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獣和  作者: 84g
2/7

し、締め切りまでは…。

時間なさ過ぎて随時編集中なので、誤字とか現れたり消えたりします。

 アルミナとジャヴェリンが出会った晩から七年。

 時が経つのは早く、その間に多くの事件が有ったが、それでもゼラーズ国では穏やかに時が過ぎていた。

 その穏やかさを終わらせる情報が最初に届いたとき、多くが大した情報ではないと判断したし、それどころか祝福する者すら王宮内には居たという。

 その伝達は王家の人間たちにも広がって行き、聖騎士の訓練中だったフォイルの耳に届いたのは、最も早かった者よりも半日遅れていた。

 フォイルは、その情報を聞いた瞬間、半日もの間、他の王子たちが気付かなかったその事件の着眼して動き出した。

 城の中では大声を出す連絡手段は使えない、フォイルは訓練着のまま、バルカ鉱の剣を担いで走り出した。妹の身に……アルミナの身に危険が迫っているかも知れない。


 当のアルミナは、いつも通りの生活をしていた。

 あの夜から彼女は勉学に打ち込んで聖職者を目指して治療魔法を学び、多くの知識を身に着けた淑女への道を歩んでいる……と、国民には発布されていた。やや事実とは異なった解釈のまま。

 「良いから! その本見せて! 命令!」

 「で・き・ま・せ・ん!」

 今日も今日とて、王族図書室で王宮神官長ナカガキから治療魔法を学んでいる最中、こっそりと閲覧禁止の本を読もうとして見つかっていた。

 今日は大きな紙喰い虫が本棚に居たといってカギを開けさせて本を抜き取ったが、アルミナが目を通す寸前で神官長が横から抜き取った。本のタイトルは“獣人解剖記”。

 「なんで読んじゃいけないのよ! 魔法の本じゃないじゃん!」

 「ダメなものはダメなんです!」

 「なんでよ!」

 「それは……ダメだからです!」

 アルミナとナカガキが奪い合っている獣人解剖記は全ての獣人の生態が事細かに書いてあるという辞典だが、閲覧制限のある書物。

 それでもアルミナの勉強中、毎日三〇分ほどはこの本を読むことに注力されていた。キッカリ三〇分。それ以上でも以下でもなく、それ以外は真面目に魔術を習う優等生。

 勉学に打ち込む姿勢は“いつジャヴェリンが戦場で怪我をしても良いように”と明確なモチベーションに支えられているためか、極めて真摯で優秀そのもの。

 故にナカガキも中々に無下にもできず、毎日三〇分は攻防戦に付き合うような形になっていた。

 「グロとかエロとか大丈夫だから! 私、もう一六だから!」

 「まだ子供じゃないですか!」

 「キスでもなんでもできる歳は子供って云わないのよ!」

 神官が解剖記をアルミナの手の届かないように高く掲げたまま、固まった。

 文字通り固まった。魔術で石にされたような絶望と衝撃がありありと表情に出ているが、それが魔術ではなくただの一言で起きたことに驚くべきか。

 「……って、してない! してないから! ていうか、それを知りたいからそれ読みたいんだって! 先生!」

 「本当ですか?」

 「本当!」

 「……なら、尚のこと、読ませるわけにいきませんなああーっっ!」

 神官長のナカガキは王家付きという役職から分かるように実績豊富な高齢ではあるが、その動きは年輩者のそれではなかった。

 足腰の痛みには常に回復魔法を発動することで治め、体力は気合でカバーし、部下の神官たちは、アルミナ姫に魔術を教える七年間で神官長がむしろ若くなったと評する意見が大勢を占めてさえいたりする。

