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【広瀬煉】平和的ダンジョン生活。  作者: 広瀬煉【N-Star】
二章
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第三十一話 『罠を張ろう。だって、ここはダンジョンだもの』

 私が元居た世界の創造主様からのメールを見たアストは絶句し。


「……。さすが、この二十一歳児を生産した世界の創造主様……」


 深々と溜息を吐きながら、微妙なことを言った。おい、それはどういう意味だ!?


「ちょっと、アスト! そんな言い方はないんじゃない? 一応、勝機が見えたわけだしさ」

「確かに、勝機は見えました。ですがね、聖? 貴女は戦闘能力皆無なのですよ? 一歩間違って倒されれば、このダンジョンはリセットがかかります。……魔物達も当然、巻き添えです。言い方は悪いですが、零か百か……とにかく、結果が両極端なのです。それは判りますよね?」

「うん、判ってる」


 何を今更。そう思いつつ即答すれば、アストはガシッと私の両肩を掴んで揺さ振った。


「ならば何故、あっさり了承してるんですか、この二十一歳児は! いくら拒否権なしとはいえ、存在を賭けるような事態をすんなり受け入れるんじゃありません! たとえ無駄だろうとも、交渉の一つや二つなさい!」

「……。もしかして、心配してくれてる?」

「当たり前でしょう!」


 即答。あまりの勢いに気圧されるけど、私を案じてくれるアストの心が嬉しかった。皆のことも大事にしてくれているアストだからこそ、余計に納得できないのかもしれない。

 ――だけど、これ以外に方法がないのも事実。


「今はまだ抑え込める。だけどさ、異界の神の影響力が増せば手遅れになるかもしれないじゃん? 銀髪ショタ(神)はできる限り世界に影響を与えないようにしているから、この世界の人間とは距離が遠い。異界の神に対し、盲目的な崇拝をする信者が増えまくったら、銀髪ショタ(神)の影響力を凌ぐかもしれないんだよ?」

「それ、は……」


 アストは言葉を詰まらせているけど、その可能性が否定できないことは理解できているだろう。完全に銀髪ショタ(神)の優しさが裏目に出た形だ。


「銀髪ショタ(神)はそれが判っているから、自分からは私に協力要請をできないんだろうね。だから、わざわざあっちの創造主様が私にメールを寄越したんじゃないかな。それにさぁ……見た目重視の言い方になるけど、銀髪ショタ(神)はまだ子供じゃん! これからも問題は出て来るだろうし、一度くらい、自分が守る対象に守られたっていいじゃないの」


 実際には、私は別世界の存在なので、『守る対象』ではないのかもしれない。だけど、それゆえか、銀髪ショタ(神)は時折、甘えるような態度を取ってくる。


(外見年齢的に)お姉さんとしては、助けてやりたいのです。ショタコン呼ばわり、上等です。

 今後、次の機会があるかは判らないからね! 可能性があるなら、賭けたいじゃない。


 アストは何とも言えない表情のまま、強く拳を握った。アストは常に『最善』を選んで行動しているっぽいから、これまでのことを踏まえて……『最良の手段』を考えているのだろう。

 やがて溜息を吐くと気持ちを切り替えたのか、アストはいつもの冷静な姿に戻った。


「判りました。ですが、『聖女』と対峙する時は私達も同行します。貴女一人だけでは、明らかに罠と言っているようなものですからね。こちらの真の目的を悟らせないためにも、護衛役は必要でしょう」


 皮肉気な口調で、あくまでも『策を悟らせないため』と言ってくるアスト。だけど、その根底にあるのが私への心配だと、私は疑っていなかった。遠回しな言い方をするのは、私に罪悪感を抱かせないためだろう。


「判った。お願いね」

「はい」


 素直に頷けば、アストは満足そうに微笑んだ。


「あ! でもアストも気を付けてね? 『聖女』の力が神の力とイコールなら、アストでもヤバいかも。私はもう終了した人生の延長戦だけど、アスト達が消滅する事態だけは避けてね?」

「善処しますよ。……私とて、一人になりたくはありませんからね」

「……! そうだね、まだまだ皆と一緒にいたいもの」


 小さく付け加えられた言葉は、普段ならば絶対に口にしないアストの本心なのだろう。

私がいなくなれば自我がある魔物達も消えるから……自我を保てるのはアスト一人になる。次のダンジョンマスターが魔物達に自我を望まない限り、変わらないのはアスト一人だけ。

 逆に考えれば、アストが今の状況を惜しんでくれているということだ。あらら、余計に死ねない……じゃなかった、もう死んでるから……ええと、負けられなくなっちゃったな。


「とりあえず、サージュ様へとメールの内容を伝えておきましょう。先日の情報は実に有益だったらしく、そろそろ完成しそうだとミアから連絡が来ていましたし」

「サージュおじいちゃん、仕事早っ! さすが、知識が尊ばれる世界の住人!」


 凄いな、サージュおじいちゃん。ああ、嬉々として研究に励む姿が目に浮かぶ……。


「サージュ様の仕事が終わり次第、王城のアルド様へと連絡を取りましょう。凪のことを匂わせれば、『聖女』自身がこちらに赴くはずです。凪の『祝福』のことを知っているなら、対抗できるのは自分だけだと理解できているでしょうからね」


