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【広瀬煉】平和的ダンジョン生活。  作者: 広瀬煉【N-Star】
二章
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第十七話 『同僚がやって来た! 其の三』

 和んだ(?)ところで、サージュさんは私達に謝った。


「すまんな、お前さん達を試させてもらった。儂が言うのも何じゃが、傲慢なダンジョンマスターとそれに倣うだけの補佐であったならば、話が合うとは思えなくてな」

「僕からも謝罪させてください。アストからは一応、聖さんのことを聞いていたんですが……その、どうにも性格が掴めなくって。だから、マスターが二人を試すって言った時も止めなかったんです。いくら同国に存在するダンジョンのマスター同士といっても、一方的に利用しようとする方では困りますので」

「成程、私がミアに相談したからこそ、警戒したんですね?」

「そうだよ、アスト。今の僕にとって一番大事なのは、自分の仕えるマスター……おじいちゃんだもの。勿論、創造主様は別格だよ? だけど、他のマスターが比較対象ならば、僕はおじいちゃんを最優先に考える」


 見た目二十代のアストを相手に、ミアはきっぱりと言い切った。……いや、どちらかと言えば、アストの方が気圧されているような印象すら受ける。

 つまり、ミアはそれだけサージュさんが大事なのだろう。『おじいちゃん』という呼び方からも、日頃の二人の仲の良さが窺えるし。


「そういえば、元の世界の知識が違い過ぎるんでしたっけね、私とサージュさん」

「うむ。儂の世界は知識が尊ばれる世界でな。魔法に限らず、様々な研究がされておった。学者や研究者といった職に就く者も多く、武力よりも知力が優先される傾向にあったと思う。まあ、知力がそのまま魔法に活かされることも、そうなった一因じゃろう。武器による攻撃よりも、魔法による攻撃の方が遥かに強い。また、魔法は様々な方面に活かされるものじゃからな」


 懐かしむように語られる、サージュさんの故郷。私からすれば、ゲームや物語のような世界観に近いそれは、確かに実在する一つの世界なのだ。


「私の居た世界に魔法はありません。その代わりに、様々な技術が発達しているんです。魔力で使えるように改良されていますが、このダンジョンにも幾つかその技術を活かした物がありますよ。技術が様々な方面に活かされているのは、私が居た世界も同じですね」


 理解できるかはともかくとして、一応の説明を。すると、途端にサージュさんの目が輝いた。


「ほう! 異世界の技術を活かした品があるのか!」

「え? え、ええ、ありますよ?」

「是非、見せてほしい! いやぁ、こういった機会があるから、ダンジョンマスターは止められんのじゃよ。儂はまだまだ学びたくて、ダンジョンマスターを引き受けてなぁ」

「「ああ……」」


 サージュさんの食い付き方にちょっと引くも、その理由にアスト共々納得。成程、そういった願いを持って、希望に満ちた異世界就職(?)をする人もいるのか。

 た、確かに、複数の世界の知識に触れる機会のあるダンジョンマスター――この世界が異世界であることに加え、マスター同士の交流もあり――は、サージュさんにとって天職だろう。嬉々として、銀髪ショタ(神)の誘いに乗ったに違いない。

 ……その割には、アストが呆気に取られているのが気になるけど。


「アスト、知ってた?」

「知りませんでした! この国のダンジョンマスターが揃って、引き籠もり願望者とは……!」

「引き籠もり願望者って……。でも、本当に意外だね。私、この国だったら、平和にダンジョン運営できそうだわ」


 頭を抱えるアストには悪いが、私からすればラッキーだ。人類の敵を地で行けそうなダンジョンマスターとは気が合わないだろうけど、学ぶことが大好きな学者気質のダンジョンマスターなら仲良くできそう。



 特に、引き籠もり願望とか、自分に素直に生きる方向性が素敵。とても共感できる気がする。



 そうと決まれば、同類様にもしっかりとアピールせねばな! 目指せ、お友達への第一歩!


「私、サージュさんと仲良くできそうな気がします。折角ですから、色々と経験していってくださいね。食事や技術を活かした電化製品……えーと、今は魔力製品、かな? それ以外にも、温泉とかありますよ。温泉の効能……成分が人体に及ぼす影響なんかも、異世界の知識でしょう?」

「お? おおおおおお! す、素晴らしい場所だな!? 久方ぶりに興奮してしまう!」


 提案すれば、これまでの落ち着いた姿から一転、サージュさんは大興奮。馴染みがない物ばかりなので、さぞ、サージュさんの学者魂を熱く揺さぶったことだろう。

 さて、お菓子を堪能し終わったらしい、もう一人のお客様はどうしようか。


「ミアちゃん、でいいかな? 貴方はどうする? サージュさんのサポートは当然として、食事もしていったら? お土産のお菓子も用意してあるから、良かったら持って帰ってね」

「いいんですか!? わーい、是非! ああ、僕のことはお好きにお呼びください」

「良かったな、ミア」

「うん! おじいちゃん!」

「喜んでもらえて何よりですよ」


 ミアちゃんは補佐役だし、時折見せる落ち着きといい、この無邪気さも作られたものかと思っていたけど……どうやらこれは素の性格らしい。わざとらしさは感じられなかった。

 寧ろ、大喜びするミアちゃんの姿に、つい微笑ましくなってしまう。目を細めるサージュさんとの遣り取りといい、本当に『おじちゃんと孫』という関係がぴったりだ。

 二人がどれだけ長い時間を共に過ごしてきたのかは判らないが、家族のような関係を築けたからこそ、彼らは穏やかな時間を過ごせたんじゃないのかな。

 そういう意味では、うちも負けてはいない。ダンジョンに暮らす魔物どころか、挑戦者達さえ笑顔で過ごせる平和な娯楽施設ですぞ? うん、私は間違っていなかった!


