ノストラダムスの狼言綺語 1
とある女性が居た。
「居た」と表現はしたものの俺は、その女性をよくは知らない。
「女性」と表現はしたものの俺は、彼女がどんな姿をしているのか知らない。
否、しかし彼女をちゃんと知っている者などいるのだろうか?
世間では神様とまで謳われた彼女の事を知っている者など、「この世」にいるのだろうか?
しかし嘘をついて、ついて、ついて、突き通した彼女にとって、そんな事はどうでもいいのだろう。
都市伝説ってやつは常に人の噂そのもので、そして同じに人そのものだと思う。
人の数ほど、星の数ほどある。
人が多ければ多いほどに沢山の種類の噂が息巻いて、出回っている。
群れを成して、歩いている。
尾ひれをつけて、一人歩きだってする。
そして、勝手に巨大になって強大になっていく。増えていく。膨れ上がっていく。
そして、大きくなった噂にはまた人が誘蛾灯の如く集まって広がって際限がなくなっていく。
人の噂もなんとやらとは言うけども、そんなもんは個人差だろうって思う。
だって、そんなもの所詮は気休めでしかない。
とはいえ、そんな都市伝説や大きくなってしまった噂話なんてやっぱりどうしたって
学校でのスコアに味がつくわけでもなく、だから周りの友達やクラスメイトの女子が噂話に夢中になったり
やいのやいのと盛り上がるのを別に羨ましく思う事は無かった。
ただただ、話についていけなくてバカにされるだけだ。
だからと言って俺の成績がいいというわけでは決してないので涙が出る事この上ない。
成績にいたっては寧ろ中の下くらいだ。
が、俺が今涙しているのは渡された通知表の中身に絶望しているからとか、そういうわけではない。
宿題の量に夏休みという未来を台無しにされたからというわけじゃない。
もちろん、それもあるけど俺はそんな弱い男ではない。そんな事で泣いたりしない。
では、何故この鋼のメンタルをした俺がこんな炎天下の中立ち尽くしているのかというと・・・
「・・・・・・金がない」
という懐事情である。
夏休みの計画は宿題の所為で大方叩き潰されたものの、それでもこんな事になっているなんて
どうしてもっと早く気付いてやれなかった!!
財布の中には無表情の野口さんが3枚と、申し訳程度の銀や茶色の硬貨達。
これは多分、夏の暑さに負けて買い食いを重ねた食べかすだろうか・・・。
「えぇ・・・なんでこんな事になっちゃったの?」
暑さの所為で喉も涙も枯れてしまう。
あ、ひょっとしたらこれは蜃気楼なのかもしれないな!
もっとよく数えてみれば見間違いという事も・・・なかった。
目を凝らして数えてみても、裏を返してみても、やっぱり野口は三枚。三千円だった。
野口と野口の間に更に野口が挟まっていないかという淡い期待も絵空事だった。
ひょっとしてアンタ達も実は蜃気楼で、本当は夏目さんなんじゃないだろうか?
我輩は野口である・・・。名前はまだない・・・。的な・・・・。
そんな冗談も真夏の炎天下へと蒸発していく。
「どうしたもんかなぁ・・・」
「かぁ~いぃ~とぉっくん!!」
「ぶっ!?がはぁ!!」っと首筋に強烈なクロスチョップが炸裂する。
びっくりした拍子に思いっきり頭を自販機にぶつけてコンボが繋がりました!!
もしもレスラーやボクサーがやってたら俺の首はもっと大変な事になっていただろう。
技をかけた犯人の正体を突き止めるべく俺は後ろを振り返った。
そこには、なんと自分の担任の教師であるところのカラシちゃんが何故だかビックリした顔で立っていた。
苗字は稲葉なんだけど、どことなくウサギっぽいって言うのと昔話のカチカチ山とかけて皆は『因幡』の方で覚えている。
「海人!大丈夫!?ごめんねわざとじゃないんだよ!!」
「わざとじゃなかったら何だ!?奇跡か!?」だとしたら俺は今ここで神を恨んだだろう。
「違うの。新技の練習をしてたらちょうど海人が居たから・・・はじめてはやっぱり自分の信頼する人でやるのがいいって聞いたし」モジモジと身体をくねらせながらそんな事を言う。
「あぁ、自動車の免許とりたてとかはそうだよね。でも事故だよねコレ。」信頼とは恐ろしいな。
「何してたの?」
「ん、あぁ、部活前に炭酸でもって思ったんだけどね。思ってたよりも中身が少なくってさ。軽く絶望していたところだよ」
そういうとカラシちゃんは俺の財布の中を覗き込んできた。人の財布の中身ってそう勝手に見ていいもんじゃないだろ。
「別にジュース買う分ならあるじゃない。なんならボクに奢ってもお釣りが出るくらいに。」
「自分の生徒にたかるなよ。予定ではもっと余裕があったはずなんだけどさ・・・。はぁ、記憶は嘘つきだな。どうしてこういつも俺を裏切るんだ・・・。」
調子にのって買い食いした罰があたったのだろうか・・・。
「でも、そういうのよくあるよ。ボクだって毎日ハーゲンダッシュの買いすぎでお財布の中がスッカラカンになる事あるもの。」
「一人暮らしのクセにリッチな生活を送ってるな・・・」やめればいいのに。そんな生活。
「まぁ、でもボクの場合給食で沢山食べて、夜にハーゲンでダイエットみたいな感じだからね。」
ウサギというよりは駱駝って感じだ。
そしてそれは本当にダイエットと言えるのだろうか・・・。ただ単純に爛れた食生活と言うのでは?
などと考えながら俺は財布から野口を一枚引き抜き自動販売機に押し込む。
「結局、買うんだね。」
「まぁ、人間暑さには適わないって事さ。」人間諦めが肝心である。
どうせ俺はまたこの先、自動販売機の前で同じように財布の中身に驚愕するのだろう・・・。
記憶は嘘つきだから。
お目当ての炭酸を買い、カラシちゃんと別れて俺は例の『部室』と呼んでいる図書室へと向かう。
図書室は特別棟の4階。教室棟からずいぶん離れているという事もあってか殆ど誰も使わないので
いつもガランとしてる。しかし、閑古鳥は鳴いていない。
鳴いているのは・・・
ジャァァァァ・・・・ン
と響くディストーションの効いたギターの音。
「よう、今日は遅かったな。てっきり帰ったと思ってオレもそろそろ帰ろうかと思ったぜ」
机の上に乗り上げて左に眼帯をしている少女、立花 奏はニヤっと笑いながらギターをかき鳴らしていた。
読んでいただいて実に、まことにありがとうございます。
この作品は昔書いていた、記憶の片隅に置いておいた話のリメイクとなっています。
自分のなかで最も気に入っていて、思い入れのある物語でありますが、記憶が色あせる前にと思い
書かせていただきました。
またゆっくり、まったり更新させていただきますので、よろしくお願いします。
関係ないですが、知らない間にブラインドタッチなるものを習得していました。