 以前は小さかった姫さまが、元から大して大きくないとはいえ自分と同じ身の丈まで育ち、真剣に恋しているというならば、それもないがしろにもできないだろう。

 机を足場にして飛び跳ね、叫びは本棚の間を響き渡る。

 そんなじゃれあいのような激闘は、アルミナが窓の外を覗き込んだとき、終わった。

 「ジャヴェリン!」

 窓を開ける。

 名前を呼ぶ。

 飛び降りる。

 三拍子がひとつの流れの中にあるように淀みなかった。

 「うあっ!? アルミナ!?」

 「行くよーっ!」

 飛び降りた。城の四階にある図書室の窓から。歓喜の声をすら上げながら。

 全ては信じているから。彼が受け止めてくれると。

 全ては求めているから。彼と一秒でも早く触れ合いたいから。

 それが全てにおいて優先されるべき事柄であるとアルミナは思うから。

 期待通り、思い描いていた通り、下に居た男が受け止め、それを見ていた牛頭の獣人は手をうちわにして扇ぐような動きをわざとらしくしてみせる。

 「毎度、熱いことで……ジャヴ! あとで酒奢れよ! 炭は俺が運んでおいてやる!」

 「す、すいません! ガルシアさん!」

 牛頭の獣人・ガルシアは足元にあった――アルミナを受け止めるためにジャヴェリンが手放した――木炭の入った袋を自分の分の上に乗せ、幾分窮屈そうに歩き去った。

 あれから七年。ガルシアのような大型獣人に比べれば細いものの、ジャヴェリンは人間と比べれば格段に屈強な肉体を獲得し、木炭を入れていた袋と同じ材質で作られた丈夫な袋をすっぽりと覆面代わりに被り、手にも作業用の手袋を外さず、一切の皮膚を露出しない。

 ジャヴェリンは自身が何の獣人であるかを他者に教えようとせず、五年前から出歩くときは常にこの服装だったが、今はどうでもいいとばかりに声からストレスを滲ませた。

 「……飛び降りるのはやめて下さいって云ってるでしょう!? 怪我したらどうするんですか!?」

 「ジャヴェリンだって私の云うこと聞いてくれないから、お相子! マスク外してくれるならやめてあげる!」

 云いながら頭に被った袋に艶めかしく手を伸ばした……つもりだったアルミナだが、当のジャヴェリンはくすぐられたと解釈し、ため息と共に淡々とアルミナを地面に下ろした。

 「冗談で云っているのではないのですがね」

 「……私も本気だよ? あなたの顔が見たいだけ。どんな顔でも……何の獣人でも、好きだよ?」

 幼い頃より更に開いた身長差も感じないとばかりの強い意志ある上目遣い。

 ――ジャヴェリンはこの瞳を見ると、いつも思い出すことがある。

 獣人は幼少期は人間と全く同じ姿をしているが、そこから成長痛を伴いながら体が激変する。

 数日。ほんの数日間。人間の物とは比較にならない筋肉が裂けるような成長痛が襲う。

 数日。地獄の空気を吸うような時間。痛みに耐えるために納屋の柱に縛り付けられ、舌を噛まないように猿ぐつわを噛ませられ、飲まず食わずでその姿は人でなくなる。

 ジャヴェリンの場合は五日。痛みの津波から気絶しても痛みの引潮で覚醒させられ、再び津波に浚われる。そんな中でも意識を取り戻す度に納屋の外にアルミナの存在を感じた。あのキラキラとした黒の瞳が待っている。自分に何かあれば涙で雲ってしまう。その思いがジャヴェリンを支えた。

 全てが終わったのは開始から五日目、空が白み始めた頃。

 完全な獣人としての能力で縄を解き、魔術師か占い師しか着ないようなローブを目深に被り、恐る恐る納屋の外に身を乗り出したとき、大きなマントを布団にしたアルミナの寝顔を見た。

