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獣和  作者: 84g
3/7

じゅ、19日までには・・・なんとか・・・。

(いっぱいいっぱいです)

 何度か城内で起きた爆発音に、遅ればせながら護衛たちが押し寄せた。

 何事かと混乱したまま現れる護衛官たちに、フォイルが口を開く。

 「この中で早番ローテの順に七人残りこの場で護衛! 遅番三人は図書室行ってナカガキ見てこい、残りは外部攻撃マニュアルに従い、指揮系統最上位は俺として行動、他の貴族・王族への連絡はあとで俺がやる。以上、駆け足っ!」

 指示出しが速い。フォイルは自分の指令で動いてくれるように訓練をこなしている部下のお蔭と考えているが、騎士団統率すら行う王子、フォイルのカリスマ性に寄るものだった。

 「アルミナ、回復呪文は使えるか? ジャヴェリンに掛けろ」

 「兄さん、私、だって……」

 「喋らなくて良い、深く息を吸って、回復呪文だ。初歩呪文で良い。ジャヴェリンは強いから弱い呪文でも動けるようになる」

 なんとかアルミナが呪文を掛け始めるとジャヴェリンはフォイルを凝視して話し出す。

 普段は仲が良すぎるアルミナとジャヴェリンが目も合わせない様子に、周囲の護衛官たちは爆発によるショックから混乱していると判断していたが、実際は彼らが来る前の一言によることだった。


 ――ヤだぁッ! こっち見ないで!――


 戦場で出たなんでもない一言だったんだろうが、ジャヴェリンに深く刺さり、彼は律儀にアルミナへまだ視線を向けようとしない。

 その言葉を聞いていないフォイルも護衛官たちと同じ解釈をしようとしていたが、ふたりの機微から自分の知らない何かが起きていることを察した。

 「話せ。ジャヴェリン。最初からだ」

 ジャヴェリンは揺らがず、ハキハキとしゃべりだす。

 自分とガルシアが炭焼きから戻ってきてアルミナと合流し、ガルシアが離れた段階で攻撃を受けたこと。

 その際にナイフを投げられ、腕で防いだところでサルトビと名乗る暗殺者が会話を始め、バルカ鉱脈の発見から暗殺しに来たと喋っていたこと。

 そこでフォイルが待ったを掛けた。

 「その話だと、毒はどうやって防いだんだ? 今お前、ダメージは有っても毒が効いているようには見えないがな?」

 「ナイフが刺さると同時に舌で縛って血を留めました。サルトビが毒だと告白した段階で腕を切断、超再生しました。今は被ってませんが、そのときは覆面をしていたので。マスクの影を通して舌を這わせるくらいはできました」

 「流石はカメレオン、ジャヴは手よりベロの方が器用だもんな、テクニシャ……すんません」

 茶化すガルシアにガッシュが視線だけで黙れと恫喝し、そして続きを促した。

 「自分は投げられたナイフで応戦しましたが呪文を使われ、決め手に欠けていたところ……フォイル殿下、ガッシュ隊長、ガルシア副隊長相当兵が現れ、あとは殿下がご覧になった通りです」

 「暗殺者……サルトビの使っていた魔法を覚えているか?」

 「爆撫鋲レッドスパイク、と云っていました」

 「爆発系……まあ、この国では自然か」

 「? 何がだ? 氷や電気じゃダ……メなんですか、って、何でございますか、この雰囲気?」

 ガルシアの場違いな発言に、ガッシュだけでなく護衛兵まで目を丸くしている。空気が固まりすぎたため、仕方ないとばかりにフォイルが説明を決めたらしい。

 「このゼラーズは火山や炭鉱があるが、水場はない、言うなれば火の国だ、分かるな?」

 「おう、炭焼きもしてるしな!」

 「魔術は空間に存在するマナと呼ばれるエネルギーを合成させないといけない、ここまでは知ってるな?」

 「知らねーよ。俺たち獣人は魔術使えねぇし、気にしたことねぇもん」

 「……空間中のマナを感じとり、呪文を唱えて頭の中に魔術の計算式を書けるのが魔術師で、ゼラーズでは氷の魔術を使おうとすれば、同じようなランクの炎魔法の何倍もの詠唱を必要とするな」

 「なるほど。よく分かりました。サンキューベリマッチ」

 緊迫感のないガルシアに護衛官が帰ってきた。新しい人物ではない、先ほども見た顔だと獣人たちは思った。

 フォイルの喋れ、という指示に口を開く護衛の男。

 「命令されたナカガキ神官長ですが、暗殺者が現れた段階で腰を抜かしてしまったということで、四階で意識を失っていましたので、他の神官隊の回復呪文を受けています」

 「……兄さん、ジャヴェリンの呪文回復も終わった、よ」

 俯いて黙ってしまっていたアルミナが搾り出すように口を開いた。

 当のジャヴェリンも肩を回したり手を握ったりし、体力の回復を確認している。

 「ありがとうございました。傷が大分良いようです。アルミナ“さま”」

 「んーん、だって……え?」

 「僕には勿体ないくらい良く効きましたよ、アルミナさま。流石です」

 震えながらアルミナはまた口を閉ざし、下を見た。

 幼い頃に出会ってから呼び捨てで良いと云い続け、互いにジャヴェリン・アルミナと呼び続けていたことをジャヴェリンの敬称を付けた呼び方に、アルミナは一度止んだ涙を飲み込むように堪えるが、それでも一雫、地面を濡らした。

 その瞬間、回復の終わったジャヴェリンの頭を捉えるようにして、フォイルの蹴りが減り込んだ。

 「ジャァヴェリィイインッッ! 手前ェ! 俺の妹泣かすなんてどんな了見だ! 死ね! 死んでも足りねえ!」

 先ほど部下に的確な指示を出していた男と同一人物とは思えない感情的な態度に、護衛官たちは固まり、戦場での付き合いも長いガルシアとガッシュは沈痛な面持ちをし、アルミナはしがみ付くようにして兄の二発目の蹴りを止めていた。

 昔からだった。妹に対してだけは異常だった。

 「ガッシュ! そこの物を知らない牛ボケと、この礼儀を知らないカメレオンを見張ってろよ! 絶対に離れるな! 三人で獣人舎から命令があるまで出てくるな! 復唱は要らん!」

 ――こりゃあ、暗殺者よりこのシスコンの方が怖いわ

 フォイルの迫力は、ガルシアのそんな軽口すら押し込めるほどのものだった。

 

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