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遺書


 これは遺書である。

 二十五年間生きた、くだらない男の。


 一番始めに死体見つけるのは、不動産会社の人になるのだろうか。

 資産価値を下げてしまって申し訳ないが、朝日が強い事を内見の時に教えてくれなかったし、お互い様ということで勘弁してほしい。


 死ぬにはやはり勇気がいるので、筆を取って、気持ちを落ち着けることにしたが、書きたいことがどうにも溢れて止まらず、死ぬ前にとてつもない文量の手紙を書いた「先生」もこんな気分だったのだろうかと勘ぐってみる。

 生きすぎたりや、二十五。

 ホームセンターで買った麻縄を精神安定剤のように眺めながらこれを書いている。


 氷河期を乗り切り就職した会社は世間一般で言うブラック企業で、二十人いた同期も、三年後には俺一人になっていた。「とりあえず三年」という言葉を信じてやってきたが、早々に見切りをつけて、第二新卒にかけるべきだったなと、今にして後悔している。

 連続勤務でへとへとになったある日、珍しく終電で帰れたのだが、どうにもこうにも夢うつつで、ホームで電車を待っているとき、今飛び込んだら明日は会社行かなくて済むかな、なんて考えてしまった。我にかえってボロボロと泣き崩れ、次の日、会社をやめることにした。


 自由な時間の流れは穏やかで、なんのために生きているのだろうと、深く考えさせられた。

 再就職先を探すのは少し休んでからにしようと、貯金を窓口で下ろし、札束を目の前にした瞬間、なんだか全部がバカらしくなって、命がけの三年間の価値を知った。日本奨学金機構と親にお金を送付して、余った分は募金箱に突っ込み、家に帰ってふて寝した。

 翌日、ハローワークに行くのもめんどくさいと思い、やっぱり死ぬことにしたのがことの顛末だ。

 毎朝七時に起きて電車に揺られ、やめたいなんて口にしながら日々を生きるなんて到底できそうもないし、しかも何が悲惨って、いまあげたケースは幸福の方に分類されることだ。


 とてもじゃないが、働けないし、働きたくない。


 社会の荒波に心折られた俺は麻縄で作った輪っかを望遠鏡のようにして、どこに引っ掻けるのがベストか、なんて考えている。

 古本屋で三百円で購入した完全自殺マニュアルによると、首吊りは一番気軽で安楽な手段らしいが、未遂の時は脳細胞が死滅し、悲惨な余生を過ごすことになると書かれていたのでそれだけは避けたい。


……



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