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【広瀬煉】平和的ダンジョン生活。  作者: 広瀬煉【N-Star】
二章
73/117

第三十五話 『創造主、降臨』(アストゥト視点)

「聖……!」


 私は肩を負傷し、他の者達もどこかしら怪我を負ったまま、聖と『聖女』を見つめました。凪さえも排除された今、聖は本当に無力な存在でしかありません。ですが――


『おい、クソ女神とその子飼い。随分と、派手にやらかしてくれたなぁ?』

「……ひ、あ、貴方、は、何故……!」

『自分達は好き勝手やってるくせに、俺が出て来たのが意外か? だけどなぁ、俺は……いや、俺【達】はずっと見てたんだぜ? 何せ、この世界には自分の所の魂が出張してるからなぁ!』


 豪快な声、見たことのないその姿。聖が居たはずのその場所には……二十代後半と思われる金色の髪をした男性が、『聖女』の手をしっかりと掴んでおりました。


「出張……? それは、どういうこと、ですの……?」

『この世界のダンジョンマスターってのはな、ここの創造主が俺達に許可を取って、本人にも納得させた上で、連れて来た奴らなのさ。ちなみに、聖はうちの子だ。……どうだ? うちの聖は。どこぞのクソ女神と違って、力なんてなくても慕われてるだろ?』

「我が神とて、慕われておりますわ!」


 からかうような男性の声に、『聖女』は即座に反応します。憤るあまり、ということでしょう。

 反発する忠誠心はお見事ですが……その方、別世界の創造主様なのですが。おそらくは、この世界の創造主様よりもずっと強く、長く生きていらっしゃるはずですよ?

 対して、男性は『聖女』の抗議を鼻で笑い飛ばしました。この方も、さすが聖の産まれた世界の創造主様というか、随分と宜しい性格をしていらっしゃるようですね。


『ふん、首輪を付けて逃げられないようにしていてもか? そうしてさえ、お気に入りに逃げられる奴が、本当に慕われてるとでも? 世界でさえ、満足に育成できないのに?』

「く……! 世界など、あのお方の箱庭ではありませんか。どうなさろうとも、自由ですわ」

『自分が楽しむことしか考えないから、世界も育たないのさ。なあ、聞こえてるだろ? お前は規定違反の現行犯だ。さっきから必死に逃げようとしているようだが、力の差ってやつが判らないようだな。……ほらよ、捕まえた!』

『……っ……』


 男性が『何か』を『聖女』の体から引き摺り出します。今の話の流れでいくと、握り締めた『聖女』の腕を通じて彼女の神の気配を辿り、捕らえて、引き摺り出したのでしょう。

 ですが、それは奇妙な光景でした。男性が女性らしき腕を掴んでいるのは判るのですが、それ以外の体が見えておりません。腕だけの幽霊、と言った方が判りやすいでしょう。

 ただ、『聖女』にはそれが誰なのか判ったのでしょうね。もしくは、先ほどのように『我が神の声が聞こえない』とでも思ったのか……驚愕の表情を浮かべ、絶句しています。

 男性は怒りを露にすると、『何か』に向かって話しかけました。


『逃げられねぇぞ、クソ女神。テメェ、どんだけ人に迷惑かけてんだ。今度という今度は、容赦しねぇぞ! ……まあ、まずは聖と凪の分だな。歯ぁ食いしばれ!』

「お、お待ちください……!」


 そう言うなり、男性は『何か』を勢いよく、地面へとぶつけました。音は特に聞こえなかったのですが、『聖女』の慌てぶりから察するに、彼女の神とやらが地面に叩き付けられたのでしょう。

 我々とは空間がズレている、といった状態でしょうかね? 見えないので、何とも言えないのですが。

 ……ああ、こちらの面子も唖然としておりますね。怪我はしているようですが、全員大したことはなさそうで何よりです。 聖も……多分、無事でしょう。何せ、あの男性が現在、聖の器に入っていらっしゃるようですから。


『このクズが! 痛いだ、酷いだと喚く資格なんざ、テメェにはないっつってんだろ! 煩せぇ! ああ、お前も邪魔だな。こいつらを怪我させたんだ、少しばかり痛い目を見てもらおうか』

「ひ……お、お許しをっ……ぐ!?」

『黙りな、苦情は受け付けねぇからよ』


 男性は『聖女』の腹に蹴りを入れ、地面に蹲らせると足で転がし、頭を片足で踏み付けました。そして……徐に、私達の方へと顔を向けたのです。


『よう、聖が世話になってるな! 今回も守ってくれて、ありがとよ』


 気さくな態度に流されてしまいそうになりましたが、驚いている暇はありません。即座に自分の状況を思い出し、私は姿勢を正して礼を取りました。


「い、いいえ、滅相もございません。このような姿で失礼致します。聖の補佐役を務めております、アストゥトと申します。聖が居た世界の創造主様……でいらっしゃいますか?」

