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【広瀬煉】平和的ダンジョン生活。  作者: 広瀬煉【N-Star】
二章
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第十話 『話し合いと予想外の知らせ』

 凪が悪夢を見てから数日。私とアストは部屋で話し合っていた。


「悪夢……凪の過去ですか」

「うん。それも話を聞く限り、凪が悪いって思い込ませるような感じだったらしい」

「まあ、自分が巻き込んでしまった者達に罪悪感を抱いているようですから、そういった夢を見ても不思議ではありません。ただ……」


 言いよどみ、アストは目を伏せる。何かを考えていることもあるだろうけど、私や凪同様、もやもやとしたものを感じているのだろう。……嫌な予感、とも言う。

 凪の性格からして、自責の念や罪悪感のあまり悪夢を見た……という可能性も否定できない。だが、凪は一連の出来事を『どうしようもなかったこと』と認識できていたはず。

しかも、今現在は私のダンジョンの魔物となっているため、いくら自我があろうとも、そこまでネガティブな夢を見るか? という疑問も湧く。

 何かきっかけになるような出来事があったとかならともかく、ダンジョンの運営は平穏そのものなのだから。


「貴女がそんなことを相談するくらいに、凪は気にしていたのですか?」

「うーん……気にしていたか、と言えば、気にしていたね。だけどさ、ちょっとおかしいんだよ」

「おかしい?」


 私の言い方が気になったのか、アストが目を眇める。視線で続きを促すアストに、私は自分なりの見解を述べた。


「その直後のお茶会では、凪は物凄く普通だったの。お茶会面子にも悪夢の話はしたんだけど、吃驚するくらい平然と話していてね。ルイが『今は平気なんですか?』って聞いたら、凪も困惑してた。『そういえば……皆といるせいか、事実として口にしている感覚しかないな』って」

「ふむ、状況的にはおかしくはないでしょうね。皆の姿を目にしているから、過去と決別している現在を実感できるでしょうし」

「だけど、自責の念や罪悪感から悪夢を見たなら、私達がいても関係なくない? それにさ、もう一個気になることがあるんだよ……サモエド、凪を起こす時に呻ったんだ」

「は? 唸り声なんて上げるんですか? あの、愛想を振りまきまくっている、平和な顔した生き物が……? 聞いたことありませんよ」


 冗談でしょう、と言わんばかりのアストに、つい、同意するように頷いてしまう。アストどころか、私だって聞いたことはない。『あの鳴き声が可愛い』とは言われても、唸り声を聞いた人は皆無のはずだ。それゆえに、アストから『平和な顔した生き物』と言われているのだから。


「マジ! それに……凪は中々起きなかったんだよ。しかも、悪夢から目覚める切っ掛けが、サモエドの唸り声と私だったんだって」

「……」


 アストは難しい顔をしたまま、黙り込む。さすがに、こうなってくると『偶然でしょう』とは言えないらしい。

 特に、アストは凪と戦ったことがあるから、『唸り声を上げられるまで目覚めなかった』という点が、非常に奇妙に聞こえるのだと思う。


「幼いとはいえ、サモエドはフェンリルです。不穏な気配を感じ取り、凪への干渉を断ち切ったとも考えられます。そして、聖の存在。ダンジョンマスターとしても、個人としても、聖は凪にとっての絶対者ですから、貴女の言葉が最優先と認識しているでしょうね」

「干渉が断ち切られていれば、私の存在が悪夢よりも勝るってこと?」

「当然でしょう。というか、このダンジョンの魔物になって以降の凪の落ち着きは、貴女による存在の肯定が大きいと思いますよ。凪がどのような存在だろうとも、どんな過去があろうとも、貴女は己の行動を後悔することなく、受け入れたのですから」

