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【広瀬煉】平和的ダンジョン生活。  作者: 広瀬煉【N-Star】
二章
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第十二話 『話し合いは別方向に脱線中』

 仲間意識っぽいものが芽生えた私達――アマルティアのお蔭、とは言いたくない――は、とりあえず自己紹介をすることになった。

あちらの面子は元婚約者の王子様と護衛の騎士達、こちらはダンジョンマスターの私、当事者兼被害者のエリクと凪、護衛のルイ、仲裁役の常識獣人エディ。

 エリクと凪は完全に当事者なので、アマルティアがやらかした『あれこれ』(意訳)の証人としても必須。エディはその穏やかな性格を買われ、口論紛いになった時の抑え役だ。

 なお、アストはこの場に居ない。アストが居ると、見た目でダンジョンマスターたる私が軽んじられる可能性があることが大きな理由。そして、私達の安全を確保するためでもあった。

何らかの不都合が起きた際、問答無用にあちらの皆様をダンジョンから叩き出すべく、アストは居住区の一室にあるモニターでこの場を監視しているのだ。第三者というか、こっそり全体を見渡せる状態にある方が、冷静な対処をしやすいからね。

 その代わりとでもいうように、ネリア二匹が愛玩動物の振りをして私の足元に控えている。

見た目こそ大型猫だが、ネリアは人を狩れるのだ……私に危険が迫れば速攻で牙を剥いてくれる、頼もしい毛玉様ですよ。この話し合いが終わったら、おやつをあげよう。

 さて、話し合い……の前に。


「あ、ちょっと待ってくださいね。折角ですから、綺麗な空気の中でお話ししましょう」

「ん? あ、ああ、まあ、構わないが」


 一言、断りを入れて、部屋の隅に備え付けられた空気洗浄機へと向かう。ネリア達が居ることもあるけど、獣の毛や埃なんかの対策として、元の世界から買ったのよね。勿論、電化製品は全て魔力で動くように改良されている。


「……? 一体、何をしてるんだ?」

「フィルターの交換ですよ。定期的にお掃除とフィルター交換が必要なので」


 言いながらも、さくさく作業。今は予備のフィルターに交換するだけで、掃除は後からすればいい。地味に手間がかかると言うか、マメなお手入れが必要な一品です。

こういったものは慣れが必要なので、まだ魔物達に頼むよりも私が動いてしまった方が早い。それに……エリク達にはあちらの面子を見張ってもらいたかった。


「いや、それは何をするためのものかを聞きたいのだが……」


 作業を終えて席に着くと、元婚約者様に困惑気味に尋ねられる。あちらの騎士達も一様に、怪訝そうな顔を私へと向けていた。


「あれは空気洗浄機と言って、室内に漂っている埃や獣の毛などを取るものですよ。匂いなども勿論ですが、それらによって引き起こされるアレルギー……ええと、くしゃみとか目の痒みなんかを防ぎます。空気中に漂う細かいもの……花粉なんかの除去効果もありますよ」


 閉鎖空間だからね、ダンジョンって。人の出入りが多いこともあり、居住区や休憩所といった場所には空気洗浄機が置かれ、できる限りクリーンな空間を目指しております。

『何か、空気が澄んでるんだよな、このダンジョン』といった感じに、挑戦者の皆さんにも好評さ。

他のダンジョンは当然ながら埃っぽかったり、じめじめしてたりするらしいしね。娯楽施設としては、人が訪れやすい環境も必要なのですよ。

 ……が、私が空気洗浄機の解説をした途端、元婚約者様の目が輝いた。


「すまない、もっと詳しく教えてくれないか!?」

「は?」

「できれば、我が国でもそれが稼働できるのかも教えて欲しい!」

「……いや、その、落ち着いて? ここに来た目的が違うでしょ、貴方達」

「たった今、最重要事項は変更した! よって、何の問題もない!」

「ええ~……いやいや、駄目でしょうが、それ!」


 先ほどまでの冷静な態度はどこへやら? 身を乗り出さんばかりの元婚約者様の食い付きっぷりに、呆気に取られていると……何~故~か、あちらの騎士達も一斉に懇願を始めてしまった。


