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【広瀬煉】平和的ダンジョン生活。  作者: 広瀬煉【N-Star】
一章
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第一話 ショタ神との会話は『自分に正直に』!

「おはよう。意識ははっきりしてる?」

「……うん?」


 気がついたら、目の前に美目麗しいショタ。正しくは長い銀髪に大きな青い瞳の、十歳くらいの男の子。私は何~故~か、テーブルを挟んで彼と向かい合っていた。しかもこの銀髪ショタ(仮)、何というか神々しい。整った容姿というだけでなく、高貴と思わせる雰囲気があるのだ。


 走馬燈にしては嫌過ぎ、自分の内面に正直過ぎな光景である。あらゆる意味で、人には話せない。

 感動的な最期、どこに行った!? 死の間際にショタコンじみた夢を見るとか、嫌過ぎだろ!?


「ええと、その、話を進めていいかな? 君も自分の状況が判らなくて、不安だろう?」

「自分の状況……あ! あの子は無事でしたか!?」


 私の心の声が駄々漏れしたのか、どこか引き気味ながらも尋ねてくる銀髪ショタ(仮)。そんな銀髪ショタ(仮)に男の子の姿が重なり、直前までの自分の状況を思い出す。

 あの子の救助は間に合った……と思う。あの後すぐに起きた、建物の崩落に巻き込まれていなければ。助かったと思った直後のデッドエンドは気の毒過ぎるので、是非とも無事でいてもらいたい。

 そんな私を一瞬、気の毒そうに見つめた後。銀髪ショタ(仮)ははっきりと頷いた。


「君が庇った子は無事だよ。勿論、彼を助けてくれた人もね。だけど、君は……」


 言いにくそうな銀髪ショタ(仮)の姿に、私は自分の最期を悟る。そうか、私はやはり。


「……。あのまま死んだんですね」

「うん」


 シンプルな銀髪ショタ(仮)の言葉は、私の心にストンと響く。胸に湧くのは、嘆きではなく。


「そっか。うん、私にしては上出来、かな!」


 安堵だった。あの男の子の事情は判らないままだったが、生きていれば救いはある……気がする。少なくとも、私よりも遥かに立派な人はわんさかいらっしゃる。そういった人達に話を聞いてもらえば、あの子の悩みも解決するかもしれないじゃないか。

 そんな私を見て、銀髪ショタ(仮)は不思議そうに首を傾げた。


「君、悔しいとか悲しいって思わないの? まだ若いのに、いきなり死んじゃったんだよ?」

「う~ん……そりゃ、残念だという気持ちはありますよ? でも、あの子がいたから、達成感の方が強いというか。そもそも、あの事故ってかなり大規模っぽかったし、諦めもつくんですよね。何より、我ながら『生かすなら、自分よりもあの子だな!』って、納得しているというか」

「え~……それで納得できるものなのかい? そもそも、会ったばかりだろう? 君、それほど自己犠牲の精神が旺盛じゃないだろうに」


 銀髪ショタ(仮)は疑わしげに私を見た。……銀髪ショタ(仮)よ、何故、知っている。お姉さんをそんな目で見るでない! これは自己犠牲というより、私の価値観と性格の問題なのだ!


「引き籠もり願望のある駄目人間よりも、悩んでるお子様の方が未来があるじゃないですか!」

「いやいや、自分で言わなくても」

「自覚があると言ってください。引き籠もり予備軍の自分よりも、美目麗しいお子様の方を私は助けたい! どこか素直じゃない子に『お姉ちゃんは特別』って言ってもらったし、あの笑顔と泣き顔でプラマイゼロ! 美形は世の財産です、私は世界に貢献したと胸を張って言えます!」


 どやぁっ! とばかりに力説すれば、銀髪ショタ(仮)はドン引きした。いいじゃん、私はそれで納得できるもん。優先順位がはっきりしてるだけじゃねーかよ。


「う、うん、後悔してないならいいんだ。……微妙に危険な香りがするけど」

「愛情ゆえ、ですよ。庇護欲というか、無償の愛という言葉で済ませておきましょう」


 微妙に違うような気もするが、それが一番美しい表現だろう。実際には、個人的感情に素直になっただけなのだが、綺麗に纏まったものである。言葉って不思議。


「自分で言わないの! まったく、もう……調子が狂うなぁ」


 銀髪ショタ(仮)は呆れたように呟くと、徐に私に向き直った。深い青色の瞳、その真っ直ぐな視線を受けて、私も思わず背筋を伸ばす。


「要件に入ろう。君は事故により亡くなった。それは事実だ。だけど、君にはこれからやってもらいたいことがある。……僕の世界に赴いて、ダンジョンマスターになってもらいたい」

「嫌です。何その、怪しげな職業。ラノベやゲームじゃあるまいし」


 即答。瞬殺された銀髪ショタ(仮)は驚きに目を見開いているが、私にとっては当然の選択だ。


「どうして? 勿論、君が望む能力を授けるよ? 補佐役も付けるし、何も心配は……」

「そういう問題じゃありません!」


 ドン! とテーブルに拳を叩きつける。銀髪ショタ(仮)よ、よく聞くのだ。


「日本で生活していた以上、衛生面、安全面、娯楽面といった要素は同じレベルを求めるんですよ! いえ、必須事項です! 生活レベルを落としたり、不自由な暮らしが待っているかもしれない上、よく判らない職業に就けと? 奉仕労働をしろと?」

「強くなるとか、魔法が使えるようになったりはするけど。これまでの人達はそういった条件で引き受けてくれたよ? それから、僕は一応、異世界の創造主……所謂『神』だからね?」

