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【広瀬煉】平和的ダンジョン生活。  作者: 広瀬煉【N-Star】
一章
12/117

第十一話 到達記念は盛大に


「……という状況なんだ」

「……。正直、信じられねぇが……お前がそこまで凝った嘘を吐くはずがないよな」


 ジェイズさんの説明により、三人は納得してくれた。完全に信じたわけではないだろうが、彼ら自身が『ちょっと変わったダンジョンだけど、死ぬような罠はなかった』と知っているのだ。そこにジェイズさんへの信頼がプラスされた結果、とりあえず信じるという方向になった模様。

 共同浴場で汗を流してさっぱりとした三人は今現在、シャツにズボンという服装で指定された席に座っている。……彼ら自身の希望により、武器は所持したままだけど。

 その周囲には魔物達のテーブルもあり、ちょっとしたパーティ会場のような雰囲気だった。ダンジョン製作に携わった魔物達もまた、彼らの成功を喜んでいるのだ。

 そんな中、ジェイズさん達四人はじっと目の前に投影された映像に見入っている。これは勿論、彼らのダンジョン内部での姿。この世界には未だ、こういった技術はないらしく、これだけでも見入ってしまうものだったらしい。


「そうだ、ここで俺がヘルハウンドに突き落とされて……」

「ああ……こうして見ると、解けない仕掛けじゃないんだねぇ」

「ん~……落ち着きがねぇな。今回はそれが敗因か」

「俺、やっぱり役に立ってねぇな。チッ、腕を磨くか」


 ……楽しんでいただけているようで、何よりです。ついつい今後に活かす方向に考えてしまうのは、彼らの職業的に仕方がないのかもしれない。


「客観的に見ることで、自分達の欠点が見えることもあるよね」

「それは当然でしょう。ですから、これは到達した者限定の特典なのでしょう?」

「うん。リプレイ動画を見て今後に活かしてくれれば、これからの生存率が上がるもの」


 彼らの姿を眺めつつ、私とアストも呑気に会話をしていたり。そうしている間にも、次々に料理や酒が運び込まれてきた。そろそろ総評にいってもいいだろう。


「ジェイズさん達! こちら側からの評価って聞きたい? あ、動画はそのまま流しておくよ」

「あ? ああ、聞かせてくれ! この映像でも思うことがあるが、敵側から見た場合の意見を聞きたいね。いいだろ? ゼノ」

「勿論だ。あれだけ手古摺らされたんだ、聞かせてもらった方がいいよな」


 リーダー格のゼノさんも頷いている。それでは第一階層の責任者に解説をお願いしよう。視線を向けると、マイクを持った狼の獣人が前に進み出る。耳と尻尾が付いた彼の名はエディ。狼の姿にもなれる彼は現在、人型を取っていた。耳と尻尾さえ気にしなければ、眼鏡をかけた穏やかな青年、という感じだ。


「えーと、第一階層の責任者を任されているエディです。第一階層のスタッフは獣人とヘルハウンドで構成されています。皆さん、お疲れ様でした。まず、皆さんの評価ですが……Cランクとさせていただきます。戦闘能力的にはもう少し上の評価でも良いと思いますが、奇襲を受けた時の落ち着きのなさと、脱落者が出たことでこの評価となりました」

「『落ち着きのなさ』ってのは、どういうことだい? 詳しく聞きたいねぇ」


 唯一の女性であるシアさんの言葉にエディは頷くと、手にした紙に視線を落とす。


「これは貴方達の能力が高いことに起因する評価なのです。皆さんが獣人やヘルハウンドの動きに対して、十分な対処が可能ということが前提になっています。『できることが、できなかった』。これは探索において、時に致命的な災いをもたらしかねません。皆さんに期待し、また警告を促す意味での評価とお考えください」

「……確かに、何回かそういったことがあったな」


 心当たりがあるらしいゼノさんは呟き、他の人達も頷いている。


「このダンジョンにおいては、死亡することはありません。ですが、外や他のダンジョンの魔物達は殺しにかかってきます。今後の課題として、お知らせしておくべきと判断いたしました。私からは以上です」


 エディはそう締め括って、自分の席に戻った。入れ替わりに前に出てくるのは、女の子のゴースト……ライナ。第二階層は罠が満載のため、それらを無視できる種族が選ばれている。その中でライナが責任者に選ばれている理由は、彼女自身が謎解きといった要素に強い関心を示したから。


「はいはい、じゃあ総評いくよ! 残念だけど、第二階層はギリギリDランクってとこだね。これは迷っている時間が長過ぎることと、考えに没頭し過ぎて注意力が散漫になっていたからだよ。これ、他でやるとあっさり殺されちゃうから注意してね!」


 子供らしい口調と声ながら、言っていることに遠慮がない。挑戦者達が迷いまくったのは事実なので、これには彼らも苦い顔だ。彼ら自身、それは嫌というほど判っているのだろう。


「落ち着いて考えれば、もっと早く到達できたんだよ。焦りは禁物、ってとこかな♪」

「耳に痛いな。確かに、『進み方が判らないわけじゃなかった』。そう言われても仕方ねぇ」


 彼らは最終的にここに到達できた。不慣れということもあるだろうが、軽いパニックに陥っていたのだろう。その焦りが目を曇らせた。

 だが、ライナの忠告は彼らにきちんと伝わっている。魔物の言葉でも、ゼノさん達は真摯に受け止めてくれている様が見てとれた。……この人達が第一号で良かったよね、本当に。


