第二十七話 お祭り開催 ~聖VS植物学者~
――とある空間にて
私達が居るのは広い一室。モニタールームになっているらしく、空間には今回使われるダンジョン内が映し出されていた。
「じゃあ、打ち合わせ通りお願いね」
にこりと笑って、今回のメンバーへと激励を。なお、面子はアスト、凪、ルイという構成だ。それに加え、私の護衛というか癒しとして、ネリアが膝に居る。
「聖……貴女という人は……」
今回の作戦を伝えたせいか、アストは呆れた様を隠さない。苦笑しているルイも、どちらかと言えばアスト寄りの心境だろう。
ただ、凪だけは納得の表情で頷いている。凪は私と同じ世界の住人だったことがあるので、私が立てた作戦にも理解があるのだろう。
「大丈夫! ゼノさん達に外から植物系の魔物を連れて来てもらって、実践したから!」
「ほう? 効果は?」
アストの言葉に、私はにやりと笑うだけ。それで察したのか、アストは何も言わなかった。
「じゃあ、手順の確認ね。こちらの陣地はある程度敵を引き込んだら、仕掛けが動く。それまでは『それ』の使用は禁止。使うのはあちらの陣地に乗り込んでからだよ」
指差した先にあるのは、三人に持ってもらう大きな袋。中には『とある物』が大量に入っているため、そのまま持つと結構重い。
それを解決したのが、凪だった。
『重力を弄ればいい。袋に入っている間だけ、軽くなればいいんだろう?』
そんな言葉と共に、元の世界の知識を駆使し、術を組み立ててくれたのだ。
だから、正確には中身の重さが変わったというよりも、『重さを感じなくなる袋』という不思議アイテムになっている。私自身に魔法の知識がないから、よく判らないんだけどね。
「こちらの陣地の仕掛である程度の戦力を削いだら、僕達が動くんですよね」
「そう。役割的には凪が二人への攻撃を牽制し、アストとルイが攻撃って感じかな」
「ふふ、何だか楽しみです。こんな時は僕も魔物なのだと、痛感しますね。やはり、戦闘には心躍ってしまいます」
「了解した」
楽しげな、いつもは見られない表情のルイに頷き、役割分担を確認。頷くルイと凪も望まれた役目を判っているため、特に疑問はないみたい。
「私まで組み込まれたのは何故かと思っていたのですが、その作戦を聞くと納得です。確かに、植物系の魔物は攻撃範囲が広い者もおり、暴れられれば厄介です。少数精鋭という点も、理解できます。しかし、まさかこんなことが可能とは……!」
アストは未だ、苦悩中。自分の常識が覆る事態に、心が付いて行かないのだろう。放っておけば、がっくりと膝を着きそうな雰囲気だ。楽しめばいいのに、真面目な奴である。
――そこに響く縁の声。
『二人とも、準備はできた?』
「うん、準備完了してる」
『こちらもです』
『そっか……え?』
其々が返すも、縁が戸惑ったような声を上げた。
『聖達、本当にこれでいいの?』
……どうやら、縁を困惑させてしまったようだ。ま、まあ、縁にはこちらの面子どころか、『仕掛け』が全て見えているだろうから、理由を知らなければその反応も仕方ないのかも。
しかも、攻め込むのは三人。三人とも戦闘能力が高いとはいえ、少数精鋭にも程があるだろう。
「大丈夫、意味があるから」
『そ、そう? それならいいんだけど』
そう言いつつも、縁は納得していないようだ。ただ、こればかりは結果を見てもらうしかないんだよね。ここでネタをばらしたら、向こうにも聞こえちゃうだろうし。
『それじゃあ、ルールをもう一度説明するね。今、君達のいる部屋がダンジョンの最奥という扱いになっている。そこまで攻め込んだ方が勝ちだよ』
「ダンジョンマスター討伐はいいの?」