「他所の世界の神だからって、我儘が通ると思っちゃいけません。だいたい、そんなものより生活レベルの維持が重要でしょう! 憧れる要素はゲームやラノベで脳内補完できます。ですが! 日々の暮らしが不自由なんて、冗談じゃない。海外に行ってさえ、自国との差に苦しむというのに! 異世界なんて、更に苦労するのが確定してるじゃないですかぁ! ……他を当たってください。私は安らかに眠ります。満足できる人生でした。苦労が確定している延長戦は要りません」


 大真面目に言い切れば、さすがに銀髪ショタ(神)も困った顔で黙り込んでしまった。……そんな顔をしても無駄だぞ、銀髪ショタ(神)。命が懸かっているわけでもあるまいに、私に奉仕労働をさせようとするでない。リアル死人に鞭打つような真似は止めい!

 ――だが、そこで諦めるような銀髪ショタ(神)ではなかったらしい。


「……。生活必需品とか、君が必要とする元の世界の品が手に入るようにすればいいんだね?」

「それだけじゃなく、パソコンとインターネットは必須です」


 我ながら無茶だと思いつつも付け加えれば、銀髪ショタ(神)は「ちょっと待ってて」と言って、姿を消した。……本当に神だったらしい。私の願望が作った姿とかじゃなくて、何よりだ。

 その銀髪ショタ(神)は割と短時間で戻ってくると、にっこりと笑った。


「それ、全部可能だって。ただし、君が得られるはずの恩恵と引き換えだよ」

「は?」

「だからね、さっきも言っただろう? 『君が望む能力を授けるよ』って。それが無くなる代わりに、君は望んだ生活を手に入れることが可能になったんだ」


 にこやかに告げる銀髪ショタ(神)に首を傾げれば、彼は詳細を説明してくれる。


「パソコンとインターネットが使えれば、通信販売が可能なんだろう? 電気は魔力で代用可能らしいし、それで注文してくれればいいってさ。ああ、代金も向こう持ちにしてくれるって」


 払えないもんね、と付け加える銀髪ショタ(神)に、私は思考がついていかない。


「……。誰が? 誰が許可……代金を払うって?」

「君の世界の神。僕よりも年上だけど、同僚みたいなものだね。君の言い分に物凄く納得してくれてね、『こちらの都合であちらに向かわせるのだから、それくらいは叶えてやろう』って言ってたよ。面倒見のいい神様で良かったね」

「へ、へぇ~……最近の通販って、異世界でも利用可能なんですか」


 まさかの事態に、顔を引き攣らせながらそれだけを口にする。おいおい、インターネットも使えるのかよ。っていうか、私の世界にもいらっしゃったんですね、創造主様。その方から直々に許可を貰って、異世界で楽しくネット&通販の日々を送れ、と。


 凄ぇな、異世界ネット事情! ネットは世界どころか、異世界にまで広がっていたんかい。


 私の声なき疑問を悟ったのか、銀髪ショタ(神)はうんうんと頷いた。


「驚くよね、普通は。でも、昔から元の世界のものを持ち込みたいって声は大きかったんだって。以前は、異世界に行った人が頑張って召喚とかしていたらしいけど、今は通信販売が主流らしいよ? 当人同士が世界を繋いで会ったり、直接売買するわけじゃないから、楽なんだってさ」


 ……。最近の通販は異世界にまで進出している模様。た、確かに、品物を届ける方法と代金の支払いさえ何とかなるならば、通販は可能だろうけど。


「君はパソコンで色々と注文してくれればいい。住所や支払いに使うカードの番号といったものは、パソコンの方に登録しておいてくれるそうだよ。だけど、君には読めないようになっていると思う。そうそう、異世界に持ち込んだら拙いものがあるかもしれないし、一旦は僕の所で預かって、問題がなければ君の所に届けるよ。注文してから、一日か二日で届くと思ってくれればいい」

「早いっすね……つーか、神様が窓口というか、パシリになってくれるんですか……」

「まあ、それくらいはね。僕みたいな立場の者の協力が必須でしょ、これ」


 確かに。異世界通販事情は、神様の尽力(意訳)により成り立っている模様。衝撃の事実に驚くも、上機嫌の銀髪ショタ(神)の笑顔に、己の置かれた状況を思い出す。

 拙い。物凄く、拙い。すでに向こうの世界の神に話をつけてきた以上、私はもう逃げられない。


「だから、僕の世界に来てくれるよね?」


 反論を許さない、凄みのある笑顔を向けてくる銀髪ショタ(神)。ここで断った場合、安らかに眠れ……ないだろうねぇ! 元の世界の神様が納得しちゃった以上、強制連行という可能性だってあるだろう。その場合、今よりも条件が悪くなる可能性が高い。

 頭をフル回転させ、そう結論付ける。よって、私は――


「よ、宜しくお願いします……?」


 頷くしかなかった。見た目がショタでも、やっぱり神様。逆らえません!


「大丈夫! ちゃんと、補佐役の人がいるから! 判らないことは彼に聞いて。基本的に、君は好きなことをしていればいいんだよ。基本的に、ダンジョンに挑む人の相手をすればいいだけだから!」

「はーい。……。……ん? 『ダンジョンに挑む人の相手』?」

「……。それも補佐役に説明してもらってね。じゃあ、いってらっしゃい!」


 そんなわけで、私は異世界送りとなった。まあ、隠居生活を楽しめばいいってことかな? 

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