「そっか」


 それが事実ならば、素直に嬉しいと思う。何より、今後、凪が元の世界からの干渉を受けたとしても、私が凪の手を離さない限り、大丈夫ということじゃないか。


「とりあえずは、様子見ですね」

「だよね。あ! 凪にはサモエドの世話を頼もうか。サモエドも心配してるみたいだし、エリクとセットで暫く凪と一緒に居てもらおう。またおかしな夢を見たら、要相談ってことで」

「それでいいと思います。創造主様にも一応、私から伝えておきましょう」

「うん、お願い」


 頷き合って、私は肩の力を抜いた。やはり、どこか緊張していたようだ。アストに相談して今後の方針が決まったことで、安心できたんだろう。


「さて、それでは休憩にしましょうか。使い慣れない頭を使ったんです、労わって差し上げますよ。まあ、新米ダンジョンマスターとしては上出来、といった感じですね。支配者としての自覚とまではいきませんが、配下を労り、些細なことに気付けるのは良いことです」

「う……煩いなあ! 素直に『よく気付きましたね。成長したね!』っていう、褒め言葉だけでいいじゃない!」

「そこまで褒めるほどのことではないかと。調子に乗るんじゃありません」


 言いながらも、慣れた手つきでお茶を淹れ、お茶菓子を出してくれるアスト。……口調はともかく、労わってくれているようだ。やはり、慣れないこと――悩む――をしたと思われている模様。

 その後、アストと二人で呑気にティータイムを楽しんでいると、唐突に通信を知らせるアラームが。エリクの時のことを思い出し、固まる私。対して、アストは涼しい顔のまま。

 ……。


 そういや、まだ改装中だったっけね。


 焦るような案件なんて、銀髪ショタ(神)が持って来るものくらいだろう。ああ、アストがアホの子を見る眼差しを向けてくる……!


『聖さん! アスト様! ダンジョンの入り口に手紙が置かれていました。監視カメラの映像を見る限り、手紙を持って現れたのは騎士のようですが……この国の者ではないようです』

「は? 他国の騎士?」


 何だ、それは。わざわざ他国から出張してきた……なんてことはないよね?

 だが、アストは大して驚くこともなく、呆れたような視線を私に向けると、溜息を吐いた。


「落ち着きなさい、聖。……ありえないことではありませんよ。このダンジョンの特異性を聞き、興味を持ったのかもしれません」

「そんなこともあるんだ? ダンジョンは自国にもあると思うけど」

「ダンジョン毎……いえ、在籍するダンジョンマスターによって、そのダンジョンには特徴が出ます。聖の場合は……まあ、毛色の変わったダンジョンがあるとでも思われましたか」

「微妙に暈した言い方、ありがとう。素直に『イロモノダンジョンだと思われてるんでしょう』と言ってくれてもいいのよ?」

「却下します。私も在籍している以上、奇特な評価は遠慮します」


 しれっと言い切り、『私は違いますよ。ええ、別物です!』と態度で主張するアスト。そんなアストに対し、私は生温かい目を向ける。


「今更じゃん。私達は運命共同体にして、評価も共同。イロモノダンジョンの補佐役様?」

「喧しい! そう思うなら、少しは真面目におやりなさいっ!」

『……。あの~、仲が宜しいのは結構ですが、こちらに指示をお願いします』

「「あ」」

『忘れないでくださいよぅ』


 聞こえてきた情けない声に、二人揃って声を上げる。

 ……あ、あはは、そういや、指示待ち状態だった! ちょっと、アスト! 『私にも聖の悪影響が……!』とか、頭を抱えて言うことじゃないでしょ!? 微妙に酷くね!?


「え、ええと、とりあえず、そっちに行くわ。一階層の事務室でいいんだよね?」

『はい! お待ちしてますね』


 通信を切って、カップに残ったお茶を一気に煽る。程よく冷めているので、火傷の心配はない。


「じゃあ、行こうか」

「はあ……。聖と一緒に居ると、騒動が絶えませんね」


 煩いぞ、アスト。私はほぼ関わっていないんだから、私に言われても困るってば!

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