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【広瀬煉】平和的ダンジョン生活。  作者: 広瀬煉【N-Star】
二章
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第十四話 『世界共通の苦しみ=友好の架け橋』

 そんなわけで、私は早速、銀髪ショタ(神)へとお伺いを立てた。貰ったばかりのスマホがとってもお役立ちです。

 ……で。即座に来た、銀髪ショタ(神)からの回答は。


『え? 空気洗浄機の譲渡? うーん……どうせ、外の人達には作れないだろうから、いいよ』


 という、非常にあっさりしたものだった。


『だって、魔力で動くように改良されたとしても、本体は聖の世界のものなんだよ? 今後、【この世界にある素材を使って作り出された、同じ効果を持つ類似品】が出回る可能性はあっても、【同じ物】は作れないからね』


 さすが、幼い外見だろうとも創造主。自分の世界をよく判っておいでです。


「うわ、めっちゃ正論だわ。そっか、永続する物じゃないから、壊れたら回収したり、劣化させた挙句の消滅ってのも可能だもんね」

「それだけではありません。この世界の人間達もそれは理解しているでしょうから、必要ならば、自力で作り出そうとするでしょう。『似た物』を作り出す切っ掛けにはなるでしょうね」


 アスト共々、銀髪ショタ(神)の見解に素直に感心。空気洗浄機とそれを渇望する人達の必死さが、『この世界の技術の発展を促す切っ掛け』になるとは思わなんだ。


「単純に『この世界に空気洗浄機を放出しちゃっていい?』的な聞き方だったんだけど、そういった捉え方もあるんだね。あの王子様の必死さを想えば、納得だわ」


 いや、彼らからすれば心底、切実なのだろう。

 私は花粉症に縁がなかったけど、重症になる人にとっては地獄の季節。しかも、引き籠もれないというおまけ付き。



 不憫。とても不憫。王族であることに、これほど同情されるケースも稀だろう。

 身近な症状だからこそ、多くの同志達に支持されるに違いない。恐るべし! 花粉症。



「では、魔力で動くように改良された空気洗浄機を数個用意してくれるよう、依頼しておきます」

「頼んだ。私は花粉症対策グッツを適当に通販しておくよ」


 花粉対策眼鏡とかマスクの他に、目薬といった症状が軽減されるものも必要だな。真っ赤な目で涙を流し、くしゃみと鼻水が止まらないのに、王族としての威厳を保てとか、無茶過ぎる。


「そこまで深刻になるようなことなのでしょうか」


 半ば、呆れたように呟くアスト。そんなアストの姿は、アドルフさん達との話し合いの場にいたルイ達と被る。というか、同じ世界出身の凪以外は、誰に聞いても似たような反応な気がする。

 アスト達とて、私と知識の共有は成されているはずだから、花粉症の悲惨さは知っているはず。ただ、私自身が花粉症とは無縁だったので、『知識として知っている』という状態なのだろう。

 多分、そこらへんが余計に『他人事』と認識してしまう原因だな。凪以外はあまり深刻に捉えておらず、困惑気味なんだよねぇ……アドルフさん達に同情するまでには至らないというか。


「まあ、そう言わないでやってよ。この世界への貢献になることは事実なんだし」

「それは……まあ、そうなのですけど」


 未だ、納得していないようなアストを宥めつつも、私達は其々動く。プロ意識が高いアストは、自分が納得できなくともきっちり仕事をしてくれるので、任せておいても問題ない。


 ――そんなわけで、あっという間に十日が過ぎ。


「えーと、お約束の物です。説明書を作りましたので、こちらを参考にしてくださいね」


 空気洗浄機を始めとした花粉症対策グッツ各種を見せながら、説明書を差し出した途端――


「ありがたい!」

「ぬおっ!?」


 私はアドルフさんに、力の限り抱きしめられたのだった。

 う、うん、嬉しそうで何よりですよ。でも、私がダンジョンマスター(=人外)ってことを思い出せ? 忘れちゃ駄目でしょ!?


「殿下! 落ち着いてください、殿下!」

「ん? お、おお、すまんな! 喜びのあまり、女性に対する礼儀を忘れてしまった」

「……お気になさらず」


 抱き潰されかけている私を気の毒に思ったらしい護衛の騎士さんによって、引き剥がされたアドルフさんはとても……とても嬉しそうだった。どうやら、随分と辛い時間を過ごしてきた模様。

 とは言え、今回の譲渡アイテムだけで花粉症がどうにかなるはずはない。説明書とは別に製作した『花粉症対策マニュアル』を新たに取り出し、アドルフさんへと渡す。


「いいですか、大事なのは『空気洗浄機の使い方』です。まず、稼働させる室内はできるだけ密閉された状態にしてくださいね。あと、洗濯物を取り込んだ後は、空気洗浄機の前でよく振って花粉を落とすことも効果的です。これは専用の部屋を作った方がいいかと」

