんかも入れておくんだ。毒の入った植物を取ったらパンごと毒まみれになっちまうから、気を付けてくれよ。」


 おっかない事を言ってダノンは先頭を歩き始める。男たちが篝火片手にダノンに続いていく。

 おお、なかなか勇壮な行進だ。今までこんなものは映画やテレビでしか見たことない。彼らにとっては毎日の事なんだろうが、俺にとっては非日常的な一コマだ。しっかり目に焼き付けておこう。



 今日向かう狩場は村を出て東にずっと向かっていった山になる。

 この山は人里から離れており、動物が多い場所らしい。村の中でも週に1度しか向かわない場所で、その為人が作った狩場用の道が少なく、初心者には少し厳しい猟になるかも知れないとの事だった。


 狩猟ではどうせ役に立つとは思っていない。

 せめて遅れたり怪我をしたりと迷惑を掛けない事を大前提に今日の狩猟に参加しよう。

 あと、こっそり教わっておいた様々な山菜を少しでも取って帰る事としよう。それが俺のささやかな目標だ。

 山までは速足で歩いても2時間弱かかる。

 目的地に着くころにはすっかり日も上っていた。山の麓につくと、聞いていた通り3人がベースキャンプ的な物を作り始める。狩りの最中に怪我をしたりはぐれたり、また獲物が取れた場合等一度ここで合流し治療や獲物の解体にあたる。


 ダノンはそんな彼らに指示をしながら俺に近づいてきた。


「おう旦那、疲れてねえか?これからが本番だ。旦那は今日は俺の組に入ってくれ。初めてだろうから適宜指示を出す。なに、心配するな。難しい事はねえさ、俺がついてる。」


 そう言うとダノンは30cmくらいの石で出来た斧を渡してきた。


「これは?」


「見てわかる通り斧だ。獲物を仕留める為のものじゃない。これは道を拓いたり木を切る為に使うんだ。この山は道が悪いからな。自分の歩く場所は自分で拓いてくれ。」


 渡された斧は30cmくらいの木の棒に15cm程の石製の刃がついている。

 見た目以上に重く、俺には振れるかわからない。でもこれを振れないと道が作れない為、まずはこの斧が使えるかどうか、これが狩猟をする為の第一歩なんだろう。先が思いやられる。


 そんな事を思っていると遂に猟が始まった。

 4人1組で3チーム・、そのうちの1チームは罠猟をする組だ。罠猟の組は弓・槍の他に縄を大量に持っている。これから山のいたるところに仕掛けにいくのだろう。

 3チーム別々の入り口から山に入っていったので、恐らく自分達が罠猟にかからない所を回るのだろう。人間が罠に引っ掛かるなんてベタな展開がありませんように。


 俺はダノン組の最後尾をついて回る。

 この班はダノン以外も猟の名手だそうで、普段であれば1日に3頭くらい当たり前に確保してくるらしい。俺のせいで0になったらごめんなさい・・・。


 ダノン組の行動は迅速を極めた。

 普段の俺なら絶対についていく事は出来ないだろう。道なき道をかき分け山道を走っているかと勘違いする速度で進んでいく。俺は最後尾を必至に縋っていた。目の前に細かな枝や蔦が出てくるが、渡された石斧でばっさばっさと切り伏せていく。

 石斧のくせに切れ味鋭いななんて考えていると急に前を進んでいる男から止まれに合図が出た。俺は素人なりに息を殺して気配を消した。(つもり)


