表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【広瀬煉】平和的ダンジョン生活。  作者: 広瀬煉【N-Star】
二章
72/117

第三十四話 『【聖】の名を持つ者、二人』

『聖さん! ヘルハウンドやゴースト達が特攻を仕掛けていますが、全く【聖女】の相手になりません。やはり、神の力を展開しているようです』

「特攻してくれた皆は、再生可能?」

『それは大丈夫です! やはり、人の身に宿しているせいか、消滅させるまでの力はないようですね。ですが、強さは十分あります。気を付けてください』


『聖女』の様子をモニターで確認してくれている獣人からの報告に、ほんの少し安堵する。良かった、消滅はしないんだ。


「やはり『聖女』は神の力を行使できるようですね。それを確かめるために特攻してくれた者達には、感謝しなければ。偶然ですが、魔物を消滅させる力まではないと判ったことも重要です」


 アストがそう判断すると、途端に場の空気が緩む。


「ってことは、聖さんがヤバい時は俺達が盾になればいいのか。よし、殺ろう!」

「そうですね。他に護衛がいなければ避けるべきですけど、アスト様と凪、それから姉さんが残っているなら、僕とエリクさんで特攻できます。一撃くらいは入れましょう」

「うふふ、その時は任せてちょうだいな」


 ……エリクとルイは別方向に、やる気になってしまったようだけど。ソアラも二人の言葉を聞いているはずなのに、止めるどころか楽しそう。同意するように頷いている。

 いや、その、エリクにルイ? 君達、何をあっさり『殺ろうね☆』って、仲良く決意表明してるの!? 今回の目的、違うでしょ!


「当たり前でしょうが。ルイとエリクは凪と仲がいい。勿論、貴女とも。特に、凪の過去を知ってからは、元凶への怒りが募るばかり。そんな中、元凶に連なる者がやって来たのですよ?」


 ビビる私の心境を読み取ったのか、アストが呆れ顔で解説してくれる。……いやいや、アストさん? 『聖女』は一応強いみたいだし、再生上等で特攻することは望んでないからね!?

 そう思えども、『やられても、消滅しないみたいだよ!』という情報がありがたいのも事実。私はともかく、皆は大丈夫ってことだもの。ヤバイのは私と凪だな。


 ――そんな時、私達が待ち望んでいた知らせが舞い込んだ。


『敵、三階層中央に接近中! そろそろ接触します!』


 途端に、私達は顔を見合わせる。だけど、悲壮な表情をしている者は一人もいない。



 だって、私達は勝つ気なのだから。誰一人欠けることなく、『聖女』を撃退する気満々だ。



「皆、準備はいいかな? それじゃあ、お客様のおもてなしを始めましょうか」


 私のすぐ横には凪、前方にはアスト、エリク、ルイが立ち、背後にはエディとソアラが控えてくれている。私には目的があり、凪は狙われているので、こんな感じになったらしい。

 そこに、白い装束の女性がやって来た。不思議なことに、彼女の周囲はぼんやりと光っている。……これが『神の力』とかいう奴なのだろう。

『聖女』は私達……いや、私と凪を見た途端、嬉しそうに微笑んだ。


「まあ! そちらから来てくださるなんて。すでにご存知でしょうが、ご挨拶をさせていただきますね。私はかの女神様の代行として参りました。そちらの方は、女神様が祝福をお与えになられた者……気配が途切れ、案じておられたのです。ゆえに、私が参りました」


 丁寧な口調に柔らかい物腰、けれど私は彼女が気に食わなかった。理由は、私達を見る彼女の目。

 ……この人、私と凪以外を認めていない。辛うじて、アストも含まれる程度。

 というか、最重要が凪であり、私は『凪を保護した者』という認識なのだろう。アストは銀髪ショタ(神)に連なる者のはずだけど、女神とやらが銀髪ショタ(神)を嘗めきっているなら、取るに足らない存在という認識をしてそうだ。


「初めまして。私は聖。ここのダンジョンマスターだよ。早速だけど、貴女の願いは叶わない」

「まあ、どうして?」


 不思議そうに――叶わないはずはないと、心底思っているような表情と口調に、皆は益々、警戒心を強めたようだ。凪もさりげなく私に近寄るあたり、突然の攻撃を警戒しているみたい。


「彼はすでに私達の仲間であり、ここの住人だからです。何より、凪自身がそれを望んでいる。穏便に済むうちに、お引き取りくださいな。ダンジョンの利用者は歓迎しますが、襲撃者は退去していただく方針ですので」


 にっこりと営業スマイル付きで牽制を。素直に退くとは思っていないけど、こちらの意思を伝えることも重要だ。……他の世界の創造主様達も聞いているからね、この会話。

 意思表示を受け、『聖女』は納得――なんて、するはずもなく。


「あらあら……うふふ、そのようなことに意味はございません。彼……今は凪、かしら? 凪の意志も、貴女達の指示も、全ては無意味。私は我が神のお言葉のまま、行動するのみですもの」


