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【広瀬煉】平和的ダンジョン生活。  作者: 広瀬煉【N-Star】
三章
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第二十四話 二十一歳児、煽られて怒る

 縁から『手合わせの要請が来てるよ!』と聞いた直後。


「というわけで、久しぶりに手合わせが行なわれることになった。希望者は三人いるから、一人ずつの対戦になるよ」


 皆が一堂に会する夕食の場にて、それは告知されたのだった。


「おお! このダンジョンの戦い方が見れるのかぁ!」

「私達も観戦させていただいて宜しいでしょうか?」

「そうね、興味がありますもの」


 ダンジョンマスター達もそれが命の遣り取りではなく、『お祭り』(意訳)と判っているせいか、会場は盛大に沸いている。

 ……。

 うん、その気持ちも判るよ。娯楽の少ない世界だもんね? ダンジョンマスターに至っては、挑戦者達との一戦こそ、娯楽扱いだもんね!?

 私達のように挑戦者達と『キャッキャ♪ ウフフ♪』と戯れ合っているダンジョンなど存在しない。特定の人達との交流はあるのかもしれないが、基本的には孤独です。

 だが、ふと何かに気付いたらしい人から声が上がった。


「あら……そう言えば皇国って……」

「確か、継承権争いが激化して、今はダンジョン攻略どころではなかった気がするね」

「ああ、なるほど。つまり、手合わせを願い出た者達は……」


 皆の視線が一気に、該当者達へと突き刺さる。


「軍人の血が騒ぐのだよ。少しくらい、羽目を外してもよかろう!」


 軍人らしきダンジョンマスターは、開き直って堂々と言い切り。


「これほどの技術、そして文化の違いを見せつけられたのです。魔術師としては、どのように戦い抜くのか気になって仕方ありません」


 見た目からして魔術師なダンジョンマスターは、知的好奇心であると強く主張し。


「実に興味深いのですよ。私は植物学者として、植物型の魔物に拘っているのですが……それなりに強いと自負しておりますからねぇ」


 学者なダンジョンマスターは『うちの子の強さを証明してみせる!』とばかりに意気込む。

 ……。



 私 は あ ん た 達 の 玩 具 じ ゃ な い ん だ が ?



「おやおや、自信がないのですか?」


 ジトッとした目を向けていると、学者なダンジョンマスターが見下した表情で煽ってくる。どうやら、こちらを煽る目的とかではなく、これが彼本来の性格らしい。

 ならば、応えねばなるまい。私が一番大事なのは運命共同体の魔物達であり、彼らを馬鹿にされて黙っていられるほど大人しくはないのだから……!



「え、別に? こちらの手の内を知らないうちから見下す傲慢な人だなって、呆れているだけですよ? それとも、嫌味を言わなきゃ死ぬ病にでもかかってるんですか?」



 ピシッと場の空気が凍る。アストでさえ、顔を引き攣らせて硬直した。


「な!?」

「だったら、謝りますよ。無条件に見下すってアホにしか見えないけど、理由があるなら仕方ないですよね!」

 あはは! と笑って続けると、『アホにしか見えない』という言葉にプライドが傷ついたのか、学者なダンジョンマスターは判りやすく表情を変えた。そんな彼の姿に、私は得意げに笑う。

 やだなぁ、私だってダンジョンマスターの一人ですよ? 確かに、うちは『殺さずのダンジョン』だけど、『戦うのが怖い』とは言ってない。

 しいて言うなら『面倒だし、適当に仲良く、緩~くやれればいいよね』という方針だ。

 そもそも、異界の創造主たる女神とその子飼いの聖女を相手にして、一歩も引かなかった気概の持ち主です。交戦、上等。どうして、気が強いと思わないかね?


「ほ、ほう? 随分と自信があるようですね……?」

「自信というより、負けないと思うことが大前提では? いくらお遊びであっても、戦闘ですよ? 私達、外から攻め込まれて倒されれば、今後こそ人生終了じゃないですか。手を抜いたり、必要以上に煽ったりするなんて、自分の立場を理解していないと思われて当然です」


 負ける=第二の人生……もとい、ボーナスステージの終了です。特に、うちはアスト以外が私に巻き込まれる形でリセットを食らうので、まさに共倒れ状態になる。

 個々に自我があることを許している以上、その際に感じるのは『彼らの死』。

 ダンジョンの魔物という意味では、『新しい同個体』が作られれば復活したことになるだろうけど、今在る彼らは二度と戻って来ない。正真正銘、私と共に居なくなってしまう。


 だからね、安易に敗北は口にしないの。

 言霊という言葉があるように、現実になってしまうかもしれないから。


 勿論、冗談であろうとも、それを口にした輩を許す気はない。嫌味に嫌味を返すなんて同レベルとか言われそうだが、私にだって許せないことはある。

 そもそも、私は二十一歳児の聖ちゃん。感情のままに振る舞って、何が悪い?

