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【広瀬煉】平和的ダンジョン生活。  作者: 広瀬煉【N-Star】
三章
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第十八話 報告会 其の二

 縁の言葉を受け、ダンジョンマスター達はそれなりに納得したようだ。中には『興味深い』と呟いている人もいるので、もしかしたら今後、他のダンジョンでも実践されるのかもしれない。


 ――だが、災難は忘れた頃にやって来る。


 和やかな雰囲気になりかけた時、一人のダンジョンマスターが立ち上がりながら声を上げたのだ。


「それでは、次は私が。……先日の一件について聞きたいわ。私自身が魔女ということもあるけど、先日の『聖女』は異様だったもの」

「異様……? ってことは、『聖女』の存在を感知できたんですね。私の世界には魔法がないので、よく判らないのですが……どんな風に感じたんです?」


 面白そうなので尋ねると、魔女なダンジョンマスター(色っぽいお姉さん)は指を口元に宛てながら首を傾げる。


「そうねぇ、……『大きな力を感じる』ってのは、共通の認識なのよね。貴女もそうだったんじゃない?」

「あ、そんな感じです。何て言うか、威圧感がある? みたいな感じなんですよね」


 素直に返せば、魔女なダンジョンマスターは満足そうに頷いた。


「そう、そうなのよ。人には過ぎる力を持っていることに驚いたというか、『あり得ない』って思っちゃったの」

「……? 『あり得ない』、ですか?」


 どういう意味だろう? そんな疑問が顔に出たのか、『魔法がない世界だと、判らないわよね』と笑い、魔女なダンジョンマスターは話を続けてくれた。


「判りやすく言うとね、人の体って魔力の器なのよ。それが其々、異なった許容量をしているの。勿論、人の体の大きさって意味じゃないわよ? 魂に定められた魔力の許容量、とでも言えばいいのかしら?」

「へぇ」


 なるほど、見た目では判らない許容量ってやつが設定されてるのか。

 うちの世界では兄貴(私の世界の創造主)の育成方針も有り、そこに収まるべき魔力がないか、あってもかなり少量だから、魔法が存在しないのかもしれない。


「それがね……明らかに超えていたのよ。あの『聖女』の許容量はそれなりにあったでしょうけど、それでも人間と言えるレベルだったわ。『器を超えた量の魔力を有していた』って言えば、異様さが判るかしら? グラスに、許容量以上の水が入っているって想像してごらんなさい?」

「え゛……何それ、怖い。圧縮してるわけじゃあるまいし」


 思わず呟くと、魔女なダンジョンマスターも大きく頷いた。


「そう! 明らかにおかしいのよ! 『聖女』の許容量がそれなりに判ったのも、彼女が有していた力を感知しちゃったからなの。だから、私はこの一件がとても気になるのよ」

「でしょうねー……」


 どうやら、あの『聖女』は魔女なダンジョンマスターから見ても、立派にオカルト案件だったようだ。

 彼女の説明はとても判り易かったから、魔法に関する知識――勿論、彼女の世界のもの――とて、豊富なのだろう。


 そんな人からすれば、さっきの私じゃないけど『何あれ、怖い』となっても不思議はない。

 なにせ、彼女の持つ常識からは考えられない事態が発生しているのだから。


 私はアストと顔を見合わせた。とりあえずは素直に言うべきだろう。

 ただ、ダンジョンマスター達の反応を見る限り、全部話すのはちょっと躊躇われる。他の創造主降臨のことまで話していいんだろうか? 多分、異例中の異例だと思うんだけど。

 ――そんな雰囲気の中、不意に幼い声が響いた。


「話していいよ、聖。皆もそのことが気になっているだろうから。君の世界の創造主からも、メールを貰ってるでしょ」

「う……ま、まあ、貰ってますけど。この雰囲気の中、余計に驚かせることになるかなって」


 私が危惧しているのは、ダンジョンマスター達の反応だ。だって、『聖女』でさえ、『あり得ない存在』と認識しているみたいなんだもの。

『他の世界の創造主様達も関わってました』とか言ったら、物凄く吃驚するんじゃないかな?


 私達の反応から考えていることを察したのか、縁は微妙に納得した表情になった。


「ああ、そっちの問題ね。でも、話すしかないんじゃない? それにさ、メールの内容程度なら話しても大丈夫ってことだよ。僕達だって決まりはあるけど、そこまで厳しく縛られているわけじゃない。多分だけど、君に話してもいい情報はすでに選別されていると思う」


 縁は事件の詳細暴露に賛成らしい。じゃ……じゃあ、話してもいいのか、な? ダンジョンマスター様達、心の準備は宜しいですか?