 ダノンの視線の先を見ると、50mくらいだろうか、森の中に1頭の鹿が見えた。弓矢の最大射程は50m程だと聞いていたので、この距離が仕留められる限界なのであろう。

 ダノンは矢筒から1本矢を取り出すと弓にそっと番えた。その姿勢のままジリジリと進んで獲物との距離を詰める。

 20m程縮まっただろうか。ダノンがついに弓を射る姿勢を整える。気のせいかも知れないが、ダノンの周りをオーラのようなものが包んでいるように見えた。


 一閃、ダノンが放った矢は放物線を描きながら鹿の右目に命中した。

 そのまま頭蓋を貫き、次の瞬間には鹿は力なく倒れた。


「すっげぇ・・」


 自然と俺は声が漏れていた。

 初めての狩猟、初めての獲物、そして初めての生物の死である。それをまるで舞踊のようにダノンはこなした。

 決して遊びではなく、この日の村人の糧である。

 感動も一入、この後は獲物を麓まで届けなくてはならない。

 このまま一頭を麓まで持っていくにはサイズが大きすぎるので最低限この山の中で解体していく。


「おう、旦那!なんとか一頭獲れたぜ。せっかくだから解体してみるか?」


 やりたくありません!

 なんて言えずに俺は仕留めた獲物に近づく。

 鹿さん、ごめんなさい。今日村人の糧になります。成仏して下さい。と心の中で手を合わせて鹿の前に立つ。


「いいか旦那、仕留めた獲物はまずは血を抜くんだ。血抜きしなきゃすぐ肉が臭くなってとてもじゃねえが食えたもんじゃねえ。本当はぶら下げられればいいんだが、ここにはそんなものねえから解体しながら血を抜くんだ。」


 そういうとダノンは長めの小刀で鹿の首元を刺した。鹿の頭が傾斜の下側になるようにして血を抜いていく。血が流れ出ている脇で脚の付け根にナイフを入れ脚をバラし腹を開いていく。脚をバラし首を落とし、内臓を抜き取る。これでなんとか人が運べるサイズになる。


「本当は内臓はうまいから取っておきたいんだがな。この山だと遠いから難しいんだ。とりあえずバラしたから、あとは麓の連中に回せば綺麗に剥いといてくれる。」


 そういうと各々籠に鹿の各種パーツを詰め込み山を降りていく。

 降りていく方がスピードが緩やかだったのは肉を運んでいる為慎重になったからだろう。



 程なくして麓に辿り着き、交代班に獲物を渡す。交代班の人間は喜びと尊敬の眼差しでダノンを見つめ獲物を受け取った。

 交代班の人達は慣れた様子で獲物を受け取ると、予め汲んであった水で肉を洗いながら捌いていく。

 これが猟をするという事なのだな。

 そういえば解体させると言っていた割に何もやらせて貰えなかった。全て終わってしまっていた。

 借りた小刀が威力を発揮するのはしばらく先になりそうだ。


 獲物を引き渡し終わるとさっきとは別の道でまた山を登っていく。

 明るいうちなら何度でも山の中を探し回るのだ。先ほど迄の道よりも今回の道の方が険しく、石斧の登場回数が多くなってきた。時には人の腕程もある枝を切り落としていく。面白い様にすぱすぱ切れた。


「ダノンさん、この石斧は随分と切れ味がいいですね。面白いように切れますよ。」


「あぁ?そんな訳ねえだろ。普通の石斧だぞ、それ。の切れ味がいいんであれば旦那の腕がいいんだろうよ!」


 なんてダノンは笑い飛ばしながら言っていた。

 そうなのか?俺の腕が良いなんて初めて言われたぞ。

 というか人生で斧なんて使ったことが初めてだ。もしかしたら俺は刃物を使うセンスがあるのかも知れない。なんて妄想をしてしまった。


 それからも山中の疾走は続く。

 入ってすぐに鹿に出会えたのは僥倖だったようで、その後は中々獲物に巡り合う事はなかった。


 結構な時間が経ったので、一度狼煙を合図に全員が麓に降りてきた。昼食をとる為だ。そこでお互いの成果を確認する。

 罠組が小型のイノシシを1頭捕えたそうだ。弓矢で。まあ罠組だからと言って弓矢を使ってはいけないなんてルールはない。むしろ臨機応変に持てる全てを使って獲物を獲る、これがダノン班の強みなのかも知れないな。


 俺はそんな事を考えながら皆で食事を取る事にした。


時間がなくてまとめて投稿してしまいました。

今後はなるべく定期的に投稿出来るよう努力しますので、宜しくお願いします。

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