 一瞬の安堵に続いての絶望。自らの姿を彼女に見せてはいけないとジャヴェリンは確信した。

 「……どしたの?」

 「いえ、とにかく危ないので飛び降りはやめて下さい。覆面している別の獣人も居ますし、反応できない場合も有ります」

 「何云ってんの?」

 「え?」

 「間違うわけないじゃん。私がジャヴェリンと他の人を」

 大きな瞳がキラリと光り、聞き慣れた声が脳に馴染む。

 獣人になっても幸か不幸か変わらなかったジャヴェリンの【カワイイ】ツボにハマりこみ、獣人化のときとは別の意味で気がおかしくなりそうだった。

 そんなとき、急激なスピードでジャヴェリンはアルミナを抱き締めた。

 「っ!? ダメだって! 朝だし外だし、それに……」

 アルミナが混乱しながらまくし立てるが、ジャヴェリンの腕から生えている三本のナイフを見て動きが止まり、そしてジャヴェリンの視線の先に現れている怪人に意識を向ける。

 怪人はかなり小柄な身体を頭の先から爪先まで柿色の装束を纏い、両手にはジャヴェリンに刺さっているのと同じナイフが鈍く光る。

 「名乗れ! 狼藉者!」

 ジャヴェリンはわざとらしく大声で云い放った。

 状況的に名乗るとは思っていないが、アルミナが図書室から飛び降りて来たということは勉強中で上にはナカガキ神官長が居ると考えるのが自然。

 ジャヴェリンはナカガキの視線や気配は感じていなかったが、大声に気付いてさえくれれば応援を呼んでくれると一秒にも満たない間に考察する。それは幼少期から戦場で生活をするジャヴェリンの処世術だった。

 「我が名はサルトビ。そこの娘はアルミナ・ゼラーズだな?」

 ――名乗った?

 ――会話を続けたのは相手にも時間を稼ぎたい事情があるのか?

 ――ならば会話せずに攻撃すべきか? だが攻撃するには僕はアルミナから離れなければならないが……。

 ジャヴェリンはサルトビの狙いをアルミナから引き離すために攻撃を誘っていると判断し、情報を引き出すために会話することを選んだ。

 「彼女はこの国の王位継承権を持っていない! 彼女はシハハ共和国の王位継承者だぞ! しかも継承権は下から数えた方が早い! ただの常識がない上に考えが浅く、思い込みが強いくせに中身がスッカラカンな頭の軽い女の子だぞ!」

 「……ちょっと、ジャヴェリン、云い方……」

 ジャヴェリンの時間稼ぎも含み、本音の見え隠れする発言にアルミナがずっこけたが、サルトビはかまわないといった様子だった。

 「勉強の足りない奴らだ……そのシハハ共和国の領土で、バルカ鉱脈が発見されたのは、知らんのだな?」

 『!?』

 バルカ鉱はこのゼラーズ国が産出している魔導的にも加工しやすい金属。

 それが同盟国から産出されても大したことはない……それがアルミナの結論だったが、ジャヴェリンの感想は違った。

 アルミナは覆面越しでもそんなジャヴェリンの焦燥の色を見出していた。

 「シハハ共和国は軍備強化・維持のためにバルカ鉱石が欠かせません。だから我がゼラーズとも同盟を組み貿易の値段まで従っています。つまり、そういうことです」

 「……ん? え?」

 ジャヴェリンの考察についていけていないアルミナに、サルトビと名乗った暗殺者が続ける。

 「シハハは塩の産出国だが、その貿易基準をゼラーズの指示に従い高めの値段を付けている。全てはバルカ鉱石の価値からだ」

 「もっと安くした方が他国との国交も強くなりますが、バルカ鉱のためにかなり我慢してきたが……その鉱脈が国内に有るなら状況は変わる……いや、変わった。シハハ共和国からすれば同盟関係は邪魔になり破約したい」

 「ご明察、だな」

 「……え、ちょっと待って? つまり、何? 私、塩の値段のせいで殺されそうになってる、ってこと?」

 「シハハの塩の産出量はミリタリーバランスにまで影響を与える規模です。だからこそバルカ鉱で供給を絞ってきていたのですが……」

 あえてジャヴェリンは説明を省いたが、大規模戦闘を行うには相応の塩が要る。

 しかし、現在の貿易環境で戦闘前から露骨に集めだしたら世界中に戦争準備をしている喧伝するのも同然、軍事的緊張を生むだけ。塩の入手難度はそれほどに軍略的意義がある。

 「なるほど、じゃあお前は……どこから来た? シハハ共和国自らということも考えられるが、いくらなんでもそんなことをすればゼラーズと直接戦争になりかねないし、他国と見たいが……どこの刺客だ?」

