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【広瀬煉】平和的ダンジョン生活。  作者: 広瀬煉【N-Star】
三章
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第十五話 報告会へ行こう!

 縁が帰った後、アストを捕まえて『報告会のお知らせを貰った』と説明。アストも近い内に行なわれるとは思っていたらしく、特に驚いた様子は見せなかった。

 なお、アストとしては凪が仲間になった直後くらいに、説明だけでもしておきたかったらしい。

 ダンジョン運営に慣れてからでも遅くはないらしく、マスター就任直後に報告会が開かれることは稀なんだとか。

 こういったことも、縁の気遣いの一環なのだろう。まあ、慣れない異世界生活を始めた直後、『同僚を紹介するね♪』と言われたところで、戸惑うわな。

 そもそも、その報告会の趣旨は間違いなく、『新しくダンジョンマスターに就いた者について』。

 他のダンジョンマスター達が興味津々になる気持ちも判るけど、当の新人マスターがダンジョン運営について理解していない場合、質問されても答えようがないだろう。いくら補佐がいたとしても、右も左も判らない状態なんだから。

 ……が、そんなことを考えていた直後、アストはさらっと無情なことを言った。


「聖女……いえ、この場合は凪の世界の創造主たる女神ですね。聖に報告会のことを告げる前に、彼女が仕掛けてきたのですよ。こう言っては何ですが、そのままダンジョンマスター生活が終了する可能性はかなり高かったのです。何せ、相手が神ですから」

「……」


 そだな、アスト。報告会まで存在しているか、判らなかったものね。


 酷いとは思うけど、創造主様達の力を知った今となっては、アストが正しいとしか思えない。

 なにせ、女神の力の片鱗を持っているだけの聖女ですら、激強だったのだ。とてもではないが、平和ボケした戦闘能力皆無のダンジョンマスターが太刀打ちできるとは思えなかった。


 まあ……その更に上を行くのが、我らが兄貴(私の世界の創造主)だったんだけど。


 ろくでなしとはいえ、女神は若い女性(多分。凪からの情報もあり)。顔面から地面に叩き付けるのは遣り過ぎとか思っていたけれど、それが『譲歩した結果』の可能性もあるんだよね。


 あの女神がまともに修行とか、世界の育成をしているとは思えないから、神の基準では弱い気がする。縁が対処できなかったのは偏に、信者数の違いとか、世界への影響を考慮したせいだ。

 そんな奴が、VS異世界の創造主(武闘派)になったら……ねぇ?

 相手からの『手加減した一発』が、致命傷になってしまっても不思議ではないような。


 だが、兄貴(私の世界の創造主)は世界に暮らす命達を慈しんでくれる人である。

 神の力を揮わなかったのは、あの女神が消滅する可能性があったからではあるまいか?


 勿論、あの女神を気遣ったとかではない。兄貴(私の世界の創造主)に限って、それだけはないと言い切れる! 面倒見は良いけれど、厳しいところがあるもの。

 ……。

 女神の消滅は、彼女が担当する世界の消滅にもなるみたいだから、兄貴達(=女神の所業にお怒りの創造主様達)は迂闊なことができなかっただけじゃない?

 創造主たる女神はクズでも、世界やそこに暮らす命に罪はないし。

 まあ、いいや。報告会についての話を進めよう。


「それと、凪を連れていった方がいいみたい。やっぱり、あの女神の一件は大注目だったらしいよ? その説明という意味でも、凪の同行は必須かな。私達だと、この世界で起こったことしか答えようがないし」

「……凪の同行、ですか」


 アストは苦い顔だ。私だって、凪のトラウマを刺激しかねない話題――『神の祝福』を得た切っ掛けとか、これまでの界渡りで起こったことなど――は、できるだけ避けたい。

 ……が、そうも言っていられないことも、よく判っている。


「他の世界の創造主様も降臨したりしたから、誤魔化すのは無理だろうね。そこを突き詰めると、『何故、それが許されたのか』って考えるのは、当然だと思う。聖女の一件は、他のダンジョンマスター達にとっても無視できないことなんじゃないかな?」

「まあ、それはそうでしょう。聖女にとって一番の目的が凪だったとしても、そのために一国を乱すような真似をする輩です。他国に赴く可能性とてありましたから、ダンジョンマスター様方にも火の粉が降りかかるという危機感があったと思いますよ」

「だよねー! あの聖女、この世界のことなんて、お構いなしだったもん!」


 当時を思い出しても、その可能性はあったと思う。『私は創造主たる女神様の命を受け、この世界に来たのですから!』とばかりに、心酔していたからね。

 敬愛する偉大な女神様(笑)の『お願い』は、全てのものに勝るのですよ、彼女の場合。

 そこには当然、『そのお役目に自分が選ばれた』という、誇らしさが見え隠れしている。

 元の世界でどんな生活を送っていたかは判らないが、女神至上主義であることだけは変わるまい。あちらでも似たような態度だったんじゃないかなぁ?