「そうだね、未だに凪を魅了持ちだと思ってるなら、人任せにはしないでしょう。ふふ、今月中に決着がつくなら、来月は改装後初のイベントが開催できそうだ」

「はいはい、そうなると宜しいですね。まったく、相変わらず能天気なんですから」


 そう言いつつも、呆れを隠さないアストの表情はどことなく明るい。未来のことを否定しない程度には、アストの中にも余裕が生まれているということだろう。

 どうやら、事態は一気に好転したようだ。勿論、危険は伴うだろうけど……まあ、何とかなるんじゃないかな? 暗く考えたって、仕方ないもんね!


※※※※※※※※※


数日後、ダンジョンにはサージュおじいちゃん渾身の『影響力抑制の術式』なるものが届いた。意味は判るけど、これがどうして『聖女』の弱体化に繋がるんだろう?


「サージュおじいちゃん、説明お願い。魔法を知らない私にも判る程度に、判りやすく説明してくれると嬉しい」

「ああ、聖は魔法自体に馴染みがなかったのう……うむ、では川に喩えて説明しようかの」

「へ? 川!? って、あの水が流れている川、だよね?」

「うむ。まず、異界の神は『聖女』や聖女の影響を受けた者を通して、力をこの世界に送っておる。異界の神の力を『川』とするなら、『聖女』やそれに連なる者達は川の水を別の川へと水を流れ込ませる、極小さい流れといったところじゃ。その小さな流れを通じて入り込んできた別の川の水が、別の川……この世界を穢している」


 ほほう、一つの大きな川とそこから派生した小さな流れ、ね。


「あ、何か判ったかも。そっか、その『別の川の穢れ』ってのが、この世界に広まりつつある異界の神の影響なんだね」

「その通り! この『穢れ』を失くす、もしくは抑えるには、『穢れ』を運んで来る小さな流れを止めればいい。まあ、それでも加護持ちの『聖女』……最も大きな流れが完全に止まることはあるまい。じゃがな、流れ込む『穢れ』の量をかなり少なくできる。『聖女』が人としてどの程度強いかは判らんが、太刀打ちできんことはなかろう。こちらとて、ダンジョンに生きる者達じゃからな。それに加え、異界の神の助力がある。勝機はあるぞ」

「サージュおじいちゃん、凄い!」

「さすがです、サージュ様!」


 にやりと得意げな笑みを浮かべるサージュおじいちゃんに、皆は拍手喝采だ。いやいや、本当に作り上げたよ、この人。マジで凄いです、長年の研究と蓄積された知識の勝利です……!


「ってことは、これで抑え込んでいる隙に『聖女』に近づけばいいかな?」


 とにかく、私が直接『聖女』に触れなければならない。アストもそれが判っているせいか、出来る限り安全な方法を考えているようだ。


「まあ、そうなりますね。行動前はできる限り距離を取ることが前提ですが……あちらが警戒して、近寄って来ないという可能性もあります。心酔する女神の加護が遠のいたと、『聖女』は判るでしょうからね」

「それに加えて、これはそれほどもたん。抑え込む力が大きいからの」

「ということは、サージュ様の術が発動してからが勝負ですね。それに、いくら弱体化したと言っても、聖が危険なことに変わりはありません。短期決着に持ち込めればよいのですが……」


 アストとサージュおじいちゃんは揃って考え込んでいる。やはり、術が発動した後の『聖女』の行動が気になるようだ。

一時的とはいえ、神の加護が失われたと『聖女』自身に判るならば、『逃げる』という選択もありなのだろう。

 ……が、私とて何も考えがないわけではない。


「多分、大丈夫だと思うよ。『聖女』は逃げないどころか、私に向かってくると思う」

『は?』


 皆の声がハモった。誰の表情にも『そんな方法があるのか?』と書いてある。


「あのね……」


 ――『その方法』を暴露した途端、皆の表情が微妙なものになった。


「聖……貴女という人は……」


疲れた声と表情のアスト、納得の表情で頷いているサージュおじいちゃん、半信半疑といった感じのその他の皆さん。

反応は様々だけど、反対の声は上がらない。内容はともかくとして、効果がありそうだと納得してくれたのだろう。うん、それは私も自信ある。


「絶対に効果がある思う。向こうから食い付いてくれそうじゃない?」

「いえ、確かにそう思いますけどね……!」


 だったら、いいじゃないか。私達は結果を出さなきゃならないんだからさ!

 そんな感じで、めでたく私の意見は採用。さて、アルド君にお手紙を書きましょうか。

凪のことを匂わせれば、『聖女』は絶対にここに来るだろうしね。

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