第三話 『祝・ダンジョンの魔力量増加』
皆で『キャッキャ、ウフフ♪』とばかりに、銀髪ショタ(神)との撮影会に興じた後。
「折角だから、銀髪ショタ(神)もご飯食べていきなよ」
という私の一言で、皆でランチタイムとなった。食堂代わりの酒場だけでは収まらないので、今回は特別にランチボックスでのお昼です。皆も其々の場所に陣取り、ランチボックスを広げている。
「わあ! これが『お弁当』かぁ。色々入っていて、面白いね!」
こういったものに馴染みのない銀髪ショタ(神)が、目を輝かせているのが微笑ましい。こんな姿を見る度、神としては本当に幼いのだと痛感する。だからこそ、世界の発展や維持に一生懸命なのかもしれないね。
嗚呼、何て純粋な幼子の尊い願いであることか……!
私を筆頭に、駄目な大人達(予備軍含む)には、銀髪ショタ(神)が眩しく映る。
なお、そんな駄目人間達の姿を見る度に、青筋を立てて怒るのがアストである。できる補佐役は銀髪ショタ(神)への忠誠と尊敬もあり、駄目人間どもを放置できないらしい。
そして現在、私の周りには銀髪ショタ(神)の他に、アスト、エリク、凪、ルイ、ソアラ、エディが居る。
この面子で食事することは珍しくないが、皆でお子様な銀髪ショタ(神)の世話を焼いているので、いつも以上にほのぼのとした雰囲気だ。
凪も皆で食事をすることが好き……というか、嬉しいらしい――これまでは『神の祝福』の影響もあって、できるだけ一人を好んでいたそうだ――ので、普段よりも表情が柔らかい。
凪のこんな顔を見る度、凪をこのダンジョンの魔物にしたことは間違っていなかったと思えてしまう。
「あ、そうだ。後で、自分の部屋も見てきたら?」
「え? 聖、僕の部屋って、どういうこと?」
「前に『作る』って、言ったじゃん。あの時は施設やスタッフの充実を考えなきゃならなかったけど、今は割と余裕があるからね。私の隣の部屋を増築しました。好きな時に遊びにおいで」
「うふふ、創造主ちゃんがお泊りするなら、是非とも、私達の職場に来て欲しいわぁ。勿論、アルコールが入っているものは出さないけど、この間、聖ちゃんから『ノンアルコールカクテルのレシピ』って本を貰ったのよね。安心してちょうだいな」
私とソアラの後押しに、ぱちくりと瞬きをしていた銀髪ショタ(神)は徐々に頬を染め。
「う……うん! 嬉しいよ。皆、ありがとう!」
満面の笑みでお礼を言ってくれた。皆も銀髪ショタ(神)へと笑みを返す。
アスト含む魔物達には、銀髪ショタ(神)が大元の主――主として認識しているのは、自身を創造したダンジョンマスター。
銀髪ショタ(神)はその上司のような認識となっているらしい――のように思えるらしいので、素直に喜びを表している現状が喜ばしいのだろう。
不憫。銀髪ショタ(神)がとても不憫。
外見年齢とはいえ、この幼さにして、気遣いと奉仕精神の塊。それが銀髪ショタ(神)。
「あ、そうだ! もう一個、お知らせがあるんだった」
そう言うなり、コホンと咳払いをする銀髪ショタ(神)。そして、徐に私の方を向く。
「おめでとう! このダンジョンの魔力量が増えるよ!」
「へ?」
「普通は取り込んだ犠牲者達の魔力なんかが蓄積されていく形なんだけど、ここは増えようがないでしょ? だから、『必要とされる要素』を考慮して、増やすことにしたんだ」
「成程、そういった意味では魔力量の増加もありなのですね」
一人、納得しているらしいアスト。その袖を軽く引き、私は説明を強請った。
「アスト、ダンジョンの魔力量は変わらないって言ってなかった?」
「初期量はその通りです。ですが、通常はダンジョン内で挑戦者達が死ぬでしょう? その存在を丸ごと取り入れるので、ダンジョンマスターが行使できる魔力量の増加自体はあるのですよ。魔力の他には、アンデッドの元になったりしますね。ここのアンデッド達を作り出す際、通常の魔物に比べて、使用する魔力量が少なかったでしょう?」
「あ~……確かにそうだった、かも」