 「……そのナイフに塗ってある毒と同じ出、だな」

 サルトビがすうっと指差したのは、ジャヴェリンの腕に刺さった三本のナイフだった。

 喋る間もなく、ジャヴェリンはその刺さっているナイフの一本を抜き、そのまま腕を勢いよく切断した。

 「きゃ……!?」

 「無駄だ。既に毒は胴体まで回ってる……獣人だろうと関係ない、身動きは取れない」

 洪水のような出血と同じ勢いでジャヴェリンの腕が再生する。

 緑色でブツブツと棘のような隆起のある肌で、切断され地に落ちた方の右腕に残っていたナイフ二本を構えて二刀流を決める。

 「なるほど、お前の時間稼ぎはこのためか。ならば……安心した」

 「……効いてない、のか?」

 「他の獣人ならやられていたでしょうが……残念だな、僕には通じない」

 必勝と判断していた毒が防がれたサルトビが僅かに怯んだとき、ジャヴェリンの切り落とした腕が小さく動いた。それは後ろにいるアルミナでも辛うじて気が付けるほどの動きで、対峙するサルトビには絶対にわからない細かさで自らの血液で文字を書く。

 ――切り掛かったら逃げろ――

 地面への走り書き、それでもしっかりと読める字でそう記された。

 アルミナは、感情的に狙われているのは自分なんだから私も戦う、治療魔術なら私だって使える、ジャヴェリンの役に立てる……そう思ったが、そもそもジャヴェリンの腕にナイフが刺さったのも自分の盾になったからである。理性が自分が足手まといになるということを気付かせた。

 「……絶対に、無理しないでね」

 文字に気付いているという合図も兼ね、アルミナが呟くのを合図にしたようにサルトビは装束の中から片刃の反りのない刀を取り出し、地を擦るような低い姿勢で襲い掛かった。

 「走って下さい!アルミナ!」

 云いながらジャヴェリンは左手のナイフを投げ付けるが、サルトビは走る速度を緩めずに刀で叩き落とし、刃の届く間合いまで急接近していた。

 ジャヴェリンは大振りに残る右のナイフを繰り出す。

 通常ならサルトビはナイフを躱して流れでジャヴェリンを刺し殺したい場面だが、それは先ほどの毒ナイフが効かなかったことで躊躇われた。

 つまり、【ナイフ毒が利かないならば同じ毒が塗ってある忍刀で刺しても殺せないのではないか】ということ。

 刹那に互いの権謀術数を数え、サルトビはナイフを忍刀の峰で受け止めて、走っていた勢いはジャヴェリンの頭部目掛けて放つ右のハイキックとして利用するが、ジャヴェリンは空いている左手と獣の動体視力でサルトビの膝を抑え込んでいた。

 構わずジャヴェリンは受け止められた右手のナイフを捩じ込み、サルトビは両手で正面に辛うじて支える。

 両手持ちのサルトビよりも片手持ちのジャヴェリンのナイフの方が勝っていたのは獣人の膂力故だった。

 このまま刺し殺せるとジャヴェリンが判断したのと同時、空気が揺れた。

 《赤い風よ、我が勝利を唄え! 叩け! 熱く!》

 攻撃呪文!――ジャヴェリンが気付いたのは遅すぎた。斬り結ぶふたりの頭上に炎の塊が浮かび上がっていた。

 《爆撫鋲レッドスパイク!》

 炎の塊は針のように小さくなり、放散して降り注いだ。

 小兵のサルトビはナイフを押し込まれる勢いで倒れ込むように退がったが、長身のジャヴェリンにその隙はない。正面から上半身が爆発に晒された。

 「ジャヴェリン!?」

 「生きています! 走って! アルミナ!」

 皮膚が照るほどの爆発に、ジャヴェリンの覆面と服は燃え尽き、布越しではないアルミナが始めて聞く声変わりしたジャヴェリンの声は幼い頃よりも高くなり、金切り音のようだった。

