表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/20

見届け人は夜に来る


 漂う雰囲気はまるで真夜中の海のようだった。

 ついてきたのか?

 いや、たまたま同じアパートだっただけかもしれない。近所付き合いが皆無なので、可能性は捨てきれない。

 無理矢理そう思い込み、俺は少女を無視して階段を一段一段上っていった。階段は先程の夕立に塗らされ滑りやすくなっていた。転ばないようにゆっくり進む俺のあとを彼女は尚もついてくる。


 自分の部屋の前についた。

「……」

 ぴったりと背中に少女がついている。

 不気味だ。

「おい」

 たまらず声をかける。

「なんだお前は。家に帰れ」

「……」

 口を開かない。ずいぶんと無口な子らしい。

 浅くため息をついてドアを開けて家に入る。

 当然のように少女も続いた。


 タタキで靴を脱いでキッチンを通りすぎ、リビングに行く。我が物顔で少女も続く。

 さすがに、堪忍袋の尾が切れた。

「いい加減にしてくれ!」

 怒鳴り付けると、少女は体をびくりと震わせ、怯えたように手を胸の前で交差させた。

「許可なく人のうちに入るんじゃない! 未成年だろ!」

「やっぱり、見えているんですね」

「あ?」

「……なんでですか?」

「なんでって……」

 怒りがスッと冷めていく感じがした。

 血液が冷静さを取り戻すイメージ。

「あのさ、からかってるのか?」

 色んな小説を読んできたし、大抵の物語のセオリーはわかる。

 だからこそ、見えないものが見えている可能性がどれだけ低いかも、俺は知っていた。

「からかっているつもりはありません」

 冷静で落ち着いた語調で少女は続けた。

「ただ、驚いているだけです」

「驚く? あんたが見えていることが、か?」

 こくり、首肯する。

「あのさ、本気にしているわけじゃないけど、ひょっとして、幽霊なのか?」

 俺の質問に少女は困ったように眉間に小さなシワを作り、

「似たようなものです」

 と端的に答えた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