 目が笑っていない笑顔の私と、睨み付けてくる植物学者。一触触発と言わんばかりの空気を察したのか、周囲は自然と見守る態勢になっていく。

 ……が、そんな空気を破ったのは、軍人らしきダンジョンマスターだった。


「おいおい、ここで揉めることはなかろう?」

「しかしですねぇ……っ」

「先に煽ったのはお前だろうが。そもそも、そちらのお嬢さんの言っていることは間違っていない。我々は『如何なる状況においても、負けないことが前提』だろうが。戦闘を安易に捉えた発言をしたお前の方こそ、私は不快に思ったぞ」

「ぐ……」


 余裕のある態度ながら、軍人なダンジョンマスターは僅かに凄む。その鋭い視線を受け、植物学者は押し黙った。

 同じ国に在籍し、それなりに交流があるっぽいけど、力関係は軍人なダンジョンマスターの方が上らしい。

 ……この人はきっと強いのだろう。その強さに自信があるだけでなく、敵となる者への敬意も忘れないような感じがする。まさに誇り高い武人とか、そんな印象だ。

 彼は植物学者を黙らせると、今度は私へと向き直った。


「すまないね、お嬢さん。こちらが無理を言ったにも拘らず、不快にさせて」

「貴方に対して思うことはないので、お気遣いなく」


 暗に『私、そいつ嫌い。でも、嫌いなのはそいつだけですよ』と言ったことに気付いたのか、軍人なダンジョンマスターは僅かに口角を上げた。


「ふ……ははは! 中々に豪胆な子だな。さすが、戦闘能力が皆無と自覚していながら、我々に勝つ気でいるだけはある」

「な!? ウォルター殿、それはっ」


 声を上げる植物学者。だが、軍人――ウォルターさんは、彼に呆れた目を向けた。


「貴殿は気付かなかったのかね? 彼女はその自覚がありながら、我々に応じたのだ。特殊なダンジョンマスターである以上、拒否されても、文句は言えん。そこに気付かず、一方的に見下す貴殿の方が小者ぞ」

「そうですね、私もそう思います。それとも……貴方は『必ず勝てる相手』と理解していたからこそ、あのような発言を? そちらの方がよほど恥ずかしいでしょうに」

「そんなことはありません!」

「では、黙れ」


 ウォルターさんに続き、魔術師なダンジョンマスターまでもが植物学者に呆れた目を向ける。同僚二人に諫められ、植物学者は悔しそうだ。


「対戦は了承されているのだから、今騒ぐ必要はあるまい」

「誤解を招く発言は控えた方がいいですよ。……では、こうしましょう。彼女に思うことがおありのようですから、一番手は貴方がどうぞ」

「勿論だ!」


 魔術師なダンジョンマスターの提案を、即座に了承する植物学者。自分だけが叱られたことが気に入らないのか、やる気十分な模様。

 ただ……彼らは完全に私の味方をしてくれたわけではない。



 だって、明らかに面白がってますからね!

 植物学者が気付いているかは判らないけど、この二人は植物学者を誘導したよね?



「……一番手になるよう、誘導しましたよね? あの植物学者で様子見するつもりですか?」


 こっそり尋ねると、ウォルターさんは軽く目を見開き。


「ふっ、これは楽しめそうだ。……お嬢さん、単に強いばかりでは皇国で長くダンジョンマスターなど務めていられんよ」


 楽しそうに笑った。

 ……。

 やはり、一筋縄ではいかない模様。やだなぁ、この人は簡単に勝たせてはくれない気がする。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 対戦を三回やるなら二戦目、三戦目の相手は聖の戦い方を見てはいけないとかしないと不公平な気がする。 二戦目、三戦目の相手の過去の対戦の記録を見られるなら別だけど。
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