 晒された皮膚は草色のひび割れたゴムのようで、関節は枯れ枝のように張っている。

 植物のようであるが、顔は不対称に捻れて角のような陰影を作り、ギョロギョロと動く輝石のような眼球から感情は読み取れない上、呪文攻撃で焦げて血が滲んでいる。

 カメレオンの獣人というのがジャヴェリンの正体だった。その姿にアルミナは逃げる足を止め、その大きな眼には涙が浮いていた。

 「アルミナ!? どうしたんです、逃げ……」

 「ヤだぁッ! こっち見ないで!」

 その場で崩折れて泣き叫ぶアルミナの様子に、ジャヴェリンは彼女が自ら逃げることはできないことを察しつつ、皮膚が緑から急激に色を失って白くなる。

 ジャヴェリンがアルミナに掛ける言葉も見つけられないまま、既にサルトビは次の呪文を唱えている。

 《赤い雹! 砕く牙、貫く牙、研ぎ澄ませ! 速く! 鋭く! 熱く!》

 ――呪文がさっきより長い! 原則的に呪文の威力は詠唱時間に直結する!

 ――内容からして炎系だが正確な効果は僕じゃ分からない!

 ――ならば! この身を盾にしてでもアルミナは守る!

 数秒。ジャヴェリンは対抗策は決まらなかったが、覚悟が決まった。

 《神斬吼破(ソウル・ディバイダー)ッ!》

 響いたのはサルトビの呪文――ではなかった。

 サルトビの肉体を引き裂く呪文を放った男・フォイルは羽織っていたジャケットをアルミナに掛け、次の呪文を詠唱しだしている。

 バルカ鉱のニュースを聞きつけて妹を救いに現れ、息が上がりきった状態でも妹の前ではしっかりと構えてみせる王子様。

 そしてもうひとり、タテガミの無い獅子獣人がジャヴェリンに並び立つように走ってきた。ガッシュだ。

 「よく粘ったな、ジャヴェリン」

 「? ガッシュ隊長? どうしてここに?」

 「あれだけ爆発音がすれば気付く! 奴はアルミナの刺客だな?」

 「ハイ!」

 「ならば、兄妹のフォイルも暗殺対象の可能性が高い。儂とキサマで始末を付けるぞ! まだ動けるな!」

 「無論です! ガッシュ隊長!」

 《赤よ広がれ、集え……》

 サルトビは呪文を唱え始めているが、ジャヴェリンとガッシュは一瞬のアイコンタクトに続いてダッシュで距離を詰める。

 ふたりともどちらかが呪文で迎撃されても、もう片方が確実にトドメを刺せる体勢だった。

 《爆槍滅(レッド・ラン)……》

 呪文が放たれる直前、呪文が中断された。サルトビが背後から回された腕によって締め付けられて。

 「ジャヴ! 樽で奢れよ!」

 「ガルシアさんッ!」

 炭を下ろして現れたガルシアは、その巨体から創造できないほどに静かに忍び寄り、サルトビの喉笛を握りつぶすように締め上げ、そのまま地面に投げ捨てる。

 叩きつけられたサルトビの身体はゴム人形のように跳ね、辛うじて足から着地したが、スイッチが入ったよう爆発した。

 爆煙が収まったあと、そこには死体は欠片も残されていなかった。

 「あー、悪い。最後の投げ捨てたショックで引火しちまったか」

 「もっと反省しろ、ガルシア。暗殺者から情報を聞き出せなかった。ジャヴェリン、お前は何か引き出せたか……ジャヴェリン?」

 怒涛のように過ぎ去った戦いからのガッシュの問い掛けにジャヴェリンのふたつの大きな眼球は空の果てを見つめていた。

 ――ヤだぁッ! こっち見ないで!――

 先ほどのアルミナの言葉がジャヴェリンに思い出させた。自分は所詮、醜い爬虫類に過ぎないのだと。

 真っ白になったジャヴェリンの身体は緑に戻る気配は無かった。

 本来のカメレオンは精神状態で体表の色が変わる。白は……色素細胞が麻痺するほどの深い絶望だった。

作者の84gのブログはこちら。

http://84gbrog.blog119.fc2.com/


作者の84gのツイッターはこちら。

https://twitter.com/8844gg


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