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【広瀬煉】平和的ダンジョン生活。  作者: 広瀬煉【N-Star】
三章
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第二十話ダンジョンマスター達との交流 其の一

ダンジョンマスター達との交流は存外、上手くいったようだった。というか、私の世界の文化が娯楽方面に長じていることもあって、楽しんでくれているみたい。

 中でも、温泉は大好評。……そういえば、元の世界でも『湯に浸かる』という国ばかりではなかった。異世界ならば尚更、水の豊富な国とか、温泉が湧いている地域にしか、そういった習慣はないのかもしれない。


「うふふ、お肌にも良いってのがいいわね!」


 ルージュさんは温泉に浸かりながらご機嫌だ。何人かの女性ダンジョンマスター達も、其々に楽しんでいる。私も案内を兼ね、温泉に同行だ。


「『お湯に浸かる』って、特定の国しかやらないみたいですからね。衛生面では推奨されても、湯を沸かしたりする手間や使う水の量が問題で、中々浸透しないのかもしれません」

「そうねぇ……魔法がある世界だったら、『お湯を沸かす』ってのは簡単よ。ただ、問題は『綺麗な水が大量に使えるか』ってことでしょうね」

「やっぱり、そうなりますか」


 首を傾げながら、ルージュさんは現実的なことを口にする。……やはり、色々と問題があるようだ。ダンジョンマスターがダンジョン内に浴室や温泉を作るならまだしも、それが民間レベルに浸透するのは無理があるらしい。


「元の世界の文化を伝えるにしても、前提になること……衛生面とか、文化とか、手に入る物なんかが違うと、無理がありますよね」

「そうなのよね。そこが一番の問題だと思うの! 私だって、薬学の知識を伝えたいと思った時があったのよ? だけど、手に入る薬草が違うとねぇ……。精々が、ダンジョン内で手に入るアイテムに自作の薬を混ぜるくらいよ。ダンジョン内なら、私が薬草を育てられるもの」


 効果は自信があるんだけどね、とルージュさんは苦笑した。彼女も自分なりにこの世界への貢献を考え、頑張っているのだろう。



 そう、縁の『異世界の知識や技術を取り入れる』という発想自体は悪くない。

 ただ、『この世界にない物が多過ぎる』という欠点があるだけだ。



 それ以前に、『この世界に根付くほど受け入れてもらえるか?』という問題もある。異世界文化というものは『異質』なのです。温泉はどう見ても湯に浸かっているだけなので、他のダンジョンマスター達にも受け入れやすかったのだろう。


「食に関しては、私は最初から諦めてますからね。もう『このダンジョンでは美味い物が食える!』っていう認識だけ持ってもらおうかと」

「あら、潔いのね?」


 ルージュさんは意外そうだが、私としては別方向からのアピールを狙っているだけだ。


「味とか、調理方法なんかに興味を示してもらえれば、外の世界で再現しようとする人が出るかもしれないじゃないですか。人間、『知らない物は作れない』んです。だから、『ダンジョンで知ってもらう』。切っ掛けを与えることと割り切っているんですよ。だから、ここでの飲食は割と低価格に設定されているんです」


 雨の日のサービスとか、ちょっとしたおやつなんかで、異世界料理やお菓子は割と配布されている。しかし! そこには前述したような目論見があるわけですよ。

 私が外に出られない以上、この世界の食事や食材を知ることは不可能だ。食材を入手したとしても、『元の世界では料理好きだった』程度でしかない私が、新たな料理を作り出したり、元の世界の料理を再現するのは不可能だろう。可能かもしれないが、全く自信がない。

 そんなわけで。



 Q・自分が遣り遂げるのは無理っぽい。どうする?

 A・この世界の住人の向上心に期待する!



 となったわけです。ザ・丸投げ。他力本願、上等です! 外でも食いたきゃ、頑張れ。

 そんなことをつらつらと話したら、ルージュさんは微笑ましいものを見るような目を向けてきた。


「ふふ、貴女なりに考えているのね。そういった方向からのアピールも有りだと、私は思うわ。銀色の小さな創造主様はまだ、そういったことにまで気が回らないもの。だから、遣り方を考えるのは私達の仕事なのよ」


 縁のことを話すルージュさんはまるで姉のよう。敬意を示すべき対象という認識もあるだろうけど、それ以上に力になってやりたいと思っているみたい。


「まあ、人生終了してますからね。折角の時間なので、この世界に貢献するつもりです。うちの創造主様も言ってましたが、あの子は難しい道を選んだみたいですから」

「そうなの。でも、そうね……だったら、私達みたいな存在が支えてあげればいいと思うわ。私は役目をもってこの世界に来たけれど、あの子の力になってあげたいとも思ったんですもの」


 そう言って笑うルージュさんは慈愛に満ちていた。彼女は優しい人なのだろう。そう思うと同時に、元の世界での彼女の立場が気になった。

 魔女がどんな職業……種族なのかは判らないけど、元の世界では『悪しき者』のように捉えられている場合がある。この外見年齢のまま亡くなったというのなら、彼女も相当、早死にしたはず。

 ……。

 き……聞いてもいいかな?


