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第10話 定例会議

 翌朝、俺は今までに感じた事のない満足感と疲労で目が覚めた。


 どちらかと言えば満足感が大きいかな。

 その理由は簡単だ。隣にいる存在である。


 俺は人生で初めて女の子と一夜を共に過ごした。実際は何もなかったが。

 ただ、この充足感は何者にも代え難い。

 大人の階段を登った気分だ。


 隣のミコトはまだ寝ている。よし、優しく起こしてあげよう。憧れのピロートークだ。


「ミコト、起きてくれ。もう朝だよ」


 ミコトはじゅるりとヨダレを吸い込みながら勢いよく顔をばっとあげる。


「あぁ、おはようごじゃいましゅ〜。……はっ!あ、あの!おはようございます!コースケ様はもうお目覚めだったのですね。申し訳ありません、すぐに朝食の用意を致しますね!」


 そう言うとミコトは駆け足で家を出て行った。

 ピロートークはどこ行った。


 待つ事10分。

 大きなお盆にナンと肉、野菜を載せて帰ってきた。


「お待たせいたしました、さあ食事にしましょう」


「色々準備が早いんだね。そんなに慌てなくて良かったのに。その朝食はどうしたの?」


「ええ、これは村の広場から貰ってきました。食事は毎日共同で炊き出しをしてるんです。お当番を決めてパンと野菜とお肉の料理を作ってるんですよ。今日はお当番じゃなくてよかった……」


「そうなんだ、それならみんな食事を食べ損ねる事もなくていいね。じゃあ遠慮なく頂こうかな。いただきます」


 俺は手を合わせて食べようとしたら、ミコトは両手を組んでブツブツと何かを言いながらお祈り?をしていた。そして顔を上げると、いただきますと言って食べ始めた。

 俺がミコトを見ていた事に気付いたようでこちらを向いた。


「あの、コースケ様、どうされたんですか?私の顔に何かついてますか?」


「とても可愛い目と鼻と口がついてるよ。あと寝癖」


 ミコトは喜んだり慌てたりアタフタしながら表情をくるくるまわす。小動物みたいで可愛い。


「そんな、寝癖がついてるなんて早く教えてくださいよ。あと、女神の様な顔立ちなんて……。嬉しいですけど朝から恥ずかしいですよ……」


 この子の耳はとても都合良く聞こえるようだ。

 そして満更でもないみたい。


「それで、ミコトは何をしてたの?お祈り?」


「ええ、そうです。精霊達に祈りを捧げておりました」


「精霊?」


「ええ。私のような巫女に力を与えてくれる精霊達です。この精霊達を扱える数により巫女の格が決まります。私は力のない巫女なので10体程度の精霊との付き合いになりますが、コトネは正確ではないですが100体程の精霊と付き合いがあるみたいですよ」


「そうなんだ、それはすごい……のかどうかはわからないけど、ミコトの10倍の精霊達と付き合ってるって言うのは単純に凄いことだね。精霊達に付き合ってもらうのに対価とかはあるの?デメリットとか」


「デメリットは特にありませんよ。対価はその使役する精霊によって変わりますね。大体の精霊は私の生命の力を求めます。変わった精霊だと、その精霊自体を使役する事を対価とするもの、後はお風呂に入れる事とかそういうものもあります」


「お風呂とか使われるとか確かに変わってるね。その生命の力って、求められて大丈夫なの?ミコトの命が削られるとかそういう事なの?」


「いいえ、違いますよ。生命の力というのは寿命とかそういうものではありません。なんて言うのでしょうか、体力とか気力とか。休憩してれば回復するようなものです。体力と気力を合わせたような感じですね!あ、だからもしかしたらそう言う意味では寿命も縮まってるかも……」


「寿命じゃないといいなぁ。でもそうか、わかった。巫女の力は精霊の力。その精霊を使える数が巫女の格という事だね。その精霊っていうのは全て同時に使役するものなの?それとも順番で使うの?」


「それも時と場合ですね。精霊を同時に使役するという事は、その精霊全てに対価を支払わなくてはなりません。それが保つ限りは何体でも同時に扱えますが、足りなければそこまでの数しか使役出来ません。ただ、今までそんな事したことがないので10体同時に使役出来るかどうかはわかりません。コトネがもしも生命の力が無尽蔵にあったら100体の精霊を全て同時に扱うことも出来るかも知れませんね。今度やってみるように言ってみます」


 いやいや、コトネちゃん大丈夫か?