「ちょっと冷静になるべきだったね。苦手意識も邪魔をしたんだと思うよっ! 私からはこれくらいだね。後は……聖ちゃん、何かあるー?」

「はいはい、私からは皆さんに聞きたいことがあるよ。……率直に聞くけど、ダンジョンで手に入る物って、何が喜ばれる? 今のところ、お酒とかが無難だと思ってるんだけど。希望でもいいから、聞かせてほしい。貴方達を基準に考えてくれればいいから」


 マイクを受け取って、ゼノさん達に質問を。反省点は二人が言ってくれたので、後はこちら側の改良点を聞いておくべきだろう。できれば喜ばれる物を入れてあげたいじゃないか。


「そうだなぁ……宝石とかは換金できるし、重宝するぜ?」

「ん~……薬、とか言われても、困るんだよな? まあ、俺達としても効果が判らない薬は怖いしなぁ……金とか? 高く売れそうなものなら、割と喜ばれると思うぜ」


 ジェイズさんとカッツェさんが悩みながらも意見をくれる。なるほど、『金になる物』ってのは割と誰にでも喜ばれるのか。換金目的で持ち歩くなら、小ぶりな宝石とかも喜ばれそう。


「ああ! あんたが今、腕に付けているような装飾品とかもいいじゃないか」

「へ? え、嘘!? これが!?」


 唐突に上がった声にそちらを向けば、シアさんが私を指差している。正しくは、手首に嵌っているブレスレットを。その表情を見る限り、嘘を言っているようには思えない。

 マジ? これ、グラスビーズをメインにして自作したやつですが。つまり、趣味の産物。安物。

 思わず、まじまじと眺め……相談とばかりに、近くに居たアストを手招き。アストも初めは意外そうな顔になっていたけど、不意に何かを思い出したらしく、納得の表情になった。


「忘れていました。聖、そういった物はこの世界にないのです。いくら貴女の世界では趣味の範囲で買える安物でも、見た目が美しければ立派に装飾品扱いになるでしょう」


 なるほど、世界の差というやつか。クラックの色付きガラスビーズとかは見た目も綺麗だから、生産する技術がない世界においては十分、宝石のような扱いになるのかもしれない。


「じゃあ、もう少し良い素材で作れば、宝箱に入れてもいいかな?」

「いいんじゃないですか? 材料費は安く済みますし、貴女が量産すればいいんですよ。……ああ、このダンジョンらしい物がもう一つあるじゃないですか。あれです、蜘蛛達の作品!」

「ああ! あのレース編みか! 糸自体にも価値があるとか言っていたような」


 アストの言っている物。それは、このダンジョンのアラクネと子蜘蛛達が激ハマりしているレース編み。自作の糸を編み編みしている彼女へと『たまには変わったものにチャレンジしてみたら?』とレース編みの本をプレゼントしたら、一族総出でハマってくださった。

 以来、蜘蛛達はずっとレース編みがマイブーム。現在、彼女達の巣は芸術品かと思うほど美しい仕上がりだ。どうやら、巣を美しくカスタマイズすることが流行っている模様。


「じゃあ、アラクネ達に協力してもらって、レース編みの作品も入れようか。後は私が装飾品を量産、と。……こんな感じでいいかな、シアさん」


 聞きながらシアさん達の方を振り向けば、皆さんが揃って驚愕の表情になっていた。……おや?


「ちょっと、お待ち。それって高級品だろう!? アラクネの糸は魔力が宿っているけど、採るのは命懸けなのさ。その糸のレース編みだってぇ!? 凄いものがあるじゃないか!」

「でも、今テーブルに敷かれているレースの敷物は、アラクネ達が作ってくれましたよ?」

『え゛』


 四人の声がハモった。そして勢いよくテーブルをガン見するなり、全員、血の気が引いていく。


「ちょ、おま、やめろぉぉっ! 汚せなくなるだろ!? やっちゃ駄目だろ!? 使い道が間違ってるだろうがよ!? おいおい、アストの旦那、聖の嬢ちゃんに常識を教えてやれよ!」

「お言葉ですが、ジェイズさん。聖がそれを聞き流しているからこそ、この状態なのですよ。そもそも、このダンジョンには価値のある物がそれほどありません。自己生産できるならば、好都合です。是非、他の方にも教えて差し上げてくださいね。お客様は歓迎いたします」


 ジェイズさんの絶叫を受けたアストは温い笑みを浮かべながらも、冷静に言葉を返す。さり気なく営業トークをするとは、アストもやるじゃないか。

でも、良いことを聞いた! 十分な集客要素になるみたいですぞ、このアイテム。


「そっか、これでこのダンジョンの集客は安泰ね♪ 皆さん、宣伝宜しく」


 不安要素がなくなった! とはしゃぐ私をよそに、挑戦者の皆様は無言だった。ふふ、いいじゃないですか。折角作ったのに、誰も来ないんじゃ寂しいもの。


「さあ、後は楽しく飲み食いしてくださいな。あ、助言をしてくれたから、私が作ったアクセサリーも到達記念のお土産に追加しておきますね。高く売れるよう、願っています」


 とりあえず、ダンジョンは成功、かな? 今後の集客も見込めそうで、何よりです。

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