「凪が漸く、様々なものに決着をつけ、我々への遠慮がなくなってきたというのに……仕方のないこととはいえ、酷ですね」

「言うな、アスト。縁だって、同じことを考えたと思う。だけど、必要なことならば、あの子は選ぶよ。それにさ……あんまり言いたくないけど、縁にとっても教訓になる出来事だったよ。『神の力の使い方』や『人との距離感を間違った場合、どうなるか』っていう実例は」

「それは!」


 はっとして、アストは憂いを露にした。……そうだよ、アスト。あれは『今後、うちの世界でも起こり得ること』なんだから。


「あの子は優しい。だけど、縁が望む世界を作るなら、時には見守るだけに留めることも重要。あの女神のような勝手な理由じゃなくとも、縁の優しさが世界の在り方を変えかねない」


 一言で言えば『安易に奇跡を起こすな』ということ。

 奇跡ってのは、どこの世界でも特別だ。だって、『説明のつかない恩恵であり、人には不可能』っていうものじゃない?

 この世界に存在する全ての命可愛さに、そんな奇跡を次々起こしていたら……その対象が創造主というものでなくとも、勝手に信仰が湧くだろう。

 努力し、自分達で困難を乗り越えるより、神に縋って解決しようと考える輩だって出るかもしれない。


 ――だから、『基本的に奇跡は要らない』のだ。ほんの少しの幸運と手助け、それでいい。


 その『幸運』や『手助け』に該当するのが、私達ダンジョンマスターとダンジョンなのだろう。人の手に余る災厄を乗り越えるための英知を、ダンジョンは有している可能性があるのだから。

 この世界にとっては『神の奇跡』という切り札がないような状態だけど、縁の選択は決して、一時のことを見据えたものじゃないのだよ。寧ろ、一番もどかしいのは創造主たる縁。

『力がない』のではなく、『力があっても、やってはいけない』のだ……多くの命が失われようと、そのことに心を痛めようと、縁は自分の立場と己に課した誓いを忘れることはないに違いない。


「……創造主様は」


 不意にアストが口を開く。


「創造主様はお優しい。ですが、ご自分が嘆くことになろうとも世界を歪めるわけにはいかないと、理解なさっているのです。ですから、私はあの方を尊敬しております。……私はあの方の創造物ではありますが、私自身の意思で、あの方を主に戴くことを誇っているのです」

「そうだね、ミアちゃんもきっと同じだと思う」


 頷きつつも、サージュおじちゃんの補佐役を思い浮かべる。男女の性別がなく、姿こそ子供だけど、ミアちゃんはアストよりも年上だ。それを感じさせるのが、時に重い彼女の言葉。

 これまで、色々なことがあったのだと思う。それでも歪むことなく、創造主への忠誠も濁らせない強さを保てたのは、主たる縁の苦悩を知っていたからではなかろうか?


「将来的に、縁がどんな創造主になるかは判らない。あの子はまだ成長期だから。だけど、ダンジョンマスターをこの世界に連れて来た時にできた『えにし』が、あの子を助けてくれればいいと思う。うちの創造主様だって、きっと助けてくれるよ。凪や私の件で知り合っているんだし、私が居なくても何かあったら、ダメ元で連絡してみたら?」


 私からも言っておくからさ! と笑って続けると、アストは何とも言えない表情になった後、薄らと微笑んで私の頭を撫でた。


「……貴女がこの世界に来たことは、創造主様にとって『幸運』なのでしょうね」

「そうかな?」

「そうですとも。凪とて、創造主様のお心を知れば、報告会への出席を快く了承するでしょう。凪の『現在』は、貴女と創造主様、そして多くの者達の尽力の果てに得たものなのですから」


 それが事実なら、嬉しいね。私がこの世界でできることって、本当に些細なことなんだもの。

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