「あの、ルージュさん。言いたくないなら構わないんですが、この世界に来た原因って何だったんですか?」


 暈した言い方だけど、ルージュさんには正確に伝わったのだろう。苦笑すると、ちょっと寂しそうな顔になった。


「私が居た世界では、魔女って異端なの。でもねぇ、それも仕方ないって思っちゃうのよ。だって、魔女は『世界から産まれて、世界に還る者』なんですもの。精霊に近いとも言われているわ」

「へぇ……! あれ、でも精霊に近いなら、好意的になりそうな気が」


 どうやら、根本的に人間とは違うらしい。ただ、ラノベやゲームの知識を持つ私からすると、ルージュさんは所謂『善き魔女』という印象だ。だが、ルージュさんは首を横に振った。


「私は人に近い姿をしているから、そう言ってもらえる。だけど、精霊というか、魔物に近い恐ろしい姿の魔女もいるのよ。聞いたことはない? 『精霊は残酷だ』って」

「ああ! そういう設定の話も読んだことがあります。私が居た世界にある神話とかでも、神や精霊の残酷さが見え隠れするものがありますよ! でも、基本的に人間よりも上位の存在として描かれているので、納得しちゃうというか」


 神や精霊からすれば、人間なんて羽虫の如き存在だろう。『勝手に増えて、短い一生を送る、弱い生き物』。その程度の認識でも驚かない。そもそも、魔法がありませんからね!

 兄貴(私の世界の創造主)はそんな認識などしないだろうが、世にある神話や伝承なんかに出てくる神は割と残酷だ。まあ、『人間如きが太刀打ちできない存在』のように書かれているから、それも仕方ないんだろうけどね。


「魔女は世界の味方なの。だから、人が世界に対して愚かなことをすれば怒るし、報復する。そういった事実が積み重なって、『魔女は邪悪な存在』みたいに思われちゃったのよ。まあ、死んでも世界に還るだけだから、魔女も特に訂正しなかったんでしょうけど」

「お、おう……何て言うか、魔女達は人間にどう思われても構わないんですね?」


 あまりにもさらっと口にするルージュさんに、私の方が驚く。いやいや……訂正くらいしようよ? その話を聞く限り、魔女って悪じゃないじゃん!

 だが、当のルージュさんはそのことに対して悲観していないらしい。


「そう考える魔女が大半ね。私は人と接して生活していたから、追われた時は悲しかったわ。だけど、ちょっとだけ安心したの。どんな理由があっても、自分が助けてきた人達に牙を剥きたくはなかったんだもの」

「……」


『悲しい』と言いながらも、ルージュさんは納得しているようだった。何と言っていいか判らず、黙ってしまった私に気付いた彼女は、悪戯っぽく笑って一つ伸びをする。


「ん~! 湿っぽい話はお終い! 私もね、こんな考えは魔女として異端だったと思うのよ。だから……今の生活もそれなりに楽しんでいるの。ある意味、望みは叶ったのよ? 貴女ほどじゃないけど、私もそれなりに人と関わるダンジョンマスターだもの」


 だから、もう悲しくはないわ――そう続けたルージュさんは本当に、『今』を楽しんでいるのだろう。少なくとも、補佐役は彼女の味方だから孤独になることはない。それに、彼女がどんなダンジョンマスターであろうとも……どんな在り方をしようとも、創造主たる縁は咎めないのだから。

 その中で人間達と縁を築けているのなら、きっと満足しているのだと思う。


「ところで、聖はどうして死んじゃったの? 貴女くらい若い子なら、ダンジョンマスター就任よりも生き返りたいって思う気がするけど」

「事故死しました。それはもう、逃げようがない大規模な事故だったので、諦めもつくと言いますか……まあ、一緒に居た子供を助けられたので満足しちゃいまして」

「あらあら……結構、悲惨だったのね。……。あら? 満足していたのに、ダンジョンマスターになっちゃったの? 何か叶えたい夢でもあった?」


 意外、と言わんばかりのルージュさん。私は当時を思い出し、温~い目になった。


「拒否しましたが、拒否しきれませんでした! って言うか、『元の世界からの通販とパソコンがなきゃ、行かない!』と言ったら、元の世界の創造主様全面協力の下、叶えられまして。そのまま言質を取られて、この世界にドナドナです」

「え゛」

「まあ、元の世界の創造主様の思惑も込みで、目を付けられたらしいので。それなりに楽しく暮らしているから、今は後悔してないんですけどね! ……あれ?」


 あはは! 笑って済ませようとするも、ルージュさん……だけではなく、話を聞いていた女性ダンジョンマスター達から憐みの目を向けられていた。をや? 何か変なこと言った?


「拒否権なしって、初めて聞いたわよ」

「私の時も自分で選べたな」

「ちょっと待って、それ本当ですか!?」


 聞き捨てならないことを聞いたような。やっぱり、拒否権あるのかよ!?


「元の世界の創造主様からの抜擢だったのね……道理で……」


 ……。妙な方向に考えている人もいるようだ。いや、それ違う! 絶対に違う!


「あ、あの~? 皆さんが考えているようなことはないかと。その、タイミングが悪かったというか、自業自得というか……少なくとも、期待されていたわけじゃないです!」

 慌てて否定するも、彼女達の話は勝手に進んでいく。しかも、それを裏付けるような出来事がつい最近、あったばかりなのが災いした。


「先日の聖女騒動も、貴女だからこそ解決できたのかもしれないわね」

「いえ、創造主様達が元凶の女神と聖女を〆ましたからね!? 私、お手伝いしかしてません!」


 私のダンジョンマスター就任に凪が関係していることは確実だけど、兄貴(私の世界の創造主)はあの子が心配だったんです! 私としても、凪にトラウマを植え付けた責任があるから、ある意味では自業自得。

 本当にそれだけですよ!? ねぇ、こっちの話を聞いてくれません!?

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