『あくまでも【お遊び】だからね。それに、これはダンジョンマスターの采配というか、戦い方を確認するためのものでもあるんだ。だから、ダンジョンマスター自身が戦闘に参加したければ、攻め込めばいいんだよ。勿論、途中で討伐されたとしても敗北にはならない』
なるほど、特殊ルールでのお遊びってやつなのか。本来ならばダンジョンマスター討伐がダンジョンの死に繋がるけど、これはダンジョンマスター自身も駒に組み込まれた『ゲーム』。
『お遊び』と言っても、怪我はする。だから、戦闘が苦手なダンジョンマスターは攻め込まれないような采配をし、逆に戦闘が得意なダンジョンマスターは自分を最強の駒に見立てて、特攻してくることもある、と。
「了解、説明ありがと」
『じゃあ、始めるね!』
縁がそういった途端、ガラスのような『何か』が砕ける音が響き、不思議な感覚が襲う。
「双方のダンジョンが繋がったのでしょう。当初、モニターは自軍の兵とダンジョンしか映しません。よって、相手のダンジョンを知るためには、自軍の兵を敵陣営に送り込む必要があるのです。まあ、後半になれば自由に見ることができるのですが……これは混戦になった際の状況把握や、兵の生き残りを見つけるためであって、今回のようなケースでは我々三人に視点が絞られるかと」
「こっちにとって、それは好都合ね。仕掛けが発動するまでバレたくないもの」
パチン! と指を鳴らせば、三人の口元にも笑みが浮かぶ。私達は負ける気がない。だからこそ、のんびりと会話をしているのだ。
――だって、敵をこちら側に引き込まなきゃならないんだもの。
『随分とのんびりしているようですが、こちらの魔物はそろそろそちらに攻め込むみますよ?』
どこか得意げなニコラスさんの声に、モニターを確認する。そこには――
あからさまに禍々しい雰囲気の植物系魔物体が、こちらの陣営に押し寄せてきていた。これがニコラスさんご自慢の魔物達であり、彼のダンジョンを守っている『守護者』なのだろう。
だが、私はモニター越しに見た彼らの姿に首を傾げる。
「……あれ? 植物系の魔物だってことは判るけど、うちの子達と随分違うね?」
うちの子達、こんなに禍々しくないもの。戦闘状態でなければ迷子を保護したり、こっそりおやつ――甘い実が生るのだ――を提供したりと、大変優しい子達です。
なお、彼らに一番世話になっているのはサモエドだ。
サモエド、ネリアの子供達の後を追って、木に登りたがるんだけど……まあ、種族差というか、体の構造上、それは儚き夢『だった』。可能にしたのは、植物系の魔物達。
彼らは蔦を動かし、さりげなくサモエドを支えてサポートしてくれたのだ。時には枝を足場代わりにさせ、蔦で落ちかけた体を釣り上げたりと、保護者も安心の気遣いっぷりです。
それはアスト達も知っている。だからこそ、私はモニターに映った禍々しい植物系魔物達がちょっと信じられない。
「それが普通なのですよ、聖。うちのがおかしいだけです」
「優しい子達じゃない!」
「魔物が犬や人間の友となって、どうします! 本来のダンジョンの意味を考えれば、あちらこそが正しい姿なのですよ。貴女の影響で平和ボケどころか、平和な見た目の者達と一緒にするのではありません!」
「ええ……いいじゃん、平和で」
ねー? と膝のネリアに同意を求めれば、可愛く鳴いて同意する。アストへと向ける目が、どことなく批難に満ちているのは気のせいではあるまい。
……このネリア、サモエドと一番仲良しの子ネリアの親だもの。その縁で植物系魔物達と仲が良く、一緒に子供達を見守っていたりする。
子供達を見守ってくれる優しい存在に感謝し、仲良くなるのは自然なことでしょ? アストもそれ以上は言わない! ネリアに引っ掛かれても知らないよ?