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ノストラダムスの狼言綺語 3





「じゃぁ、行ってきます。」

そんな遠くなく歩いて5分もしない距離ではあるものの、この炎天下の中

外を出なくてはならないというのも不本意だ。


汗だくになって帰宅し、さっそく宿題に手をつけるとかいう事をするでもなく

冷たいシャワーでも浴びてエアコンの効いた自室で、冷やしてあった炭酸で身体の中まで冷却し

お気に入りの曲でも流しながら優雅に読書をしていた。

読書とは言っても美子とかと違って分厚い小説や、小難しい百科事典なんかでもなく

いつか奏から借りた漫画本だ。

借りた量が多いので思い出しては読んでいる。

借りた漫画が多すぎてアイツ自身、何を何冊貸したのか忘れる有様だ。

「あ?あぁ、そういえば貸してたっけ?どうだった?」とか言い出す始末だ。

まぁ、ちなみに逆に俺もアイツには漫画本を貸したまま忘れている事があるので、

正直なはなし、どれが自分のでどれが奏の本なのかわからなくなる。

漫画の趣味は殆ど同じなので余計にだ。


「まったく、幸せすぎて死んでしまうかもしれないな。何?ここ天国?俺死んだ?」

「じゃぁ、死なないように運動でもしてきたら?そこのコンビニまで」

俺が冷房と娯楽のエデンで怠惰を満喫していると、そんな仄暗い地獄からのし上がってきた悪魔のような声が俺の脳みそを掠めた。

「誰が悪魔よ。」

部屋の入り口に悪魔・・・もとい我が家の母親が仁王立ちでそびえていた。

「えぇ~・・・」

「死にそうなんでしょ?だから助けてあげようと思ってね。さぁ、私と契約してコンビニで卵を買ってきなさい。」

魂をとられそうな事を言い出した。というかそれだと悪魔の方が主人じゃん。寧ろ魔王じゃん。

「さもないと、暖めるわよ?卵の代わりにレンジでチンするわよ」

「破裂するわ!!」

卵をレンジでチンするのは、とっても危険なのでやめましょう。

「わかったよ。いけばいいんだろ?1パックでいいのか?」

「えぇ、聞き分けのいい息子を持って母はとても幸福です。そして、そんな母に仕える貴方も幸福よね」

この人は自分の子供を従者か何かとでも思っているのだろうか?

とっても幸福だよ。こんなエデンにおいてくれて俺はとっても幸福です。

「じゃぁ、お釣りはそのままお小遣いにしてもいいからお願いね。」

母はまるで秘密の依頼でも頼むかのごとく俺のポケットに紙幣をねじ込むと、そのまま俺の部屋のソファーに寝そべりだした。

結局、自分が寛ぎたいだけじゃねぇか!



ハーフパンツに半袖のTシャツという完全な私服でクロックス。

それでも、まだまだ外は蒸し暑くて、これではせっかくサディスティックな母親から逃げられてもあまり意味は無いんじゃないかと思う。

夕方でもなく、かと言って夜でもない微妙な時刻、 逢う魔が時。黄昏時。時計の針が六時を回った頃合だった。

涼しい空調の行き届いたコンビニでのミッションを攻略し、外に出たあたりで高校生か大学生くらいの青年に話しかけられた。

「やぁ、こんばんわ。」「いい夜だね。」「見ない顔だね」どんな風に声をかけられたのかは忘れたけれど、彼は話しかけてきた。

「うん?何や?聞こえんかったかいな?君や君。君に話しかけとんや。うん?」

「え?あの、なんでしょう・・・?」

キョトンとしていると彼は人差し指を俺の方に刺してきた。トントンと。

「うん?そんなキョドらんくてもええやん。別に渇上げするわけでも、からあげでもあらへんで?クスっ!ええな!渇上げと唐揚げ!おもろいやないか!忘れんうちにメモっとこぉ」

「は、はぁ・・・」

流暢に関西弁を話す彼は胸ポケットに刺さったマジックで自分の左腕にサラサラと先ほどの駄洒落をメモりだした。

「うん?何や坊ちゃん?うん?」

「いえ、あの、何か御用があるのかと思って・・・」

「うん?あぁ、悪い悪い!これはボクの悪い癖なんや。目に付くやつには取り合えず話しかける悪い癖や。坊ちゃんRPGは好きかいな?ロールプレイングゲームやロールプレイングゲーム。町に入ったらまず全部の村人とおしゃべりするやろ?うん?コミュニケーションは大事やでぇ?」

「いえ、俺はあまりRPGはやらないので・・・」

「うぅん?まぁ、ええか。ところで坊ちゃん名前なんて言うん?」坊ちゃん言うのも、そろそろ飽きたわ。

そう言うので俺は、「高槻 海人ですけど」と答えた。

「地名みたいな名前やな。」と言われた。

まぁ、事実そういう駅名もある。利用したことは無いけれど・・・。

彼が言うように地名のような苗字は多い。

「あの、お兄さんはなんと言うんですか?」

「ボクか?ふふん。その『お兄さん』っちゅうのが真新しくて憧れさえ感じるな。それでええよ。『お兄さん』で、ただなぁその敬語はむず痒いなぁ。うん」

「それは・・・」そんな事を言われても。と思う。

しかも初対面だし、ただまぁ『お兄さん』と呼ぶのもどうなんだろう。

これは寧ろこっちがむず痒いところだけど、本人がそれでいいというならそれでいいのかもしれない。

そんな風に考えを巡らせていると彼は、お兄さんは俺の顔を覗き込み、先ほどと同じように「うん?どうした?」と聞いてきた。

「まるで、狐に摘まれたような顔やな」

「いえ、さすがに初対面の人にタメ口というのも失礼かと思って・・・。敬わせてもらってもいいですか?」

「妙ちくりんな言葉の使い方しよんなぁ。まぁええわ。」

どうやら納得してくれたらしい。

「でも、どう見ても・・・っちゅうのは、ちょいと傷つくわぁ」

「あ、すみません。」

「ええて、ええて、そこも譲歩したろ。まぁ、何でも見た目だけで決め付けたらあかんで?うん?世の中には子供みたいな大人も大人みたいな子供もおるからな。身体は子供、頭脳は大人っちゅう名探偵やって闊歩しとる時代やからなぁ」

「あの子の場合は、自分で偽っているだけでしょう?」ばれなきゃOKみたいな。

「いやいや、ばれなきゃOKっちゅうのは結局は言い訳や。恐らくあの坊ちゃんが真実の口に腕を差し込んだら手を噛み千切られると思うで?」

「でも、あの子の場合は周りがそもそも嘘をついているなんて気付いてないだろうし聞いたりしないんじゃないですか?だからまぁ、嘘というのとは違うような・・・?」

「ふぅん?聞かれなかったら答えんかった・・・。ちゅうのは何や、詐欺っぽいな。」

見えん。気づかん。

「そんな嘘八百、犯罪と何もかわらんで?うん?ホラ吹き男、狼少年。そいつ等の仲間となんも変わらんと思うで?・・・そんで最後はバッドエンドが王道やね」

そんな風に言った。

「・・・狼」

その言葉に無意識のうちにクラスメイトの立花 奏を脳裏に過ぎらせていた。

無意識のうちに、同じ『部活』メンバーのギターの少女の顔が脳裏を走った。駆けた。

まぁ、確かに嘘つきだけれど・・・。

 

「だけどなぁ・・・」


「人間っちゅぅんは、みんなみんな平等に仲良く漏れなく嘘つきこよしなんかもなぁ」

そんな風に彼は言った。ような気がした。

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