思い出すのは、魔物達を想像しまくっていた頃のこと。『娯楽施設のスタッフとして使いたい!』とアストに言ったところ、『ならば、数が必要ですね。アンデッドなどはどうですか? 見た目だけなら、普通の人間と変わらないように見える幻術でも使えば十分ですし』とお勧めされたんだよね。
だけど、今だからこその疑問も湧くわけで。
「あれ? だけどあの時、私は種族をアンデッドとしか認識しなかったはず。何で、ゴーストやスケルトンといった感じに、バラつきが出たんだろ?」
「聖さん、随分と大雑把じゃないですか!? それ、『生ける屍』とかだったら、スタッフを任せるどころじゃありませんよ。普通は問答無用に攻撃されますって」
「だよねぇ」
私とエリクは顔を見合わせ、アストへと無言の期待を寄せる。すると、『できる補佐役』なアストは溜息を吐きつつも、答えをくれた。
「聖が魔物達に自我を持つことを望む上、攻撃しないような性格の者に限られているということが第一の理由ですが……聖、貴女の世界には『生ける屍』と同様の、『ゾンビ』なるものが存在するのでしょう? その知識があるからこそ、無意識に却下されたと思われます」
「ああ……うん、確かに無意識に避けると思う。あれは『人を襲う』というより、『人を食らう』って印象が強いからね。見た目以上に、性質的な意味でスタッフに向かないわ」
この世界の『生ける屍』とやらは凶暴――エリク談――だが、それは『死体が(暴力的な意味で)人を襲う』というもの。
元の世界のホラーにありがちだった『生きた人を食らう』というものではないらしい。……つまり、娯楽の産物であるゾンビの方が凶悪ってこと。
ただ、当時の私はそんなことなど全く知らなかったので、無意識にゾンビなどを排除したのだろう。結果として、ゴーストやスケルトンが大半、稀にヴァンパイアといった高位種になった、と。
「へぇ……ダンジョンマスターの知識はそういったことにも影響するのか」
「興味深いですよね。僕達は基本的に種族や性別を指定して創造されますから、パターンが決まっているはずですけど……それで凪の時も『種族を指定しないで魔物化しろ』となったんですね」
私同様にダンジョンの知識がない凪が興味を示せば、その隣に居たルイが納得したように頷いている。
他の皆も興味深そうに耳を傾けているので、これまでダンジョン内に作り出されていた魔物達も、こう言った話を聞く機会はなかったのかもしれない。
「そりゃ、そうだよ。聖、君は時々忘れるけれど、これまでダンジョンの魔物達に自我を求めるマスターなんて、いなかったからね? だから、自分と同型の魔物の記憶を有していたとしても、こういった情報は知らないんだ。そもそも、ダンジョンマスターには物扱いされてるんだから」
私の臆測を感じ取ったのか、銀髪ショタ(神)がその理由を教えてくれる。それを補足するかのように、アストも銀髪ショタ(神)に続いた。
「まあ、必要ないですからね。一応言っておきますが、聞かれれば私とて、お教えしますよ? ですが、これまでのマスター達はそういったことに興味がありませんでした。『自分の思い通りにカスタマイズする』――これもダンジョンを作り上げる上での、醍醐味なのかもしれませんね」
「『魔物を創造するなら、自分の計画通りに』ということでしょうか。アスト様はともかく、我々は基本的に『挑戦者の敵』という立場です。ダンジョンの造りに合わせた配置をされるでしょうし、魔力量も限られているとなれば、曖昧な条件での創造はリスクが高いのでしょうね」
『確かに』
知的な獣人・エディの言葉に、誰もが納得の表情になってハモった。そだな、いくら消費する魔力量が少なくとも、『何ができるかはランダムです』なんて博打をする奴は少ないだろう。
「そのような理由ですので、聖もあまり曖昧な創造はしないでくださいね。あの時点では、どんなアンデッドだろうとも構わなかったでしょうが、今は違います。ダンジョンも改装していることですし、地形や罠に合った魔物を創造してください」
「はーい」
返事をするも、私の思考はある方向へと傾いていた。
――『新しい魔物の創造』かぁ……ちょっと面白そうだよね。