「ええと……それではお話ししますね。とりあえず、今お話に出た『聖女』の異様さの理由ですが……元の世界の性悪女神……失礼、創造主と祝福で繋がった状態だったようです。『聖女』自身の力がどれほどのものかは判りませんが、彼女は自分の世界の創造主の力をこの世界で揮っていたと思います」

「何ですって!?」


 魔女なダンジョンマスターだけでなく、他のダンジョンマスター達も顔色を変えている。

 そりゃ、そうか。下手をすれば、この世界を壊しかねないことだったらしいからね。


「問題の創造主は非常に! クズで自分のことしか考えない性格の方で、多くの創造主様達が〆る機会を狙っていたらしいんですよ。ただ、私の世界の創造主様が『勝てない相手からは逃げる』と言っていたので、中々機会に恵まれなかったようです」

「それは……まあ、普通は野放しにできないわね。危険過ぎるもの」


 創造主様達の行動は妥当に思えるらしい。特に、『聖女』の異様さを感知していた人には納得できるらしく、頷いている人達が結構いる。


「それもあるんですが、その女神は創造主達の規定とか、よその世界への迷惑行為とか、全く考えない方だったらしく。自分の世界でも、お気に入りに無理矢理祝福やら加護を与え、周囲の人々を煽って感謝を要求していたんです。……で、そのお気に入りの一人が逃げ出しまして。与えられた神の力を自分のものにしながら、様々な世界を流れてこの世界に辿り着きました。それが――」


 視線を後ろに走らせると、そこに控えていた凪が一歩前に出る。


「俺のことだ。あの女神は俺がこの地で聖に魔物化され、繋がりが切れたことを悟って、『聖女』を送り込んできたんだ。貴方達にも迷惑をかけた。すまない」


 凪はそう言うなり、頭を下げる。

 ……これは凪なりのけじめだと言っていた。心配する私達に、凪は『俺が迷惑をかけたのは事実。だけど、聖の傍に居たいと願ったことを後悔してないよ』と言い切って笑みをみせたのだ。

 だから、私もここで凪を庇うような真似はしない。


「あらあら……その子が切っ掛けだったのね? 確かに、綺麗な顔をしているわ」

「元は神官だったんだ。だが、俺に与えられた祝福によって人生を歪ませる人達を見ては、素直に慕えるはずもない。結局、俺は元の世界を逃げ出したんだ。……この世界に来るまでも色々あって、神と神に連なる者達を憎むようになっていた。そんな時間を終わらせてくれたのが聖と聖の世界の創造主、そしてこの世界の創造主だよ」


 そう語る凪の表情は穏やかだった。自己申告通り、彼の中ではそれなりに決着がついていたのだろう。

 私達の心配は『聖女』騒動の時の、凪の不安定さが前提になっている。だが、今の様子を見る限り、きちんと過去のことにできているらしい。

 さて。じゃあ、ここで創造主様からのメールを使わせてもらおうか。


「ここに、私の世界の創造主様からの事情説明があります。人数分ありますから、各自、読んでみてはくれませんか? 創造主視点での、事件の概要です」

「……。どうして、そんなものがあるのかしら?」


 当然の疑問を口にした魔女なダンジョンマスターは、顔を引き攣らせている。はは、ですよね。勿論、説明しますとも。


「面倒見の良い兄貴な創造主様なので、『どこまで話していいか?』と聞いたら、メール……連絡手段において、文章を戴きました。あの一件で、サージュおじいちゃんの世界の創造主様にもお会いしましたが、こちらも面倒見のよさそうな方でしたよ。努力する者を尊び、『求めた知識を使って何かを成し遂げることは、素晴らしい』と考える方でした」

「うむ、それは儂も思った。我が世界の創造主様は『聖女』の持つ神の力の片鱗を、一時とはいえ、抑え込んでみせた儂の術式を褒めてくださったからな! 努力する者、足掻く者には、大変お優しい方なのじゃろう」

「……え? え?」


 予想外の言葉だったのか、魔女なダンジョンマスターは混乱しているらしい。とりあえず、アストに配ってもらっている兄貴(=私の世界の創造主)からの文章を読んでくださいな。

 ……。

 もっと驚くかもしれないけど。

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