「お願いします!」

「何卒、何卒、ご慈悲を!」


『 興 味 が あ る 』 ど こ ろ で は な く 、 必 死 だ 。


お 前 ら 、 少 し は 落 ち 着 け 。


「と……とりあえず、先にアマルティア姫の一件について、事実確認をしませんか?」


 あまりの勢いにドン引きするも、とりあえず事情説明。というか、内容だけは実にシンプルなので、サクッと終わらせてしまいたいのが本音。


「そ、そうだな。すまない、始めてくれ」


 自分の必死さに気が付いたのか、誤魔化すように咳払いした元婚約者様。そんな彼らに生温かい目を向けつつ、私は事情説明を始めた。

王様がどんな風に話しているかは知らないが、あまりにも内容に差があるようなら、待ったがかかるだろう。

 私達としても、一方的に悪者になってやる気はない。それを証明するためにエリクや凪をこの場に連れて来たから、反論できる要素は十分だ。


「まず、全ての発端はアマルティア姫の日頃の行ないです。被害者の証言によりますと……」


 あちらが落ち着いたのを確認して、話し始める。――エリクと凪がこのダンジョンの住人となるに至った、数か月前の騒動を。



『ダンジョン側から見た、アマルティア関連の出来事の流れ』


・身分的な問題で逆らえないのをいいことに、婚約者がいるはずのアマルティア姫が気に入った騎士に付き纏う。


 ↓


・国としての状況の拙さ――アマルティア姫の婚約者は他国の王族であり、この婚約は外交――を憂えた忠誠心ある騎士が、被害に遭っていた騎士をダンジョンで殺害。


              ↓


・ダンジョンで魔物化した被害者によって事情を知った私達が、国に抗議。王は処罰を約束し、魔物化した騎士は自らの意志でダンジョンに留まった。


              ↓


・その後、王の対応が気に食わなかったアマルティア姫は召喚されていた異世界人をダンジョンに向かわせ、殺し合わせようとした。

……が、その異世界人は召喚そのものに憤っており、信頼できるダンジョンに身を寄せることを選んだ。



「細かいところはともかく、こんな感じですよ。元凶・暗躍がアマルティア姫という感じであって、他の人達は国のために動いたというか」

「ああ、王より伺った話と一致するな。アマルティア姫は随分と自分を悲劇の姫のように言っていたが……私を含め、誰も信じていなかったと思う。まあ、元から大して仲良くはないのだが」

「うっわ、あの女懲りてないのか! この期に及んで反省なしとか、最低だ!」


 思わず吐き捨てれば、元婚約者様は同意するように頷いてくれた。


「元より、あまり性格が宜しくない姫だったからな。これまでは無邪気さのせいにできただろうが、二回もやらかしている以上、本当に懲りない方なのだろう。私としては、我が国に迎え入れずとも良くなったことが喜ばしい」

「おめでとうございます! とんでもない不良物件から逃げ切りましたね!」


 祝福すれば、力強く頷かれた。……この人、本当にアマルティアとの結婚が嫌だったんだな。この様子だと恋愛感情以前に、『あの問題児を我が国に!? 冗談だろ!』な心境だったと思われる。

 それに『王より伺った話と一致する』と言っているから、王様は私達との約束通りきちんと対応し、正直に婚約解消に至った事情を話したのだろう。

 ただ、ダンジョンが関わっている上、死人まで出ているとなれば、こちらからの事情聴取も必須。加えて、ここは『殺さずのダンジョン』と呼ばれる、ちょっと変わったダンジョンだ。

興味を覚えて、自ら足を運ぶことにした……といった意味もあるに違いない。

 王族という立場なのに、この婚約者様は随分と公正に物事を見てくれる人みたい。アストが心配したように、魔物だからとこちらを一方的な悪には見ない模様。

 だが、事態は予想外の方向に進んだらしい。あっさり……本当に超! あっさりとアマルティア関連の事情聴取を終えると、元婚約者様は再び私へと向き直った。

あまりにも強い眼差しに、後ろ暗いことがないにも拘わらず、冷や汗が垂れる。


「祝福ついでに、先ほどのことについて教えてくれないか? 話を聞く限り、実に心惹かれる効果があるようじゃないか。条件によっては、私と取引してもらいたい」

「へ? 空気洗浄機が、ですか?」

「ああ。君達との関わりが、私にとって人生を左右するほどの出来事かもしれん!」


 ……。

力説しとりますがな、この王子様。護衛の騎士達も諫めるどころか激しく同意し、主に賛同中。


護衛の騎士達よ、その『お労しい』って言葉はどういう意味だ?

 空気洗浄機って、別に病気を治したりする物じゃねぇぞ?


「とりあえず、話を聞いてみたらどうでしょう?」

「ですよねー……聞くだけ、聞いてみようか」

「感謝する!」


 エディに促され、急遽、この場は『空気洗浄機説明会』へ。さて、何を言われるんだろうね?

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