「なるほど。……で、この眼鏡らしきものと、これは……薬か?」

 素直に頷き、真剣にマニュアルに目を通しだすアドルフさん。その流れで、花粉症対策眼鏡と目薬にも興味が湧いたらしい。


「そちらは花粉を目の粘膜に付きにくくする眼鏡、他にはマスクと目薬です。目薬はこんな感じで、目に点眼してください」


 説明しつつ、自分用の目薬――疲れ目対策用のもの――をポケットから取り出し、差して見せた。勿論、アドルフさんにも実践してもらう。

 使い回しは良くないけれど、私は現在、普通の体ではないので問題はないだろう。


「む……少々、難しいな。……っ」

「慣れですからね。どうですか?」


 刺激に驚いたのか、アドルフさんは瞬きを繰り返す。――そして。


「いいな、これは! 適度な刺激といい、目に染み渡るようだ……!」


 感激してた。……そういえば、書類仕事が常でしたっけね。もしや、日常的に疲れ目でしたか。


「お渡しした物は全てサンプル……というか、効果があるかを実践するためのものと思ってください。アドルフさん一人ならば十分かもしれませんが、広い場所……謁見の間や客室にも空気洗浄機を置くならば、数が全然足りないと思います」


 言いながら視線をそちらに向けると、アドルフさんは暫し考え込み。


「……そうだな、足りない。だが、今回はあくまでも特例というか、貴女の好意によるものなのだろう? これでも好意的に付き合っていきたいと思っているんだ。過剰な要求を当然と考えるような、恥知らずになるつもりはない」


 苦笑しながら、首を横に振った。

 そんなアドルフさんの態度は、私以外の目にも好印象に映ったらしい。同席しているアスト達は彼の誠実さに、素直に感心しているようだ。

 ――これならば、ダンジョンのイベントにお誘いしてもいいだろう。

 そう判断したのはアストも同じらしく、視線を向ければ、頷いて許可を出してくれた。


「アドルフさん、実はこんな企画があるのですが」


 言うなり、ぺらっと一枚の紙をアドルフさんの前に差し出す。通販したコピー機をフル活用して作られたそれは、『ダンジョン改装記念のイベント告知のチラシ』。

 まだ詳細が煮詰まっていない企画だけど、実行することだけは確実なイベントだ。


「『ダンジョン改装記念として、期間限定でポイント制を実装』……?」

「判りやすく言うと、このイベントの開催期間の宝箱は全て『ポイントカード』になるってことです。集めた点数によって、希望の商品と交換可能になります。一階層しか探索できないようなパーティでも、何回も探索してポイントを溜めれば、希望の物を入手することも可能です」


 どちらかと言うと、低レベルなパーティや已むに已まれぬ事情でダンジョンに潜る人への救済だ。ただ、『孤児院の皆にお菓子を食べさせてやりたい』という人もいるので、それなりに需要はあるだろう。

 高ポイントの景品はまだ決まっていないので、アンケートを取るつもりだ。


「下に進むほどダンジョンの難易度は上がりますから、得られるポイントも高得点になってくる仕様です。挑戦者がやる気を出すようなものを景品にしたいので、改装直後にアンケートを取る予定になっております。そちらのご希望があるならば、空気洗浄機を含めた花粉症対策用品も景品に加えましょう」

「本当か!?」

「はい。我らがダンジョンマスターのご意思です。他国の方であろうとも歓迎せよ、と」


 優雅に微笑むアストの言葉に、アドルフさん達は歓声を上げた。ただ、その微笑ましい光景を眺める私としては、非常~に居た堪れない。

 ……あの、アストさん。そのダンジョンマスターは私なのですが。いかにも『支配者からの指示!』的な言い方したけど、実際はそんなことなかったでしょ!?



『アスト、アスト、アドルフさん達も誘っていい?』

『構いませんが、自分できちんと説明するんですよ』

『はーい』



 以上、私とアストの遣り取りであ~る。

 ……主従というより、『保護者に何かを強請るお子様』の方が絶対に近い。アストの服の裾、引っ張って強請ったしな!

 そんなことを考えていると、私はアドルフさんに両手を握られた。


「感謝する、ダンジョンマスター……いや、友として聖と呼ばせてもらう! アマルティア姫関連のことなら、私はいつでも君達の力になろう。彼女を黙らせるための証拠も幾つかは所持している。何なら、王に掛け合ってもいい」

「あら、本当? じゃあ、何かあったらお願いしてもいいですか?」

「任せておけ! では、そのイベントとやらが開催される前に連絡をくれ。できれば半月ほどは余裕が欲しい。……これを使ってくれ。私の所へ直通で手紙が届く」


 力強く頷きながら、アドルフさんは私へと丸められた何かを手渡した。開いてみると、何やら魔法陣らしきものが描かれている。


「手紙用の転移法陣だ。対の陣がある場所へと届ける。これは手紙や小さな物しか送れないが、君達を信頼する意味でも渡しておこう」

「……判りました。その信頼に応えてみせますよ」


 私も笑顔を返す。王族である以上、これを私達に渡すことには反対があったに違いない。それでも押し切ってくれたのは、アドルフさんなりの誠意を示すゆえ。

 他国とはいえ、私達は強力な味方を得られたようだ。ギブ&テイクな関係だろうと、今はそれが喜ばしい。アマルティアが何かを企もうとも、今後は何とかなるだろう。

 ……。

『アマルティアは花粉症に負けた』っていう、笑える事情もあるしね! 後でエリク達にも教えてやろうっと!

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