『おう! まあ、堅苦しいことは止めな。俺のがらじゃねぇ』


 豪快に笑う創造主様は、どこか聖の大らかさを感じさせます。そして、創造主様は近付いて来た凪に、痛々しいものを見るような目を向けました。


『すまなかったなぁ、凪。俺が魔法に疎いせいで、こっちの世界に居る時は苦労したろ?』

「そんなことはない! 貴方は俺を受け入れてくれたし、聖の傍に居ることを許してくれた。俺こそ、貴方の世界を騒がせた。謝罪しなければ……!?」

『いいって! 気にしてねぇよ。……お前はちゃんと謝れるんだな。偉いぞ! だからさ、もう気に病むな。聖だって、心配するぞ? 嫌だろ? そんなのは』


 笑って、凪の頭をがしがしと撫でる姿は、弟を叱り、慰める兄のよう。そんな扱いに慣れていないのか、凪は暫く目を白黒させていましたが、やがて照れたように微笑んで頷きました。


「ああ。もう止めることにする。だけど、これだけは言わせてくれ。最後に生まれたのが、貴方の世界で良かった。この世界の創造主である銀色のあの子も、貴方も、俺にとっては感謝すべき存在なんだ。……ありがとう」

『おう! 今迄が大変だったんだ、こっちで幸せに暮らせよ。こいつは俺達がきっちり〆とくからさ。もう二度と、手出しはさせねぇぞ……ああ、アイツも来るみたいだな』

「は……アイツ、でございますか?」

『ああ、サージュの世界の創造主だよ。お、来た来た』


 男性がそう言った直後、もう一人の男性が姿を現しました。ですが、こちらは器に宿っていないせいか、透けています。

 青い髪に涼しげな目元……サージュ様がいらした世界の創造主様は所謂、インテリ系と称される見た目をしていらっしゃるようですね。


『無事、捕らえたようですね。被害も……怪我程度で済んで、何よりです』

『おお! 聖を筆頭に、こいつらが頑張ってくれたんだよ。さすが、うちの子だ!』

『ふふ、見ておりましたとも。サージュの術式があってこその結果、ということも、お忘れなく。一時とはいえ、人が神の影響力を遠ざけるとは……何と誇らしいことか! いつ見ても、人が足掻き、努力し、成長する姿は良いものです』


 ……。どうやら、創造主様方は揃って親馬鹿のようですね。ま、まあ、今は何も言いますまい。

 やがて、サージュ様の世界の創造主様は、視線を男性の足元……『聖女』と彼女の神へと向けました。そして、彼女達を目にした途端、創造主様の目が壮絶なまでに冷たくなったのです。


『決まり事一つ守れぬ愚か者の末路……惨めなものですね。貴女の身勝手さは世界を不安定にしただけでなく、成長の機会すら奪っていたのですよ。凪は確かに、流れ着いた多くの世界に迷惑をかけたかもしれませんが、全ては彼が足掻いた結果。貴様如きに、あの子は勿体なさ過ぎます』


 女神は何か喚いているようですが、私の耳には聞こえておりません。ですが、創造主様方には聞こえているのでしょう。お二人とも、揃って厳しい表情となり。


『馬鹿に何かを主張する権利などありません。寝言は多少なりとも、賢くなってから言いなさい。貴女如きに見下される者など、ここにはおりません』

『てめぇ、口を縫い付けられたいか?』

「あ~……多分、俺達や聖さんを馬鹿にしたんだな。学習能力のない奴」

「エリクさん、黙りましょう。僕達だって、迂闊なことは言わない方がいいような気がします」

「お、おう、そうだな、ルイ」


 エリクとルイがこそこそと交わす会話に大きく頷きつつ、このような余裕が出たことに安堵してしまいます。



 零か、百か。今回の結末は本当に、両極端の可能性を秘めていました。



 私達はその賭けに勝ち、全員揃っての平穏を手に入れられそうなのですから、少々気を抜いてしまっても、許していただけるでしょう。


『じゃあ、そろそろ帰るわ。クソ女神は俺達が連れて行くが、この女は連れて行けねぇ。任せちまってもいいか? もう神の力は振るえないし、煩いだけのはずだ』

「はい。その程度でしたら、問題ございません」


 すでに何らかの封印が成されたのか、『聖女』からは力が感じられません。本当に普通の、ただの人になってしまったのでしょう。


「そんな……いや……いや! 神の声が聞こえない……気配すら感じられない……!」


 恐慌状態に陥り、髪を掻きむしる『聖女』の姿は、とても哀れに見えました。ですが、同情はいたしません。多大なるショックを受けていようとも、それが現実なのですから。


『じゃあな!』

『機会があったら、語り合いたいものですね。では』


 そう言い残し、お二人は去って行きました。後に残されたのは『聖女』と呼ばれた女性と――


「あ、戻った。……って、皆は無事!? 酷い怪我とかしてない!?」


 器を返却されたらしい聖でした。どうやら、魂はそのまま器にあったようですね。かかった負担ゆえか、顔色は良くないようですが、特に問題はなさそうです。


「お帰りなさい、聖。貴女はどこまでご存知ですか?」

「うん、ただいま。えーとね、体の自由がないだけで、全部見えていたよ。あと、創造主様が掴んでいた女神も見えてた」

「ほう? どのような方だったのですか?」


 興味が湧いて尋ねれば、聖は乾いた笑いを浮かべました。


「いや、顔はあまり見てない。だって、顔面から地面に何度も叩きつけてたから、かなり凄いことになっててさぁ……」

「……。そ、そうですか……」


 それしか言葉がありません。聖も、創造主様と接した凪も無事のようですし、基本的にはお優しい方達なのでしょう。……多分。

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