 100体の精霊って使役した瞬間に気を失うんじゃないかな。


「そうなんだ。その、精霊を何体か同時に使役することはあるの?10体全部じゃなくても」


「それはたまにありますよ。精霊にもそれぞれ特技というか、得意な力があって、例えば火の精霊と風の精霊、この2体を同時に使役して精霊の力を発揮すればとても強い火が起こります。火の竜巻ですね。他にも水の精霊と癒しの精霊を使役して、傷口を清潔にしながら癒すという事もあります。この組み合わせが使う術で一番多いかも知れませんね」


「そうか、そういう仕事が巫女の役割なんだね。それはとても立派なことだよ、ミコト。俺なんかの側にいるよりそちらに専念した方がやっぱりいいんじゃないかな」


「そんな、コースケ様。私がお側にいてはご迷惑ですか……?」


「そういう訳じゃないよ。でも、俺よりもミコトを必要とする人が沢山いるんだろうなって思ってさ」


「そんなっ……。コースケ様は私を必要としておられないのですね……。ああ、初めてを捧げた方なのに。仕方ないですね、これも巫女の定め。私の純潔は儚くも散ってしまいました……」


 いやいや待て待て。

 まだ貴女は純潔です。完全無欠です。俺だって未使用です。

 変な誤解を生むからそういう事は言わないように。


「ミコト、そんなことはないから。俺は君がこの村にいて本当に良かったと思っている。ミコトを俺の側で独占するのは正直喜ばしい事だと思っている。でも、だからこそ、みんなに申し訳ないなとも思う。ただそれだけの事だよ。俺がミコトを必要としてないなんて全くない」


「まぁ、やっぱりそうですのね。私なしでは生きられないなんて、コースケ様ったら情熱的ですね。そういうの、嫌いじゃないですよ。うふふ。村のみなさんは役に立つから私を必要としているんだと思うのです。ですから私より力のあるコトネがその任に就けば必然と私への要求がなくなると思うのです。やっぱりコトネを早く一人前にしなきゃですね!」


 こうして本人のいない所でその人の歩む道って決められていくんだなぁ。感慨深い。



 朝食を済ませて、お盆を片手に家を出る。


 村の広場では炊き出しを終わらせただろうご婦人達が洗い物をしている。


「おはようございます。昨日はありがとうございました。あ、あと朝食もご馳走さまでした。美味しかったです」


「あら、コースケ様おはようございます。昨日はゆっくりと寝れましたか?ミコトが寝かせてくれなかったんじゃないですか?ふふ。お若いっていいですわね」


 朝からご婦人はかっ飛ばしてくるな。流石です。

 これはミコトの反応が気になるところだが、肝心の本人は特に大きな反応を見せていない。


「おはようございます、ヨシノさん。私が寝かせなかったってなんでですか?昨日は私がお願いして一緒のお布団で寝ましたよ。お布団が一つしかなかったので。あ、だからよく寝れなかったっていう事ですね!ええ、今日はシンゲン様にお願いをしてもう一組お布団を頂くつもりですよ」


 今からシンゲン様のところいってきますねーって軽く手を振りながらミコトは歩き出す。


 ヨシノさんというご婦人の言葉の意味はなんの事か全く分かっていなかった。

 ミコトは時々凄い内容の妄想をするのに人から言われてもわからんのだな。


 さて、布団の事はともかく俺も長老に話があるので二人して並んで長老の家に向かう。

 といってもそんなに大きな村でもないので本当に少し歩けば見えてくるんだけどね。


 長老宅前では側仕えの女性が掃き掃除をしていた。


 長老へ用がある旨伝えると、長老へ声を掛けに行く。そこから呼べば聞こえるんじゃないかな。まあいい。こういうのは雰囲気も大切だからな!

 程なくして長老が家から出てくる。


「長老殿、おはようございます。昨日は盛大な宴を催していただきありがとうございました。それで、今日は昨日からの様々なお話をしなくてはと思いまして訪ねたのですが、ご都合如何ですか」


「これはコースケ殿、おはようございます。わざわざ訪ねていただかなくても私の方から出向きましたのに。ご足労おかけしますな。昨晩は楽しんで頂けたようで何よりです。また、私の身勝手をご寛恕いただき此方こそお礼を言わねばなりませぬ。本当にありがとうございます。では中でお話しましょうか」


「あ、その前に長老殿。いくつか宜しいでしょうか。忘れる前に伝えたい事があります」


 一つはミコトと同じ家なのでせめて布団をもう一組欲しいこと。

 もう一つはこれからの話を長老、ミコト、俺の3人ではなく、最低限村のまとめ役である何人かには聞かせたいことを伝えた。


 布団については側仕えの女性に指示を出し、夜までには用意しておく事で決まった。

 まとめ役を呼ぶ事については俺の話を一度聞いてから誰を呼ぶか考えたいとの事だったので、一先ずは俺を含めた3人で話し合いは始まる事になった。



 今まさに長老宅にて第一回の定例会議が始まる。

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