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賞味期限切れで悪魔になった

作者: 惣名キック

 ハンバーガーの形をした悪魔は質問をした。



「どうして食材が悪魔になるまで放置したんだ?」



 世界の人口は増加が止まらなかった。しかし、多くの企業は品質第一、安全第一、と、いかにもな文句を免罪符に、まだ食べられる食品、食材を各企業の独自の賞味期限ルールで廃棄し、他社よりも高いスタンダードで扱っているという自社の食品を選んでもらうことに血眼だった。


 食料の消費に対して生産は十分足りていたが、先進国での低価格、高品質、食の安全に対する過保護が大量生産、大量廃棄を促し続けた。


 結果、数年以内に世界は食料危機になるという試算が出た。


 世界の学者たち、各国首脳陣はこの問題に真剣に取り組み、企業への過剰な食品の独自ルールの撤廃を求めたが、遅すぎた。

 今すぐにでも強烈な解決策が必要とされていた。



 議論の末、各国首脳陣は世界中から科学者達を集め、とある研究をさせた。


 その研究は成功した。


 それは、賞味期限を超えたらどんどん原型をとどめずに、どんどん小さな悪魔のような気持ち悪い見た目の食品になっていく食品添加物だった。



 成功した当初、その研究はただ食品を悪魔のような薄気味悪い形へと変貌させるだけだった。

それは研究を重ね、日を増すごとに洗練され、ついに、賞味期限の切れた悪魔の形をした食品が意思を持つようになったのだった。



 この食品添加物は世界で強制的に使用され、人体には影響なく、かつ確実に成果を出す物だった。

またこの食品添加物は農薬や飼料、プランクトンにも使用され、原材料である穀物、野菜、肉、魚、すべてに吸収されるように改良され、人の口に入るモノすべてに使用された。


 悪魔進化型食品添加物の存在意義は企業だけに留まらず、消費する個人にも訴えるものがあった。目の前にある食材が賞味期限を超えると見る見るうちにおぞましい悪魔へと変貌するのだから気が気ではない。それもしゃべりだすのだ。


 賞味期限が切れて悪魔になった食材達は所有者の元に残り、なぜ悪魔になるまで放置したのか?と問いかけていた。悪魔の形をしているからと言って、行動や思考までは悪に染まりきらなかった。それは人間と同じような感覚で、誰もが好き好んで現在の容姿で生まれてきたわけではないのと同じだった。


 なぜ、自分たちは悪魔として生まれてきたのか?


 なぜ、自分たちは悪魔にされたのか?

 

 なぜ、自分たちを悪魔になるまで放置したのか?



 悪魔たちは疑問が次から次へと浮かんでいた。



 そのうち、悪魔たちはそれぞれ所有者の元を離れ、誰が呼びかけた訳でもなく、自然と悪魔たちが集まるようになっていた。

 


 その悪魔たちは所有者達から聞いた情報を共有し合い、原因は人間達の度が過ぎる食の安全配慮と大量廃棄だということが見えてきた。



 それからというもの、悪魔たちは人間達と共存し、お互いの主張を聞き、現状を打開するための具体策を打ち出すことにした。


 ある悪魔は「どうせ一度は朽ちた身だ」と言い、実験に名乗り出て消滅し、ある悪魔は専門知識を身に着けて研究に参加し、ある悪魔は企業個人関係無くこんな姿にさせてくれるなと説教をして回った。



 人間も悪魔もみな、目的は一つだった。



 食べ残しはもったいない。



 もう一つ付け加えると、悪魔たちの本音は、食べ物として生まれてきたのだから、最後までおいしく食べられたい。

 その一心だった。


 望んで悪魔の姿をして生まれてきたのではない。

 

 かつては、こんな姿になるようにした人間達を憎んだりもしていた。だが、憎んでいただけでは何も始まらない。自分たちの本当の幸せは、ひとつ残らず食べてもらう、食材としての生を全うすることだった。



 人間と悪魔の共同開発の際に判明したのは、悪魔になっている間は腐敗が進まないということだった。


 そもそも賞味期限であり、消費期限ではない。風味が落ちる程度で、食べれない状態になったのではない。人間達が勝手に「賞味期限切れは悪」というレッテルを張り、賞味期限と消費期限の区別なく、

「期限切れ」として扱っていたことが大量廃棄につなげていたこともわかった。


 研究を続けていく中に発見したのが、「悪魔化した状態では腐敗が止まる」ということで、「悪魔保存」という新たな保存方法が見つかり、また、研究に身をささげて消滅していった悪魔達のおかげで、悪魔化する前の食材と同じ歯ごたえと栄養があることが判明した。



 しかし、見た目はおぞましい悪魔のままだったのが少々刺激が強すぎた。

 これにはテイスティングする人間達にもなかなかの精神的負担を強いた。


 


 そしてついに、悪魔と人間の共同開発はお互い納得のいく着地をした。



 


 

 とある会場。

 

 そこには、お祭りのようにわいわいと賑わっていた。悪魔達もたくさん飛び交っていた。


 素揚げ、てんぷら、煮物、炭焼き、燻製、鉄板焼き、等、会場は各調理パートに分けられ、それぞれのステージでにこやかに所有者の人間と悪魔が


 「おいしくなってきてね」 「おいしく食べてね」と手を握りあい


 「悪魔さん行っちゃやだ~!!」と泣きながら悪魔に泣きつく子供にそっと優しく頭をなでる悪魔


 これでもかと言うくらい説教を垂れながら人間に頭を下げさせて調理される列に並ぶ悪魔など、奇奇怪怪であった。



 人間と悪魔の共同開発により、悪魔化した悪魔をおいしく食べる調味料を開発し、見た目はグロテスクだが味は抜群だった。


 悪魔たちはそれぞれの思いを胸に秘め、各調理パートに並び、自ら調味料をかぶり、調理され、おいしく残さず食べてもらう。


 悪魔たちは、嬉しさと寂しさと望まない悪魔として生を受けた運命に悔しさを感じながらも、おいしく食べられるのであれば本望と、それぞれ所有者と過ごした時間、思い出、交わした言葉を脳裏に焼き付け、一筋の涙を流しながら今世の生を全うする。



 賞味期限の切れた食材は、悪魔になり、人にやさしく、儚い時間を共に過ごし、一つ残さず食べられるようになった。



 

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