 にこりと笑う『聖女』。彼女の周囲の光が徐々に強くなり、ふわりと彼女の髪や衣服を靡かせる。


「……っ、聖、下がりなさい!」


 アストが焦った口調で私を振り返ると、『聖女』の笑みが残酷さを帯びた。


「そう、その子が全ての中核なのですね……ならば、要らないわ」


『聖女』は私に狙いを定め、宙に手を翳す。……だが、彼女が一歩踏み出した途端、サージュおじいちゃんの術式が発動した。

「っ!? ……くっ……、悪足掻きをなさいます……え?」


 術式が浮かび上がったのは一瞬。何ともないことを不思議に思ったのか、『聖女』は首を傾げ……やがて、自分の力が随分と弱まったことに気付いたらしい。

 顔色を変え、これまでの余裕が嘘のように焦り出した。


「な……何ということを! 我が神の声が聞こえない……いいえ、何て遠くて、弱い! お前達! 一体、何をしたのです! よくも……よくも……!」


 怒りを露にし、『聖女』はこちらを睨み付ける。彼女の纏う光りは随分と弱くなっているけれど、それでも当たれば大参事なのだろう。

 現に、『聖女』の周囲と飛び回る光――見た目だけなら、ふわふわした光の玉だ――が触れた地面が抉れている。これに当たるとヤバイ模様。


「漸く、表情が動きましたね。聖、お望みの通り貴女の名を出して、ターゲットになるよう仕向けましたが……いけそうですか?」


 前を向いたまま、こそっとアストが囁く。その問いの答えは、当然――


「勿論。じゃあ、トドメに行こうか。私が行動したら、間違いなく『聖女』が怒り狂うだろうから、皆はそれに気を付けて牽制を。至近距離になることが重要だから」

『了解』


 視線だけで、皆が了承の意を示す。万が一の時は凪が動くらしく、彼はいつでも私を助けられる位置にいるようだ。他の皆は牽制行動を取り、『聖女』の気を散らしてくれるはず。


 ――それじゃあ、始めようか。


 と言っても、それはとても簡単だったりする。『聖女』にとっては効果覿面、私にとっては当然の、『ある言葉』を口にするだけだからね。



「『聖女』様? 貴女の神に伝えてくれるかな。凪がここに在ることを決め、望んだ、最大の理由はね……『彼が私のものだから』なんだよ」



「な……」


 絶句する『聖女』。そんな彼女へと、私は更に畳みかけた。


「そうよね? 凪。言ってあげないと、あの人はいつまでも諦めないよ?」

「その通りだ。おい、『聖女』。俺が在るのは……在りたいと願うのは、聖の傍だけだ。かつての世界も、『祝福』も、俺には不要。『要らない』んだ。聖の傍に居られればいい」


 私達は嘘を言っていない。嘘なら、即座に『聖女』は見破ってしまうだろう。絶句したのは、それが事実と判ってしまったためだ。

 ただし……『聖女』と私達の認識に差があるだけで。


・私の言葉の解説

『現在の凪の創造者で、ダンジョンマスターだから。【うちの子】扱いしただけです』


・凪の言葉の解説

『聖(=ここのダンジョンマスター)の傍に居れば、自動的に仲間も、自由も、手に入るから』


 私は『凪はうちの子です』と主張し、凪は『ここでの生活が楽しい』と遠回しに言っただけ。ただ、言葉通りに受け止めてしまうと、ちょっと面白いことになる。

 あちらの創造主は女性らしいので、凪の所有者としても、女性としても、負けたように聞こえてしまうのだよ。しかも、凪本人からの盛大な拒絶付き。さぞ、屈辱的な展開だろう。ざまぁ!


「お前……お前如き、取るに足らない存在が、我が神に恥をかかせるなんて……っ」

「招かれざる客は貴女の方でしょうに。貴女の相手は、我々が務めさせていただきますよ」

「邪魔よ、お退きなさい!」

「邪魔なのは貴女です。凪の言葉を理解できないんですか?」

「汚らわしい魔物どもが……っ、こんな、こんな者達に誑かされるなんて……!」


 怒りの表情を浮かべた『聖女』は私に攻撃しようとしてくるけど、皆が武器や魔法で牽制し、私に届くことはない。

 寧ろ、凪が私を守るように抱きしめているので、『聖女』は余計に頭に血が上っているようだった。


「汚らわしい魔物如きが、私を阻むな!」

「……っ」

「アスト様! この……ルイ! 俺ごと殺れ!」

 アストが負傷した隙に、エリクは『聖女』を羽交い絞めにしたらしい。エリクの指示を受け、ルイが魔法を放とうとした時――


「いつ、私に触れることを許しましたか!?」

「ぐ……!? しまった!」

「聖ちゃん! 逃げて!」


 ソアラの声が響く中、エリクを弾き飛ばした『聖女』が私の目の前に迫っていた。即座に凪が庇ってくれるけど、凪もエリク同様に弾き飛ばされてしまう。

 私以外の全員は何らかの攻撃を受けたらしく、『聖女』と私を隔てるものは何もない。


「王子様達は役立たずねぇ、お姫様! 貴女さえ居なくなれば、全て我が神の望むまま」


 勝利を確信した『聖女』が歪んだ笑みを浮かべたまま、私へと手を伸ばす。そして、私は――


「今だよ! 創造主様!」

「何ですって!?」


 予想外の私の行動と言葉に、『聖女』は驚愕の表情を浮かべた。それも当然だろう……だって、私の方から『聖女』に手を伸ばしたのだから!

『聖女』の伸ばされた腕、その手首を、私はしっかりと掴んでいる。――その直後。


『でかした! 聖!』


 力強い声が脳裏に響き、私は体の自由を手放した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アリアンローズより書籍化されました。
Amazonでも好評発売中!
※このリンクは『小説家になろう』運営会社の許諾を得て掲載しています。
広瀬煉先生の他の作品はこちら
― 新着の感想 ―
[一言] 聖女が頭を使わないと突破できないような仕掛けをどう突破したのかの記述が足りないような気がします。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