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車輪は輪転し転覆する


 券売機で切符を二枚買い、ツバキに一枚差し出すと、少し驚いたように目を見開いた。

「私は透明人間だと言ったじゃないですか」

「曲がったことが嫌いそうに見えたからな」

「それはそうですけど……」

 言葉尻に困惑を滲ませる少女を茶化すように俺は呟いた。

「死んだら天国に行きたいのかもしれない。善行をつんで、神様を誤魔化す為に」

「いまさら一つの行いじゃ変わりませんよ」

「冗談だよ」

 改札を潜ると、ホームに電車到着を知らせるアナウンスが鳴り響いた。熱気とおさらばしてクーラーを利かせる車内に乗り込む。通勤時間外の電車は驚くぐらい空いていた。


 座席に座り、隣の少女に話しかける。

「見届け人と言ってたが、ただの幽霊とは違うのか?」

 乗った電車は急行でたくさんの駅を通過していく。

 流れる景色は遠すぎて、なんだか映画を見ているようだった。

 すれ違った電車が轟音をたてて一瞬で見えなくなる。

 喧騒が収まってからツバキは小さく呟いた。

「ハレさんは死にたがっているようなので特別に教えてあげます」

 余計なお世話に腹が立って横目で見ると、ベッドの下にしまってあったくしゃくしゃの遺書を差し出された。

「私は七人、死んでいく人たちを見届けけ、そのなかには自殺もありました。彼らは彼らで理由がありましたが、私にはソレらが死んでしまうほどの大きな物事には思えませんでした」

 ツバキはまぶたを閉じて祈るようにうつむいた。

「死ぬほど辛いことなんてないと思います」

「他人事ならなんとでも言えるさ。自殺の理由の第一位は病気らしいぞ。金銭的にも身体的にも辛かったら、そういう選択肢も悪くないんじゃないかな」

 飛ぶように走っていた電車がゆっくりと速度を落としていく。

「ならば尚更ハレさんのソレは死ぬに値するほどの事象とは思えません」

「俺がなんで死にたいのか、これ読んでわかったのか?」

 手のひらでくしゃくしゃの遺書を叩く。

「……正確にはわかりませんでした。ただ疲れたのかな、と」

「半分正解だな」

「もう半分は?」

 電車がトンネルに入った。真っ暗になった車窓が鏡のように俺を写す。隣には誰もいない。

「退屈だったからだよ」

 振り子のようにつり革が揺れた。

「退屈だから、死ぬんですか? 刺激がないから?」

「今まで生きてきたけど俺は友達がいないんだ。恋人もいない。孤独は死ぬに相当する理由じゃないか?」

「家族がいるじゃないですか」

 緩いカーブを過ぎ、電車は徐々に速度を緩めていく。

「優秀な兄貴がいる。優秀すぎて俺は味噌っかす扱いだ」

 目的の駅に到着した。空気が、抜けるような音がしてドアが開く。

「……降りよう」

 ツバキに声をかけたのだが、手すりにもたれ掛かった男から冷たい視線をぶつけられるだけだった。


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