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【広瀬煉】平和的ダンジョン生活。  作者: 広瀬煉【N-Star】
一章
33/117

第三十二話 予想外の物


 私と少年が話をしている間も、『勇者』とアスト達の攻防は続いている。ただ、『勇者』が冷静さを欠いているせいか、それともアストがエリクという味方を得たせいなのか、比較的アスト達が優勢のように思えた。

 ただし、『これが通常の戦いであったなら』。こう言っては何だが、あの『勇者』は規格外過ぎるもの。二人がかりでも倒せるか怪しくないかい、あの人。


あれが本人の実力というならば、通常の人間とは思えない。

 異世界召喚の弊害でああなったならば、冗談抜きに銀髪ショタ(神)に相談するしかない。


 ぶっちゃけ、『普通の方法で死ぬの?』と思わずにはいられないのですよ。あまりにも普通の人間とは、かけ離れ過ぎているんだもの。


「君! あの『勇者』について、何か知らない?」

「すまない……。彼はずっと、公爵家預かりになっていたんだ。召喚した責任があるということもあり、文句は出なかった。今思うと、誰もが『得体の知れない何か』を預かることを、拒否していたんだと思う。ただ、あの容姿だ。無邪気に憧れる女性達はいた」

「……。『勇者』は大人しくしていたってこと?」

「問題が起きたとは聞かなかった。だけど、あの姿を見ると……『勇者』は単に、興味がなかったのだと思う。自分の置かれた状況だけではなく、周囲の全てに」


 視線をアスト達に向けたまま尋ねるも、少年は困惑気味に話すばかり。確かに、このダンジョン内でも『勇者』は他者どころか、全てに興味がないように見えた。


 だからこそ、余計に首を傾げてしまう。『全てのものに無関心な奴が、あれほど取り乱すのが【個人の顔】って、どうよ?』と。


 家族や友人に似ていたという可能性はないだろう。そういった存在にそこまでの執着があるなら、『全てのものに無関心はありえない』。というか、その執着心の赴くまま、元居た世界に帰ろうとするに違いない。それほどの執着……豹変ぶりだったのだから。

この世界に来た時点で色々と絶望したり、己の不運を嘆いたり、帰還への道を模索しているはずだ。足掻くにしろ、嘆くにしろ、それらは『人間らしい感情として、周囲に認識される』。

だが、少年の話を聞く限り、あの『勇者』にそういった素振りは見られなかった。それらの話が欠片も漏れて来ないから、少年の口から『得体の知れないもの』とか、『全てに無関心』なんて言葉が出たと推測。……情報収集くらいはしてそうだもの、この子。


「意味が判らないわ。元の世界への帰還さえも興味がなかったってこと?」

「僕もそれは不思議に思った。だけど、幸せな環境じゃなかったのならば、人生をやり直そうと思っても不思議はないんじゃないか? 公爵家に滞在していたから、衣食住は揃っていたはずだ」

「ああ、『勇者』の滞在環境的にも、そういった見方ができちゃう状況だったと」

「うん……。だから、ダンジョンでの彼に驚いたんだ。今の状況もそうだけど、その、彼が自分からあれほど話すなんて、初めてだったから」

「……。そっか……」


 少年の言葉に嘘は感じられない。というか、そういった『勇者』の状況が前提だったからこそ、護衛の騎士が二人しかいなかったのか。

 もしも、今のように激高する姿や、異様な戦闘力を見せつけていたならば……『勇者』は間違いなく、危険人物として殺されていただろう。良くて、幽閉だ。この少年は王族らしいから、迂闊に『勇者』に近づくことさえ、許されなかったに違いない。


「意味が判らないなぁ……それだけ『勇者』にとって、この顔が……いや、『この顔に似た誰か』が特別だってことなんだろうけど」


 視線の先では、エリクが『勇者』に蹴り飛ばされていた。そしてエリクが離れた隙を狙い、アストが攻撃を仕掛けている。……だが、致命傷には至らない模様。体制を立て直したエリクも即座に戦闘に加わり、再度『勇者』に攻撃を仕掛けていた。

 ――決着にはまだ時間がかかると、どこか冷静に判断したその時。

エリクの剣が『勇者』の衣服、そして小物入れを捉え、身に着けていた『何か』が足元に飛ばされてきた。『それ』は私の靴に軽く当たって止まり、思わず視線がそこに向く。

 ……え゛? いや、ちょっと待て。これって……!?


「それに触るな!」

「行かせねぇよ!」

「貴方の相手は我々です」

「チッ」


 私が『それ』を手に取ったことに気づいた『勇者』がこちらへと来ようとするが、エリクとアストの二人が邪魔をしているため、届くのは声ばかり。『勇者』は二人の強さを身を持って体験したせいか、無茶はできないと判断したのだろう。無理矢理突破してくることはないようだ。

 だが、私は絶賛混乱中。手にした『それ』……掌サイズの、薄くて四角い物をガン見し、思わず『勇者』へと怒鳴っていた。


「ちょっと! あんた、何でスマホなんて持ってるの!? マジで同じ世界の人だった!?」


 私の声に驚いたのか、内容にビビったのかは判らないが、戦っていた三人は動きを止め、勢いよくこちらを振り向いた。そこで再び、私からの問い掛けを。


「あのさ、このスマホ……私が持っていたやつと同じ機種なんだけど。物凄く見覚えがあるというか、最期に手放すまで使ってた。ねぇ、『勇者』? あんた、どこの国の人? 私は日本だよ」

「聖、本当なのですか?」

「うん、マジ」


 知識の共有はあっても、個人情報はそこまで知らないのだろう。私発の『このスマホ、私も持ってたやつなんだけど? 同じ世界出身で確定じゃね!?』という情報に、アストは驚いている。


「は? マジですか、聖さん!? でもそれって、結構すぐに新しいものが発売されるってやつじゃありませんでした? 同機種ってことは、同じ時間軸に存在してたってことですかね?」

「大事に使えば結構もつから、私が生きていた時間と多少のずれくらいはあるかも。そもそも、これ電源入ってないから、確認できないし。でも、そんなに離れていないと思うよ」

「な……に? ……。『ヒジリ』……?」


 それは私達の会話を聞いていた『勇者』にとっても衝撃的な情報だったらしく、驚愕の表情のまま硬直している。……そだな、異世界で同じ世界の人間がダンジョンマスターになってただけでも吃驚なのに、魔物達とキャッキャ、ウフフ♪ な引き籠もり生活してるとか、信じられんよね。

 だが、このスマホと私の記憶が何よりの証拠! 


『勇者』よ、色々と諦めて受け入れろ。お前だって『勇者』という、中二病も真っ青な呼ばれ方をしてるじゃん! ……いや、単に便宜上、付けられた渾名なのかもしれないけど。


 ま、まあ、とにかく! お互い、痛い点は華麗にスルーして、同郷の存在を受け入れようぜ?

私と同じ世界なら、銀髪ショタ(神)に帰還を頼めるかもしれないもの。通販とインターネットが繋がっているから、元の世界の神との縁は切れていないはず! 

まさか、こんなことに役立つとは思っていなかった! 銀髪ショタ(神)も吃驚だろう。


素晴らしきかな、引き籠もり予備軍の我儘! 私、超良い仕事しました!


帰還を望むならば、私はマジで『勇者』の救世主。リアルに救い主だぞ、他力本願だけど。

『勇者』よ、呆然としていないで、さっさと正気に戻れ。そして、互いの情報交換と暴露を得て、お互いに最良の未来へと足を進めましょ? ……貴方はまだ、生きているんだからさ!



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