「もう、いいです……このようなマスターの方が、聖と仲良くしてくれそうですから……」


 呟いて深々と溜息を吐くと、アストは気持ちを切り替えたのか、姿勢を正してサージュさんへと向き直る。アストの纏う空気が変わったことを察したのか、サージュさん達もじゃれ合いを止めて、アストの言葉を待ってくれた。


「サージュ様。お聞きになられたように、聖の持つ知識はこの世界と差があり過ぎるのです。特に、魔法や魔力といった要素を絡める場合は難易度が高い。何らかの形で根付かせる場合、お力をお貸しくださいませんか? ……聖! 貴女からも頼んでください! 空気洗浄機のように外へ流出させる場合、我がダンジョンだけでは限界があります。魔法に通じた方のご意見とて、必要になる時が来るかもしれないのですから」

「ちょ、アスト、頭を押さえなくても、きちんとお願するってば! ……えーと、お聞きになった通りです。いつか助けていただく時が来るかもしれないので、相談に乗っていただけると嬉しいです。その代わりに出来る限り、こちらの知識が理解できるよう助力します。あと、ミアちゃん用のお菓子の横流し」

「ひ~じ~り~?」


 付け加えた内容に、アストがジト目を向けてくる。いや、だってさぁ……。


「あれだけ喜んで食べてくれるし、サージュさんとお茶すればいいじゃん。孫との一時が癒しになるって! ストレスは思考を鈍らせるよ? 温泉で疲れを癒すのもありだと思う」

「う……まあ、否定はできませんが」


 経験者であるアストは言いよどみ、視線を泳がせた。そこに響く、サージュさんの笑い声。


「く……はははは! やっぱり、お前さん達は楽しいの。うん、構わんよ。こちらこそ、仲良くしておくれ。儂もこちらで学ぶことが多そうだ。今から楽しみで仕方ないわい!」

「良かったですね、おじいちゃん。僕も嬉しい」


 楽しげな祖父と孫な二人に、私達は微妙な表情で顔を見合わせた。


「……。あれで良かったみたい」

「……もはや、何も言いません」


 ――その後。


 サージュさんとミアちゃんは温泉、食事、魔力で動くように改良された電化製品の一部といったものを堪能。私達との友好を深めまくった挙句、酒やお菓子といったお土産の山と共に、ご満悦で帰還あそばされた。

 ……が、そこは先輩ダンジョンマスター&補佐。さらっと爆弾を落としていくことも忘れない。


「そういえば、ミアちゃんて女の子? あ、違ったらごめんね!」

「いいですよー。聖さん達だったら大丈夫そうなので、暴露しちゃいますね。えっとですね、僕に性別はありません。異性や同姓に苦手意識を持つマスターがいらっしゃることを想定し、そうなっています。警戒心を抱かせない意味でも、この年齢設定なんですよ」

「へぇ! それで『性別不明・子供の姿』なんだね」


 凄いな、銀髪ショタ(神)。安定の、気遣いです。


「ちなみに、僕はアストよりも先輩です。僕の方が先に作られたんですよ」

『はぁ!?』


 えへへ、と照れながら追加された情報に、その場に居た全員が一斉にミアをガン見した。お、おう、それでアストに対して、妙に余裕がある態度だったのか……!

 だが、私達の驚きはこれで終わらない。更に、驚愕の暴露が控えていたのだ。


「おじいちゃんも古参の方ですよ? ただ、研究に没頭するために、強力な魔物達を作り出して見張らせているので、『ドラゴンの巣窟』とか言われちゃいまして。最初の国が滅亡したり、天災で地形が変わって道が閉ざされたこともあって、廃れちゃったんです。こちらのダンジョンが首都のすぐ近くにあることも原因でしょうね」

「いつ頃かは忘れたが、ある時から、えらく静かになったのう。まあ、儂としてはありがたいが」



 ダ ン ジ ョ ン 、 廃 業 紛 い に な っ て や が る … … !



「サージュおじいちゃんといい、もう一つのダンジョンといい、凄いんだねぇ」

「サージュおじいちゃん?」

「あ、すみません。つい、そう呼んじゃった」


 思わず漏れた呟きを聞かれてしまい、素直に謝罪すれば……何~故~か、サージュさんは真顔で私の肩に手を置いた。え、謝ったよね? 駄目でしたか、サージュ先輩。


「よし、これからはそう呼んでおくれ」

「へ?」

「サージュおじいちゃん……良い響きではないか。賢い孫が増えるのは、大歓迎だ。ミアを交えて議論するのも悪くはない! ああ、言葉遣いも普通でいい」

 何やら妄想し、一人頷くサージュさん。ミアはキラキラとした目で、私が頷くのを待っている。


「……。じゃあ、今後はサージュおじいちゃんで」

「うむ!」

「宜しくねー! 聖さん!」

 そんなわけで、もう一つのダンジョンとの交流会は大成功。そして、私にはこの世界での祖父……保護者ができたようです。

 ……。

 宜しくね、サージュおじいちゃんとミアちゃん!

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